あくいろ!   作:輪音

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とある暴力的組織に於ける末端系事務所の室内。
今では全国的に少数派となりつつあるような昭和風のちょっとアレな人物たちが、漫画雑誌や携帯端末やテレビジョンなどを見たりして暇潰しにいそしんでいる。
そこへ、若いチンピラが飛び込んできた。

「親分、てえへんだ! カチコミやあっ!」
「なんやて!?」
「おい、ハチ! そいつらは一体どこの組のもんやっ!?」
「そ、それが……メ……メシア教の……。」

バンッ!
いきなりの破裂音と共に、扉近くにいた組関係者たちは全員吹き飛ばされた。
そして、衝撃を受け倒れた者たちはピクリとも動かなくなる。
唖然とした男たちは怒号しつつ、即座に戦闘態勢へ移行しようとした。

「チャカや! チャカ、用意せえっ!」
「ドスやあかん! ポン刀や、肥前刀の厚重ね持ってこい!」

パニックに陥る室内へ、揃いの白と青に彩られた宗教結社の人間が複数入ってくる。
それに対し、若頭らしき人間が彼らに対応すべく話しかけた。
赤いシャツに紫のネクタイにペイズリーのチョッキ、そして白いスラックス。
靴はおそらく鰐革。
太い金の首飾りをじゃらりと装着した口髭男が、咥えタバコのまま問い質す。

「おうおう、なんや、あんたら。いきなり人んちでこないな騒ぎを起こすなんて、なに考えとんや? どう落とし前つけ……。」

ずんばらり。
やさしい顔をした若者の振るった剣が、男の体を真っ二つに斬り裂いた。
致命傷を受け、即死する男。
ポロリと落ちたタバコが床を密やかに焦がしてゆく。

「アカン! こいつら、頭沸いとるで!」
「撃て! 撃ったら誰でも死ぬさかい!」
「よし、ワシの薩南示現流を見せたる!」
「こいつら、いてもうたる!」
「ウホッ! ヤッタルわい!」
「人間はチャカに勝てんのやで!」





数分後。
事務所の人間は全員黄泉路へと向かった。
タバコはその後他の可燃物に引火し、危うく火事になるところだった。





※用語説明※
◎カチコミ:殴り込み
◎ペイズリー:原形動物っぽい柄
◎チャカ:拳銃
◎ドス:短刀
◎ポン刀:日本刀
◎肥前刀:現在の佐賀県にあたる地域の刀工によって鍛えられた日本刀のこと。ここで出てくる肥前刀が本物かどうかは不明
◎薩南示現流:初太刀に全身全霊を尽くすといわれるサツマ流超攻撃型刀術。事務所の人間が本当に使い手だったかどうかは不明





「なんでや……なんで、あないに弾喰ろうて平気な顔しとるんや……。」

「ワシの……ワシの自慢の肥前刀が折れた……だと……ぐふっ。」

「撃て! 撃て! 弾が当たって死なん奴はおらん! もっと撃てっ!」

「……ヤらない……か……。」





※いつも誤字報告をいただきまして、ありがとうございます。





主を讃えよ、その誉れ高き名を

 

 

 

ぐーぐーと寝ていた筈が、気づいたら真っ白な空間にいた。

夢?

夢じゃない?

あれ?

どこだ、ここは?

……まさか?

まさか、私は異世界転生してしまったのか!?

別にトラックにはねられてもいないし、暗黒企業にて残業過多でぶっ倒れた訳でもないのに。

……ええと、いつものように仲魔たちと寝所に入って……それから……。

駄目だ、理由がわからない。

もしかしたら、エナジードレインを立て続けに喰らい過ぎたのがいけなかったのか?

それともまさか、アレが原因なのか?

もしくは…………うーん。

近代的で戦乱にまみれたセカイへの転生だったら、かなり厭だな。

とても生き残れそうにない。

ところで、異世界転生したとしても悪魔召喚は出来るのだろうか?

