今回の話は実際の横浜市長選の頃に思いついたものですが、いろいろあって途中までしか書けていませんでした。
時期を合わせるのって意外と難しいです。
えっ、真・女神転生リベレーションとエヴァンゲリオンがコラボレーションしたのですか?
……なん……だと?
碇君がいろいろあって人修羅になるのですね、わかります。
※誤字脱字報告をいつもありがとうございます。
神奈川県は平崎市内にある事務所にてマヨーネさんと仕事の話の後でカプチーノを飲みつつ雑談していたら、彼女はオレのシャツを見ながらこう言った。
「シャツを仕立てるなら、イタリアです。それも信用のおける南の店で。」
「イタリア、ですか。」
「ええ、その南です。昨今は良心的な店も減りつつあるようですが、やはりイタリアの南です。生地も仕立ても着心地もまるで違いますから。」
「はあ。」
「あなたなら、ナポリにあるアントネッリの店がいいかもしれません。」
「ナポリ仕立て、ですか。」
「ええ、イタリアはナポリ仕立てが最上ですから。」
横浜市長選が行われる。
日本有数の巨大都市の首長を決める戦い。
今回は五〇人ほどの立候補者による乱戦だそうで、過去最多の争いとなる。
その上、与党も野党もぐちゃぐちゃな分裂選挙となってしまった。
しかも有力立候補者はいずれも超個性的な曲者揃い。
特に有力な候補者は以下の八人。
◆元横浜市議会議員のヨブ・トリューニヒト氏
◆元大手商社の役員にしてドナン・カシム氏の息子たるロイル・カシム氏
◆ドナン・カシム氏の筆頭秘書だったヘルムート・J・ラコック氏
◆元岡山市長のドレイク・ルフト氏
◆音楽業界で国内外に名を知られた制作統括のマフ・マクトミン氏
◆元内閣府職員の合田一人(ごうだかずんど)氏
◆元参議院議員のサスロ・ザビ氏
◆元福山市長の広川剛志(たけし)氏
錚々(そうそう)たる面々だ。
外国系立候補者が多いのは、横浜ならではの風景だろうか。
日本も随分と国際的になったものだ。
我らがファントムソサエティは今回、暗躍する直接的敵対者の無力化を目的として活動するという。
ものは言い様か。
護衛任務は苦手だ。
搦(から)め手を使う相手は西政務次官やこの国の政治家が対応するそうだから、そちらはほっぽっといていいらしい。
搦め手、か。
うちの親分以外はちゃんと対応出来るのかね。
告示の翌日、広川剛志氏が横浜駅前で演説を始めた。
「悲劇的な未来像を示して、『そのうちこうなっちゃいますよ。』と言って、脅しながら効果を得ようとするやり方もあるようです。しかし、わたしはむしろ『こうすれば、こんなに素晴らしい世界になるよ。』と言って、美しい理想的世界の姿を指し示したい。もちろん、それは誰もが納得出来る現実的なモノでなければなりません。」
ふむふむ。
思わず納得してしまいそうだ。
オレが横浜市民だったら、ついつい投票してしまいそうになっちゃうかもな。
告示の翌々日、ザビ氏が襲われた。
マジかよ。
幸い、暗殺完了には至らなかった。
襲撃者は三人。
全員あっさりと無力化されたのでよかった。
車には爆発物が取り付けられていたという。
爆発物と言えば、マヨーネさんだ。
彼女に任せておけば大丈夫だろう。
その数日後、トリューニヒト氏、ラコック氏、ルフト氏、マクトミン氏、それに合田氏も襲われた。
……襲われ過ぎじゃないか?
トリューニヒト氏、ラコック氏、ルフト氏、合田氏の四人はそれぞれ別の場所で襲撃されたが、四人とも命に別状は無いそうな。
護衛は怪我人続出だとかで、報道によるとこちらも命に別状は無いという。
マスメディアの表現になんとなくもやっとするが、それは彼らの定型表現なのだと納得したことにしておく。
一方、マクトミン氏は悪魔に襲われたらしい。
彼の護衛としてファントムの召喚師がついていたので、彼自身は軽傷で済んだとか。
その召喚師は戦線離脱してしまったが。
選挙はまだ期間があるのに、こんなことで大丈夫なのか?
