あくいろ!   作:輪音

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みんな大好きアウラ様
今回は、メガテン仕様のアウラ様だとこんな感じかなあと思いつつ書いてみました
リーニエ成分が多めなのは仕様です






ウェーハスハールのアウラ

 

 

 

 

「お久しぶりですな。ベルベットルームへようこそ。」

 

特徴的な長鼻の男が甲高い声で話しかけてきた。

会う時はいつも糊のきいた黒いスーツ姿だったが、今はそのスーツが薄汚れている。

変だな。

目付きも異様にギラギラしていて、まるで別人のようにさえ思えた。

ここは青い部屋。

そうだ、ここは何度か訪れたことのある部屋だ。

前に来た時とあまりに異なる感じに、戸惑いを隠せない。

部屋の全体に剣呑(けんのん)な気配がある。

やさぐれた感じで乱れ髪のマリーさんが部屋の隅にいるのだけれど、彼女は薄汚れた青い制服姿でうつむいていてこちらを見ようとさえしない。

おかしい。

違和感のある状況だ。

部屋にある調度品の大半が傷んでいるし、長鼻の男はいつも以上にうさんくさい雰囲気だ。

変だ。

妙だ。

どういうことだ。

 

「あなたには近々試練が訪れるでしょう。それを乗り越えられるかどうかは、あなた次第です。」

 

古びた机の上でところどころすり切れたタロットカードをもてあそんでいた男は、不意に一枚の札をこちらに見せる。

褪せた印刷の、かなり昔に作られたらしい札を。

もしかして占っていたのか?

にやけ顔がちょっと気持ち悪い。

 

「正義の札が出ました。さて、正義とは一体なんでしょうな? 正義の天秤は誰に傾くのやら。」

 

お前が言うな、と言いそうになるのをどうにか飲み込む。

不快にも感じられる甲高い笑い声を聞きながら、オレは部屋を徐々に認識出来なくなってやがて目覚めた。

気持ち悪さを胸に宿したまま。

なにも出来ない自分自身に歯噛みしつつ。

 

 

 

 

「ウェーハスハール?」

「ええ、オランダ語で天秤座を意味する言葉ですわ。」

 

神奈川県平崎市。

我らファントムソサエティの事務所近くにある料理店で、マヨーネさんとオレは食後のカプチーノを飲みながら会話する。

彼女の飲み物には沢山の砂糖が投入されていた。

よくあんなに甘くして飲めるものだ。

オレが全然砂糖を入れないので、彼女は怪訝(けげん)な顔をしていた。

国際的な相互理解は存外難しい。

同じ言葉を使ったからといって、相手を理解出来るとは限らないからだ。

理解出来ないのならば、殲滅か支配すればいいと考える輩さえ存在する。

情報だけが空(くう)を舞う。

悪魔を理解することはそんなに難解なのか。

悪魔と共存することはそげに無意味なのか。

今回の依頼は天秤座の二つ名を冠する高位悪魔の抹殺か調略か中立化が目的なのだとか。

どれも出来る気がしない。

話をするくらいならなんとかなるかな?

あれ?

この世に顕現している悪魔って確か、本体が魔界にあるんじゃなかったっけ?

悪魔的端末を破壊しても…………ま、それ自体に意味はあるんだろう。

たぶん。

高位悪魔がこの世に現れるには、儀式やら手間やらで随分時間がかかるらしい。

野望をくじくという意味では必然性があるのだろう。

天秤座の二つ名を冠するということは、他にもそういった悪魔がいるのかな?

マヨーネさんは眉をひそませながら言った。

 

「高位悪魔との会話は無意味ですわ。」

「そうなんですか?」

「ええ、彼らは人間を対話可能な存在だなんてちっとも思っていませんから。」

 

お偉いさんはオレにアウラと交渉をして欲しいらしいが、マヨーネさんは懸念を示している。

今後の戦いで彼女の助力がいるのだとか。

アウラは兵卒を率いる将としての才能が高く、危機に際して即撤退を決断出来る判断力があり、尚且つ戦略をきちんと理解していることが評価されているという。

メシア教が何度か交渉人を彼女のもとに派遣したそうだけど、なんとことごとく失敗したそうな。

あいつら、高飛車だからなあ。

リュグナーというアウラの部下が怒って殴り込んできたため、メシア教の支部は幾つか壊滅してしまったという。

あかんやん。

なんとしても生き延びてくださいとマヨーネさんに言われる。

まだまだ死ぬつもりはないが、難易度は高そうだ。

かなりおそろしい相手なのだろう。

やれやれだ。

 

 

 

 

