ハイスクール・フリート Gフォース   作:首都防衛戦闘機

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第20章 ブルーマーメイドフェスター 後編

千葉県、館山港

 

その頃、館山港に停泊しているGフォース西部方面艦隊では、居残りの隊員達が暇潰しをしていた。

 

空母大鳳、長官室

 

龍之介「航海日誌・・・・現在の艦隊状況は・・・・さつまが入渠以外は、異常なしと・・・」

 

空母大鳳の長官室では、龍之介が書類仕事を終えて、航海日誌を記録していた。

 

龍之介「はぁ・・・」

 

航海日誌を書いている途中、龍之介は、ある事を思う。

 

龍之介「この世界に飛ばされて、半年・・・・何も起きていない・・・まだ大丈夫だと言う事か・・・」

 

龍之介達がこの世界に飛ばされて半年、何も起きず、まだ大丈夫だと言う事を感じるが、何れは、何かが起きると予測する。

 

その時に何ができるのか、龍之介の決断に係っていた。

 

空母大鳳、艦橋

 

美奈「平和って、良いね・・・」

 

艦橋では、航海長の美奈が週刊誌を見ながらそう言う。

 

実「そうだな・・・」

 

通信主の実は、そう言いながら何かを書く。

 

信吾「ああ・・・はぁ~」

 

砲雷長の信吾は、煙草を吸う。

 

実は、この3人は、学生時代の同期で通称、江田島の三羽ガラスとも言われた。

 

美奈「実ちゃんは、さっきから何を書いているの?」

 

美奈は、実が何を書いているのか気になる。

 

実「此処からの景色だ。」

 

如何やら此処から見た景色を書いている様だ。

 

信吾「相変わらず絵の天才だな、お前!」

 

美奈「そうだね!・・・こんなに上手なら画家になれたのに・・・」

 

実「仕方ない!・・・うちが貧乏で、学費が高かった美術学校には、通えなかったからな・・・通えたのは、江田島の海士学校ぐらいだけだった。」

 

2人が言う様に実には、画家の才能が有った。

 

だが、家が貧乏だったので、学費が高かった美術学校には通えず、仕方なくタダで学べて、給料が貰える江田島の海士学校を受験した。

 

信吾「確かに!・・・タダで学べて、給料が貰える場所と言ったら国防軍の学校しかないからな!」

 

美奈「でも卒業できなかったら学費を全額返済しなきゃならないんだよ!!」

 

美奈の言う通り、国防軍の学校の殆んどが学費はタダで給料も貰える。

 

だが、卒業して、軍人にならなければ、それらを全額返済しなければならない。

 

信吾「そんなところを・・・・俺達、よく卒業できたもんだぜ!?」

 

信吾は、そんなところをよく卒業できたもんだと感心する。

 

『ん、ん』

 

2人もそう思うのだった。

 

美奈「そう言えば、艦長と副長は、今頃、ブルーマーメイドフェスタ―を楽しんでいるだろうね・・・」

 

実「ああ、高町隊長や、テスタロッサ隊長、小沢中佐を連れてな・・・」

 

信吾「それに比べて、俺達3人は留守番か・・・はぁ~・・・・暇だ・・・」

 

3人は、薫達がブルーマーメイドフェスタ―に行っているのを羨ましくなる。

 

美奈「そうだわ!?」

 

美奈が閃く。

 

美奈「私達も次の休みの日に何処か遊びに行こうか!!」

 

信吾「ん・・・そうだな!」

 

実「それも良いな!」

 

こうして、3人は、次の日に遊びに行く事にした。

 

空母大鳳、格納庫

 

格納庫では、艦載機の解体整備が行われていた。

 

戦闘攻撃機春乱も機体はバラバラに解体され、エンジンが外され、30mm機関砲も外された。

 

普通に見られない電子機器や機首のレーダーアンテナがむき出し状態で整備員が点検や部品の交換を行っていた。

 

その整備員を直接指揮しているのが我らの誇る整備班長の文雄である。

 

文雄「よ~し、其処は、新しいパーツと交換しておけ!・・・おい其処!!・・・誰がクレーンの使用を許可したんだ!!」

 

空母大鳳の整備員A「誰って、自分じゃないですか?」

 

文雄「・・・・ああ、そうだった。」

 

空母大鳳の整備員A「しっかりして下さいよ整備班長!!」

 

空母大鳳の整備員B「唯でさえ血圧が悪いんですから・・・」

 

