【光の道、その先へ】
東京都某所。
とある古い雑居ビルヂングの三階。
そこには小さな芸能事務所がある。
所属するアイドルはわずかに一桁。
はっきり言って、影響力はたいしてない。
だが、彼女たちの心意気はトップクラス。
それは、最強級偶像的美少女集団にも負けないほどである。
「ティフェレトの前座?」
「時間的には三分ほど?」
「え? それってマジ?」
「ええ、そうです。次のあなたたちの仕事はそれになります。最初は『オートスコアラー』か『リトルミラクル』の皆さんが歌われる予定だったのですけど、彼女たちは諸般の事情で辞退されました。結果的に皆さんは繰り上げ当選みたいな形で選ばれましたが、私が皆さんの実力を保障します。頑張りましょう。」
集まったアイドルたちの前に立つ、歴戦の戦士みたいな風格を醸し出す制作統括(プロデューサー)。
彼は首の後ろに手を回しつつ、淡々と仕事の話をする。
制作統括とはアイドルたちの管理と運営を同時進行で行う激務であり、間隙的にぽっかり空いた僅かな時間をアイドルたちとの交流に心砕くやさしき者のことだ。
そして彼はそれを忠実に行う者。
まるで勇者のような存在である。
その武一(たけいち)制作統括は、自身の信頼せし少女たちに頭を下げた。
彼は無表情と重低音の声が基本なので誤解されることも多いけれど、常に紳士的且つ真面目であるためにアイドルたちから全幅の信頼を寄せられている。
若き俊英として他の大手芸能事務所からも引き抜きの話が来ているけれど、彼はすべて穏やかに断っていた。
キネマの制作配給会社を原型とする最大手芸能事務所の長身系美人常務は彼に対して非常に興味を抱いており、口説くが如くに会う度に彼を勧誘し続けている。
だが、彼はその攻勢を耐え続けていた。
アイドルを指揮下に置くのではなく、共に歩むことが肝要なのだと信じて。
「私の力では、歌う時間を三分ほどまでしか交渉出来ませんでした。皆さんには大変申し訳なく思っています。」
頭を下げる制作統括。
大丈夫ですよ、とはかなく微笑む少女群。
百貨店の屋上や中規模商業施設でのミニコンサート。
ちょっとした催しにちょこちょこと出演する娘たち。
ドサ回り多き、弱小芸能事務所の偶像的美少女たち。
しかし、武一制作統括が自らの審美眼と直感とで選び抜いた者たちだ。
光り輝かぬことなどある筈もない。
名刀が容易く折れないのと同じだ。
「フフーン、時間としては短いですけど、ボクの魅力をいよいよ全国の皆さんへ派手に伝える時が来たということですね。」
「ミキ、アイドルするのけっこう本気だよ。」
「ボクの乙女パワーでガツーンとトップを獲ってみせますよ、制作統括!」
「パワー全開! 指示を乞うであります!」
「みんな一緒にトロピカっちゃおう!」
「我は転生戦士イシュキックだ! どんな戦場であろうとおそれはしないぞっ!」
「アイドルも学校も毎日楽しくって。武一制作統括がいつもいつも私を見てくれているから、私はいっぱいがんばれるんですよ。だから今回も全力を尽くします。」
次々に口を開く新人アイドルたち。
高校生中学生小学生の混成的集団。
多様性に満ちた未来の精鋭偶像群。
互いに真摯に想いあい気遣いあう。
それは、親愛ある絆(きずな)だ。
彼女たちの戦いはこれからも続く。
果てしなき光の道をひたすら走り。
そして、いつか栄光を掴むだろう。