悪魔のことは噂屋に聞こう。

今は夜だから酒場に行こう。

夜更けの横浜の街を歩いた。

商店街から少し離れた場末。

ここだ、『魔の巣』とある。

いたいた。

黄色いスーツに身を固めた伊達男が。

彼が名うての噂屋だ。

噂屋はオレの姿に眉を吊り上げ、非常に嫌な顔をした。

そがいに嫌わんでもえかろうに。

とりあえず、彼と話をしてみる。

かくかくしかじか。

 

「……ははっ、そんな理由でここに来たって訳か。」

「そういうことだ。」

「お前、葡萄酒を買う時は瓶に巻かれている紙がどんなモノかで選ぶか?」

「そりゃまあ、そこには産地とかいろいろな情報が記されているからな。」

「雰囲気に酔っぱらうのも大事だが、肝心なのは味だろ。違うか?」

「まあ、そうだな。」

 

味を知るためには情報が必要なんじゃないか?

彼が言いたいことは、情報に振り回されるなということか。

 

「悪魔に対する時も肝心なのは、その悪魔の本質を見極めることだ。アウラの傍には大抵数名の処刑者がついているが、最近、そのうちのドラートってやつが倒されたという話だ。アウラの一党は腕っこきの戦士や魔法使いから逃げているって噂も聞く。本当かどうかはわからんがな。ゴシックロリータな服を着たリーニエっていうめんこい悪魔には、特に気をつけろ。彼女は相当な武術の使い手だ。あいつ、俺が放った指弾(しだん)をあっさりとすべて弾き落としやがった。」

「常にアウラの周りには腕利きの護衛がいるということか?」

「ま、そんなところだ。」

「交戦に至ったけれど生還出来た、と。」

「人間如き、と見逃されたんだろうな。」

「ふーん。」

「ちなみに、リーニエの好物は林檎だ。」

「なるほど。」

 

それは貴重な情報だ。

 

 

 

 

新宿にある行きつけの悪魔的酒場で、験担ぎにミラクルトニックを飲む。

これを飲むと運気が向上するという。

小鬼のバーテンダーが愛想よく話しかけてきたけれど、悠長に話をする気にはなれない。

アウラの話をしてみるが、色好い返事は返ってこない。

ま、そんなもんだろ。

怯えの色さえ見えた。

店にいるマンイーターたちも心なしか青ざめて見える。

皆に手を振り、都庁の方へ向かった。

 

 

いつもの仲魔はいない。

彼女たちは横浜で食べ歩きと買い物を堪能するそうだ。

マリーさんとも最近会えない。

あの夢だかなんだかで見かけた彼女は、本当の彼女なのだろうか?

よくわからないな。

まあ今回は交渉だけになるだろうから、仲魔たちがいなくともなんとかなるだろう。

たぶん。

 

 

都庁に入ると、一部が異界化していた。

そこが出入口らしい。

一般人には認識出来ないようになっているみたいだが、そこからアウラのもとへ行けるという。

よし、行こう。

 

 

薄暗い道が続いている。

時折夢に見る、あのなんとも言えない雰囲気の薄暗さにも近しく思えた。

この道を行けば、失った者に出会える気さえしてくる。

……気のせいだ。

そうさ、そうに決まっている。

 

 

やがて、若い娘のような声音が聞こえてきた。

豪華な調度品でととのえられた一角が見える。

そこで茶らしきものを優雅に飲む女主人と召し使い的な立ち位置の娘とがいた。

どちらも悪魔か。

二人の少女はこちらを見ている。

派手な感じの角娘がオレに向かって言い放った。

 

「あり得ないわ、無限回廊に引っかからないでここまですんなりたどり着くだなんて。それにあなた、ニンゲンじゃない。」

 

可憐な少女の姿をした悪魔が、角が特徴的な娘のそばにいる。

相当な手練れとみた。

彼女は林檎を旨そうにかじっている。

いいじゃないか。

 

「なにしに来たの、ニンゲン。わざわざ餌になりたいようには見えないけど。」

 

話しかけてきた角娘は天秤をもてあそんでいる。

 

「あなたと話をしたい、ウェーハスハールのアウラ。」

 

さて、気合いを入れて交渉しよう。

先ずは林檎だ。

手土産の赤い実をリーニエに渡す。

油断なく近づいてきていたゴシックロリータ的恰好の少女がやわらかく微笑んだ。

 

「アウラ様、このニンゲンはいい人。」

「なにあっさりとニンゲンに丸め込まれているのよ、リーニエ。」

「アウラ様にはこちらを。」

 

魔石の詰め合わせを彼女に渡した。

 

「ふーん、悪くないじゃない。」

 

悪魔は軽やかに嗤(わら)う。

あどけなくさえ見えた。

これすらも擬態なのか?

……まあ、いい。

口八丁なオレの実力をお見せしようじゃないか。

では始めよう。

言葉の戦いを。

 

 

 

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