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巨人。それは人類の天敵。今から100年前、人類は巨人によって絶滅寸前まで追い込まれた。
大きさは人間の二倍から十数倍と多種多様。主な食料は人間。対話は不可能。
驚くべきことに巨人は強靭な再生能力を有し、首筋である『うなじ』を的確に抉り、削り取らなければ殺すことが出来ない。
この圧倒的な能力を有する巨人に対抗しうる術は、もはや人類には無いと思われた。
しかし、今となってはどういう方法で行ったか知りえないが、人類は高さ数十メートルもの巨大な壁を数百キロに渡り円環状に建造することで、とりあえずはその窮地を脱することに成功したのだ。
三重に築かれた壁、ウォール・シーナ、ウォール・ローゼ、ウォール・マリア。
その巨大な防護壁群により、人類の安泰は約束された物になるかと思われた――
壁の向こう側から煙が上がっているぞ?蒸気かあれは?身体が震えているぞ?地面が揺れているのか?何か砕けたぞ?なんだこれは?
住民の誰もが困惑していた。
「何が…起こったんだ?」
人類は、直視したくない現実を目の当たりにしたのだ。
壁が――破壊された。
静寂は一瞬だった。全員、次に何をすべきかは本能で感じ取っていた。
逃走。
まるでその光景は、巣を攻撃された蟻が一斉に穴から抜け出し何処か当てもなく這いつくばる姿に酷似していた。
我先にと逃げ出す住民たちの悲鳴が、壁の隅々に反響し虚しく木霊する。
壁が破壊された際の惨状は悲惨な物で、壁を構成していたであろう岩石が数十メートルは吹っ飛び、壁近郊の民家に直撃し押し潰していた。
自分たちの家は?家族はどうなったのだろうか?その不安が住民たちの行動をより慌ただしくさせていた。
「どうしたのエレン!早く逃げなくちゃ!?」
「アルミン…あっちの…壁の破片が飛んでった方向…俺んち…母さん…!」
「エレン!?待ってよエレン!!」
自分の家に向かって走り出すエレン。そして追いかけるアルミン。
だが走力に差があったため、二人の距離はどんどん引き離されていった。
深々と空いた壁の亀裂。どうやって壁は破壊されたのか?
疑問は壁の上部を見れば解決できた。
それは、推定60mはあるであろうと推測できる超大型の巨人による犯行だった。どうやら、ただの『蹴り』で破壊をやってのけたらしかった。
超大型巨人は今も、人類が逃げ惑う様を見下し、まるで見物ているかのように、壁の頂上に手をかけ頭だけを覗かせていた。
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「ほう…巨人にもあのようなタイプがいたのですねぇ…これは戦い応えがありそうですな」
自身のゴゥレム内で口元を歪ませにやけるバデス。久しぶりに闘い甲斐のある獲物を見つけて嬉しそうな様子だ。
「…バデス…人類が未憎悪の危機に陥ろうというときに笑うやつがあるか」
「はっ将軍…自分は笑っておりましたか…」
部下に釘を刺したボルキュス将軍だったが、彼自身もまた、うっすらと口元が歪んでいた――。
「全軍、私に続け!破壊された壁から巨人が流入してくるだろう!一体たりとも巨人の進撃を許すな!!」
「「「ハッ!」」」
部隊を鼓舞し士気を上昇させるボルキュス将軍。それに伴い戦意を増して行く兵士たち。
「さぁて!今回も討伐数を稼いでやるぜ!」
「精々食われないこったな!」
「お前ら!作戦行動中の私語は慎めよ!」
ゴゥレムの歩行音が轟き、地響きを上げる。アテネス軍の戦いの準備が整った合図だ。
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「エレン!どこなのエレン!?」
長い黒髪を靡かせ、マフラーを纏った少女が荒い息でエレンという少年を探していた。
「エレン!」