強面(こわもて)的長身系制作統括が皆に問いかける。
「今現在、皆さんは楽しいですか?」
偶像的美少女たちは全員即座に満面の笑みでこたえた。
「「「「「「「はい!」」」」」」」
※今回の話は参院選よりも前から延々書いていたものです。
※主人公のアイドルに関する認識で以前の話と矛盾が生じたため、一部加筆修正しました(一二二九)。
横浜市長選に於いて、強力な爵位級悪魔とその配下が暗躍しているらしい。
平崎市内にあるファントムソサエティの事務所内でマヨーネさんと讃岐うどんを食べながら、仕事の打ち合わせを淡々としてゆく。
候補者の一人たる広川剛志(たけし)氏を護衛するのに、スカアハとハトホルを貸して欲しいと言われた。
いわゆる悪魔不足らしい。
強い悪魔を使役出来る者ばかりではないということか。
自由活動出来る悪魔も少ないらしいし。
他の候補者にも、様々な勢力の悪魔召喚師や悪魔や異能者や戦闘員や怪人などが護衛をしているそうな。
メシア教が推している候補者もいて、彼らはあちこちで金銭的支援をやっているという。
いかんなあ。
政治と宗教が一体であってはならないのだ。
政教分離は民主主義の必須項目であるのだ。
オレはそう思う。
選挙活動中は流石に戦闘行為など無いと信じたい。
そのために、一時的な協力態勢を敷いているのだ。
選挙後はどうなるか知らないけれど。
「一時的にうちの所属となったイタチのヤス、ゼンジ、キラが護衛として増援に入り、それに我がマンモーニのプロシュートを加えて万一に備えます。ヤスは爆発物の専門家ですし、ゼンジは刃物、キラは女性に詳しいですから、その方面でも暗殺を防げることでしょう。ちなみにプロシュートは兄貴枠で指揮官となります。」
「……ええと、日本の市長選で候補者が爆殺されるなんてことは先ず考えにくい事態だと思うのですが……。」
「油断してはなりません。『油断大敵』、私の苦手な言葉です。」
「はあ。」
「プッ……あの神父を今回『は』呼ぼうかどうしようかと迷いましたが、戦力としてのみ考えるならばともかく、使い方を誤ると彼は特級の劇物そのものです。ヒカルと彼とではどちらが……ただ、前提条件が……。」
「マヨーネさん?」
「ああ、『協定』があるから今のところは大丈夫でしょう。たぶん。それにあの神父を呼ぶとなにかと厄介ですから、今回『も』呼び寄せませんでした。」
「……ところで、その神父さんは、うちの神父よりも強いんですか?」
「そうですね、あの神父の方がうちの神父よりも強いと私は考えます。あとそうですね、キラの同僚は……。」
「同僚?」
「ああ、いえ、なんでもありませんわ。」
ドルチェとして、甘い餅菓子のすあまを食べた。
この素朴な味がいいのだ。
「すべての存在は、滅びるようにデザインされている。」
街を歩いていたら、女子高校生から突然話しかけられた。
活発そうな感じの可愛い子だ。
「なにかの哲学かな?」
こたえてみる。
「哲学……ニンゲンはそれを玩具のように扱い、使いこなせず、やがてカンシャクを起こして捨ててしまう。無価値なモノのように。」
「はあ。」
「なーんちゃって。私はヒカル。通りすがりの新人アイドルよ。」
「なるほど。」
「私は家族と愛と絆を肯定するモノ。」
「ええと……。」
「また会おうね、うふふ。」
投げキッスをした後、少女は軽やかに去っていった。
……なんだったんだ?
思春期の女の子に特有の気まぐれかな?
