破壊の巨人-Break on Titan-   作:バンテリン

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第9話「第104期訓練生vsジルグ」

 

 

 

「聞いとるのか『ジルグ』ーーーッ!!!!」

 

 

赤毛のメガネ、そう表現するのが相応しい。身長は180センチを超す長身である。かなりの優男でモテそう。

 

 

「教官がブチ切れてるぜ…」

「すげー…ティンコ状態だ…」

 

 

訓練兵舎に戻ると、何やら教官が怒鳴っており、周囲には野次馬らしき影も複数見られた。

赤毛の優男は、ガミガミと怒鳴られているというのに、表情一つ変えず薄ら笑みを浮かべるばかりでヘラヘラした態度を取っている。ちょっと不気味…いやかなり不気味だ。

 

 

「聞いているのかねジルグ君!!!!!!」

 

「教官ー、フルネームで呼んで欲しいんですけどおーー」

 

 

挙句に煽り出す始末だ。これにはもう教官も手に負えず、ジルグを無視し他の訓練を行っている兵員のところへ、プンスカと指導をしに戻って行ってしまった。

 

 

「………」

 

 

訓練に疲れボー然と地面にヘタレこんで、今のやり取りを見つめていた俺に、今怒られていた本人――ジルグがエレンに視線を向けた。

 

ジルグがここにやってきた時のことをふと思い出す。あれは1、2ヶ月くらい前、俺が入団して一年が過ぎた頃、848年だっただろうか。

こいつは入団した初日から大変な事件を起こしていた…。

 

 

 

 

――エレン、訓練兵団入団から一年――

 

 

「おい、聞いたかよ?なんでもここに新しく編入してくる奴がいるらしいぜ?」

「マジか」

 

 

食堂でキザ野郎のジャンとそばかすのマルコ、坊主頭のコニーらのグループがペチャクチャと食べ物を口に入れながらクッチャベっている。

エレンがそれを盗み聞きしながら黙々と一人隅で昼食を食べていると、ミカサとアルミンがスーッと隣に座ってきた。

 

 

「今回の模擬戦と座学の成績も最下位…やっぱりエレンには戦いは向いてないんじゃ…」

 

「エレン…無理しなくていいよ…ここで止めても誰も攻めない…私も一緒に除隊してあげるから」

 

 

「だっ…食事んときくらい悲しいことを思い出させないで忘れさせてくれよ…」

 

 

ミカサとアルミンに慰められた。屈辱だ…デキル2人が心底羨ましい妬ましい…。

 

昼食を終えると午後の訓練だ。

いつも通りミカサとアルミンと一緒に訓練場へ向かうので、落ちこぼれの俺でもヤバい連中に絡まれる心配はない。ありがとう二人共。

 

3人で立体機動装置の装着をしていると、突然林の中から人影が現れ、俺達の目の前に姿を現した。

赤い長髪を靡かせ、怪しいメガネを光らせている…気味が悪い。

 

ん?なんだ?こっちに近寄って来たぞ?…見たことない顔だな?どこの誰だろう?立体機動装置を付けてるしどこかの兵員かな?

ん?なんで剣を構えてるんだ?なんで剣を振りかぶって――

 

 

エレンの眼前に、極薄のカッター刃が迫った。

 

 

「えっ?」

 

 

キィンと、金属打楽器のような金属同士がぶつかる高音が響き渡った。

目の前に迫っていたはずの刃は、エレンの眼前でもう一つの刃の介入により停止させられていた。

 

 

「ミカサ!」

 

 

ミカサ・アッカーマン。訓練兵団を首席で卒業するのではないかと期待されている104期生のエースだ。何故かいつも俺の傍にいてくれる。頼もしい。

 

 

「…お前…何なの…?」

 

 

ミカサと謎の赤毛男の刃が鍔ぜり合う。二人の刀身がガタガタと震え、力比べをしている。大の男とも張り合えるなんてさすがミカサだ。

 

 

「へぇ…。大した筋力ですね『ミカサ君』。90点以上150点未満かな」

 

 

何か馬鹿にしたかのような謎赤毛男の言葉に、一瞬我を忘れキレかけるミカサ。その隙をついたのか謎赤毛男が不意に蹴りを噛ましミカサを吹き飛ばした!