ついに目当ての少年、エレンを発見し安堵したミカサだったが、これは夢かと疑う現実を目の当たりにした。
先ほどまで暮らしていた我が家が、一体どこから降って来たのか、岩石が圧し掛かりペシャンコに潰れていたのだ。
よく見ると、エレンが何か瓦礫により下敷きになった人影を助け出そうとしている様子だった。
「ミカサ!頼む手伝ってくれ!母さんが…母さんが!!」
エレンに頼まれ、即手伝おうとするミカサ。だが、近寄ってすぐに分かった。
助からない。
足が完全に瓦礫に挟まっており、大人の力でも動かせそうになかったからだ。
「おい!ミカサ!何やってんだ!?はやく手伝ってくれ!」
「エレン…無理だよ…」
「何言ってんだミカs…!?」
文句を言おうとミカサの方を振り返ったエレンだったが、ミカサの後ろに、あるものを見る。
人?違う。大きすぎる。民家と同じくらい…大きさが段々視認出来てきた。
およそ10m。
巨人だ。
「!!エレン!早く逃げて!!」
「だめだ!母さんが!!」
一歩も引き下がらないエレンと、無理にでも連れて行こうとするミカサ。
こうなってしまってはもう現状を解決する術は無い。
無駄に時間を引き延ばすだけである。
その無駄な時間を有効活用するかのように、巨人が後方から、一歩、また一歩と距離を詰めて行き、ついにはエレンとミカサの眼前に立ちはだかった。
もう、逃げられない。
2人は絶句するしかなかった。
巨人の大きな瞳が、下敷きになったエレンの母親をしっかりと捉えていたのだ。
巨人の右手が、迫ってくる。
エレンは当然のごとく母親の前に立ちはだかり盾になろうとする。ミカサはそれを阻もうとするが、一歩遅かった。
エレンが、巨人の手の中に捕まった。
「エレン!!」
10mの高さ。それは生身から地面を見下ろせば、想像以上に恐ろしいものである。
落下すればどうなるのか?エレンに恐怖が襲い掛かる。
さらに現実では、巨人の底の見えない大きな口が実際に襲い掛かかろうとしていた。
2つの恐怖により、エレンは、母親の身代わりになれたという安堵感や、巨人に食べられるという恐怖感すら既に吹き飛ばしていた。
つまり、エレンの頭の中は、真っ白だった。
この光景を愕然とただ眺めていることしかできなかったミカサは、過去に味わった恐怖を再び思い出したかの様な歪な表情を浮かばせていた。
この2人の表情から読み取れる結果はただ一つ。
もう、誰もが絶望していたということだけだった。
「うわあああああああああッ!!」
巨人に捕まれ身動きの取れないエレン。
今動かせるのは口だけなので、めいっぱい口を開き最期の叫びを上げるが、それも虚しく空へ響くだけで、無情にも巨人の咥内へと無機質で作業的に投入される。
死は覚悟できなかった。自分の感情すら何もわからず整理もつかないまま、殺されるのだ。
「はっぁっ…」
巨人に持ち上げられ、巨人の顔面を間近で見て初めてわかった。
目はギョロ付き、薄ら笑みを浮かべ、何を考えているのかわからない。
気持ち悪い。
巨人のHIRAかれた口から岩石のような歯を伝って、涎がエレンに降り注ぐ。
くさい!キタナイ!
心臓の鼓動が限界を超え、ついにエレンの視界は真っ暗になった。いや、本当は巨人の大き過ぎる真っ暗な口が覆い被さっただけだった。
あっ――
果てのない暗闇により感覚も薄れ、エレンはもはや目をつむり、更なる闇へと身を投じる事しかできなかった。
死――
暗闇に飲み込まれる次の瞬間だった。
俺は宙に舞ったのだ。重力から解放される感覚が、暗闇の中からでもハッキリとわかった。一体どうしたんだろう?
宙に舞った俺は、まるでそのままベッドに優しく寝かされるかのようなスムーズな減速を果たした。天国にでもたどり着いたのだろうか?
一瞬の安堵感に包まれた俺は、薄く目を開けてみた。そこには…。
黒い巨兵がいた。
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