正反対の二人   作:やまたむ

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迷子の迷子の子猫ちゃん

 その日の夜、私、白鷺千聖はのどが渇き目を覚ました。既に日は跨いでおり、こころちゃんたちはぐっすりと眠っている。

 私は、水を飲むためにリビングに向かう。

 

 コップを食器棚から取り出し、蛇口を捻りコップに注ぐ。

 

「千聖ちゃん?」

 

 私がコップの水を飲み干すと同時に、リビングに入ってくる人影がある。

 

「あら、花音。どうしたの?」

「お、お手洗いに行こうと思ったんだけど迷っちゃって……」

「それで、電気のついていたここにきたわけね?」

「う、うん」

「そう。それじゃ、一緒に行きましょうか」

「うん。お願い」

 

 私は、花音がフラッとどこかに行かないように、手をつなぐと、花音の手を引っ張り、お手洗いへと向かう。

 

「ねぇ、千聖ちゃん」

「なに、花音?」

「ううん、やっぱり何でもないよ」

「そう?」

 

 へんな花音ね。

 そんなことを私は思ってしまう。

 ただ、花音の聞きたいことがわからないわけではない。私は、これまで、何度も同じ事を聞かれた経験があるので、なんとなく、花音の聞きたいことが、推測できてしまうのだ。

 まぁ、それを尋ねる必要はないので尋ねないが。

 花音と雑談をしながら、お手洗いへとつくと、私は、扉の前で座り、花音が出てくるのを待つ。

 

 十数分後、花音がお手洗いから出てきた。

 

「千聖ちゃん、待っててくれたの?」

「えぇ。花音だけだと部屋に帰れないんじゃないかなって」

「うぅ……そ、そんなことない……と、思う」

「そう?それなら、私は先に戻っておくわね?」

「えぇっ!?」

「ふふ、冗談よ。それに、私についてくれば部屋くらいちゃんと戻れるわよ」

 

 まぁ、花音が勝手に動かなければなのだけれど……大丈夫よね?

 できる限りゆっくりと、そして、後ろを確認しながら私は部屋へと歩を進める。

 気づくといつも私が演技の練習している部屋についてしまった。

 

「千聖ちゃん?」

「ごめんなさい、花音」

「ど、どうしたの?千聖ちゃん、もしかして……」

「いえ、そう言うわけではなくて……。その……、いつもの癖で、別の部屋についてしまったの」

「え、えぇっ!?」

「そんなに驚かなくたっていいじゃない。花音みたいに迷子になったわけじゃないんだから」

「そうだけど……。その、ね、千聖ちゃん。私がいいたいのは、癖になるくらい男の子の家にきて大丈夫なのかな?ってことなの」

 

 そう言われるとそうね。最近ずっと、ここにいてうっかり忘れていたわ。

 そのことが伝わったようで、花音が珍しく本気で怒っている。

 私がここまで気を緩めているのは花音と彼の前だけだじゃないかしら。

 きっと、彼が居なければ私は常に気を張って今のように花音に怒られることもなかったのだろう。

 けど、私はこの生活を変えることはないだろう。

 気は相当ゆるんでいてスクープに対する危機感も少し薄いけれど、これでも女優なのだ。

 どんなものに対してもクオリティーは高く維持したい。そのためにも、演技を目一杯できる環境が欲しい。

 これがわがままだと言うことはわかっている。わかっているのだけど、やっぱり、今のクオリティーを落とすわけには行かない。

 それに、今はPastel*Palettesとしての活動もあるのだ。

 

 そんなことを考えていると、花音から名前を呼ばれ、思考の渦から解放される。

 

「どうしたの?花音」

「ううん。千聖ちゃんが難しい顔してたから、ちょっと気になって」

「そう。何でもないから気にしなくてもいいのよ。それよりも早く寝ましょう。明日は色々あるんだから」

「そう……だね」

 

 そう話し終わると私は布団をしき、花音を連れてその布団へと入る。

 ただ、布団の大きさや幅が二人用に出来ていないだけあって、仰向けに寝ると、少しはみ出してしまいそうだった。

 そして、私と花音はこの解決策を話し合い、向かい合って寝ることに決まった。正直、花音の顔が近くにありすぎて少し恥ずかしいが、そこは我慢だ。

 

 そして、私は気づいたらぐっすりと眠っていた。

 

 

 ※※※

 

 俺はいつもの日課をこなすため、早朝(大体五時くらい)に目を覚まし、弓道場へ向かっているときだった。

 

「あっ!祐貴のにいちゃん!ねぇねぇ、かのちゃん先輩見なかった?」

「松原さん?見てないけど、どうしたんだ?」

 