文雄「喧しい!!・・・お前ら、人の事考えてないで、手を動かせ!!」

 

『はい!!』

 

何は兎も角、解体整備作業は、順調に進んでいた。

 

空母大鳳、炊飯所兼食堂室

 

炊飯所兼食堂室では、機関長の夏雄が機関員達と一緒に遊び丁半博打ちをしていた。

 

夏雄「さあ、どうでぇい!」

 

夏雄がサイコロが入った壺を回すのを止め、丁か半か

 

空母大鳳の機関員A「丁!」

 

機関員達の代表が丁と出し。

 

夏雄「勝負!」

 

夏雄が壺を開くとサイコロの数字は、1,6と6,1と出て、イチロクの半だった。

 

夏雄「よっしゃー!」

 

半が出て、夏雄が勝ち、負けた機関員達から賭け金を巻き上げる。

 

『くそー!!』

 

丁を出した機関員達は、悔しながら、夏雄に賭け金を差し出す。

 

夏雄「はははぁ・・・もうひと勝負いこうかぁ・・・」

 

夏雄は、もうひと勝負する事にした。

 

空母大鳳の機関員A「ううう」

 

負けた機関員達は、もうひと勝負を受ける。

 

今度は、機関員達がサイコロを振るう。

 

夏雄「丁!」

 

夏雄は、丁と出し。

 

空母大鳳の機関員A「勝負!」

 

機関員達の代表が壺を開くとサイコロの数字は、1,5と5,1と出て、グイチの丁だった。

 

空母大鳳の機関員C「丁だと!?」

 

空母大鳳の機関員B「嘘だろ!?」

 

機関員達は、またも夏雄に敗北し、賭け金を空しく差し出す。

 

夏雄「残念だったな・・・勝負は、時の運ってんでぃ!」

 

勝負に勝ち気でいる夏雄。

 

歳郎「たく、よく勝つな、あいつは・・・」

 

勝どきを上げる夏雄を見ながら酒を飲むのは、機関助手の大山歳郎大尉、通称トチローである。

 

悟郎「機関長は、機関の腕だけじゃなく、博打の腕も強いからな・・・・」

 

歳郎の隣で夏雄の腕を認めながら一緒に酒を飲む空母大鳳軍医長の宗方悟郎少佐。

 

2人は、仲良くを酒を飲む。

 

そして、足元にもう1人。

 

「ニャ~ン!」

 

いや一匹の猫である。

 

ミーくん「ニャ~ン!」

 

この猫の名前は、ミーくんで悟郎の愛猫である。

 

ミーくんも2人に釣られて酒を飲む。

 

そんな時

 

功「失礼します!」

 

功が炊飯所兼食堂室にやってきた。

 

功「また2人で、昼間から酒を飲んでいるんですか?」

 

歳郎「功も飲むか?」

 

歳郎が功に一緒に飲もうと誘う。

 

功「いや、まだ仕事中だ!!」

 

功は、仕事中だと言って断る。

 

歳郎「たく・・・付き合い悪いな・・・」

 

功に断られて、歳郎は、機嫌を悪くする。

 

功「お前が昼間から酒を飲むからだろ!!・・・・大学の同期とは、言え・・・・情けないぞ!!」

 

実は、功と歳郎は、大学からの同期で一緒に教鞭を取った中でもある。

 

功「ところで・・・・桐野料理長!」

 

歳郎達は、置いといて、功は、空母大鳳主計科長兼料理長の桐野俊秋少佐を呼ぶ。

 

だが

 

俊秋「今仕込みの最中なんだ!!邪魔をするな!!向こう行ってろ!!」

 

如何やら、仕込みの最中で機嫌が悪いようだ。

 

功「酷いな折角来たのに・・・」

 

俊秋「何!?」

 

仕込みをしている最中、俊秋は、振り向くと

 

俊秋「こ、これは・・・し、失礼しました!!・・・参謀とは、思わず、とんだごぶれいを・・・」

 

怒鳴った相手が功だった事に俊秋は、驚愕しながら謝罪する。

 

功「頭を上げて下さい!!突然出向いた私も悪いんです・・・・ところで今日のメニューは?」

 

功は、今日は、何のメニューか聞く。

 

俊秋「はい!・・・今日は、特製辛子ラーメンとゴモクチャーハン、特製シューマイです。」

 

功「また、中華料理ですか?」

 

また中華料理と言うのは、俊秋がいつも料理すると何故か中華料理になってしまう。

 