 

ここにいる理由をつらつら考えていたら、強大な気配が近づいているのを感知した。

ハッとしたら、すぐ近くにメカメカしい天使がいた。

なんという小宇宙(コスモ)……もとい、迫力。

めっちゃ強そうだ。

爵位持ち悪魔をも粉砕しそうな雰囲気さえある。

相当高位の存在か。

眼をピカピカ光らせながら、それは話しかけてきた。

 

「はじめまして、ニンゲンの召喚師。我は、メタトロン。やっと君と会うことが出来た。」

 

可愛い女の子に言われるならば兎も角、こんなメカニカルな天使に言われてもなあ。

声が出ないので、返答しようがない。

 

「君には大いに期待している。」

 

いきなり、なにをゆーとりますか。

 

「我々は秩序ある平和を求めているのだ。」

 

その割には、常々過激な手段を取っているように見えるけれども。

 

「君には、是非とも様々な存在とメシア教との架け橋になって欲しい。」

 

そう言われてもねえ。

使いっ走りとして酷使された挙げ句に使い捨てなんてのはお断りだぞい。

銀色に輝く、鉄鋼天使か。

変形合体したりして。

彼はまるで、神の命令を忠実に実行する機械人形みたいに見える。

ん?

雑音が聞こえ出した?

それまで明確に見えていた機械天使の姿が、なんだかブレて見えるようになっている。

 

「主を讃……その……名を。」

 

なんだ?

……マーラ様の気配が近づいている。

速い。

 

「……ーラの干渉……ね除…………。」

 

なにかを言っているようだが、どうにもまともには聞き取れない。

 

「……に残……またいつか…………。」

 

チュドーン!

数発の光子魚雷のごとき攻撃が、天使を木っ端微塵にしてしまう。

だがしかし、一瞬空間が歪んだかに見えるや否や、作り物めいた天使は即座に復活した。

 

「クハハハ! よもやよもやワシの領域に分体を送り込んでこようとは、まっことよきかなよきかな。ナメくさってことをしてくれた礼に、丹念にナメてくれよう。そちらがそうくるなら、こちらも遠慮なくヤラセてもらおうぞ。」

「ふっ、あの程度の攻撃では完全に我が分体を破壊するなど笑止千……。」

 

チュドーン!

再度の攻撃。

至近弾じゃ!

あかんがな!

 

幾つもの激しい爆発が至近距離で発生し、オレはその圧倒的火力の前に殆ど抵抗することすら出来ずにこの場から掻き消されてしまおうとしている。

やめて、オレの体力はそろそろ尽きそうで御座る!

なんたる理不尽!

 

「光子力ビーム。」

「光子力バリア!」

「ロケットパンチ。」

「なんのそれしき!」

「致し方あるまいな。拡散波動砲の発射準備に取り掛かる。」

「クハハハ! そんな豆鉄砲がこのワシに効くと思うたか!」

 

消滅する寸前、そんなやり取りが聞こえた。

 

 

目覚めたら五体満足だった。

よかった。

 

 

 

 

 

 

粉雪がちらちらと降る午後。

平崎市内にある高級喫茶室。

そこでの懇親会に出席する。

 

「学生の分際で、表面的には善人面して裏で悪行三昧(あくぎょうざんまい)。教育機関側が表面化をおそれて隠蔽(いんぺい)してばかり。ヤられた側は泣き寝入りで、ヤった側は平然として社会に出て自分たちはまともだと言い放つ。会社では上に媚びへつらい、下に対しては苛烈な扱い。いい加減な仕事で周りを振り回し、自分自身の責任感は皆無。存在そのものが害悪。気にしない、反省しない、悪いのはいつも他者。そんな奴らを公的に『処分』出来ないなら、誰かがそれをヤらなくちゃいけないんじゃないかと思うのですよ?」

 

メシア教でも穏健派に属する若手騎士たちとの懇親会だった筈なのに、相手側代表は開口一番過激なことを言うのだった。

一様に頷く面々。

嗚呼、帰りたい。

即座に帰りたい。

 

「先日は素晴らしい活動をしている人物がいてメシア教に勧誘しようと思っていたのですけれど、彼は残念ながら涅槃(ねはん)に旅立ってしまいました。」

 

もしかして、先日戦った『ナットクラッカー』のことかな?

