破壊の巨人-Break on Titan-   作:バンテリン

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第7話「勝利」

 

 

 

雷が襲い掛かってきたとき、

猛獣が襲い掛かってきたとき、

危険が襲い掛かってきたとき、

人はどういう反応をするだろうか?

 

答えは簡単だ。逃げるか、身を守ろうとするか。

 

突如として下半身を無くした超大型巨人が現れた時の、アテネス兵たちが取った行動がそれだ。

ゴゥレムに盾を構えさせる者。膝を付く者。うつ伏せになる者。背を見せ逃げ出す者。多種多様だった。

 

 

「くっ!こいつに下手な攻撃は効かんッ!全軍指示あるまで自衛行動を取れ!!」

 

 

一部の部隊長が周囲の部下に突発的に指示を出す。

アテネスのゴゥレム群を前にした超大型巨人が取る行動は、『攻撃』だろうと誰もが予想していた。何せ壁を破壊した張本人なのだ。だから各々『防御』という行動を取ったのだが。

その予想は外れることになる。

 

アテネス全軍が狼狽える中、脚が無いため地に伏せ這い蹲りながらも、超大型巨人が数十メートルもの大きな左腕を伸ばす。傍から見れば、確かに攻撃の動作に見える。

だが、実際には違った。

 

ゴゥレムが密集する地点をスルーし、その左手が向かった先は――

 

 

「…ッ!!不味い!『鎧の巨人』を殺せッ!!」

 

 

ボルキュス将軍が咄嗟に指示を出すが、すでに遅かった。

『鎧の巨人』を抑えつけていたゴゥレムは、超大型巨人の大きすぎる腕によってすでに薙ぎ払われており、その弾みで拘束していた鎖も吹き飛んだ。

 

『鎧の巨人』の封印が、解けたのだ。

次に超大型巨人の取る行動は、その気絶していると思われる動かない『鎧の巨人』の眠りを、目覚めさせるのかと思われた。

同族なのだからそれも当然だろう。揺さぶって起こすのか?今度は超大型巨人の右手が『鎧の巨人』に迫る。

 

次の瞬間、誰もが予想だにしなかった出来事が起こった。

 

超大型巨人が取ったアクションは、揺さぶるのではなく、『鎧の巨人』の巨躯を掌の中に収め、なんと『掴んだ』のだ。

そして、超大型巨人は右腕の筋肉を膨張させ、下半身の無い不格好な体を捻り、掴んだ『鎧の巨人』を天高く持ち上げてゆき――

 

投げた。

 

ぶん投げる。ほうる。投擲。シュート。超大型巨人の取った行動はまさにソレ。

投げられた『鎧の巨人』の方はと言うと、どんどんと飛距離を伸ばして行き、ついには目視では見えなくなり、遠くに見える林のふもと近くに墜落したのか、衝突による土煙を上げているのが確認できた。

一キロ近くは放り投げられたのではないだろうか?これほどの距離を広げられてしまっては、いくらゴゥレムと言えども、追跡は不可能だろう。

時速60kmで走って行っても約1分掛かる計算だ。目を覚ました『鎧の巨人』が逃走するには十分すぎる時間である。更に、未だ遠方には通常の巨人も無数点在しており、進行を妨げていた。

 

立て続けに起こった予測不能の出来事に、ボルキュス将軍の判断が一瞬遅れる。

だが、そこはさすが歴戦の将軍なだけのことはあった。即座に『鎧の巨人』に対し「追撃はするな」と無視するよう指示を出し、超大型巨人への攻撃を命令した。

 

即座にプレスガンを構え、この場にいる全戦力を以って一斉射撃を行うアテネス軍。

プレスガンの空気を射出する独特の音はもはやその面影を残しておらず、一斉射により発生した騒音はまるで蜂の威嚇のような奇怪音となっていた。

 

プレスガンの弾丸は黒い雨を通り越し、もはや暗闇レベルの弾量へとなり、周囲の視界が黒一色染まってしまう。

このまま撃ち続ければ、『鎧の巨人』とは違い装甲を持たない超大型巨人ならば、時間を掛ければ倒せるだろう、と一部の兵士たちは思い始めていた。

 

