『おお、友よ。久し振りだね。』
「そうだな。本当に久し振りだ。」
病室でジェイルに連絡するとすぐに通じた、牢屋なのにな。やはり少し特別な扱いなんだろう。
「なあ、ジェイル。」
『なんだい、質問かな?』
「俺の昔を知ってるか?」
『ふむ、ようやく記憶が無い事に気付いたのかね。』
「それで、どうなんだ?」
『知ってるとも、本名も誕生日も出身も。自分が忘れる代わりに覚えさせられたよ。』
「今すぐ教えろ、それと記憶を戻せ。」
『……それは無理だ。』
「なんでっ!?」
『その魔法は君が組んだからね。自分で思い出せば解けるとね。思い出す事がキーワードさ。
そうだね、ヒントとしてはティアナ・ランスターに会うと良い。
それじゃあ、頑張りたまえ。私は管理局の連中にこき使われていてね。減刑のために頑張っているのだよ。』
「そうか……ありがとう。そっちも頑張れよ。」
通信が途切れる。あいつも頑張ってんだな。
「ティアナ・ランスター……早々会える訳無いだろ……。」
はあ、とため息を零す。
「ゼロー!元気だった?今日は私の教え子だったティアナとスバルを連れて来たよー!」
なのは……お前やっぱ昔からタイミングすげぇな。ん、昔から?会った事がある……?
「……?」
「どうかしたの?」
「ん、いや、なんでもない。
それで後ろの2人は?」
「あ、そうそう、私が教導してた子達だよ。
ほら、2人とも自己紹介だよ。」
「なんで……なんでこんな所に居るんですか……。」
そう言うとオレンジの髪の女、ティアナ・ランスターが俺を信じられない物を見るような目で見ていた。
「ティアナ?」
「ちょ、ちょっと、どうしたのティアナ。この人の事は知ってるの?」
青色の女、スバル・ナカジマが困惑していた。
「ずっと、ずっと行方不明で、兄さんの墓参りもせずにどこに行ってたんですか!?零兄さん!」
その叫びと共に部屋が静まり返る。
「おい……今、零って言ったか?いや、言ったよな。質問するぞ、必ず答えろ。」
立ち上がって肩を掴むと少し怯えて俺を見てくる。
「は、はい。」
「零って……俺の名前なのか?」
ついに見つけた。手掛かりだ。俺の名前、本当の名前。俺の大事な名前。
「な、何を言って……。」
「ふ、フルネームは!?教えてくれ!?知ってるんだろ!?」
「お、教えますから!落ち着いて!」
「あ、ああ、すまない。取り乱した……。
記憶喪失……いや、正確には記憶封鎖か。ジェイルと会う前の記憶が全部無いんだ、教えてくれ。」
「ふぅ、とりあえず事情はなんとなく分かりました。
まず、あなたの名前は斎藤 零。死んだ私の兄さんと2人で管理局で活動してました。流石に階級までは知りませんでしたけど。」
「斎藤……零……。」
どこかで歯車が合わさる様な気がした。これが俺の本名か。
「悪いとは思うが、兄の名前は?」
「いえ、もう振り切りましたから。ティーダ・ランスターです。」
「……ダメだ、もう少し、写真は?」
「これです。」
オレンジの髪をした、幼いティアナ・ランスターと一緒に写る青年。
脳裏にまたノイズが走る。
『よっ、今日からお前と組む事になった。よろしくな。』
『ほら、もっと食べろ。大きくなれないし、もやしになっちまうぞ。』
『もっと集中しろ!頑張れ!』
『零っ……!妹を、ティアナを……頼んだ……。』
頭の中で何かが割れて黒いシルエットだった物が鮮明になる。
「ティーダ……すまない。どうやら約束は守れなかったみたいだ。」
「思い出したの!?」
なのはが身を乗り出して来る。
「一部だけだけど、思い出した。
大きくなったな、ティアナちゃん。」
記憶に残っていた殺したよりも随分と成長して綺麗になった。ティーダが生きていたら大変だったかもな。
「……ふんっ、ずっと忘れてた人の事なんて知りません。」
「ははは……。」
それから少し話した後になのはに向き合う。
「なのは、俺はお前と会った事があるかもしれない。だからお前の故郷に行くぞ。」
「え!?それって本当!?」
「確証は無い。でも、そんな気がするんだ。」
「う〜ん……確かに名前は日本人みたいな名前だもんね。」
「それにこの記憶封鎖は俺の作った魔法らしくて、キーワードで解けるそうだ。それなら可能性のある場所に行くべきだろう。」
「う〜ん、まあ、そうかな?」
「よし、じゃあ今から行くぞ。」
「待って!?入院中だよ!?」
「知るか、そんな事より記憶の方が大事だ。どうして俺はあんなにも大事な記憶を閉じたのか、それが知りたい。」
「ダメだってば!」
腕をバインドで拘束される。
「ふん、こんな物。」
「うそっ!?」
バキンッと音を立ててバインドが割れる。
「俺のやって来た事を考えれば必須技能だ。」
まだ序の口だ。
「じゃ、じゃあヴィヴィオに勝手に行ったって言うよ!」
「ああ?」
つい睨みつけてしまうがなのはが体を一瞬震わせるのを見てため息を吐く。
「はぁー、分かった。けど、退院したら出来るだけ早く行くからな。」
「あ……うん。」
明らかに落ち込んでる様を見て顔を顰める。
「悪かったな。……睨んだりなんかして。」
「え?」
「……もう帰れ。疲れた。」
「昔に比べて随分落ち着いた雰囲気にはなりましたけど、落ち込んでたりするのを放っておけないのは変わらないんですね。」
「……ふん。いいから帰れ。」
「また、来るね?」
……チラチラとこっちを見るな、気になってこれからの考えが纏まらないだろう。
「フェイト。」
「なに?」
「まだ退院出来ないのか?」
「まだダメだって。」
「そうか……。」
やる事が無さすぎて日にち感覚が狂ってきた。
フェイトの剥いてくれたりんごを食べながらボーッとする。
「ゼロー!」
「あ、ヴィヴィオ様。学校は終わりましたか?」
横目で時計を見るともう学校が終わっている時間を過ぎていた。
「見て!テストで100点!」
開いた紙には大きく100と書いてあった。確かあの学院は初等科とは言え他と比べると偏差値は高めのはずだ。
「凄いじゃないですか。おめでとうございます。」
「うん!」
褒めてと催促するように頭を出してきたので出来るだけ優しく撫でると嬉しそうに目を細める。最近これが気持ち良い時の表情だと分かりました。
「それにしてもなのはとフェイトにはもう見せたのですか?」
「あ、それは大丈夫だよ、私達は通信で見せてもらったから。
ゼロには直接見せたかったんだって。」
なるほど、そういうことか。
そう言えば本名が分かったのに皆がゼロと未だに呼んでくる。名前に関しての記憶はもう思い出したんだが……あだ名の様な物だろうか?