彼は、日本人何だが、此処に来る前は、横浜中華街で働いていた経歴がある。

 

その為か、彼が料理すると中華料理になってしまうのだ。

 

このままでは、毎日が中華料理になってしまう。

 

その為の対策として考えられたのが、薫が学生時代に駆逐艦そよかぜでやっていた当番制(理由は、そよかぜに配属された主計科が料理が下手だった事)を採用する事にした。

 

当番制とは、指揮官と参謀以外の航海科、整備科、航空隊、機関科が交代で食事作業を行う事である。

 

これのお陰で毎日中華料理を食わなくって済んだが、今日は、薫達などが休みな為、仕方なく中華料理を食うしかなかった。

 

功「あまり中華料理ばかり作りますと嫌われますよ!・・・私は、良いですけど・・・」

 

俊秋「はぁ・・・努力は、していますが・・・」

 

俊秋も直そうと努力しているが、直すには、まだ時間が掛かる様だ。

 

この様に留守を預かっているGF隊員達は、色んな暇潰しをしているのだった。

 

横須賀基地

 

その頃、ましろは、横須賀海洋学校の生徒に頼まれ事を代わって頂いたお陰で、極限まで来ていた心身に少しずつ余裕が出てきていた。

 

ブルーマーメイドフェスタ―の会場を改めて見渡すと、1人1人の笑顔がはっきりと分かる。

 

ましろは、今この時まで、会場内にこんなに溢れている人々の笑顔が何一つ目に入っていなかったのだ。

 

余裕が無いのにも程があるだろう。

 

ましろ(今になって思うが、代打を引き受けた数々の競技やアトラクションを、私は、ちゃんとこなせていただろうか・・・人々にこんな笑顔を提供できていたのだろうか・・・きっと私は、横須賀女子海洋学校の生徒だと思われていた筈だ・・・先輩方の顔に泥を塗る様な事になっていなければ良いのだが・・・)

 

強めの海風が吹いて、ましろが髪を押さえた時

 

小学校低学年くらいの女の子の声が聞こえた。

 

少女「あっ!?紙が!」

 

ましろ「髪?いや、紙か!」

 

半分に折られた紙が風に煽られて甲板を転がっている。

 

ましろ(あれは・・・そうだ!・・・入場の時に配られるスタンプラリーの台紙だ!?)

 

会場の各艦艇でスタンプを捺し、スタンプを全部揃えた人には、ささやかな景品がプレゼントされるというものだった。

 

ましろは、その台紙を拾うべく、走り出す。

 

しかし、身体が忘れていた疲労を直ぐに思い出し、ビキビキとした痛みを伝えてきた。

 

また少し強めの海風が吹きつけられ、台紙が舞い上がった。

 

ましろ(ああ、もう十箇所以上ものスタンプが捺してあるじゃないか!)

 

ましろは台紙に手を伸ばす。

 

小癪にも台紙はヒラリとそれを躱し、更に舞い上がった。

 

ハラハラした女の子の顔が目に入った。

 

ましろ(必ずキャッチしなければ!)

 

ましろは、なけなしの体力を振り絞り、舞い上がる台紙に飛びついた。

 

ましろ(キャッチ!!)

 

だが、其処でましろは、着地するべき足場が其処にはない事に気がついた。

 

その代わりに海がある。

 

ましろ(付いていない時は、とことん付いていない・・・それがこの私、宗谷ましろの運命だというのか!)

 

ましろは、海へと落ちた。

 

ましろ「御免ね?スタンプラリーの台紙、ビショビショにしちゃった」

 

ずぶ濡れになって戻ったましろは、直ぐにその女の子に謝った。

 

少女「ううん!お姉ちゃん、ありがとう・・・ぐすっ」

 

だが、女の子は、突然泣き出す。

 

ましろ「ああ、泣かないで!・・・お姉ちゃんは大丈夫だから・・・ところで、貴方は、1人?・・・お父さんやお母さんは?」

 

少女「あ・・・・分かんない!!」

 

ましろ「えっと・・・・迷子?」

 

少女「さっきまで、お母さんと一緒に居たんだけど・・・・紙追いかけてるうちに・・・・」

 

如何やら、髪を追いかけてるうちに両親とはぐれた様だ。

 

ましろ「そっか・・・それじゃあ、まだこの近くに居そうだね!・・・お姉ちゃんと一緒に探そうか?」

 