 

 

「ッ!!」

 

 

吹き飛ばされたミカサの背を両手で受け止める俺。ミカサ、なんでそこで照れてんの?照れてる場合じゃないよ?なかった。

謎赤毛男が急突進してきたのだ。なんて脚の速さだろうか。急速に間合いを詰めて来た。

直進上にアルミンが割って入るが、一蹴されてしまった。アルミン、やっぱり体技は苦手なんだな…頭はいいんだけどな…。その雄姿は忘れないぜ。

 

アルミンが妨害し稼いでくれた1、2秒の間で、ミカサが態勢を立て直し再び剣を構え、今度は後手には回らないと先手を打った。勢いよく大きく前へ迫出し剣を振りかぶったのだ。殺る気だ…。

が、謎赤毛男はその行動を読んでいたらしく、その脚力で進行方向を右に90°変え、ミカサを優々とスルーし、エレンを通り越しまた左に90°回転。そしてまた左に90°、そこにあったのは―――

 

――俺の背中じゃん…。

 

 

「しまッ…!!」

 

 

唇を噛み、苦渋の表情を浮かべるミカサ。エレンを挟んで真後ろに回り込まれたため、どうやらエレンが壁になってしまいエレンが邪魔で迎撃出来ないでいるようだ。

頼りのミカサから守ってもらえず、思わず息を飲んでしまうエレン。振り返るよりも、謎赤毛眼鏡男の刃が振り下ろされる方が早いだろう。

 

終わった…。でも巨人に喰われるよりはマシだったかな…。諦めが早いって?でもどうしようもないんだなこれが…。なぜかって?それは…

カッター刀身の装着をミスってたからだ。刃と鍔の接続部がユルユルのプラプラでとても振り回せたもんじゃない。成績最下位の練度は伊達じゃない!!

 

無慈悲にもエレンの後頭部に刀身が迫り、謎赤毛男が脳天をカチ割ろうとしたその時だった。

 

キィンと金属音が鳴り響き、一対の剣が、エレンの脳みそが噴出したであろう未来を阻止した。

 

 

「まだ訓練開始の許可は出ていないが?もしかして噂の編入訓練兵とやらか?」

 

 

「ライナー!!」

 

 

ライナー・ブラウン。風貌はガタイのいい厳つい顔をしており金髪で短髪。ミカサに次ぐ実力者で、その強さも折り紙つき。みんなの頼れる兄貴分だ。

前にこっそり話してくれたが、なんでも過去に、『ある巨人』にとても苦い思いを味わわされたらしく、それから復讐目的も兼ねて随分と鍛えたそうだ。

 

 

「…ふーん。狙いが正確過ぎです『ライナー君』。80点以上120点未満ってところか」

 

 

謎赤毛男は、ガタイの大きいライナーとの鍔迫り合いのパワー勝負は不利と見たのか、剣を弾き飛ばし、その勢いで急速に後方へ身を逸らしバックした。

この謎赤毛男の判断は正しく、こいつの俊敏な動きにライナーも足止めされてしまい、追撃することは出来なかった。

 

奴に間合いを広げられるとまずい。こちらは俺とミカサとライナー…アルミンはそこで気絶してるし狙われないだろうから除外するとして、普通は3対1なら優勢に立てると思うのが普通だろう。

でも俺が優先的に狙われてるみたいだから、ミカサとライナーは俺を庇うのに必死で攻めに転じれないのよね。足手まといでごめんねみんな!

 

攻めに転ずる事が出来ない俺たちを見通したのか、謎赤毛男が3回目のアタックを仕掛けてきた!