わからん。
オレにはよくわからん。
日本で独自展開されている、とあるハンバーガー屋がある。
今では千葉県に一店舗と神奈川県に二店舗しか存在しないのだが、かつては関東圏を中心として一〇〇店舗以上展開されていたという。
乳製品を作る会社の関連会社がこの事業を始め、現在は別の会社が運営している。
オレが時々食べに行く平崎店は商店街の中にある路面店だ。
そこでは、北見男爵コロッケバーガーが一押しらしい。
他のバーガーもおいしいものが複数ある。
店内は昔のメリケンのダイナーみたいで落ち着いた雰囲気があり、たまに映画やドラマの撮影が行われているほどらしい。
外国の観光客が店内を見て懐かしむこともあるそうな。
椅子は赤く、床は白黒の市松模様。
悪魔が食べに来ることもあるとか。
そう、キャロル・Kが言っていた。
注文を受けてから揚げられる北見男爵コロッケ。
サクサクの衣。
ホクホクのじゃがいもは甘味があって、それを挽き肉と玉ねぎがやさしく補佐する。
海老カツバーガーはプリプリの海老とすり身の海老とのダブルパンチが素晴らしい。
竜田揚げバーガーのあの肉汁といったら。
独自に出している讃岐うどんもおいしい。
ジェラートはマヨーネさんのお墨付きだ。
キャロル・Kとも時折来ているが、締めはいつも豆かんにしている。
あのすっきりした味わいがいいのだ。
日々暑くなってゆく神奈川県平崎市。
選挙戦の車が街の中を元気よく走り回っている。
けっこう、うるさい。
オレは市内にあるシチリア料理店でマヨーネさんと共に昼食を味わう。
うんまーい。
今日はマグロのステーキを中心とした海鮮仕様だ。
前菜のカルパッチョも旨かった。
その席で超大型新人アイドルの護衛を依頼される。
写真を見せられたが、よくわからない。
ま、顔さえ覚えていればいいだろうさ。
「ティフェレトの護衛、ですか。」
「ええ、近頃芸能事務所の暗黒系経営者やその支援者やろくでもない制作統括や怪しい関係者が、次々に行方不明となったり蒸発しているのです。彼らの護衛にあたっていたうちのルカ、ソルベ、ジェラートが殺られたのは想定外でしたけれど、代わりにイルーゾォとホルマジオを配置しました。二人だけでは不安が解消されませんので、更なる増援が必要でしょう。彼らがすぐに殺られないといいのですけれども。」
「なんとも物騒ですね。」
「はい、黒い噂の多い人物ばかりなので個人的にはどうなろうとかまわないのですが、西次官直々の指示ですので。」
「護衛任務は初めてなのですが、私に出来るでしょうか?」
「そこら辺はピクシーに聞いて対応してください。彼女と共になら、大丈夫です。直接アイドルと会話をする機会は殆ど無いでしょうが、彼女たちになにも起こらないようにするのが今回のあなたの仕事です。」
「わかりました。」
ピクシー、めっちゃ有能だな。
しばらくアイドルの話になる。
全然わからんぜよ。
マヨーネさんはアイドルが大好きらしく、歌い手の名前や楽曲名がぽんぽん出て来て唖然とする。
圧倒的じゃないか。
「今年の新人アイドルとして個人的に注目しているのは、『ミチカオ』、『ヒカル・ルチーフェロ』、『A2・9S(エートゥー・ナインエス)』、『6O・21O(シックスオー・トゥーワンオー)』、『那珂(なか)』、『EIKO』あたりですね。勿論、他にも優秀な歌い手はいますし、全員に光が当たる訳でもないのはジクジたる思いですが。」
「は、はあ。」
アイドルは正直、ちんぷんかんぷんだ。
特に人数の沢山いる集団は皆目訳がわからない。
「あとちょっと違いますけど、制作統括だと孔明が一番気になりますね。」
「孔明?」
「そう、諸葛亮。または諸葛孔明。あの三國一の大軍師です。」
えっ?
孔明?
三國?
なにをおっしゃっているのかな?
例え……なのか?
「そ、それは……なにか哲学的な問いかけですか?」
「ふふふ、さてどうでしょう。」
なんだろう、もしかして孔明の扮装で仕事をする酔狂な人がいるのだろうか?
なりきりの人?
「これで司馬懿(しばい)や真田幸隆やハンニバルあたりが出てくると、もっと面白いでしょうに。他の制作統括では、武一(たけいち)君やジョー・ギリアン氏もいいですね。」
「はあ。さいですか。」
わからん。
彼女がなにを言っているのか、さっぱりわからん。
イタリアン・ジョークなのか?