ましろは、少女と一緒に両親を探す事にした。

 

少女「うん!」

 

しっかりと頷いた女の子にましろも笑顔で返す。

 

だが、海へのダイブを敢行した上、迷子の親探しときては、流石に武蔵の体験航海は諦めなければいけないだろうか。

 

こうしているうちにも時間は3時を回っていた。

 

既に武蔵への乗艦は、始まっている。

 

出航時間は、アナウンスされていなかったが、どれくらいの余裕があるだろう。

 

ましろ「この子のお母さんはいませんか・・・・!?」

 

ましろ(内心では涙を流しつつ、努めて平静に迷子の母親を探す・・・この子に無用な心配をさせてはいけない!!・・・今一番不安なのは、この女の子なんだ!!)

 

少女の母親「あずみ!」

 

少女「あっ、お母さんっ!」

 

ましろ「この子のお母さんですか?良かった・・・・」

 

少女の母親「あずみの面倒を見ていてくれたんですよね・・・本当にありがとうございます!!・・・それに、あずみの為に海に飛びこんでくれたとか?」

 

少女「うん!・・・お姉ちゃん、スタンプラリーの紙、必死になって取ってくれたの・・・ビショビショになっちゃったけど、凄く嬉しかった・・・・」

 

ましろ「あ、あはは・・・・飛びこんじゃったのは、私が間抜けだっただけで・・・・ところで、何故その事をご存知なんですか?」

 

少女の母親「この子を探していたら、お母さんを探してましたよって教えてくれた女の子が居て、その子から・・・あ、それと、これも渡してあげてほしいと・・・」

 

女の子の母親は、ましろにタオルを渡す。

 

ましろ「え、誰だろう?・・・・お礼を言わなくちゃ・・・・」

 

少女の母親「今はまだ顔を合わせる資格がないとかなんとか・・・・それより、ご自分の為に急いでください、と・・・」

 

ましろ「ご自分の為?・・・・そうだ!武蔵!・・・では、タオルはありがたくいただきます!!・・・もしまたその方に会えましたら、宗谷ましろが心から感謝していたとお伝えください!!」

 

少女「お姉ちゃん、ありがとう!!ばいばい・・・」

 

ましろは、親子にお辞儀をし、武蔵目指して走り出す。

 

洋美「これで少しくらいは、お役に立てたのかな・・・・」

 

ふらつきつつも走っていくましろの背中を見送って、洋美も歩き出した。

 

洋美「今からじゃ武蔵は流石に無理そうだけど、私もちょっとがんばらないと!!」

 

洋美の父「洋美~」

 

ましろの事を考えながら、メッセージに来ていた待ちあわせ場所に向かうと、両親がさっそく洋美の姿を見つけて手を振っていた。

 

洋美の母「如何だった、洋美?・・・何か良いものでも見られた?」

 

洋美「ん・・・・そうね!」

 

洋美は、今朝の不機嫌などすっかり忘れた振りをして微笑む。

 

洋美「ブルーマーメイドも良いかもね!」

 

洋美は、ブルーマーメイドに入ろうと横須賀女子海洋学校へと進路を決める。

 

一方、薫と明乃は、武蔵の体験航海が行われる埠頭へと辿り着いた。

 

薫「これが武蔵!?」

 

初めて武蔵を見て、薫は驚きを隠せなかった。

 

何しろ、龍之介達の時代には、こんな大きな艦は、空母か補給艦のみだからだ。

 

薫(真霜姉さんや真冬が艦長務めたと聞いているけど・・・来年には、ましろちゃんが艦長として乗るのかな?)

 

明乃「薫お姉ちゃん!急いで乗らないと・・・」

 

薫が驚いていると明乃が急いで乗るよう言う。

 

武蔵の体験航海に参加するべく、殆んどの一般客が急いで乗り始めていた。

 

アナウンス『間もなく、超大型直接教育艦、武蔵は出港いたします!!・・・ご乗船のお客様はお急ぎください!!』

 

武蔵の出航を知らせる放送も流れ

 

薫「あっ、うん!」

 

薫と明乃も乗艦する為、急いでタラップを上る。

 

その頃、武蔵の体験航海に参加したがっていたましろは、何とか埠頭に着くと

 

ましろ「すみません!乗ります!宗谷ましろです!乗せてください!」

 

声を張り上げてましろは、埠頭の横須賀女子海洋学校の生徒達に声を掛ける。

 

