「港サンマルサン、了解しました。」
無線機を元に戻し、車の助手席に座るダンディーな黒眼鏡の男がクククと笑った。
「ユーリ、とうとう新星会の奴らをぶっ潰せる機会が来たぞ。」
そう運転席の男に言い、彼は大型拳銃の手入れを始めた。
黒光りする、四五口径の無骨な携帯兵器。
何度も持ち主の命を救った、愛銃兼名銃。
傑作軍用拳銃のコルト・ガバメント。
日常的に弾を放つは洒落者な伊達男。
神奈川県警最高の弾丸消費数を誇る鷹山。
ロシア系の血が入っているセクシーな麗しき大下は、やれやれといった感じで言葉を返す。
「タカさん、無茶をしたらダメだよ。先月もそれで、課長に始末書を何枚も書かされただろ。査問委員会に呼ばれる寸前なんだからね。課長があちこちに頭を下げているから、なんとかなっているんだよ。」
港サンマルサンと呼ばれる、特徴的な日産レパードの中で白皙を男に向けた。
ダンディーさんが朗らかにセクシーさんへ返答する。
「あのタヌキ親爺なんざ、ほっときゃいいんだよ。」
「またそういうことを言う。近衛課長は本当にタカさんを心配しているんだよ。」
「よーし、先ずはテケテケ横丁で聞き込み調査だ。」
「またそうやって誤魔化す。」
「トニオの店でイタ飯を奢るぜ。」
「まあ、それなら。」
「カリンカでピロシキもどうだ。」
「わかりました。そちらへと直ちに車を向けます。」
「途中で間宮羊羹でも買っていくか。」
「課長の大好物だね。」
「たまたま途中で買うだけさ。」
「オーライ、そういうことにしとく。」
夕暮れの街並みに光る車。
金色のツートーンカラー。
平崎市には旨い店が多い。
福岡うどんの名店『花丸博多』、中華料理の老舗『北斗聖君』や『華星楼』、喫茶店の『フローレンス』、バーの『スタートレック』、ハーバービューレストランの『かもめ亭』、おっと、老舗喫茶室の『霧笛庵』も忘れちゃいけない。
でかい本格的ハンバーガーが味わえて軍用艦艇風四角いピザやクラムチャウダーも堪能出来る『桑港(サンフランシスコ)』は、元米軍の料理人が経営しているだけあって日本人以外の客もけっこう多い。
和菓子屋洋菓子屋の老舗もあるし、矢来銀座は興味深い商店街である。
ここ平崎市は、不可思議な魅力に彩られた街だ。
ここ最近は、奇妙な騒ぎで掻き回されているが。
まるで、魔女が釜を掻き混ぜているかのようだ。
「そうそう、都屋商店街に新しい店が出来たって話だ。」
「いつも思うんだけど、タカさんってそういう情報をどこから仕入れているのさ?」
「人の話によく耳を傾けることさ。」
「そういうもんなのかい?」
「そういうもんなのだよ。」
「で、なんて店なんだい?」
「イチイチハチ、って名前の店だ。ちなみに、男だけでは入れない。」
「へえ。」
「神奈川県産の野菜を使った料理に、季節のサンガリアが楽しめる。」
「ほう。」
「あそこで食べた自家製ピザとキーマカレーがなかなか旨かったな。」
「ズルいよ、タカさん。そうやって、いつもおいしいところにばかり行っている。」
「怒るなよ、ユーリ。今度連れてってやるから。」
「約束だよ。」
「約束する。」
「他にいい店を教えてよ。」
「そうだな、『佳之子屋』に『フォーチュン・クッキー』、『マントと短剣』もいい店だ。」
「給料日になったら、ハシゴしよう、ハシゴ。」
「いいぜ。」
「やった!」
「ところでユーリ、ファントムソサエティの新人怪異調査員についてなにか知っているか?」
「ファントムソサエティっていうと、あのオバケだかユーレイだかを退治するゴーストバスターだか退魔機関だっけ?」
「ま、表看板的にはそういう組織になっているな。」
「まさか、新星会や阿修羅会などと繋がっている?」
「そこまではわからん。だが、俺の女友達からちょっと聞いた話によるとそいつはモテモテらしい。」
「タカさん?」
「なかなか魅力的な男なのよ、と酒の席で言われてみろ。悲しいぜ。」
「なあ、タカさん。」
「なんだ、ユーリ。」
「なんで、手持ちの弾倉四つ共にぎっしりと弾込めしているんだい?」
「完全に息の根を止めるには、ありったけの弾をぶちこんだ方がいいだろう?」
「それって、新星会の奴の話だよね?」
「ユーリ、そこの角を右だ。」
「またそうやって誤魔化す。」
「戦時中の幽霊が出たって、何度か通報が来たマンションがあったよな。」
「ああ、カーサ乾って名前だっけ。あれ、遠嶋さんが担当していたよね。」
「先週、解決したってよ。」
「マジ?」
「マジ。」
「お祓いが効いたのかい?」
「その怪異調査員がふらりとやって来て、あっという間に解決したんだそうだ。」
「へえ。」
「ちなみに、そいつはちっとも 男前じゃなかったらしい。」
「ほう。」
「何人ものカワイコちゃんたちを引き連れていたそうな。」
「タカさん。」
「なんだい?」
「俺も何発かそいつにぶちこむ。」
「いいぜ。」
平崎市、いや神奈川県、いやいや日本一危険な刑事たちはあぶない会話を繰り広げながら繁華街へと向かう。
「タカさん。」
「なんだ、ユーリ?」
「キリノハモールで、ニャルさんのたこ焼きを買ってもいいかな?」
「俺も食っていいならいいぜ。あれは癖になる味だからな。」
「勿論大丈夫さ。確かに時々無性に食べたくなる味だよね。」
「ついでに黒沢巡査に会っておこう。」
「あいつさ、ちょっとがめつくない?」
「その分、いい武器は回してくれる。」
「んー、少し納得いかないけどなあ。」
「奴がいるから、正義を遂行出来る。」
「あいつが必要悪だって言うのかい?」
「そういうのとはちょっと違うんだ。」
「ま、いいさ。弱きを助けるためだ。」
「そうさ、俺たちは正義の警察官さ。」
「お前ら逮捕しちゃうぞ、って感じ?」
「あ~、こんなに穴だらけになって。」
「血もいっぱい付いて洗うのが大変。」
「くくく。」
「ははは。」
尾灯を光らせ、車が走る。
優秀な猟犬が解き放たれた。
彼らを阻める者はそういない。