 どうやら、松原さんと千聖が部屋から抜け出し、そのまま部屋に戻っていないから探しているらしい。

 その過程で松原さんが重度の方向音痴ということがわかり、下手すると夜の内に外に出かけた可能性があるそうだ。

 

「千聖が一緒ならこの家の中だと思うけど……、この家隠し部屋含めて部屋が無駄に多いからなぁ……」

「もしかして、弓塚さんも知らない部屋があったり……?」

「するな。父さんから渡されたとき百八ほど隠し部屋があるって言ってたし」

「(なんで煩悩の数だけ隠し部屋があるの!?て言うか弓塚さんのお父さんっていったい何者?こころの家とつながりあるみたいだし、結構なお金があることは間違いないんだけど……)」

 

 奥沢さんの、こいつ……何者っ?という視線を無視し、俺は千聖と一緒ならどの部屋にいるのか予想を立てる。

 おそらく、リビングか迷って入ってしまうなら弓道場か、庭くらいだろう。

 そして、この中から騒がれそうに無い場所は、リビングと庭のため、弓道場へと目星をつけ俺たちは弓道場へと足を運ぶ。

 だが、そこには誰もいなかった。うん、千聖と一緒なら迷うはず無いからね。

 となると、千聖が行きそうな部屋で、それで、薫たちの部屋にいない理由は……。

 

 俺は、千聖が行きそうな場所で自然と消していた選択肢が浮かび、そこの部屋に向かう。

 そのとき、薫たちハロハピメンバーが付いてきているのを確認する。ていうか、しないと俺は千聖たちが起きているのかどうか確認することが出来ない。

 というのも、昔中一位の時だったか、千聖の着替え中にノックもせず入ったせいで気絶させられた経験があるのだ。あの時の千聖はマジで怖かった。俺に反応させないくらいの速度で蹴りをお見舞いしてくれたからな。千聖、運動音痴のはずなのに……。

 とまぁ、そういった事情もあり、男の俺が女の子の寝ているもしかしたら着替えているかもしれない部屋には入れない。

 つまり、確認のしようがないのだ。

 だから、同じ女の子のハロハピメンバーがいないと困るのだ。

 だが、そこにいたのは、奥沢さんただ一人だった。

 

「ねぇ、奥沢さん。薫たちはどうしたの?」

「えぇっと、そのぉ……」

「あぁー、うん。その反応で察したよ。苦労してるんだね、奥沢さん」

「……わかってくれますか」

 

 あぁ、わかるとも。弦巻ちゃんとはぐみちゃんは常時暴走中だからな。普通の人や話の通じる人は大抵疲れる。

 

「それで、こころたち手分けして探すみたいなんですけど、弓塚さんはどうします?」

「心当たりがあるから付いてきてもらえると助かる」

「えっ?花音さんの行くところに心当たりが?」

「いや、松原さんじゃなくて、千聖の方にあるんだよ」

「そうなんですね。でも、なんで弓塚さんはそのことをこころたちに言わなかったんですか?」

「言おうと思って振り返ったら君しか居なかった」

 

 そう言うと奥沢さんは、バツの悪そうな顔をし、顔を背ける。

 

「そういえば、なんであたしがいると助かるんですか?」

「あぁ、それなんだけどね。俺中一の時やらかしてそれ以来女子のいる部屋に入るときは確認してから入るようにしてるんだけど、反応がないときがね?ほら、寝てるかもしれないじゃん?」

「なる程。それで、あたしが必要な訳ですね」

「そそ。寝顔とか見られたくないでしょ?」

「そうですね……」

 

 奥沢さんの同意が取れたので、千聖が居るであろう部屋に向かう。この際、あの三人の事は置いておこう。

 そして、いつも千聖に貸している空き部屋の前に付いた。

 といっても、千聖の私室に変わっていると言える。

 これ、父さんたちの狙い通りになっていないだろうか?

 そんな不安はあるものの、俺と奥沢さんは件の部屋の前に付いた。

 

「それじゃ、奥沢さん。任せた」

 

 俺はそういって扉に背を向ける。

 

「……何で開ける前から?」

 

 そんなことを呟かれたが、理由は先ほど言ったばかりなので、まぁいいかといって奥沢さんは軽く扉をノックして、声を掛ける。

 

「白鷺先輩、花音さん、起きてます?」

『美咲ちゃん?よくここがわかったわね?』

「弓塚さんに案内して貰ったんですよ。今近くにいますけどどうしましょうか?」

『そのまま背を向けさせたまま、美咲ちゃんだけ入ってきてちょうだい』

「……えっ?なんで、弓塚さんが背を向けてるのがわかるの?」

『ふふ、幼なじみの特権ってやつかしらね?』

 