襲撃にあった立候補者たち、その後。
合田氏は回復が困難なため、事実上の立候補取り止め。
トリューニヒト氏、ラコック氏、ルフト氏の三人は包帯を巻いての演説活動を再開。
ザビ氏も自身の無事を宣伝。
全員がテロリスト許すまじの発言を行う。
マクトミン氏は最初の勢いが無くなり、その代わりに応援演説が奮闘している。
広川氏が襲われた。
丁度オレが護衛しているこの時に。
襲ってきたのは悪魔の群れ。
さあ、我が仲魔たちよ。
存分に縦横無尽にその力を示すがいい。
ピクシーのメギドラオンが周辺の悪魔を薙ぎ払い、アリスのダイヤモンドダストやハトホルのグレートホーンが悪魔を蹂躙(じゅうりん)し、スカアハの槍捌(さば)き
が残った悪魔にとどめを刺してゆく。
敵対者の指揮官らしい豹頭(ひょうとう)の悪魔は双剣を見事に使いこなしているところと魔法に手慣れているところから爵位級のように見えるが、何故ニンゲンの選挙戦に悪魔が介入するのだろうか?
悪魔を使役する者の利益になるから?
なにかしらの利権のため?
よくわからないな。
あ、豹頭の悪魔が逃げ出した。
広川氏の方を見ると、彼自身の護衛が襲撃者たちを撃退している。
なんらかの武術を極めている感じの後藤と呼ばれた男性は高い身体能力を十分活かしているようだったし、冷涼な感じさえする理知的美人の田村さんは難なく襲撃者を無力化していた。
ヒュー、やるじゃないか。
ん?
田村さんがオレに近づいてくる。
なんだ?
「お前は実に興味深い。お前の子なら産んでもいいぞ。」
「えっ?」
「ふふ。」
口説かれたのか?
……ま、まあ、冗談だろう。
ちょっとドキドキしてしまった。
痛い痛い、我が仲魔たちよ、オレをそんなにつねるんじゃない。
激戦を繰り広げた横浜市長選。
戦いを制したのは広川氏だった。
副市長は市長選候補者のうちの二人になるかもしれないらしい。
彼には市議会という手強い連中が待ち受けている。
それらをどう御するか。
お手並み拝見といこう。
横浜はこれから随分変わるのかもしれないし、そうではないのかもしれない。
彼がよきニンゲンたらんことを願うばかりだ。
さて、帰宅したら『たーぼのなつけいば』で遊ぶとするか。
あれはちょっと昔のゲームだが、なかなかよいものだ。
きっと、いい気分転換になることだろう。
その爵位級悪魔は、激しい戦いの場からどうにかこうにか逃走することに成功していた。
手に持つ剣は二本とも所々刃こぼれしており、体のあちらこちらにも傷がある。
所持するマグネタイトも相当量減っていて、存在がややもすれば揺らぎ始めていた。
このままでは不味い。
敵対した相手がいずれも手練れだったことは、その悪魔にとって正直計算外だった。
いや、まだだ。
まだまだまだ。
魔界へ。
魔界へ戻れば、また力を蓄えられる。
あそこへ。
あそこまで戻れば、どうとでもなる。
「こ、ここまで来れば奴らも追いかけてはこれまい。」
呟いた。
すると。
「あっはっはっはっ。どこへ行こうというのかね!?」
振り返った悪魔は追跡者を見て驚愕する。
まさか!?
そんなバカな!
あの方がいる?
いや、こんなところにいるはずなど無い!
にやにやしながら、ミニスカートを履いたソレは震える悪魔に言い放った。
「三分間待ってやる。」
「ふ、ふざけないでいただきたいっ!」
時間稼ぎをする!
覚悟を決めた爵位級悪魔は呪文を唱え、その力を躊躇なく放つ。
「これを喰らえば、流石に貴方様でもっ!」
極大火炎が追跡者を容赦なく包み込む。
しかし、ソレは涼しげな表情のままだ。
「な、なんだとっ!?」
「言葉を慎みたまえ。君は今、ラ○ュタ王の前にいるのだから。」
「舐めたことを言わないでいただきたいっ!」
猛吹雪が追跡者を包み込んだ。
「私をあまり怒らせない方がいいぞ。今はさほど怒っていないがね。はっはっは。さっさと魔界へと逃げればいいものを。私と戦うつもりかね、実に素晴らしい! これこそ最高のショーだとは思わないかね?」
戦意を急激に失いつつある爵位級悪魔は、ガタガタと震え怯えている。
あのニンゲンの口車に乗らねばよかったと今さらながらに後悔しつつ。
美しい娘の姿をした高校的制服姿のソレは、慈愛の笑みを浮かべながら豹頭の悪魔に近づいていった。