正反対の二人   作:やまたむ

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分岐点

『お母さん、これなに?』

 

『ん?あぁ、それ?それはクトゥルフ神話TRPGのルールブックね?どこで見つけたの?』

 

『お母さんの鞄の中!!』

 

『こら!まーたそんなことして!女の子にもてないよ!』

 

『別に良いもん。ちーちゃんにだけ嫌われなければ』

 

『そのちーちゃんにも嫌われるかもよ~?』

 

『それは……困る』

 

『そうでしょ~。なら、今度からはそんなことしない。約束できる?』

 

『うん!それで、お母さん。これどうやって遊ぶものなの?』

 

『ふふ。ちょっと待ってなさい』

 

そう言って母さんは千聖と薫を連れてきて、サイコロをたくさん用意していた。

 

そんな、ありふれた日常の一ページ。

 

──────────────────────

 

「よし。こんなもんでいいかな?」

 

俺はそう言いノートを閉じる。

 

「それにしても千聖、遅いな。連絡も来てないし」

 

ーなにかあったのか?

 

俺はふと、今日までの千聖を思い出し、こう思う。

 

千聖の溜に溜めた感情がもうそろそろ爆発したのではないだろうか?

 

と。

 

俺は常に千聖を傍で見てきた。だからこそ昨日も声を掛けるときは、言葉を選んだしできる限り仕事のことを忘れさせようと心掛けていた。

 

まぁ、ただ、忘れすぎて役になりきれないのは本末転倒なので、そこら辺には配慮していたが、それが裏目にでてる可能性もある。

 

俺はその可能性を否定しようにも否定できなかった。

 

なぜなら、俺は『ただの少女』である白鷺千聖は知っていても、『芸能人』である白鷺千聖はよく知らない。

 

けれど俺はその二つの狭間で悩んでいる白鷺千聖は知っている。

 

だからこそ千聖に負担を掛けるような事はしたくないのだ。

 

俺はここで電話を掛けるか迷ってしまう。ここで電話をかけて千聖の負担を減らす事ができるはずだ。ならなぜ迷う。迷う必要なんてないはずだ。

 

そこで俺はふと自分の肩書きを思い出した。

 

『舎弟を複数持つ不良』

 

それが今、俺の持つ肩書きだ。決して『芸能人』の白鷺千聖と関われるような肩書きではない。

 

そして、俺は気づいた。

 

きっと俺は、『芸能人』の白鷺千聖に声を掛けるか、『ただの少女』の白鷺千聖に声掛けるかを迷っていたのだ。

 

俺がその事に気づいたとき、自然と電話を掛けることをやめていた。俺は千聖が帰ってきたとき、『ただの少女』である白鷺千聖を迎えてあげよう。

 

そう俺が思ったからだ。

 

そう決めると俺は直ぐに晩飯の用意を始める。できる限り千聖の好物でかためたいけど、なにか食べて帰るかもしれないから多く作らなくても良いか。

 

俺が調理を始めて数分、経つと家の戸が開かれる音が聞こえてきた。

 

「ただいま」

 

「おう、おかえり。晩飯食って帰ってきたのか?」

 

「えぇ。少しだけ」

 

「そうか。それなら別に良いんだ」

 

「あら、何か訊きたいんじゃなかったの?」

 

「いや、まぁ、結構あったけど、今のお前の顔を見ればなにがあったかぐらい、分かるからな。無理して訊こうなんてしねぇよ」

 

「そう……」

 

「まぁ、でも、お疲れさん。ゆっくり休んで明日に備えろよ?」

 

そう言うと、「そうさせて貰うわ」と言ったので一安心だ。

 

あ、でもどうしよ?晩飯二人分作っちまった。まぁ、ひとりで食えば問題ないか?