ましろ自身、こんな私事で『宗谷』の名前を使うのは好ましく思っていなかったが、時間ギリギリで武蔵に乗れるか乗れないかの瀬戸際にもはや恥や外聞もない。

 

乗れるのであれば、『宗谷』の名前でもなんでも使ってやる。

 

成り振りなんて構っていられないましろ。

 

タラップを仕舞おうとしていた乗員を押し切り、ましろは、何とか乗る事が出来た。

 

ましろ「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥な、何とか間に合った‥‥」

 

息を整えながら、ポケットからハンカチを取り出し、額に浮き出た汗を拭う。

 

やがて、ほんの少し体力と呼吸が回復し、楽になり、辺りを見回すと、ましろは違和感を覚えた。

 

甲板上に一般客の姿が無かったのだ。

 

既に艦内に入ったのだろうか?

 

スケジュールが変わったとは言え、武蔵に乗りたいと思う一般客が少ない筈がない。

 

やがて、少し離れた所で音楽隊が演奏する音楽が聴こえて来た。

 

その音楽を聴いてましろは、

 

ましろ(あれ?・・・・この音楽が終わってから武蔵は出航する筈‥‥と言うか、音楽隊は武蔵の前で音楽を演奏する筈‥‥)

 

スケジュール調整をしていたので、ましろは、武蔵がどのような経緯で出航するのかを知っていた。

 

音楽が終わり、出航ラッパが鳴り響く。

 

ましろの本能が自分に呼びかけている。

 

ましろ(これは、武蔵では無い!?)

 

しかし

 

ガコンと、ましろが乗っている艦が揺れる。

 

ましろ「ん?んんっ?」

 

突如、乗っていた艦が揺れた事により、

 

ましろ(何だ、やっぱり、出航するんじゃないか、やはりこの艦で間違っていなかった‥‥)

 

ましろがやはり、自分が乗っているのは武蔵だと確信を持ったその瞬間

 

横女の生徒「明石、接舷完了しました!」

 

状況を報告する乗組員の声を聞いて、ましろはピシッと固まった。

 

何故、今から出航する筈の武蔵に支援教育工作艦明石が接舷する必要がある。

 

武蔵同様、横須賀女子海洋学校に所属する支援教育工作艦明石は、主に艦船の整備・修繕を主目的としている艦だ。

 

その整備・修繕を主目的としている艦が今、自分の乗っている艦に接舷していると言う事は

 

ましろは、恐る恐る今、自分が乗っている艦の艦橋や周囲を見渡す。

 

すると

 

ましろ「‥‥比叡だこれ!?」

 

ましろは、声を絞り出しながら今、自分が乗っている艦が武蔵では無い事を察する。

 

エンジントラブルを起こした比叡の修理を行う為、明石と比叡の生徒達が修理作業を開始し始めている中、ましろは自分の名前通り、真っ白になり、膝から崩れ落ちた。

 

ましろの周囲では明石と比叡の生徒達の声が聞こえる。

 

そして、比叡と接舷した明石の横を、一般客を大勢乗せた武蔵が通過して行くのをましろの視線が捉えた。

 

全ての不幸は未来への踏み台の布石に過ぎない。

 

今日の出来事を自分は僥倖と思もうできだ。

 

ましろ(確かに苦難の連続だったが、その分ブルーマーメイドへのそして、横須賀女子海洋学校への思いもより強固なものにすることができたのだ!!・・・それが分かっただけでもいいじゃないか!!)

 

ましろは、そう割り切り、出航して行く武蔵に対してまるで宣言するかの様に

 

ましろ「待っていろよ武蔵!・・・私は、お前に絶対に乗って・・・・ふぁ・・・ふぁあっくしょいっ!!」

 

両手を高々に上げて、ましろは、武蔵に向かって叫んだ。

 

この時の誓いの言葉が、くしゃみによって中断されたのがいけなかったのだろうか。

 

横須賀女子海洋学校の入学式の時に配属される艦が武蔵ではない事は、ましろは、この時、知るよしもなかった。

 

艦首で出向して行く武蔵に対して、叫んでいるましろを明石と比叡の生徒達は、怪訝そうな顔で見ていた。

 

武蔵が埠頭を離れ、出航して行く際、甲板上に居た薫は、比叡の艦首にて薫の知る人物が武蔵に向かって叫んでいるのが見えた。

 

薫(ましろちゃん!?・・・何で比叡に乗っているの?・・・何か用があったのかな?)

