あくいろ!   作:輪音

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ユニカムのシイコ

 

 

 

 

 

「コンニチワ、オイソギデスカ?」

 

目の前の悪魔がたどたどしく聞いてきた。

小鬼の姿をしているが、屈強の気配を感じる。

 

「別に急いでいませんよ。」

「よし、こっちだ。」

 

急に流暢(りゅうちょう)にしゃべり出した悪魔の後をついてゆく。

やがて目的地にたどり着いて、無事に妖樹洗顔クリームを入手した。

よしよし、これでマヨーネさんからの依頼はすべて達成だ。

 

 

 

依頼品を全部持って神奈川県平崎市中心部にある事務所へ行き、マヨーネさんから報酬を受け取る。

そして、彼女にドルチェを振る舞ってもらえることになった。

エプロン姿で、焼きたての洋菓子を持ってくるマヨーネさん。

 

「私が料理をするのは意外に見えますか?」

「いいえ、とてもよいことだと思います。」

 

彼女お手製のアップルパイとは、なんとも珍しいものをいただける。

ありがたくいただくとしよう。

どれどれ。

おお。

酸味と甘味の素晴らしい協奏曲がこの中にみっしりと詰まっている。

旨し。

 

食後はサマナー関連の話となる。

 

「MAV(マヴ)戦術?」

「ええ、ヤタガラスで以前提唱された戦術のひとつですね。二名一対で悪魔を屠(ほふ)るやり方になります。」

「ほう。」

「中でも『ユニカム』と呼ばれる女性は、一人で一〇〇体をこえる悪魔のサツガイに成功したそうです。」

「ほう。」

「もっとも、五年前の激戦で相棒を失ったとかで今は母親として育児に専念しているのだとか。」

「それで私はなにをすればいいんです?」

「あなたには彼女に会ってもらいます。」

「会った後はなにを?」

「出来たらうちに引き抜いて欲しいのですが、出来なければ幾つかの作戦に従事してもらえるかどうかの交渉をお願いします。」

「私は交渉人じゃありませんが……。」

「あなたの方が、下手な交渉人よりはずっといいですよ。」

 

 

 

 

岡山県倉敷市にあるパルダマンション。

そこにユニカムの彼女が住んでいるそうだ。

今は同じ市内にある、ドミトリー警備会社に勤めているという。

仲魔たちは先日激戦を繰り広げたばかりなので、休ませている。

ま、今回戦闘はおそらく無いだろうけど、拳銃と短機関銃くらいは用意しておくか。

一応、手榴弾も持っていこう。

六個は多すぎるか?

 

 

横浜から寝台特急のサンライズ出雲・瀬戸に乗って岡山県へと向かった。

武器を持ち歩くのはどきどきする。

一応政府筋の許可証は持っているけど、それでも気をつけねばならない。

岡山駅では多数の人が乗り降りして、それぞれの目的地に向かっている。

随分賑わっている様を見て、流石は大都会岡山だといたく感心した。

列車の切り離し作業が終わり、サンライズ出雲のみとなった車輌が山陽本線と伯備線共用の線路を走る。

倉敷駅で降車。

では見せてもらおうか、西日本屈指の観光地とやらの性能を。

なんてな。

 

 

倉敷市の美観地区近くにあるホテルのロビーにて、目的の人物と落ち合った。

おかっぱのやさしい雰囲気の女性。

一見、おっとりとした感じの女性。

ヤタガラスの『ネノクニ』にかつて所属していた腕っこきの退魔師は、そんなご婦人だった。

聖痕(スティグマ)攻撃と呼ばれる独自の戦闘術は、今でも語り草になっているのだそうな。

一見そうは見えないけれども、きっと奥の手やら奥義やら必殺技やらを持っているのだろう。

 

雑談を交わす。

彼女は言った。

 

「なにかを入手するために、なにかを諦める。そんなのって、理不尽じゃない?」

 