とっさに物理反射しなかったら、ヤられたのはオレだったかもしれない。

気づいてはいないのか?

ちょっとヒヤッとする。

 

「一見希望があちこちにありそうなこの日本社会は、実に不公平だらけです。」

 

またなにか代表が語り出した。

 

「明らかな汚職を幾つもしたのに逮捕されない政治家がいますし、その人物を擁護する人間さえ複数存在します。卑怯な振る舞いをする人間に対し、ソレから利益を得るから擁護するのはまだわからないでもありません。許せませんがね。ただ、よくわからないのは卑怯な連中を支持するモノどもです。あまつさえ、彼らは批判する人間を糾弾します。訳がわかりません。」

「はあ。」

 

あまりにいきすぎた『正義』はテロリズムに繋がるんじゃないかな?

例えば、連合赤軍みたいに。

この世に理想郷なんて無いんだし。

キリッとした女騎士っぽい人が口を開いた。

 

「完璧な理想郷は作れないにしても、それを作ろうとする志(こころざし)は大切なのではないか? あなたはどう思う?」

 

緊迫感溢れる表情へと変化する騎士たち。

あ、これは下手な返事をするとヤバいな。

ここは無難なこたえをしておこうかのう。

そうしよう。

いけ、玉虫!

 

「え、ええ、いきすぎない方向であくまでも理性的に寛容の精神をもって、第三者的視点を忘れないことが大切じゃないでしょうか。」

「ふむ、一理ある。」

 

女騎士が頷く。

青と白に彩られた若者たちが途端に柔和な表情へと戻った。

メシア教、こわい。

 

その後はあくなきインチキ極まる企業の話だとか、ぺてん師みたいな企業の提灯持ちに対するゴロツキ全員滅すべしといったヤッチマエ的話だとか、電脳世界界隈の差別的独善的風潮に対する苦言とか、電脳世界界隈でちやほやともてはやされる配慮無き人々に対する危機感とか、そういった愚痴ともなんともつかない話を延々と聞かされた。

疲れる。

オレは相談役か。

 

懇親会が終わったのは、気温が昼よりも三度ほど下がった時間帯のことだった。

散々あーだのこーだの言った彼らの顔つきは、厄落とししたかのようにさっぱりして見える。

また会いましょう、と言って彼らは去っていった。

ああいう人たちとやり合うことにならないといいなあ。

 

 

 

 

今日は地元のロシア料理店で食事をして帰るとしようか。

今のオレの胃袋はサンクトペテルブルクのペチカの如し。

ピロシキにペルメーニにラプシャの入った鶏肉のスープ。

ペルメーニはロシア風餃子、ラプシャは手打ちパスタだ。

うむ、それがいい。

それで、決まりだ。

 

 

 

 

道中、アイドルの撮影会をしていた。

とても可愛い子だ。

中学生くらいかな?

 

「ふふーん、ボクの魅力でみんなをメロメロにしちゃいますよー!」

 

ははは。

彼女の明るい声を聞きながら、空腹と共に帰途につく。

きっと旨いものを食べるぞと誓いつつ。

 

そんな時、どこかから不意に声が聞こえた。

 

「主を讃えよ、その誉れ高き名を。」

 

 

 

 

 







「ミナゴロシだー、ミナゴロシだー!」
「ワルいヤツラはミナゴロシだぜー!」
「ヤクザとかいうゴクドーのワルいヤツラはミナゴロシだー!」
「マスゴミはミンナをフコーにするから、ミナゴロシだぜー!」
「セイカイやザイカイのアクトーレンチューもミナゴロシだー!」
「フツーのニンゲンのふりをしたチンピラもミナゴロシだぜー!」
「ミナゴロシだー、ミナゴロシだー!」
「ワルいヤツラはミナゴロシだぜー!」
「ニンゲンをゴーモンだーっ!」
「コーモンをゴーモンだぜー!」

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