破壊の巨人-Break on Titan-   作:バンテリン

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第5話「超大型巨人vsボルキュス将軍」

 

 

「退却ッ!退却ーーーッ!!」

 

 

ゴゥレムに乗っているというのに、地を這う虫の気分を味わった気がした。

 

超大型巨人――先刻、突如として現れ『壁』に穴を空け人類を危機に陥れた、全高およそ60mを誇る未知の巨人。

その姿はまるで人体模型をそのまま巨大化させたもので、人間の皮膚を全て引き剥がしたかのような不気味な存在だった。

 

一番に壁外へと進行できた我々先行偵察部隊は、超大型巨人に対して撃退可能と判断し威力偵察を行ったのだ。

しかし、鈍重そうな、その見かけに騙されてはいけなかった。

奴は意外なほど素早く、足を動かされるだけでこちらはもう避けるのに手一杯だというのに、さらに狙いを付けて踏み付けてくるのだ。

 

もう十数台はやられてしまったのではないだろうか。何より、この巨人にはある恐るべき『能力』が備わっていたのだ…。

 

 

「情けないですねぇ…貴重なゴゥレムをこれほど駄目にしてしまうとは。それほどまでに強いのですかねぇあのデカブツは?」

 

 

超大型巨人がいる――他の巨人もわんさかいる壁の外へと、ボルキュス将軍率いる本隊が到達した。先導していたバデスが退却中の兵士に事情を聞く。

 

 

「報告します!『奴』には…『超大型巨人』には全身から『蒸気』を放出する能力を確認!調査兵団も何名か取り付いた模様ですが『蒸気』により焼死させられ全滅!

ゴゥレムで身を覆った我々ならば『蒸気』を防げると判断し接近したのですが、『蒸気』で投影石英を曇らされ視界がゼロとなり行動不能状態へと陥り返り討ちに合いました!!」

 

 

「マヌケですねぇ…」

 

 

「そう攻めてやるなバデス…。どうやらこの超大型巨人は『奇行種』とも違う何か特別なタイプのようだ。彼らでは手に余っただろう」

 

 

返り討ちに合った部下をフォローするボルキュス将軍。しかし味方がやられているというのに、どこか揚々とした口調だった。

そして突然、ボルキュス将軍の『ヒュケリオン』が、超大型巨人の前に歩を進めた。

 

 

「ボルキュス将軍…?何をなさるおつもりで?」

 

 

「わかっているだろうバデス…言わせるなよ?…なぁに、久々に体を動かしたくなってみただけだ…本当だぞ?」

 

 

「………はぁ…まったく、しょうがないお人だ…」

 

 

「フフッ。ではバデス、測距と指示を頼むぞ。全軍突撃!!」

 

 

そう言うと、ボルキュス将軍はヒュケリオンの歩幅を大きく開けてゆき、マントを靡かせ超大型巨人へと間合いを詰めるため突撃した。壁外での激戦の幕開けだ。

 

ヒュケリオンは一台だけ際立って先行し過ぎていたため、壁の外に群がっている15m~7m級の巨人が反応を示し続々と群がってきた。

だが、ボルキュス将軍が放つプレスガンの狙いは凄まじいもので、次々と巨人の四肢の関節可動部位に弾丸を食い込ませ、その場で転倒させ行動不能に陥らせていたのだ。

 

ヒュケリオンに搭載された、左腕と両膝に装備されている短距離簡易プレスガンは、各装弾数が10発程度と少なく、命中率と威力、機体の運動性も極端に下げるため、アテネスで標準生産されているプレスガンよりも数段下の性能であった。

しかしボルキュス将軍の腕ならば、巨人を殺すまでいかなくとも、行動不能にすることなど簡単な話であった。

 

 

「さて、ゴゥレムでロッククライミングは初体験なのだが、上手く行くかな?」

 

 

他の巨人を押し退け楽々と超大型巨人の左脚足元へと到達したボルキュス将軍は、ヒュケリオンのマント下に覆い隠していたアテネス標準剣を左手で掴み懐から取り出した。

そして、後方部隊による超大型巨人を撹乱させる支援を受けながら、ボルキュス将軍はそのまま左脚へと突撃し、おもむろにその剣を勢いよく超大型巨人の左脚に突き刺した。

 

超大型巨人の反応は薄い。恐らく蚊に刺された程度としか感じていないのだろう。

次に、ヒュケリオンの右腕に装着された簡易打突武器ニードルを突き刺す行動に出るボルキュス将軍。

 

さらに、なんとヒュケリオンは剣とニードルを交互に上に向かって突き刺していき、崖登りの要領で超大型巨人のボディを登り始めたのだ。

ボルキュス将軍が言ったロッククライミングとは、このことだった。さすがにバデスとその部下、そしてエレンたちも呆れ果てた様子である。

 