 

薫はましろが比叡に乗っている事に驚いたが、今日のましろは、フェスターの運営を手伝っていると先程本人に聞いていたので、比叡に何か用があったのだろうと判断した。

 

雅か、本当の理由が武蔵と比叡を間違えた事など知る由も無かったが

 

武蔵の体験航海は順調で、先ず最初に生徒が一般客達を艦内に案内した。

 

其処で、設備の説明や一般客からの質問に丁寧且つ分かりやすく答えていった。

 

流石、横須賀女子海洋学校の成績上位者と言うべき生徒達で、薫と明乃は、武蔵の生徒達を尊敬の眼差しで見ていた。

 

一通り、艦内の案内が終わると、後は、フリータイムとなった。

 

其処で、薫と明乃は、後部甲板に設けられたテーブル席で談笑した。

 

明乃は、幼馴染のもえかのことや受験の進み具合を薫に話し、薫は、明乃に艦の事やブルーマーメイドの事を話す。

 

一応、自分が別の世界から来た事は、明乃には話さなかった。

 

この前も言った通り、Gフォースや別世界の事は極秘になっている。

 

それに明乃に話しても分からないだろう。

 

薫は、水平線を見る。

 

薫(そう言えば・・・今ごろ、兄さん何してるのかな?)

 

やがて、武蔵の体験航海が終わり、一般客達がタラップを使い、次々と武蔵から下艦し、薫と明乃も下艦した。

 

下艦した薫と明乃は、会場に戻ろうとすると、何やら大規模なイベントが開催されようとしていた。

 

薫「何だろう?」

 

明乃「行ってみましょう!」

 

大規模なイベントが開催されるのを聞いて、一般客達が集まり、薫と明乃も行って見る。

 

BPF隊員『さあ、やってまいりました!!・・・ブルーマーメイドフェスター恒例の腕相撲大会!!』

 

ブルーマーメイドフェスター恒例の腕相撲大会が開催されていた。

 

司会役を務めるBPF隊員がイベントの開催を宣言すると、会場は歓声で盛り上がる。

 

BPF隊員「この競技は、ブルーマーメイド、高校生、一般来場のお客さん達の中で腕に自信のある方なら、誰でも出場可能な大会!・・・今年も数多くの猛者達が集まってくれました!!・・・では、勇敢なる猛者達を紹介します!!・・・皆さん!!・・・拍手で出迎えてあげてください!!・・・では、どうぞ!!」

 

会場にあふれんばかりの拍手が鳴り、ステージに挑戦者達が登場する。

 

しかし、その中に薫の知っている人物がいた。

 

薫「次郎君!?」

 

ステージの挑戦者達の中に次郎がいた事に薫は驚愕する。

 

薫「何で、次郎君が出てるのよ!?」

 

何故、腕相撲大会に次郎が出ているのか、ステージの周りを見ていると、はやてとヴィヴィオを連れたなのはとフェイトを見つける。

 

薫「はやてちゃん!なのはちゃん!フェイトちゃん!?」

 

薫は、手を振りながら、大声で叫ぶ。

 

『あっ薫先輩!?』

 

4人は、それに気づく。

 

はやて「何所行ってたんでっか?・・・探したんやねんわ!」

 

薫「御免、御免!!ついスキッパーショーに見とれてしまって・・・」

 

なのは「もう、駄目ですよ先輩!」

 

薫は、はぐれた言い訳を説明し、3人のお説教を受ける。

 

フェイト「あら薫先輩!?・・・その子は?」

 

明乃「・・・・」

 

3人は、明乃に注目する。

 

薫「ああ!この子は、岬 明乃で、この前、図書館で知り合った子なの!」

 

はやて「ああ!?前に言ってた受験志望の子やね!・・・始めまして、八神はやてといいますぅ!!」

 

なのは「私は、高町なのはだよ!」

 

フェイト「私は、フェイト・テスタロッサと申します。」

 

3人は、明乃に自己紹介をした。

 

明乃「み、岬明乃です。」

 

明乃も3人に自己紹介をした。

 

なのは「あっ、それと、この子は、ヴィヴィオ!」

 

ヴィヴィオ「初めまして、高町ヴィヴィオです!!」

 

ペロペロキャンディを持ちながら、ヴィヴィオは、明乃にきちんとお辞儀をする。

 

明乃「岬明乃です。」

 

明乃もお辞儀で返す。

 