……まさか、本当に諸葛亮がこの世に顕現して……いやいや、それこそまさかだ。
「今は、新しい風が吹いています。」
「風、ですか。」
「ええ、新たな時代を作る風です。」
シチリア産のピスタチオが使われたカンノーリをおいしくいただきながら、マヨーネさんとの会話をしばし続けた。
ティフェレトの護衛のためにコンサート会場へ行くと、うさんくさげで怪しげな連中がうようよしている。
彼らは同じ組織の人間なのか?
誰が敵で誰が味方か今一つわかりにくい。
ピクシーの解説を聞きつつ、ハードケースを持って周囲の警戒にあたる。
百道(ももち)警部がそんな物騒なモン持ち歩くんじゃねえと難癖をつけてきて、なんとも困ってしまう。
相変わらず、目ざといなあ。
あんたらの持つ鉄砲じゃ、悪魔に通用しないんだよ。
そう、素直に言えたらよかったのに。
ま、言えないわな。
護衛対象たるティフェレトとの顔合わせは意外にもあっさり済んだ。
「この人、護衛の一人。以上。」
交渉役兼世話役の人がオレをそう紹介し、三人は首肯してそれをあっさり受け入れた。
なんとも簡潔だ。
未だに久慈川りせ以外の名前も知らないが、事前に調べとけばよかったかな?
ところで、この場にいるのは美人ばかりで緊張する。
ツインテールが二人にポニーテールが一人か。
まさにテイルスだな。
テイルズ、というと古くからのセガ好きな知人に注意されてしまう。
異世界帰りとか言っていたが、動画配信でなんとか食っているとか。
昏睡状態から復活した際に、なにか啓示でも受けたのかもしれない。
ここは美形祭だ。
前座を担当するとかいう女の子たちも美少女揃いで、こういう子たちが活躍の場を三分ほどしか与えられないのは実に残念だ。
出番が来て、元気そうに舞台へ羽ばたいてゆくアイドルの卵たち。
やさしく見つめる彼女たちの制作統括は、まるで歴戦の戦士の如しだ。
元傭兵だろうか?
雛(ひな)たちの歌はあっという間に終わる。
それもまた人生。
次いで、ティフェレトの三人が舞台へ向かう。
辺りに人がいなくなった。
ひょいとシャツの襟から現れるはピクシー、我が影からぬっと現れるはアリス。
ピクシーが口を開いた。
「ねえねえ、サマナー、ティフェレトの子たちの名前を全員言える?」
「久慈川りせだけなら。」
「…………ええとね、あの子は高巻杏でしょ。あちらはリサ・シルバーマン、あっちの子はサマナーの言ってた久慈川りせ。どの子からも強い力を感じるわ。」
「強い力?」
「ええ。」
「ただ者じゃないわね。」
アリスも口を開いた。
ただ者じゃないのか。
それは歌い手としてのことか、それとも……。
ティフェレトの歌唱力は圧倒的だった。
まさにこの場を支配する女王たち。
なんという力だ。
『オルタネイト』、『ヒカリ求めるはヤミ』の二曲を歌い終わり、熱狂する観衆たちを前にして三曲目の前奏が始まった。
ん?
雰囲気が変だ。
異界化の予兆か!