その行為に、さすがに嫌悪したのか、超大型巨人は迎撃のため例の『蒸気』を瞬時に放出した。

唐突に出し意表を突く蒸気攻撃。攻撃のための予備動作は一切無く、避けるタイミングはまるで掴めない。並みの兵士ならば全滅し返り討ちにあうのも無理はないだろう。

それは将軍も同じだった。蒸気の熱はゴゥレムの鎧により減衰し、焼死を防いだ。だが、外部を映す投影スクリーンが一気に曇り、視界はゼロになってしまった。

 

その状態を見越しているのかいないのか、まるで体にひっ付いた虫を押し潰すかの様な動作で、

超大型巨人は『左手』を、轟々と風を切らせながら、今ちょうど超大型巨人の腰にいるヒュケリオンに真横から迫らせた。

 

 

「将軍!8時方向、60°ですッ!!」

 

 

間一髪、遠方から観測し測距していたバデスからの石英拡声器による指示により、視界ゼロのボルキュス将軍は、ゴゥレムの肩幅もある大きな手に潰されずに済んだのだった。

 

 

「ほっほぉッ!冷や汗モノだなぁこれはッ!!」

 

 

見ると、蒸気の影から姿を覗かせるヒュケリオンからは、2本の触手らしきものが露出していた。

多関節武器スコルピオンテール――ヒュケリオンの肩部に搭載された更なる隠し武器。

肩装甲内部にある石英靭帯の回転盤を補助動力とする6節からなる蠍の尾のような外見をした近接兵器である。

 

しかし6節の内、操作出来るのは2関節だけで、さらに10回使うと回転盤は摩耗し交換しなければならず、操作を誤れば機体を自傷させてしまうという代物であった。

だが、言うのは2回目であるが、この代物もボルキュス将軍の腕ならば難なく使いこなせたのだった。

 

ボルキュス将軍は、そのスコルピオンテールを咄嗟に用い、立体機動装置のウィンチのように――と言っても移動距離も速度も全く出ていなかったが、

ギリギリ超大型巨人の攻撃から逃れることに成功していたのだった。

 

逆に、超大型巨人の方はと言うと、標的が狙いからずれ、自身の体を思い切り叩き付けてしまったため、相当の衝撃と痺れを感じているようで、動きが鈍くなっていた。

これを隙と見たボルキュス将軍は、超大型巨人も同じであろう弱点である『うなじ』へと目掛け直行――しなかった。

 

なぜかボルキュス将軍は、自傷してしまい痺れている超大型巨人の『左腕』へと駆け登って行ったのだった。

 

 

「将軍ッ!?何故『うなじ』を狙わないのですか!!」

 

 

奇怪な行動である。この場にいる全兵士は困惑していたことだろう。将軍が何を考えているか分からないのも無理はなかった。

なぜなら、痺れから回復した超大型巨人は、『今度』は自身を傷付けないよう、左腕に取り付いたヒュケリオンを『掴み取る』動作で攻撃し、

ボルキュス将軍はそれを、まるでダンスを踊るかのように回避するだけで、無駄に時間を過ごしているようにしか見えなかったからだ。

 

戦いにおいて『時間』と言うのは重要なファクターである。現に、今も破壊された壁から巨人の流入が止まった訳ではないのだ。決着は一刻を争う。

それなのに、ボルキュス将軍は時間を引き延ばしている。あるいは、『引き延ばすことに何か意味がある』のか。将軍以外に誰も分からない。

 

しかしその考えは当たっていた。ボルキュス将軍は『ある目的』で超大型巨人との戦いを引き延ばしていたのだ。

それは…

 

――超大型巨人は、『今度』は自身を傷付けないよう――

 

『今度』は――

 

 

「クックックッ…やはりそういうことか…!」

 

 

『ある疑問』に対して、納得できる帰結を得ることが出来たらしいボルキュス将軍は、現状を覆す行動に出る。

回避行動を突然止め、左腕のプレスガン、そして両膝のプレスガンを、いきなり超大型巨人の眼前に向けて構えたのだ。

 

 

「フフッ…君は、私がただ遊んでいるように見えていたのかね?すべては…」

 

 

そう、すべてはこの瞬間のための行動でもあったのだった。

ボルキュス将軍の奇怪な行動――それには、『誰もが』注視せざるを得ない。無論、それは『超大型巨人』も例外ではない。

超大型巨人の顔は、しっかりとボルキュス将軍の動きを『捉え過ぎていた』。

 

 

≪ヴォアアアアアアアアアッッッ!!≫

 

 

超大型巨人の悲鳴とも取れる叫び声が、地上60mより号哭された。

 

ボルキュス将軍の放ったプレスガンは見事、超大型巨人の顔面、特に目玉にクリーンヒットしたのだった。今までの奇怪な動きは、すべてこのためだった。

これには、さすがの超大型巨人も一溜りが無い。視界ゼロ――先ほどの返り討ちにあった先行偵察ゴゥレム部隊と同じ状態である。

しかしボルキュス将軍の猛攻は止まらない。自身が乗っかっていた、超大型巨人の振り上げられる左腕の加速を利用し、顔面に向かって跳躍。

 