ここで俺が言うのも悪いけど、ミカサとライナー。この二人は結構、激昂に駆られやすいタイプだと思う。俺の二人に対する評価が的中したのか、何か二人の動きがいつもより鈍い。

当然だ。二人とも俺を庇いながら戦っているのだ。無力感に苛まれる。俺に力があったなら…。

 

 

「エレンッ!逃げてッ!!」

 

 

悔やむより、今は戦いに集中するべきだった。

 

謎赤毛男は、守りに徹してしまっているミカサとライナーの剣を紙一重でスラスラと躱してゆき、俺の目の前に三度目の接合を果たした。

だが今度はさっきみたいに何も出来ない訳じゃない。ミカサとライナーが戦ってる間にちゃんとカッター刀身の接続確認もしてるからバッチリだ。

ついに謎赤毛男の斬撃が俺の剣に迫る!

 

 

「よっしゃ来い!しっかり受け止めてやんぞ!!」

 

 

パキン。

 

ちょっと閑休話題。何でも最近、ウォール・シーナの中央都市で、携行性と生産性に優れた食器、『ワリバシ』という東洋文化を取り入れた簡易箸が開発されたそうだ。

で、その『ワリバシ』はウォール・ローゼ南方面でも流通してきており、その『ワリバシ』を割る音を聞いたんだけど、今剣が折れた音とそっくりなのよね!

 

 

「折れ…た…?」

 

 

銀色の断面を煌めかせ、カッターの刀身が空中に弧を描きながら浮かび上がり、気絶しているアルミンの顔側面に突き刺さった。危ねぇ。目を覚ましたら謝ろう――

――この窮地を脱することが出来ればの話だが…。

 

 

「何だよお前!?何で俺ばかり付け狙うんだ!?…そ、そうだッ!話し合おうぜッ!?なッ!?」

 

 

武器を無くした俺は、何とか説得を試みる。が、この謎赤毛眼鏡男は口元をニヤニヤさせ眼鏡をギラつかせるだけで、俺の言葉に全く反応しない。耳を貸さない。

何なんだこいつ!?

俺の頭の中はこの疑問で埋め尽くされる。この謎赤毛眼鏡男は初めて見るタイプの人間だ。巨人の目的は人を喰うことだけなのだから単純明快だが、こいつの行動は同じ人間なのに理解できない。ハッキリ言おう。イカレてる。

 

疑問符が付きまくるエレンに、無情にも本日3度目の刃が振り下ろされる。

しかし不思議なことに、振り下ろされた一本の刃が、なぜか2つに重なって見えたのだ。幻覚か?いや違う。

 

上空から、新たな助っ人が駆け付けて来たのだった。

 

 

「エレン!ライナー!ミカサ!アルミン!微力ながら僕も加勢するよ!」

 

 

「ベルトルト!!」

 

 

ベルトルト・フーバー。黒髪短髪の190センチの長身。背が高いのに臆病で気が弱そうな奴だが、これでもあのライナーと親友なのだと言う。しかもその恍けた見かけによらず実技も座学も成績は良く、ミカサ、ライナーに次ぐ猛者である。

 

 

「ほぉ…俺の上を取るとはね『ベルトルト君』。公式通りすぎる戦法ですね。ですが動きは止められました。80点以上140点未満と言ったところだ」

 

 

ベルトルトの身長を活かした真上からの攻撃により、謎赤毛男は両腕を上げ剣を受け止め鍔ぜり合う形になっている。あの謎赤毛男の脅威の『脚』が完全に停止している!攻撃のチャンスだ!

ミカサ!ライナー!頼む!……と言いたいところだが、俺がまたしても二人の進行上に突っ立ってしまっており、邪魔な壁になっていた。これでは俺を迂回せねばならず時間のロスだ。逃げられてしまう。せっかくの隙が無駄に終わってしまう…。謝るのは何度目だろ…ごめん…。

 

だが、希望はまだ潰えてはいなかった。謎赤毛男の背後から、木の影より女性の体格をした人影が姿を現した。

 

 

「ったく、詰めが甘いんだよ。あんた等はさ」

 

 

「アニ!!」

 

 

アニ・レオンハート。金髪の長髪をバンドで固め、いっつも無表情の無口で何考えてるかわからないサッパリした女性。格闘術が得意らしく、模擬戦では俺とライナーも圧倒してしまう実力者である。しかし欲がないのか、あまりその実力を表に出すことはないため、教官たちの評価ではベルトルトの下、目下4番目ということになっている。あと、最近俺によく突っ掛ってくる気がするが、多分気のせいだろう。

 

 

背後を取ったアニが振り被る剣の切っ先が、謎赤毛男の体に迫る!