はやて「ヴィヴィオと同じで可愛いやな明乃ちゃんは・・・」

 

はやては、そう言いて、明乃の頭を撫でる。

 

明乃「あ、ありがとうございます。」

 

はやてに撫でられ、明乃は照れる。

 

薫「それより、はやてちゃん!・・・何で次郎君がステージにいるの?」

 

次郎が何故出場しているのか、はやてに理由を問う。

 

はやて「それが・・・・実は・・・・」

 

はやての説明によれば、薫とはぐれた後、次朗達は薫を探しながら、模擬店など回っていた様だ。

 

その証拠にヴィヴィオの手には、ペロペロキャンディが握っていた。

 

しかし、会場は広く、何所を探しても薫を見つけられなかった為、仕方なく会場放送で呼び出し仕様と本部席に行った時、真冬とバッタリ会ってしまった様だ。

 

何故本部席に来たかわ、はやてが真冬に事情を説明したらしいが、それ以上にヤバいのは、次郎と真冬である。

 

前の通り2人は、犬猿の仲である。

 

だから、当然喧嘩になるのだが、今日は、ブルーマーメイドフェスタ―であまり揉め事は起こしたくない。

 

ならそれ以外で対決する事になった。

 

それで、調度、腕相撲大会が開催される予定だった為、両者は、それで決着を付ける事にした。

 

薫「と言う事は・・・」

 

BPF隊員「では、挑戦者の方々が集まりましたので、いよいよチャンピオンの登場です!!・・・どうぞ!!」

 

司会役がチャンピオンの登場を促すと、プシューという白いガスが出てそれが収まると

 

真冬「とお!!」

 

黒いマントに黒いブルーマーメイドの制服を着た真冬がステージに立った。

 

BPF隊員『チャンピオンの宗谷真冬さんの登場です!!』

 

司会役がチャンピオンである真冬の紹介をすると、会場は再び歓声に包まれた。

 

薫「ああ・・・」

 

真冬の登場に薫は、言葉が出なくなった。

 

BPF隊員『では、チャンピオンが登場したので、ルールを説明させていただきます!・・・ルールはいたって簡単!・・・腕相撲で決勝まで勝ち抜く事!・・・以上です!・・・では、皆さん準備は、良いですか!・・・では、始め!!』

 

チャンピオンの真冬以下、挑戦者達は、それぞれ双方で腕相撲大会を始める。

 

そして、ゲームが進んで行く内に、挑戦者の者達は次第に脱落していき、次郎と真冬は、勝ち進んで行く、やがて、決勝に残ったのは、次郎と真冬の2人になった。

 

BPF隊員『さあ、いよいよ決勝戦!!・・・残ったのは、チャンピオンの宗谷真冬さんと初出場の挑戦者のみとなりました!・・・それでは、今回初出場の挑戦者にインタビューして見ましょう!』

 

司会役が次郎にインタビューをする。

 

BPF隊員『あの、決勝まで勝ち進んで今の気分は如何ですか?』

 

次郎は、電子煙草をしまい、司会役からマイクを奪う。

 

次郎『最高だね!!・・・あいつをぶちのめすなら、良い気分だぜ!!』

 

如何やら、相当真冬の事が嫌いの様だ。

 

BPF隊員『如何やら、今回初出場の挑戦者は、宗谷真冬さんとは、何やら因縁があるようです!!・・・それに対して、宗谷真冬さんは、如何お答えしますか?』

 

司会役が今度は、真冬にインタビューをする。

 

真冬『同じ言葉を返すぜ!!・・・このあたしに喧嘩売った事を後悔させてやる!!』

 

両者とも睨み合いする。

 

BPF隊員『で、では、両者は位置に着いてください!!』

 

両者は、位置に着き手を組む。

 

薫「何でこうなるの?」

 

薫は、何でこうなったか嘆く。

 

BPF隊員『では、決勝戦!よ~い・・・・始め!!』

 

決勝戦がスタートし、両者は奮闘する。

 

戦闘は、左に下がろうとしたら、右に下がる。

 

雅に両者とも譲らず長期戦が続く。

 

次郎「この野郎!いい加減に落ちろ・・・!!」

 

真冬「お前こそ落ちろ・・・!!」

 

BPF隊員『戦闘開始からもう2時間は立ちました!・・・両者とも相変わらず譲らず、戦闘は長引きそうです!』

 

戦闘から2時間は立っていた。

 

次郎、真冬、両者は更に奮闘する。

 