 どうやら、扉越しに何か話しているようだ。そして、俺を振り向かせないようにといったのはきっと着替えているからだろう。

 うん、俺も中一の時の二の舞にはなりたくないからその気遣いには感謝するよ。

 

『祐貴、あなた日課、終わってないんじゃないの?』

「あー、うん。ていうか、なんで、千聖はそこにいんの?」

『つい、うっかり、よ』

「さいですか……」

 

 俺は千聖になぜ、その部屋にいるのか尋ねたが、どうやらちゃんと答える気はないようだ。

 

「それじゃ、あとは任せた」

『はいはい。朝ご飯は冷蔵庫の中?』

「そうだぞ。弦巻ちゃんたち腹減らしてるだろうから」

『あぁー、確かに。花音さん探すついでに探検しよー!なんて言ってましたから』

『ふぇっ!?わ、私を探してたの?』

『みたいね。あぁ、それで』

 

 どうやら、中で話が盛り上がり始めたので、俺は一声掛けてから、部屋の前から立ち去る。

 

「それじゃ、俺弓道場いるから、何かあったら声かけてくれ」

『わかったわ。また後でね』

『途中でこころたちとあったら、リビングに行くように伝えといてください』

『なんか、ごめんね』

 

 

 ※※※

 

 

 それから、時間が経ち約一時間ほど。

 俺は、弓道場からリビングに来た。

 

「あれ?弦巻ちゃんたちは?」

「まだ、あってないみたいよ。私は花音がこころちゃんたちを探しに行って迷子にならないように監視しているところ」

「美咲ちゃんだけで大丈夫かなぁ……」

「花音が一人でこの家をふらつく方が危ないわよ」

「酷いよ千聖ちゃん」

「はぁ……あー、松原さん。携帯で弦巻ちゃんに連絡取ってもらえますか?場所さえわかればすぐ向かいますんで」

「あ、うん。そうだよね。……なんで今まで忘れてたんだろ?」

 

 松原さんの呟きを聞き流し、俺は朝飯の準備を整える。

 

「昨日もそうだったけど、弓塚くんすごいね」

「えっ?なにが?」

「その、料理できるのが」

「まぁ、小学生の時からやってるから。去年から千聖の栄養管理してるの俺だし」

「そうなのよね。なぜか実家にいても、お母さんが祐貴にレシピを頼んでいたりするのよ。もう慣れたけど」

「俺も慣れた」

 

 そんな会話をしつつ準備が整ったので、テーブルへと運ぶ。

 

「ほら、レンジで暖めただけだけど」

「ありがとう」

「ありがとう、弓塚くん」

「べつに、お礼なんて良い」

 

 と、俺も自分の定位置に座ると、朝飯を食べ始める。

 

「そういえば、祐貴」

「なんだ?」

「あなた、バイトしても大丈夫なの?」

「あぁ、そのこと?大丈夫じゃないだろ。普通に恨み買ってるわけだし。まぁ、返り討ちに出来るからどうでもいいんだけど、バイト先に迷惑は掛けられないし……。どうしよ?」

 

 本格的にやばい気がしてきたぞ。

 なんで、このタイミングでそんなこと聞くんだよ。ただでさえ不安なのに余計不安になるだろ。

 って、この話絶対松原さんついてこれないだろ。

 

「あ、ううん。私のことは気にしなくて良いよ。二人のお話はよくわからないけど」

「ごめんなさい、花音」

「すまんな、松原さん。まぁ、なんだ、家にいる間の安全は保証しよう」

「それ、泥棒に入られて放置してる人の言い分じゃないわよ?」

「そうか?」

「そうよ」

 

 そんなやりとりをしていると、奥沢さんが弦巻ちゃんたちを引き連れてリビングへと入ってきた。

 

「うへぇ、もうくたくた。どうやったら、あんな状態になるの……?」

「みーくんお疲れ。でもあれははぐみたちも予想外だったよ」

「そうだね。まさか足元がいきなり崩れるとは思わなかったよ」

「そうかしら?私は楽しかったわよ?」

「あの状態を楽しめるのはこころだけだって」

「それより、奥沢さん、薫、はぐみちゃん、弦巻ちゃん、朝飯食わないか?」

「それもそうね」

 

 弦巻ちゃんたちは各自好きなところに座り、料理が並べられるのを待っている。

 その時ちらりとだけど弦巻ちゃんの方をみると、昭和初期くらいの服装をした小さな子供が見えた気がしたが、気のせいだろう。

 

 そんなこんなで俺たちの騒がしい一日が始まった。

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