 

 

「で、背後からとはね『アニ君』。虫唾が走ります。ですが積極性がイマイチですね。これでは仕留められませんよ。90点以上130点未満だ」

 

 

剣が迫っているのと言うのに、謎赤毛男は顔色一つ変えず、冷や汗一つ掻いていない。今や成績上位の4人がかりに囲まれているというのに、こいつは一体どれほどの余裕を持っているんだ?

 

傍から見れば確かに追い詰められている謎赤毛男は、咄嗟にベルトルトの懐に潜り込もうとする行動を取った。

悪い足掻きだ、と悪態をつくアニ。ベルトルトは鍔ぜり合いながら、謎赤毛男の行為から逃れるため急速に後方に下がる。背後から来るアニの攻撃にも備えるためだ。

 

ベルトルトの行動は功を奏し、ついに謎赤毛男の背後はガラ空きとなり、アニの刃が謎赤毛男を捉えた!もし避けられても少し離れた所にベルトルトが待ち構えている。2段構えのこの攻撃。2人とも息の合ったナイスコンビネーションだ!

 

 

その時だった。スゥ…と軽い薄い呼吸音が発せられると共に、場の空気は一変し――状況も転覆した。

 

 

「………このままやり続ければあんたは立体機動装置破損…。あたしとベルトルトは即死か…。おいしくないね…」

 

 

見ると、謎赤毛男はなんとワイヤーウィンチを射出しており、一本はアニ、もう一本はベルトルトに、一体どうやって狙いを付けたのか、こんな芸当が本当に可能なのか?アニとベルトルトの剣を破壊していたのだった。

だが、そこは格闘術に秀でたアニだ。もう一本の剣を咄嗟に取り出して――はいたのだが、狙いは定まらず、謎赤毛男の立体機動装置の基部に狙いがズレてしまっていた。謎赤毛男の剣はいまだ自由に振り回せる状態。アニとベルトルトにとっては首皮一枚の寸止め状態だ。冷や汗物である。

 

 

「いえいえ…。立体機動装置なしでこれ以上、成績上位者のあなた方とヤり合うつもりはありませんよ。転属の挨拶代わりには丁度いい訓練でした」

 

 

鍔にセットされた刀身を排出し、地面にカランと落として見せる謎赤毛男。戦意は無いという証明である。これを見て、アニ、ベルトルト、ライナーも剣を懐に収め戦いを停止した。ミカサはまだ戦意を喪失しておらず立ち向かおうとしていたが、俺がなんとか宥めた。

 

 

「こらぁーーッ!!貴様ら何をやっとるかァァァーーーッ!!!!」

 

 

「ゲッ!やべぇぞお前ら教官だ!きっとジャンの野郎共がチクったに違いねぇ!」

「ライナー!アルミンを頼む!まだ気絶したままなんだ!」

「ふー…。今ヒヤッとしたばかりなのにまたこれ…?ついてないな僕…」

「エレン…早く逃げないと…また評価が下がる…」

「あんたら…チンタラやってないでさっさと逃げるよ」

 

 

教官だ。予期せぬ伏兵の襲来に、各々焦る言葉を口々に、散り散りに逃げ散って行った。

 

チラッと振り返ると、あの謎赤毛男は、その場で立ち尽くしたままだった。あのままあの場に留まれば、教官の説教の餌食になることは間違いないのに…何を考えてるんだ?

こいつは説教を受けるためにこの無意味な戦いを挑んできたのか?馬鹿なのか?…俺には分からなかった――

 

――ただ、一つだけわかったことがある。それは…。

 

 

 

 

翌日。訓練場。

 

 

「今日編入されました。『ジルグ・ジ・レド・レ・アルヴァトロス』です。よろしく」

 

 

長ったらしい、奴の名前だった。

 

 

 

 

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