あくいろ!   作:輪音

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禁煙の悪魔

 

 

 

 

 

 

「公安怪異対策二課の『禁煙の悪魔』対策班四名は、一昨日前の二二時〇三分に『禁煙の悪魔』と交戦。二二時〇四分に対策班の中村を除く三名が死亡。二二時〇五分に対策班の中村は契約している『狐の悪魔』の力を解放。結果、『禁煙の悪魔』は撤退。以降、現在まで追跡中。」

 

「『禁煙の悪魔』に殺された三名のうち、一名は肺をニコチンタールで詰まらせ死亡。一名は喉に煙草をみっしりと詰まらせ死亡。一名は顔面を完全に焼かれて死亡。」

 

「『禁煙の悪魔』に相対した要員のうち喫煙者は全員死亡という結果が出ていることから、『禁煙の悪魔』は喫煙者に対してなにかしら大きな優位性を有するものと考えられる。」

 

「結論。『禁煙の悪魔』への対策班は全員非喫煙者で構成し、対象が権能を縦横に振るう前に駆逐すべし。」

 

 

 

「『喫煙団地』と揶揄(やゆ)されていたS地区の団地は大半が不法占拠的に住んでいた者で占められており、喫煙者が住人の九割九分九厘だった。先日、『禁煙の悪魔』の襲撃によって全員死亡。包丁や鉄パイプやバールのようなものなどで応戦したようだが、まるで相手にならなかった模様。」

 

「反社会的人員で構成された『日本革命戦士会』は『禁煙の悪魔』によってあっけなく蹴散らされ、全員敢えなく死亡。」

 

「都内某所の居酒屋の前で喫煙していた喫煙者たちは『禁煙の悪魔』に襲われ、僅かな時間で全員死亡。」

 

「都内某所の駅前にて咥(くわ)え煙草のまま歩いていた複数の喫煙者は、突然現れた『禁煙の悪魔』に奇襲され全員即時に死亡。」

 

「メシア教の戦闘分隊と交戦した『禁煙の悪魔』はあっさりと彼らを蹴散らし、部隊員で尚且つ喫煙していた者は交戦後間もなく全員死亡。」

 

 

 

 

 

「喫煙者って、割かし可哀想だよね。喫煙者が火事の原因を引き起こす存在だと思っているニンゲンは沢山いるし、そもそも煙草を吸うことがろくでもないと考えているニンゲンだって複数存在する。喫煙者は副流煙を当たり前のように吐き出すし、喫煙しちゃいけないところなのに平気な顔でスパスパやったりするし、あちこちでポイ捨てするから白い目で見られたりする。だから、ボクのようなモノがそんな悪に染まりきった悲しいニコチン中毒者に引導を渡さなきゃいけないんだ。喫煙者が社会的に認められる時代はとっくに終わったんだよ。キミ、そこんとこわかる?」

「知ったような口を! この(自粛)な悪魔め!」

「ああそうそう、キミは喫煙者だから、ボクには絶対勝てないよ。」

「ほざけっ! な……なんだ、これ……や、やめろ……やめ……やめてくださ……。」

「…………あーあ、言わんこっちゃない。可哀想に。」

 

 

 

 

神奈川県平崎市内の中華街にある、とある中華料理店。

珍しく、マヨーネさんとの打ち合わせはここで行った。

焼きビーフン、青菜炒め、水餃子、薬膳スープ、肉入りおやき、焼き小籠包、白身魚の姿蒸し、焼き豚足、羊の串焼き。

いずれも旨い。

とどめに濃厚豊潤な味わいの杏仁豆腐を食べながら、今回倒す悪魔の情報を聞く。

 

「『禁煙の悪魔』は先ず新大陸のアメリカで暴れ回り、次いで欧州で猛威を振るいました。そして、我がイタリアでは『公社』のフラテッロ四組と交戦。担当官三名を失うという、酷い痛手を受けました。現在、『禁煙の悪魔』はこの国のシブヤ、イケブクロ、シンジュク、ヨコハマなどで次々に喫煙者を殺し回っています。」

