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「エレン!」
見下ろすと、ミカサが安堵のあまりなのか、地面にへたれこんでいる。ちょっとかわいい。
先ほどの事の顛末を見届けていたミカサは、この黒い巨兵に感謝した。
黒い巨兵は、地響きを鳴らし何処からともなく現れ、エレンを掴んでいた巨人の右手首を、左手で持った巨大な大剣を用い一閃にして一瞬に切断し、さらにその切断した巨人の右手首――放り出されたエレンを、空いた右手で空中キャッチするという繊細な作業を、その大きな体格に見合わない荒業でやってのけたのだ。
「無事か小僧?」
「はっ…はい!」
放心状態だったエレンだったが、黒い巨兵からまるで拡声器のように発せられた、鈍く曇りエフェクトのかかった男の声により己を取り戻し、なんとか返答できた。
エレンの意識がハッキリしていることが確認できた黒い巨兵は膝を付き、エレンを掴んでいた右手をゆっくり離し解放した。
「黒い…ゴゥレム…母さん…ミカサ…俺…」
小僧が何やら呟いている。すると、解放された小僧に向かって、ヨロヨロと黒髪の少女が泣きながら駆け寄ってきた。青春してるな。
「さて…少年少女の青春を邪魔するものではないよ巨人君?それとも私の『ヒュケリオン』の相手になってくれると言うのかね?」
黒い巨兵――ヒュケリオンと呼ばれた、漆黒の鎧で構成され、全身を覆い隠す薄汚れた大きなマントを纏ったゴゥレムは、アテネスの主力量産型ゴゥレム『ラドゥン』よりも一回り大きく、一般的なゴゥレムの全高である8mよりも3mほど高い、全高11mもの巨体を誇っていた。
黒い巨兵――ヒュケリオンに向かって、右手首を切断された巨人が、いつもと変わらぬにやけヅラで大きく口を開け突進してきた。
「危ないっ!」
「焦るな小僧」
突然の巨人の突進に焦ったエレンは、思わず声を上げてしまうが、この黒いゴゥレムを操る男の言うとおり、焦る必要など全く無かった。
一瞬だった。ヒュンッ、と、空を切るような音が聞こえた気がした。
次の瞬間、目の前の巨人の首から、一見川が出来たのではないかと思うほど大量の血が噴き出したのだ。
一体どうやって切断したのか、まるで見えなかった…。
地に伏す首を無くした巨人よりも、この圧倒的な黒い巨兵に見惚れずにはいられなかった。
「あなたは…一体…」
「自己紹介が遅れたな小僧、私はアテネス連邦領区の将軍、ボルキュスだ」
「助けていただいてありがとうございます!」
「次があって良かったな小僧」
「?」
「この場面なら頭の硬い軍人は…特に調査兵団とかの連中ならば、『次は無い』などとカッコよさげに言うだろうが、私はそうは言わんよ。次があればこそだ。
次があればこそ、その次がある。これをずっと繰り返せばあらゆる事態に対して優位に立てると思うよ、私は。だから、逆だ小僧」
「あっ、ハイ!!」
ボルキュス将軍…正直に答えると、将軍の言った事はさっぱり意味が分からなかった。どんな人なんだろうと疑問に思う。でも、いい人そうだ。
そんなことを思っていると、いつの間にか、槍を持った厳つい土色のゴゥレムと、数台の量産型ゴゥレムが、民家の間を潜り抜けやって来ていた。
「12時方向!」
「8時方向!」
「4時方向!」
「「「巨人ナシ!!!」」」
「困りますボルキュス将軍。勝手に先行されては」
「なんだバデス?私が先行しては困るのか?それにしては随分と巨人狩りに熱中していたようだが?」
「………戯言はそれくらいにして、壁を破壊したあの超大型巨人を何とかしなくてはなりませんよ将軍」
「そんなことより、この子たちの母親を救出してやってくれ。このヒュケリオンでは救出作業のような細かい動きは危険が伴うからな」
「かしこまりました」
槍を持った土色のゴゥレムは部隊を率いる地位にいるらしく、部下のゴゥレムに瓦礫の撤去作業を指示し、母さんを救出してくれている。
ゴゥレムならば、この瓦礫もあっという間だった。
「母親は手当てのため安静にしなければならないから護衛と共にここに駐留することになるが、君たちはこれからどうするね?君らの母親も君たちの安全を願っていると思うが」
「えっ…それは…」
「しかし安全な場所と言っても、ウォールマリア内壁へ出る為の交通は麻痺、さらに混雑しているだろう。
しかも私の予想では、兵士が命惜しさにその地位と武力を利用し、我先にと逃げ出しているはずだ」
「そんな…!」
「そんな彼らを攻めはせんがね、私は。人は飢えと恐怖、そして実物の巨人には耐えられんからなぁ」
「…おれ、俺!将軍と一緒に行動したいです!」
「!?ちょっとエレン!何言ってるの!?」
「ごめんミカサ…でも俺、どうしても将軍のことが知りたくなったんだ…。それに将軍は強い!将軍と一緒に行動した方が安全だ!」
「ハッハッハ!少々私のことを過大評価しすぎだが、気に入ったぞ小僧!名を聞いておこうか」
「エレン…エレン・イェーガーです!!」
「覚えておこう。では小僧、そしてそちらの御嬢さん。私たちに同行するといい。イオ中佐、彼らを任しても良いかね?」
「私はボルキュス将軍に温情を貰い救って戴いた身です。将軍の命令とあらば全てお受けします」
後ろの方からゴゥレムの拡声器越しに若い男の声がしたかと思うと、大剣を背負った白色のゴゥレムが現れた。量産タイプではないワンオフタイプのようだ。
どうやらボルキュス将軍の言うイオ中佐という人物らしく、俺とミカサの眼前でゴゥレムに膝を着かせ、右腕の大きな掌に乗っけてくれた。
「正直言ってここから先は巨人の猛攻が更に激しい物となるだろう。各自気を引き締めて行け!陣形を崩すなとは言わん!不測の事態には臨機応変に対応しろ!!」
ボルキュス将軍の激励を皮切りに、ズンッ、と鈍い足音を立て踝を返し、アテネス軍のゴゥレム隊――ボルキュス将軍は、
まだ超大型巨人がいるであろう壁の向こう側へと向かって歩を進めていった。
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