「……朝か。」
時計を見ると5時になっていた。家の周辺に張っていた探知魔法を消す。
部屋は2階だったため1階に降りて家の中に異常が無かったかを確認する。
他の人が何時に起きるかは知らないが先に朝飯の準備だけしようと思い、勝手にキッチンを漁る事を心の中で謝罪しながら何があるかを調べる。
「……トーストと目玉焼きにサラダで大丈夫か。」
飲み物は後で確認してからにしよう。
「うー、良い匂い……。」
目を擦りながら高町なのは様が降りてきた。
「おはようございます、高町なのは様。朝ご飯は勝手ながら作っているので顔を洗って来てください。あまりだらしないとヴィヴィオ様に笑われますよ。」
「ふぁーい……。」
なんとも気のない返事だ。管理局の仕事は大変なのだろうか。
「んー、おはよう、ゼロ!ご飯ありがとね!」
顔を洗って来るとすぐにパッチリと目を開いて元気になって来た。
「いえ、これくらいはさせて頂きます。
所で、お飲み物は?」
「じゃあ、ココアで!」
「分かりました。」
さっき確認した時はこの棚に粉末があったはずだ。
「そういえば朝に魔法を使ってた?」
「そうですよ、癖でして。」
「そのスーツもバリアジャケットでしょ?」
「ええ。いつ何があるか分からないので。」
「ふーん……ねぇ、敬語を外して名前で呼んで?」
「何故でしょうか?俺は貴方と親交を深めた訳でもありませんし、ヴィヴィオ様の親なのですから当然です。」
「にゃー……かったいなぁ。
じゃあ、仲良くなるために名前で呼ぶこと!後、ヴィヴィオと混ざっちゃうし、敬語だって変だもん。似合ってないの。」
……似合ってないは余計です。
「命令であれば聞きましょう。」
「えー、命令って言い方嫌だなぁ。お願いじゃダメ?」
「ダメです。」
「むー、じゃあ命令です!家長命令!」
「わかり……分かった。なのは様、これでいいか?」
「うーん、呼び捨てじゃダメかな?」
「……なのは、これで文句はないな?」
「うん!」
名前を呼ぶ程度で距離感なんて変わらないだろうに。
「おふぁよー……。」
「あ、フェイトちゃにゃああぁ!!フェイトちゃん服着てぇぇ!」
……やはり管理局の仕事は大変なんだろう。
「おはようございます、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン様。ヴィヴィオ様の教育に悪いのでそのような格好は控えて下さい。」
真似したらどうするんだ。
「えっ!?あっ、ごめんね?」
「いえ、お飲み物は?それと顔を洗って来てください。」
「じゃあコーヒーでお願い。」
「はい。」
コーヒーはココアの隣だったか。
「なんだかなのはとゼロの距離感が近いような気がする。」
「気のせいでしょう。」
「あのね!ゼロに名前で呼ぶ事と敬語を外すようにお願いしたの!」
「命令です。」
「あ、そっか、だから少し近く感じたんだね。
じゃあ、私もそうしてもらおうかな。ヴィヴィオのお母さん命令です。」
「分かった。」
変わった人達だ。
「おはよぉ……。」
「おはようございます、ヴィヴィオ様。さ、洗面所に行って顔を洗いましょうか。」
「んぅ、ゼロがやって。」
「仕方ありませんね、今日だけですよ。」
「なんか私達と対応がちがーう。」
「うん、凄い過保護だね。」
「フェイトちゃんみたい。」
「えっ!?私ってそんなに過保護に見えるかな!?」
本当に騒がしい。
「「「いってきまーす!」」」
「はい、いってらっしゃいませ。」
ふぅ、やっと1人になれましたか。
1度バリアジャケットを解除するとそこら辺で買った無地の白いシャツにジーパンがスーツに代わって現れた。
「……買い物に行くか。」
折角だし、周りの散策もしておこう。ああ、晩ご飯はヴィヴィオ様の好物だった肉じゃがにしよう。レシピを見ながら少しずつヴィヴィオ様の好みに改変させていった自信作だ。
喜んでもらえるだろうか?