だが、そんな希望を打ち砕くように、超大型巨人にある変化が見られたのだった。

全身の露出した筋肉組織が次第に伸縮をし始め、全身が膨張してゆく。まるで何かを溜め始めたかのような動作…攻撃か?いや――

 

 

「ッ!全軍攻撃中止!伏せろッ!!」

 

 

視界が、純白に包まれた。

 

超大型巨人が行った行動、それは『蒸気放出』。

だがその蒸気量は先ほど垣間見たレベルなどではなく、もっと大規模で濃密度。辺り数百メートルは視界がゼロになってしまったのだ。

 

蒸気が晴れたころにはもう手遅れだった。

そこには超大型巨人の姿は跡形も無く、その近くに残ったのは、伏せるのが遅れ濃密度の蒸気を喰らい火傷を負ってしまったゴゥレム搭乗士だけであった。

 

その光景を眺め、思案している様子なのか、一人無言で立ち尽くすボルキュス将軍。

 

『時間』というのは侵攻作戦において重要だ。速ければ速いほどいい。味方の損害も軽微で済むし、略奪する敵の資源も減らさずに済む。

そして、『退却』においても『時間』は重要だ。速ければ速いほど敵の追撃のリスクを減らせる。

そして、何よりも――

 

情報――。

 

 

「…撤退する際の手際も見事だ…。結果を見れば我らが君らの素性を解明できる証拠能力のある情報は一切残っていない。君がしたミスと呼べるものは、『鎧の巨人』君ならば私に勝てると思っていた――『超大型巨人』君は『鎧の巨人』君を信頼していたところくらいかね…まあ仕方のないことだが。この業界は信頼なしではやっていけんからな」

 

 

自身の考えに区切りをつけた将軍がふと辺りを見渡すと、あることに気が付いた。将軍が気付いた後に、他の兵士たちも気が付き始めざわめきだす。

夢ではない。

 

 

「巨人の進攻が…止まった…?」

 

 

見ると、壁外に残っている巨人の数は疎らで、遠方から増援がやってくる様子も無く、割と近くにいた巨人も興味を無くしどこかへ帰って行く有様だったのだ。

 

 

「…勝った?…俺たち…巨人に勝ったのか…?」

 

 

一人の兵士の呟きを皮切りに、大歓声が湧き起こった。

 

 

「うおおおおおおおーーーッ!!」

「巨人を追い返したぞーーーーーッ!!

「やったぞーッ!人類の勝利だーーーッ!!」

 

 

喜びを露わにするアテネスの兵士たち。ついには泣き叫ぶ者も出始めた。歴史上初、人類の初勝利の瞬間である。

騒ぐ兵士を余所目に、一通り辺りの巨人を駆逐し終えたバデスがボルキュス将軍の傍へと近寄ってきた。

 

 

「まったくみなさん無駄に騒ぎ立てて、これでは逆に巨人をおびき寄せるだけですよ?」

 

 

「フッ…人類偉業の日だ。カーニバルくらい許してやれ」

 

 

「…?浮かない顔ですな?我が軍の損害比率から考えれば大勝利と言っていい戦果ですよ?これはアテネスの壁内からの衆望もより一層高まることでしょう」

 

 

「確かにな…都合の良い結果だけを受け止めれば確かにそうだ。だが、実際には壁は確かに破壊された。恐らくシガンシナ区は破棄されるだろう。全市民を移民させる処理が残っている。しかもあの『2体の巨人』の出現。何が目的だったのか?謎は深まったばかりだ。今回は2体別々に現れたから良かったものの、もし2体同時…いや、これらと同タイプの巨人が『2体以上』いるとしたら…?」

 

 

「………」

 

 

「フッ…すまんなバデス。少々長話をし過ぎたな。悪い癖だ。…さて、とりあえず今は、やるべきことをやらんとならんか!」

 

 

「そうですよ将軍。それに帰ったら、あなたの勲章授与は確定でしょう」

 

 

「まいったなぁ…そういう堅苦しいのは苦手なんだが…」

 

 

兵士たちの歓声が壁に反響し轟く中、二人の中年親父の会話は続いた。

アテネスのゴゥレム部隊は未だ歓声を止ませないまま、隊列を組み、破壊されたシガンシナ区壁外門へと入り――

 

壁内へと帰還した。

 

 

 

 

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