「はい、あーん。」
「む……。」
フェイトがフォークでりんごを刺してこちらに向ける。いや、どういう意味かは分かっているつもりだ。
「……そのフォークをくれ。」
「一応病人なんだから大人しくしてないと。」
「一応だから良い……。」
後、ヴィヴィオ様が凄くこっちを見てるから、ヴィヴィオ様の目の前ではあまりこういうのは余りしないでほしい。
「……あー。」
観念して口を開くとりんごを入れられる。自分で食べても変わらないと思うんだが。
「ヴィヴィオにも!」
「いいよ。あーん。」
「あーん!」
ヴィヴィオ様は今日も元気ですね。非常によろしいと思います。
ヴィヴィオ様とフェイトが話し始めてやる事が無くなったため目を瞑ると頭を触られた。薄く目を開けるとフェイトがまた撫でようとしていた。いちいち言うのも面倒になり目を瞑るとそのまま撫でられた。
……意外と悪くないかもな。
「……ん。」
いつの間にか寝てたみたいだ、少し体が痛い。
「何やってんですか。」
ベッドの両側になのはとフェイトがベッドに顔を伏して寝ていて、ヴィヴィオ様がベッドに乗って隣で寝ていた。狭いから寝苦しくて体が痛くなるよな、そりゃ。
「……俺に絡んできて何がしたいんだ。」
さっぱり分からない。悪意は無いしむしろ好印象ばかりがある。目的も把握出来ないから対策のしようもない。どうしろってんだ。何も分からない。
「こんなんじゃ甘くなってしまうな……。」
甘さは捨てないと、いざという時動けなくなってしまうから。
その言葉が頭の中でカチリとハマった。
『ジェイル。俺は記憶を封鎖しようと思う。』
『なぜだい?復讐するくらい今のままでも良いじゃないか。』
『このまま甘い俺でいると色々と考えてトドメを躊躇してしまうだろう。
そのために、封鎖する。』
『方法はあるのかい?』
『ああ、記憶の中に壁を作るイメージで防御魔法を張る。これでエピソード記憶だけを封鎖する。
そこからは今ジェイルと対面した所からスタートする。』
『自分がどれだけ無茶をしようとしてるかは自覚してるのかい?誰もやった事がないだろう。確かに君の防御魔法は馬鹿げている、それでも可能かどうか……。』
『覚悟の上だ。』
『そうか……なら止めないよ。』
なんでこんな時に思い出すんだ……。なるほど、そういう仕組みだったのか。しかし解除方だけは出て来ない、やはりキーワードか。
「甘さ、捨てないとな……。」
「甘いのってそんなに悪いかな?」
「なのは、起きてたのか。」
「うん、たまたまだけど。
それで、悪いことかな?」
「……甘さを持って後悔するよりかなりマシだろ。」
「甘さを持ったまま後悔しない方法もあるんじゃない?」
「そんなの、無理だ。」
「無理じゃないよ。」
「なんで言い切れる!」
「お話すれば良いんだよ。」
「相手が攻撃してきたらどうする!手遅れになるぞ!」
「じゃあ、戦って倒してからだね。」
「……それは、どうなんだ?」
「お話するには必要な事だよ!」
まさか……脳筋か?いや、あの高町なのはだぞ、そんなはずがない。
「寝る。」
これ以上考えたら頭が痛くなりそうだ。
目を瞑るとまた撫でられる。
「……次はなのはか、2人してしつこいぞ。」
「良いでしょ?ゼロって子供みたいだから撫でたくなるんだよね。」
「はっ!?お、俺が子供だと……!?」
「もう、静かにして。」
「あ、ああ、悪い。」
目を覚ましてない。
「格好をつけたがってて空回りする子供みたいだよ。甘さを捨てるーとか。」
「お、俺の覚悟が空回りだと……。」
「もっとさ、復讐とかじゃなくて前を向いていけば良かったと思うんだ。」
「前を向いてか。」
なるほど、もしかしたらそんな道もあったのかもしれない。
復讐を考えずに管理局に残って、ティーダの代わりみたいにティアナちゃんを見守って、もしかしたら機動六課にも所属する事があってジェイルと敵対するなんてのもあったかもしれない。
「これからでも大丈夫だと思うか?」
「うん、絶対大丈夫だよ。」
「そうか。うん、よし、やってみるか。」
今からはとにかく落ち着いて前を向いて頑張っていくとしよう。
今回は少しぐだっとした感じでしたかね?