「随分と買い込んでしまった……。」
思ったよりも周りに色んなものがあったりしたためについつい足が伸びてしまった。
「肉じゃが以外の料理も考えていますが買い過ぎだな。冷蔵庫に入りきるか?」
ヴィヴィオ様達ももう帰っている頃だろうし、丁度良いか。
玄関を開けると不安そうな声が聞こえてきた。
「ゼロ!どこに行ったの!?また置いてかないでよ!ねぇ!ゼロー!」
「……ただいま戻りました。」
リビングに入るとバタバタしていたヴィヴィオ様と困惑したなのはがいた。
フェイトもいたが落ち着いた様子だ。
「あの、買い物に行ってたのですが。」
「ばかぁぁ……。」
「えっ。」
泣かれるのは困ります。どうしたものでしょう……。
「ゼロはヴィヴィオを泣き止ませてね。はい、荷物渡して。なのはも手伝ってね。」
「う、うん。わっ、沢山買って来たんだね。」
フェイトは荷物を受け取るとさっさとキッチンに逃げて行ってしまった。
「ヴィヴィオ様、どうしたんですか?」
「だって、だってぇ……。」
「泣いてたら分かりませんし、可愛い顔が台無しですよ。」
ハンカチで涙を拭うとまだ鼻をすんすん鳴らしているが大人しくなった。
「だって、ゼロがまた私を置いてったのかなって……。」
「心配し過ぎです、俺は貴方の物なのだからそんな事しませんよ。
なんなら犬の様に首輪でも付けてみますか?」
「うん……。」
「でしたら、明日にでも買いに行かないといけませんね。」
多分チョーカーとかになるかな。
「いいよ、部屋にあるから。」
「部屋に?動物を飼っていた記録は無いはずですが……。」
「間違えて買っちゃった。」
それじゃあ仕方ないですね。
そう言って持ってきた物は本当に犬に付ける様な首輪?チョーカー?でした。
「付けてあげるね。」
「ありがとうございます。」
……結構大きいから少しぶかぶかですね。
「うん、よし!」
「あ、そういえばゼロがバリアジャケットじゃないね。」
荷物を置いてきたのか2人が戻ってきた。
「あ、ほんとだ!」
「ヴィヴィオは今気付いたんだね。わたしは気付いてたよ!」
ドヤ顔をしてるけど、朝に指摘してきたから当然だな。
「むー、似合わない。」
「服装なんて戦う時にはバリアジャケットに変わるんですからなんでもいいです。」
「もー!ゼロもおしゃれおかしたら絶対かっこいいのにぃ!」
「ですが、俺に無駄に時間と金を使わなくても……。」
2人に何とかしてもらうように目を向けると分かったとばかりに頷く。
「うんうん、絶対良いと思うな!」
「服装で人の印象は変わるから、良いと思うよ。」
「人選を間違えたか……。」
「「なんで!?」」
「とにかく今度の休みはゼロの服を選びます!ゴシュジンサマめーれーです!」
「……了解しました。」
テキトーに無難で安いのを選ぶか。
「そういえば何を買ってきたの?凄く重かったけど。」
「ヴィヴィオ様に作っていた肉じゃがを作ろうと思ってな。」
「ほんとに!?ゼロ大好き!」
ふふっ、喜んでくれましたか。嬉しいですね。
「そんなに美味しいの?」
「うん!最初は美味しく無かったけどちょっとずつ美味しくなっていったの!」
「へぇ、ゼロにもそういう所あるんだね。」
「ああ、ヴィヴィオ様のためだからな。」
さて、料理に取りかかろう。
料理は分からないのでカット
「完成です。」
「これが」
「ゼロの」
「肉じゃがだぁ〜!」
仲が良いな。
「ね、ね、早く食べよーよ!」
「はい。」
3人分の料理を食卓に置く。
「あれ?これ3人分だよ、ゼロのは?」
「俺はこれで。」
あんぱんを袋から出して牛乳をコップに注ぐ。
「「「えっ。」」」
「どうかしましたか?」
「えっと、ゼロ?わたしそれじゃ足らないと思うの。」