「既に何人も殺されているんですか?」

「公安怪異対策課が中々情報を寄越さなかったので、対応がそれだけ遅れている訳です。先日『神父』は交戦した『禁煙の悪魔』を撤退に追い込めましたが、致命傷を与えるまでにはいきませんでした。」

「『神父』にしては珍しいですね。」

「どうも相性があまりよくなかったようです。」

「へえ。」

「今回は、公安怪異対策課と歩調を合わせた共同作戦が実施されます。」

「そこに私が加わるのですね。」

「そうです。公安怪異対策課は上層部から『お遊び部隊』と思われている中隊規模の実験的組織ですし、ここに配属された班員は大抵一年以内に殆ど死ぬか生き延びても転職します。」

「えええ……。」

「ただ、時折腕のよい班員が一年以上生きていることもありますし、無所属の狩師と共同作戦を行ってそれなりの結果が出ることも幾らかはあるようです。」

「は、はあ……。」

 

 

 

 

 

「よろしくお願いします、私は公安怪異対策課二課の中……。」

「ひれ伏せ、ニンゲン。ワシの名はパワーじゃ。大悪魔である!」

「お二方、よろしくお願いします。」

 

共同作戦と言っても、公安から派遣されたのは人間一人と魔人一名。

人間は中肉中背で普通っぽい男性。

魔人は金髪金眼の美人で、頭に二本の角が生えている。

 

「大悪魔? あなた、魔人じゃない。」

「ワシは悪魔じゃ!」

「元、悪魔でしょ。」

 

ピクシーが容赦ないツッコミをしている。

アリスはくすくす笑い、スカアハとハトホルは静観の様子だ。

 

「サマナー。」

「なんですか、スカアハ。」

「こいつを絞めてもいいか?」

 

するりと少女の姿をした魔人に近づくや否や、首をぐっと絞めにかかる武芸の名手たる悪魔。

……おっと、彼女を止めないと。

 

「あ、絞まっている、絞まっている、やめてスカアハ。それ以上はいけない。」

「ぐ、ぐああ……。」

 

ゴキ。

首の骨を折られた魔人がぐったりと地面に倒れ伏す。

うわあ。

 

「ほら、血よ。」

 

どこからか取り出したパック入りの血をパワーに飲ませるハトホル。

 

「これで復活するわ。」

「死なない、じゃなくて死ににくい、といったところかしら。」

 

アリスが呟く。

 

「ヌ、ヌシの契約する悪魔はおそろしいのう。ワシにはとても真似出来ぬわ。」

 

一気に大人しくなった魔人がそう言った。

 

 

 

先日『禁煙の悪魔』と交戦して生き残った公安怪異対策課の中村さんに話を聞く。

かの悪魔と戦った者で喫煙者は、どこをどうされたのかわからない内に倒れてしまうのだという。

なにそれ、こわ。

オレは喫煙者じゃないが、『禁煙の悪魔』は喫煙者の天敵みたいな存在らしい。

本当は公安怪異対策課の姫野さんや早川君を連れてきたかったらしいが、両名とも喫煙者なので断念したとか。

他の候補も喫煙者だったので同じく断念。

その上、非喫煙者の悪魔狩師は全員別の作戦に従事していてこちらに来れない。

……あかんやん。

まあ、手持ちの戦力で遣り繰りするしかないか。

 

 

 

 

『禁煙の悪魔』には意外と簡単に遭遇出来た。

ここは横浜市街地のとある海近く。

繁華街にも程近い場所。

喫煙者だったらしい犠牲者がそこかしこに転がっている。

どれもむごたらしい状態だ。

夕暮れの中、静かに微笑む悪魔。

やさしい顔の、少年の姿をした悪魔。

白いカッターシャツに吊り半ズボン。

潔癖な雰囲気が漂っている。

喫煙者を絶対に許さないような気配。

ヤバい。

この悪魔はヤバい。

ヤるしかないのか。

そして。

交戦は不意に始まった。

ピクシーが先陣をきる。

 

「いっくよー、五〇〇キロカロリーパーンチ!」

「なんのっ!」

「ウソ、直撃を耐えた?」

「くくく、禁煙のおそろしさにはその程度の技など通用しない!」

「なんですって?」

 