「サマナー!」
「わかっている!」
持参したハードケースの鍵穴に鍵を突っ込み、素早く中身を取り出す。
マヨーネさんから手渡されたイタリア製の短機関銃と防具とを並べた。
ヘッドアップディスプレイ内蔵型ゴーグルとバロウズ内蔵型の手甲を手早く装備する。
今着ているスーツはスリル博士による耐刃耐弾加工済みだから、生存率をある程度以上は高めてくれることだろう。
折り畳まれた銃床を半回転させ、伸ばした状態で固定する。
特殊部隊仕様の品で、意匠は殆ど変わっていないが中は別物だという。
クローズドボルトファイアで命中精度を上げており、口径は一〇ミリ。
銃弾の弾頭は擬似ヒヒイロカネだそうで、対悪魔戦闘に於いて効果が期待出来るとか。
一発五〇〇〇円するそうなので、少し心臓に悪い。
弾丸満載の弾倉を銃本体に装填し、ボルトを引き、初弾を薬室へ送り込んだ。
予備弾倉は三つ。
計一二〇発で勝負を決めないとな。
全弾撃ちきったら、六〇万か。
……あまり考えないようにしよう。
安全装置はかけたままにしておく。
口うるさい警察関係者を誤射するのは不味いことだ。
周囲が異界化してゆく。
半透明な怨霊が現れた。
その表情は実に禍々(まがまが)しい。
よほどの怨みを抱いているのだろうな。
観客たちはどうやら麻痺しているように見える。
生命力を吸われないようにしないと。
こいつぁ、はっきり言ってヤバいぜ。
「この俺を認めない奴ら! アラライやイノハラなんぞ、この俺と比べるもおこがましいのに! 何故、何故、あんな俗物どもばかりがもてはやされるのだ! ……く、ハハハ! つるんでやがる! みんな、つるんでやがる! 芸術のわからん愚か者どもには、死あるのみ! 皆、あの世に逝くがいい!」
叫ぶ怨霊。
お門違いもはなはだしい。
一体誰だ?
「あれは……自称天才写真家だった樫山?」
ピクシーが呟く。
……誰?
先日亡くなった写真家が怨霊化した存在とか。
なんでこないなとこに現れんねん。
配下らしき悪魔をやたらに引き連れているぞ。
この迷惑親爺め!
「幽鬼エンクをあんなにも沢山!」
「アレは怨霊化した妄執そのものね。」
アリスが冷静な寸評をした。
殺るしかないのか。
ならば、戦闘だ。
舞台に躍り出つつ安全装置を解除し、短機関銃の引き金をひいた。
アイドルたちや演奏者たちに逃げるよう、手振りで指示する。
早く逃げるのじゃ。
軽快な発射音で悪魔の群れに対抗する。
任務を遂行して、アイドルたちも守る。
無論、観客たちも守る。
全部やらなくっちゃならないのが、こちとらのツラいところだな。
まあ、なんとかやってみせよう。
護衛たちがわらわらと現れ、銃火器やら鈍器やらで対応してゆく。
油断しないように戦わないとな。
エンクにあっけなく倒される護衛が複数いる。
悪魔に対抗出来ない奴はあっさりと殺られる。
そういった連中にまではとても手が届かない。
彼らのことは彼ら自身に任せるしかない。
だが…………。
……少し考え、アリスをそちらに廻した。
「仕方ないわね。」
そう言って、武神の如く暴れる少女悪魔。
なんとも頼もしい。
ピクシーも治癒魔法でさりげなく周囲を助けてくれる。
なんとも有り難い。
わかったことがある。
怨霊に弾は効かない。
これはたまらんなあ。
雑魚狩りに徹するしかあるまいて。
「フォトンショット!」
「おっと!」
怨霊が光を放った。
巻き込まれたエンクが紙と化す。
げ、シャッフラーと同じ効果か?
写真のようなモノになったのか?
あれに巻き込まれないようにしないと。
舞台の裏手がざわざわしている。
アイドルたちはまだ逃げていないのか?
強烈な闘気を幾つも感じる。
……なん……だと?
……まさか……これは小宇宙(コスモ)?
と。
戦隊だか魔法少女だかみたいな扮装をした女の子たちが、颯爽(さっそう)と舞台に飛び出してきた。
もしかして、さっき歌っていた女の子たちの一部か?
君たち、なにしとるの!?
そんな扮装をしている場合じゃないんだぞ!