フェイトが困ったように聞いてきた。
「あんぱんと牛乳だ。」
「そうじゃなくて、同じご飯を食べれば良かったんじゃないかな?」
「さっきも言った通り俺に無駄に金を遣わないためだ。それにこれで充分だし、後は栄養剤でも飲めば良い。」
「そんなの気にしなくても良いんだよ?ほら、ヴィヴィオとは家族みたいなものでしょ?」
「……しつこいな。俺は物、道具だ。そんな事を気にする必要は一切無い。」
「でも、ゼロは人だよ。」
「人の形をしているだけで人と呼べたものじゃない。」
「そんなこと……。」
「うるさい、放っておいてくれよ。」
「どうして、そんなこと言うの……?」
フェイトが悲しそうに眉を下げる。
ん……?なんだ、大勢の気配がこっちに来ている。
「俺はいつ死んでもいいと思っている。」
「えっ……?」
「今まで様々な人を殺して来た。子供に手を掛けた事だって何度もだ。幸せそうな家族も、必要だったから殺した。平和な世界に火を落として滅茶苦茶にした。
そもそも、今捕まったり死んでない事が奇跡とも言えるんだ。これ以上望むなんで贅沢、出来る訳ないだろう。
……話し過ぎた。外で食べる。」
「ゼロ……。」
やってしまった……ヴィヴィオ様の家族なのにな。いや、それよりもこっちのが大事だ。
「ゼロ。」
後ろからなのはに呼ばれる。
「なんだ。」
「ちゃんと帰って来てね。」
……気付いてたのか。
「善処する。」
外に出ると質量兵器を持った連中がいた。
「クレイ、セットアップ。」
デバイスを起動してバリアジャケットに変える。武器の手甲の調子を確かめるために少し手首を回す。
「トライアングルフィールドプロテクション。」
家の三点を頂点としてプロテクションを張る。
「やっと見つけたぞ……お前のせいで俺らの計画は滅茶苦茶だぁ!」
先頭の男が声を張り上げる。あいつがリーダーだろうか。
「知るか。貴様らの運が悪かっただけだろう。あの場には守るべき人がいた。」
「へっ、かっこいいねぇ。じゃあその守るべき人ってのは後ろの家に居るんだな?随分と綺麗な姉ちゃん達もいることだし、お前をぶっ殺したら相手でもしてもらおうじゃねぇか。」
「今、なんて言った?」
ヴィヴィオ様達に手を出すと言ったか?
『ガントレットプロテクション、スプリングバリア』
手甲にプロテクションを纏い、後ろに出てきたバリアを蹴って前方に加速する。
「はっ!バカなやつめ!撃て!」
銃弾が俺に向かって撃たれる。
『リフレクション』
周囲に膜が張られ、銃弾が当たると全て跳ね返って銃口に入り破壊する。
「は……?」
前にいた2人の頭を掴み身体強化した体で他のやつに投げつける。
「ひぃぃ!!」
「逃がさん。」
『ウォールプロテクション。』
壁の様にプロテクションを出し、逃げ場を塞ぐ。ぶつかったやつは弾き飛ばされた。
「魔法を使えるやつは無しか。」
『フォールプロテクション』
全員固まった所にプロテクションを頭上に展開して落とす。
「どうだ、潰れるまでやるか?」
幾つか骨が折れる音と悲鳴が聞こえる。
そのまま出力を上げる。
「わ、分かった!分かったから止めてくれ!」
「……バリアケージ。」
棒状のプロテクションで檻を作って閉じ込める。これで終わりか。
連中が管理局に連れていかれるのを遠くから眺めと家に入る。
「ただいま戻りました。」
「あ……お、おかえり。」
フェイトと遭遇し、少し空気が悪くなる。
「バリアジャケットにしたんだ。」
「少し、周囲の探索をしていただけだ。」
忘れてた、デバイスを解除して待機形態の時計に戻す。
「血が出てる!」
「えっ、ああ、これは……引っ掛けたんだ。」
シャツの袖に血が滲んでいた。
「嘘、こんなに血が出るなんて普通はないよ。」