その状況を薫達は見ていた。

 

明乃「あのサングラスのお兄ちゃん凄いね!・・・ブルーマーメイドの人と互角にやってる。」

 

薫「そ、そうね・・・」

 

出来れば勝ち負けなど如何でも良い、このまま勝負が着かなければ良いと薫は思った。

 

もうあれから更に2時間が経過した。

 

両者とも既に体力が限界に達し、腕がどちらかに落ちかけていた。

 

次郎「ま、負ける訳にわいかね・・・・!!」

 

真冬「か、勝つのは、あたしだ・・・・!!」

 

苦し紛れに最後の力を振り絞る。

 

戦闘開始から4時間、ついに勝敗が決まるのかと思いきや

 

『わぁ!?』

 

ドーン!!

 

突然、台が崩れ、両者は、その場に倒れる。

 

如何やら勝負に使っていた台が古かった事と余りに長期戦で両者の力に持たなかった事で倒れた。

 

当然勝負も

 

BPF隊員『こ、これは・・・両者とも手を放した為、この勝負、引き分けです!!』

 

台が崩れた瞬間に両者は、手を放した為、引き分けになり、結局、双方の決着は、着かなかった。

 

腕相撲大会が終わり、薫達は、力尽きた次郎と真冬を本部席まで連れ帰った。

 

腕相撲で体力を使い果たしてしまい手足が動けなくなっていた。

 

薫「ふう・・・全く、世話が焼けるんだから、2人共!!」

 

真霜「そうよ!・・・薫と私がいたから良かったものの・・・あまり人に迷惑を掛け過ぎなんだから!!」

 

いつの間にか、真霜も本部席にいた。

 

実はあの後、勝負が引き分けだった為、一般客が罵声を浴びせ始め、司会役が如何すれば良いか、困ってしまい、仕方なく、薫がステージに上がり、司会役を補佐し、それに乗じて、真霜が応援として駆けつけてきた。

 

2人の対応で何とかその場を収めた。

 

真冬「御免よ、真霜姉!」

 

流石の真冬も姉の真霜には、頭が上がらず本部席の後ろで正座をする。

 

薫「次郎君も反省しなさい!!」

 

次郎「ご、御免よ薫!!」

 

次郎も真冬と共に正座をする。

 

明乃「あの、薫お姉ちゃん!!・・・私は、もうこれで・・・」

 

薫「あれ、もう帰るの?」

 

明乃「はい!・・・今日は、一緒に回ってくれてありがとうございます!!」

 

薫「此方こそ、私の我儘に付き合ってくれてありがとね!・・・横須賀女子海洋学校・・・・受かると良いわね!」

 

明乃「はい!」

 

明乃は、帰っていった。

 

何時かブルーマーメイドになる為、そして、幼馴染のもえかや薫との再会を果たすべく、今日の事を頭に刻みながら横須賀女子海洋学校の受験に挑むのであった。

 

真霜「あの子は?」

 

薫「ああ、あの子は・・・・未来のブルーマーメイドですよ!」

 

真霜「未来のブルーマーメイドね・・・」

 

明乃に手を振りながら、見送っていると

 

ましろ「ま、真霜姉さん・・・」

 

もう1人のブルーマーメイドを目指しているましろがへっとへっとになって、戻ってきた。

 

薫「あっ、ましろちゃん!?」

 

真霜「ま、ましろ!?・・・やだ・・・如何したのよ・・・そのかっこ!?」

 

真霜は、ましろの体育着を見て、堆笑う。

 

ましろ「実は、その・・・これは・・・真冬姉さんが・・・」

 

ましろは、何故体操着を着ているか理由を言う。

 

真霜「真冬!・・・これは、如何ゆう事かしら?」

 

真冬に着せられた事を聞き、真霜は、怒りを露に真冬を睨む。

 

真冬「こ、これはその・・・特別にブルーマーメイドとしての経験を積ませようと思って・・・スケジュールの調整役を・・・」

 

それを聞いた真霜の怒りが頂点に達した。

 

真霜「貴方また、ましろをだしに使ったわね!!」

 

真冬「ひぃ・・・・!!」

 

ましろをだしに使った事が真霜にバレってしまい、真冬は、キツイ説教を受ける事になった。

 

ついでに次郎も

 

次郎「何で俺まで・・・・」

 

こうして、ブルーマーメイドの一大イベント、ブルーマーメイドフェスタ―は終わりを告げた。

 

 

 


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