「我は転生戦士イシュキックだ! 義によりベルちゃんと共に参戦するぞ!」
「あかりよ、無理はせぬようにな。」
「大丈夫だよ、ベルちゃん!」
「対悪魔特務制圧兵装七式アイギス、全兵装の安全装置を解除します。」
「ときめく常夏! キュアサマー!」
彼女たちが参戦してくれたお陰で、戦いがこちらの優勢に傾いてゆく。
やるじゃないか。
びっくりしたけど。
「負けていられないわね! ダイヤモンドダスト!」
優雅に踊りながら氷結系の技を使い、アリスがエンクたちを次々に凍らせてゆく。
ピクシーが前に出た。
「哀れな獣よ、紅き黒炎と同調し、血潮となりて償いたまえ! 穿(うが)て! エクスプロージョン!」
彼女の詠唱した最強級爆裂魔法が、敵対者の群れを襲った。
それは異界化したここの結界を震わせるほどの威力である。
「必殺! おてんとサマーストライクサンシャイン!」
白い衣装を身にまとった少女が燃え盛る太陽のような巨大な炎を怨霊の樫山にぶつけ、敵対者は大いに苦しみだす。
「今よ、サマナー!」
「シャッフラー!」
札化する魔法を喰らい、悪魔は一枚の巨大な札と化した。
よし、無効化されなかった。
とどめだっ!
「ああああ!」
「燃え尽きよ! マハラギオン!」
「ぐあああ!」
そして、悪魔は滅びた。
これにて一件落着!
これで心置きなく、芽富伊良洲(めふぃらす)大社の秋大祭の準備に取りかかれる。
帰りに町中華で食べていこう。
餃子に生ビールに麻婆麺に……。
さあ、後片付けをしようじゃないか。
空が深く赤く黒ずんでゆき、宵明星が空に輝くこの一時。
観客のいなくなった舞台。
女子高校生の新人アイドルが一人、たたずんでいる。
ヒカル・ルチーフェロ。
気さくな美少女である。
彼女の影法師は何故か本人と全然違う形をしていた。
彼女は菩薩めいた、不可思議な微笑みを見せている。
「ニンゲンに栄光あれ。」
ヒカルはキレイな笑顔を浮かべながら、そう呟いた。
【車輪はまた回転する】
わずか三分ほどの歌唱。
終わればあっという間。
少女たちの熱唱は聴き手に届いたのか。
届いたのだと思いたい。
自分たちが歌った後の轟くような歓声。
舞台裏まで聞こえるほどの声援だった。
それは彼女たちが得られなかったモノ。
うつむく新人アイドルたち。
手を震わせる者や、涙ぐむ者さえいる。
力が……力がもっとあったなら……。
ティフェレトの歌声が大きく聴こえてきた。
ほとばしる熱量がすぐ近くまで伝わってくる。
嗚呼。
強い。
何故。
何故、かくも違うというのでしょうか。
三人の少女たちに完膚(かんぷ)なきまでに負けていた。
なにもかも。
少しの間動けなかった彼女たちは、やがて顔を上げる。
確かに実力の違いは見せつけられたが、後悔はあまり無い。
現在持てる力のすべてを尽くしたから。
これからだ。
これから、力をつけていけばいいのだ。
それに、彼女たちを制作統括がじっと見守ってくれていたから。
あの人のために。
みんなのために。
…………そう。
自分の心に素直になろう。
あの人の。
あの人のためだから。
だから、歌える。
仕事は終わった。
帰ろう。
帰ればまた歌えるから。
「それでは皆さん、帰りましょうか。」
やさしく見守っていた制作統括が、ぎこちないながらも心を込めて微笑む。
「「「「「「「はい!」」」」」」」
歩きだす偶像集団。
行く先の遥か高い壁にうちひしがれながらも、彼女たちはまだ希望を捨てていない。
前を向いて。
ただ、前を向いて突っ走ればいい。
と。
一人のアイドルが最も信頼する男性に話しかけた。
「ところで、制作統括。」
「はい、なんでしょう?」
「好きな人はいるんですか?」
「えっ?」
瞬間、何人もの修羅がその場に生まれた。