スカアハが動いた。

 

「刺し穿(うが)ち、突き穿つ! 『貫き穿つ死翔の槍』!」

 

槍の穂先が何度もきらめき、悪魔の急所を的確にえぐってゆく。

 

「ぐおおっ! ぐっ……き、効かんな。」

「ほう、これで死なんか。くくく、面白い。」

「スカアハさーん、こいつぶっ殺しちゃおうよ。」

「元よりそのつもりだ。すぐ死なない悪魔は貴重だからな。」

「わかってる、わかってる。」

「……なに?」

 

一瞬の間にハトホルが悪魔との距離を一気に詰め、荒ぶる野牛の力を解き放った。

 

「今! 必殺の! グレートホーン!」

「あべしっ! な、なんのこれしき!」

「うそ、今、完全に入っていたのに!」

「よかったじゃない。何度でもヤれるんだから。」

「それもそっか。」

 

ケラケラ笑う美しき仲魔たち。

うちの仲魔たる悪魔たちは非常におそろしいのかもしれない。

今、目の前にいる悪魔よりも。

パワーが血の剣を二本作り出し、両手に持って何回も斬りつけた。

 

「どうじゃ! どんなもんじゃ! このパワーが一番最強じゃ! ガハハハハハ!」

「くっ、なんのこれしき!」

 

ほう、やるじゃないか。

おっと、それより支援攻撃だ。

ばんばん撃ちまくっていこう!

三〇口径の自動小銃をどんどん撃ってゆく。

結界内だから、外に弾が行かなくて安心だ。

……。

うーん、あんまり効いていないみたいだな。

連射後、仲魔たちが連携し攻撃を仕掛ける。

 

「全身で喰らえ、このゲイ・ボルグの鋭き穂先を!」

「改めて黄金の野牛の力を知るがいい! グレートホーン!」

「いでよ、トランプの兵隊たち! ねえ、死んでくれる?」

「五〇〇キロカロリーパンチと五〇〇キロカロリーパンチを合算して大盛りパワー、とくと味わってね、一〇〇〇キロカロリーパーンチ!」

「ぐはあっ! だ、だが、効かぬ!」

 

連続攻撃を耐える『禁煙の悪魔』。

そこに襲いかかる公安所属の魔人。

 

「テンテラブラッドレイン!」

 

パワーの唱えた必殺技が、血の雨のように『禁煙の悪魔』に降り注ぐ。

血で生成された短剣が幾本も敵対者に刺さっていった。

 

「ぐあっ!」

「コンッ!」

 

間髪入れずに中村さんが『狐の悪魔』を呼び出して攻撃し、悪魔を吹き飛ばす。

上手いぞ。

 

「ぐはっ!」

「喰らえっ、シャッフラー!」

 

悪魔の隙にあわせ、オレは札化の魔法を唱えた。

よし!

敵は巨大な札に変わった。

 

「燃え尽きろ! マハラギオン!」

「がああっ!」

 

火柱に包まれる『禁煙の悪魔』。

これでイケるか、と思ったが、そこまで甘くないらしい。

あちこち炭化しながらも、『禁煙の悪魔』は我が術を破ってしまう。

 

「ガーッ! このボクが! ボクが貴様らのように矮小で低俗な存在にっ! やらせはせんぞ! やらせは!」

「カリツォー。」

 

アリスの指先より生み出された氷の結晶の輪が『禁煙の悪魔』を包み込み、身動き出来なくする。

 

「う、動けない!」

「いっくよーっ! 一〇〇〇キロカロリーパンチと一〇〇〇キロカロリーパンチを合算して特盛パワー! さあ、たっぷり味わってね! 二〇〇〇キロカロリーパーンチ!」

「さあ、逝きなさい! ハリケーンミキサー!」

「受けなさい、『禁煙の悪魔』! この凍(こご)える一撃を! ホーロドニースメルチ!」

 

ピクシーとハトホルとアリスが放ったそれぞれの必殺技に吹っ飛ばされ、回転しながら天高く飛んでゆく『禁煙の悪魔』。

 

「では、傲慢なる貴殿にたっぷり馳走をしてやろう。我が研鑽、我が絶技! 『貫き穿つ死翔の槍』!」

 

スカアハが飛翔し、絶技を放つ。

 

「ぎゃあああああっ!」

 

細切れになって、バラバラに落ちてゆく『禁煙の悪魔』だったモノ。

…………復活しないな。

よし、勝った。

 

 

 

 

戦い終わって、日が暮れて。

安心すると、腹が、減った。

よし、飯の時間だ。

オレの腹は何腹だ?