チッ、弾が掠ったのに気付かなかったか。痛覚が鈍ってるのか。
「さっき魔力を感じたし……なのはとヴィヴィオに知らせて来るね!」
「待て!」
咄嗟にフェイトの手を掴む。
「頼む、頼むから、ヴィヴィオ様には何も言わないでくれ。」
きっと心配するし、気にしてしまう。それに悲しむだろう。ヴィヴィオ様はこんな事を知らなくても良い。
「痛っ。」
「っ……すまない。強くし過ぎた。」
「うん、大丈夫だよ。君がヴィヴィオを大切なのは分かったから。
ちょっと部屋に来て?汗が酷いし治療しなくちゃ。」
何を焦っているんだ、俺は。手を引かれて部屋に入り、椅子に座る。
「上脱いで、傷口見なくちゃ。」
「こんなの放っておけば。」
「傷口から菌が入ったらどうするの?これで病気になったりしたらヴィヴィオが悲しむよ。」
「……。」
シャツを脱いで腕を出す。
「思ってたより大きいね。とりあえず消毒しないと。」
傷口に消毒液をかけられると急激に痛みが増す。
「〜っ!?」
「男なんだから我慢して。」
このっ……くぅ……。
「はい、終わりっ。」
「貴様ぁ……!」
包帯を巻いた後に上から叩かれる。
「次は汗拭こっか。」
「そのくらい自分で出来る。」
「いいから。スキンシップだよ。
それともヴィヴィオに言われたい?」
「……くそ。」
そのままタオルで汗を拭かれる。なんだか人に拭かれるなんて変な気分だ。
「あのね、ご飯の時の事なんだけど。」
「なんだ、殺人で逮捕でもするのか?」
「うーん、そう言ってもそんな情報は一度もきてないから無理じゃないかな?」
「なに?」
おかしい、結構大規模な事件もしているはずだぞ。
「話したいのはそっちじゃなくて、ご飯の事。」
「その話しは終わったはずだ。」
「ううん、終わってないよ。ゼロが良くてもヴィヴィオは同じ食べ物を一緒に食べたいんだと思う。」
「そうなのか?」
「絶対そうだよ。」
「……じゃあ、そうする。」
「良かった。はい、もう服着てもいいよ。」
「ありがとう。」
「ふふっ、どういたしまして。」
さて、ヴィヴィオ様にはなんて説明しようか。
「ゼロには罰ゲームです!」
「はい?」
リビングに戻ると唐突にヴィヴィオ様が言う。
「フェイトママと喧嘩してたでしょ!」
「ああ、そういうことでしたか。それでしたら甘んじて。」
「えっとねー……えっと、撫でて!」
……考えて無かったんですね。
言われたままに頭を撫でる。相変わらず綺麗な髪をしてます。
「えへへ〜。」
「もー、ゼロはヴィヴィオに甘過ぎじゃないかな?」
「そう言われても困るな。」
「でも、なんでも言う事聞くでしょ?」
「当たり前だ。」
「やっぱり甘いよ!」
「ねぇ、飴ちょーだい?」
「どうぞ。」
買い物の時に買っておいた飴を口に入れてあげる。
「ん〜、美味しい!」
「甘いよー、甘々だよ!
ヴィヴィオ、あんまりゼロに我儘言っちゃダメ!」
「はぁい……。」
落ち込んでるヴィヴィオ様にデバイスから出した花を渡す。名前は知らない。
「わっ、綺麗!」
「ゼ〜ロ〜?」
「な、なんだ。」
「にゃー!ゼロも甘やかしちゃダメなの!ヴィヴィオ、お風呂入っちゃお!」
「うー、ゼロも。」
「えっ、だ、ダメだよ?男の人と入るのは……えっと、もっと大きくなったから、ね?」
「なんで?」
「え〜っと、な、なんででも。分かった?」
「は〜い。」
2人がリビングから出ていく。
「怒られちゃったね。」
「……ああ。何がダメだったんだろうか。」
「前はヴィヴィオに何て言われてたの?」
「料理に手品に踊りにゲーム、もっとあるが。」
「うん、もう充分かな。すごく甘いよね。」
「……自覚はある。」
「直すように頑張らないとね。」
「善処する。」
あ、肉じゃがが余ったから皿に移してラップして冷蔵庫だな。