そういうものかね。

なにかを得ることはなにかを失うことだろうと、個人的にはそう思うのだが。

彼女にとって、それは受け入れ難いことらしい 。人生ってなんとも難しいな。

話しているうち、彼女から提案された。

 

「丁度いいわ。あなたも是非参加して欲しいの。ちょっと厄介な悪魔が郊外の廃トンネルをねぐらにしていてね。早くとっちめたいのよ。旦那には上手く言っておくから。」

「いいですよ。いつ行きます?」

「今夜、坊やが寝てからになるわ。」

「わかりました。車を借りてきましょう。」

 

どうやら、不利を悟るとさっさと逃げ出す系統の悪魔らしい。

それで場所変えして、懲りずにまたもや悪さをする。

それを何度も繰り返されて、手を焼いているという。

既にオカルト系のマニアが何人も死んでおり、肝試しの無鉄砲な連中にも大怪我をした者が続出しているとか。

それは看過できないわな。

行政側からも早めの対処を求められていたそうで、オレの存在は渡りに船らしい。

謀ったな、マヨーネさん!

まあ、致し方なし。

やるしかないわな。

万一に備えて拳銃と短機関銃と手榴弾を持ってきたから、後方支援に回るか。

短機関銃は高速弾頭仕様な強化弾に耐えられるものだし、今回の弾はそれで揃えてある。

予備弾倉が六つもあれば足りるだろう……たぶん。

 

「この仕事が終わったら、もう一度旦那や坊やと一緒に神戸元町の中華料理店へマンゴープリンを食べに行くのよ。」

「それはいい考えですね。」

 

マンゴープリン。

あれはいいものだ。

是非とも食べたいな。

帰りに食べてゆくか。

 

 

そして、夜更け。

例の廃トンネルに到着した。

旧隨道(ずいどう)って言うんだったか。

近くに借りた車を停め、武装を整えてゆく。

銃器の入った運搬用大型鞄の鍵を開け、拳銃や短機関銃を点検し弾込めしていった。

手榴弾も問題なさそうだ。

女性退魔師は簡単に準備し、あっという間に装備を整え終わった。

早い。

身体にぴったりした黄色い戦闘服を着た彼女は、頼もしく見える。

流石だ。

装備を再点検し、既に歩きだしていた彼女についてゆく。

こちらをちらっと見た彼女は、やさしく微笑んで言った。

 

「重武装ね。」

「慎重に対処しませんと。」

「死ぬときは案外あっさりしたものよ。」

「早々死にたくはないです。」

「悪魔退治はね、ニンゲンの命なんて紙切れみたいにしてしまうものなの。あなたも早く辞めないとそのうち死んじゃうわよ。」

「……考えておきます。」

「そうね。ヤタガラスの支援は今さら受けられないし、あなたは現在仲魔を連れていない。確かに慎重にしないと、二人とも簡単に死んじゃうわね。」

 

イヤな気配が濃厚になってくる。

おいおいおいおい、こいつはかなり不味いんじゃないか?

 

「この感じ……久々の大物ね。」

 

どうやら別の強力な悪魔もいるらしい。

対象となる悪魔の助っ人なのか、それともねぐらを乗っ取られたのか。

二体か……もしくはそれ以上か?

話が違う……。

 

「でも、私なら殺れる。ふふふ。」

 

この人が味方でよかった……のか?

慎重に中に入ろうとしたら、彼女は軽やかに駆け出した。

ちょ、待ってってば!

 

「ここで会ったが百年目! 私はまだ負けていない!」

 

えっ?

 

なんだか強そうな赤い悪魔がこちらを静かに見つめている。

走る速度を落とさず、距離を詰める彼女。

え、このまま戦うの?

 

「私のために死んで、赤い悪魔! 喰らいなさい、二億四千万の悪!」

 

ユニカムは素早く召喚術を使い、勇猛果敢に悪魔へ飛びかかった。

こちらも薬室に弾を送り込んで、いつでも撃てるように準備する。

さあ、戦闘の時間だ。

 

 

 

 

 

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