今は洋食の気分だ。

帰りの食事はイタリア料理店に行くか。

 

「では、食事に行きましょうか。」

 

仲魔たちに言った。

すると、少し離れた場所にいたパワーが反応する。

 

「メシか。メシならば、ヌシらについていかねばならんな。ほれ、行くぞ、中村。」

「あの、皆さんのお邪魔に……。」

「なにをゆうておるのじゃ。ワシらは今回の戦闘において多大な貢献をした。ならば、メシを馳走になるのは当然。」

「えっ?」

 

皆で食べに行くのも悪くないか。

 

「……まあ、いいでしょう。」

「ほれ、よいではないか。」

「あの、今回食べた分は公安の接待費で落としますから。」

「それ、いいわね。さ、行きましょ、サマナー。」

「お、おう。」

 

そういうことになった。

スカアハとハトホルはいつの間にか、女子高校生の姿に変化している。

なんとも手際のよいことだ。

 

 

 

 

「うちの大盛りは量が多いわよ。」

 

元気そうな女将の店に着いた。

今日のイタリア祭の会場はここだ。

さて、なにを頼もうか。

 

中村さんは海老ドリアのハーフセットを頼むらしい。

パワーはネロの大盛りを頼むという。

イカスミパスタのことかな?

他の席を見ると、黒い山脈が見えた。

あれのことらしい。

 

茄子のマリネを全員分頼み、それは程なくテーブルに届けられた。

どれどれ。

おお、これ、いい。

茄子を薄く切り、同じく薄く切ったニンニクを重ねている。

 

アリスはペペロンチーノか。

 

オレは特製ミートローフのハーフを注文したのだが、とても楽しみだ。

ミートローフを頼んだのはオレ(隠れて食べるピクシー込み)とスカアハとハトホル。

今回は前半後半の二段階作戦で行こう。

先ずは様子見だ。

コンソメスープ。

嗚呼、おいしい。

この店、当たり。

じわりじわりと体に沁みてくる。

 

ミニサラダ。

ちゃんとおいしい。

嬉しいことだ。

 

 

おお、男気溢れるミートローフが来た。

バターライスとスパゲッティが添えられている。

どれどれ。

うむ。

これはいい。

とてもいい。

この肉のみっしり感。

茸たっぷりのソース。

このスパゲッティ、本気が感じられる。

いいぞ、いいぞ。

バターライスも深いコクがあっていい。

これ、本当にいい。

心がはしゃぐ味わいだ。

口から鼻にバターの香りが抜けてゆく。

 

食べ終わったが、まだまだ。

他の面々も次々追加注文している。

中村さんはじっくり食べる主義のようだ。

 

さて、オレも追加注文しよう。

スパゲッティのミスキアーレのハーフセット。

これだ。

ミスキアーレ、ってマヨネーズのことらしい。

ピクシーと協議した結果、そうなった。

デザートはクレームブリュレにしよう。

後半戦はこれで勝負!

 

 

スパゲッティが来た。

食べよう。

おお、これ、非常にいい。

マヨネーズがたまらない。

海老とアボカドの組み合わせも実に素晴らしい。

マヨーネさんも喜ぶかな?

ドレッシングの酸味が食欲をもっと加速させる。

ハーフアンドハーフ作戦、成功。

 

カプチーノとクレームブリュレで締め。

うほほ、カスタードがたまらない。

カプチーノのコクの深さもいいぞ。

 

食べる幸せ。

これこそ、現代人に与えられた幸福のひとつだろう。

個性的な仲魔たちと共に、程々に平和を守ってゆこうと思う。

この幸せを逃さないためにも。

 

 

 

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