顎を思いっきり蹴った。

 

十分に得られた加速。さらに重量級ゴゥレム・ヒュケリオンの質量。

もし、『超大型巨人の骨格内蔵構造が人間と同じ』ならば、この後起こる現象はただ一つ。

 

首を持つ脊椎生物は、顎を揺さぶられると、『脳震盪』という症状を起こすことが知られている。

 

超大型巨人が、傾いた。

 

 

「うわああああああああああッ!!」

「やべぇッ!倒れるぞおおーッ!!」

「全軍この場から退避ーーーッ!!」

 

 

プレスガンでの目潰しによる視界消失、そして脳震盪による平衡感覚の消失。超大型巨人が辿る末路は、すでに決まっていた。

 

転倒。

 

60mもの物体が、まるで大樹を切り倒したときに見られる光景のような動作で、地へと引き寄せられる。

超大型巨人の頭部の末端速度は、音速を超えているのではないかと錯覚するほどの風を巻き起こす。

地面に到達する直前、超大型巨人と地面との間にできた10m前後の隙間では、逃げ遅れた巨人たちが、粘土に圧力をかけたときに変形するごとく次々に潰された。

 

超大型巨人の巨躯が大地に激突する瞬間の衝撃は凄まじく、壁が震える――いや、また破壊されるのではと思うほどだった。

衝撃で発生した土煙をモクモクと巻き上げ、周囲数百メートルの視界をどんどん黄土色に染め上げていく。

 

 

「将軍…!ボルキュス将軍は無事なのか!?」

 

 

「エレンとか言ったな…慌てることは無い。あの人はそう簡単に死なんよ」

 

 

俺を同行させてくれているイオ中佐がそう言って、ゴゥレムの左手を上げ、ある方向を指差した。

 

 

「…あれは!」

 

 

煙の奥から浮かび上がる黒い影。大きくはためかせるマント。

ボルキュス将軍は、健在だった。

 

 

「ボルキュス将軍!」

「ボルキュス将軍!!」

「ボルキュス将軍!!!」

 

 

ワァッ!、と、全兵士たちから歓声が沸き起こる。

 

 

「ふぅ…さすがに重労働だったな…疲れた。…む?将軍が弱音を吐いてはいかんか…」

 

 

ボルキュス将軍はなぜ助かったのか?それは、超大型巨人がふら付き転倒する寸前、咄嗟に『壁』に向かってジャンプし、壁上に着地することで脱出していたのだ。

少しでもタイミングがズレれば、落下寸前ギリギリの大博打であった。これで言うのは3回目だが、この行為もボルキュス将軍の腕ならば難なく可能な跳躍であった。

 

 

「本当に無茶をなさる…脱出方法は事前に考えていたので?」

 

 

「ハッハッハッ!私がそんなこと考えるわけなかろう!アドリブだよアドリブ!ハッハッハッ!!」

 

 

「………………」

 

 

 

壁にスコルピオンテールとニードルと剣を突き刺し、笑いながら壁面を降りてくるボルキュス将軍。本当のロッククライミングも熟せて一石二鳥な得した戦いであった。

英雄的行為に感動し、下で巨人の相手を頑張っていた兵士たちが、見事生還したボルキュス将軍の元へ駆け寄ろうとする。

 

 

「さすがですボルキュス将ぐn………がッ」

 

 

爆発が起こった。いや違う。爆発ではない。何かが勢いよく砕け散った音だ。

なぜ勢いよく砕け散ったのか?それは、『あるもの』が壁の外の遥か向こう側、地平線を駆けてやって来たからだった。

 

 

「ゴゥレムが…バラバラに…弾け…た…?」

 

 

「将軍ッ!敵襲ですッ!!」

 

 

ズンッ、と、右足を地面に思い切り踏み込みブレーキをかけ自身の加速を制動させた、ゴゥレムを弾け飛ばした張本人。

走行してきたのか、進行方向からは土煙が延々と舞い上がっていた。一陣の風が舞い土煙を掻き消すと、隠していた姿を露わにした。

 

 

「ほう…今度はどうやら超大型巨人とはまた異なった特殊タイプの巨人が現れましたねぇ…次から次へと、これは興味深いですよぉ!」

 

 

「バデス…興奮しすぎるな…兵に示しがつかんぞ?」

 

 

「…そういう将軍こそ、この『鎧の巨人』に近寄って行ってるじゃありませんか…見逃しませんよ?」

 

 

「あっ、バレた?」

 

 

『鎧の巨人』――。それが、この場に突如として現れた新たな脅威であった。

ボルキュス将軍はすでに超大型巨人には興味を無くし、このゴゥレムを粉々にした鎧の巨人にしか目に入っていなかった。

間もなく、この『2人』の戦いが始まろうとしていた。

 

そして、不思議なことに、一体どういうことなのだろうか、確かにそこに転倒していたはずの超大型巨人の姿が、いつの間にか跡形もなく消失していた――。

 

 

 

 

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