 

そんな俺の様子を見たのか、千聖が食卓につく。

 

「どうしたの?それ晩ご飯なんでしょ?」

 

「え、でも、千聖食って帰ってきたって……」

 

「あくまで『少し』よ。まだお腹いっぱいってわけじゃないわ」

 

それを聞いた俺は口元が緩みかけたので引き締めて、料理を運ぶ。

 

その時足取りが軽くなった気がするが気のせいだ。

 

そんな事するから不良と思えないんだよ、とか言う突っ込みはなしな?

 

そんなこんなで、千聖と晩飯を食べ始める。

 

時刻は夜9時だ。いつもなら寝ているけど、千聖が帰ってこないのと、『シナリオ』制作に時間がかかったことが原因なのだが、まぁ、この際置いておこう。

 

俺はそう思った。

 

「そう言えば、いつもなら寝ている時間なのに起きていたのね?」

 

思ったのだが、千聖がその事を訊いてくる。

 

「まぁ、ちょっとシナリオ制作に手間取ってな」

 

本音を言うと千聖が心配だったのだが、恥ずかしくて言えるはずがない。て言うか言いたくない。

 

「そのシナリオ誰とするつもりなの?」

 

「ん?あぁ、後輩呼ぼうと思ってるけど。それが、どうかしたのか?」

 

「いえ、貴方のバッドエンドシナリオの被害者が増えると思うと、ちょっと、その人達がかわいそうと思っただけよ?」

 

「ちょっ、人聞きの悪い事言うなよな。俺の作るシナリオは全部ハッピーエンドだろうが!?」

 

「あれのどこがハッピーエンドなのかを教えて貰いたいわね……」

 

と、言われたので思い出してみる。

 

世界を笑顔にしたい少女が暴走して世界中の人から感情を奪ってみんな笑うだけの世界になったシナリオに、いじめをなくしたいと思った父親が世界中の人を邪神の力で一掃したシナリオとかじゃなかったっけ?

 

「どのシナリオを思い出しても全部ハッピーエンドだったぞ?」

 

「貴方のシナリオに対しての考え方だけは人でなしのレッテルを貼れるわね」

 

「それ、褒めてないだろ?」

 

「ふふ、それはどうかしらね?」

 

千聖が褒めていないのは確かなので、もうその事に触れるつもりはない。て言うか触れたら死ぬ。主に俺の心が。

 

「ところで、祐貴。もうそろそろ寝なくて大丈夫なの?」

 

そう言われると、なんだか眠くなってきたな。あ、でも食器どうしよ?まぁ、明日洗えばいいか。

 

「んじゃ、食器、流しに置いといてくれ明日洗うから」

 

ふわぁー、と欠伸をして、洗面所に向かい歯を磨く。

 

鏡を見て物凄い眠気眼な俺がいて正直驚いたが、それ以上は考えることが出来ず、うがいをしたのちにさっさと自室に戻る。

 

俺は布団に入るとすぐに意識を手放した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一人残された居間で私は今日あったことを思い出していた。

 

『私がなんでも出来るって思わないで!』

 

そう口から出てきたのは私が自分自身に向けられた言葉を、素直に受け取れないからだと花音から言われた。

 

私は一人で抱え込んでしまう癖がある。それ故に、私は素直に言葉を受け取ることが出来なかった。

 

きっと、彼はその事を知っていたのだろう。でなければ昨日そのような事を促す言葉を使わないはずだ。

 

本当に彼は人のことをよく見ている。そして、人にどう接すれば、その人のことを不快にさせずに、話すことが出来るのか、と言うのもよく理解している。

 

そのおかげで私は何度も『ただの女の子』に戻っていたし、『女優』としても振る舞うことが出来た。

 

だけど、彼はどうなのだろうか?

 

私に自由を奪われた結果彼は不良となってしまった。

 

私は彼になにかしてあげれただろうか?それは否だ。

 

私は彼に自由に生きて欲しい。

 

私との約束を忘れて『白鷺千聖を守る弓塚祐貴』ではなく、『普通の男の子である弓塚祐貴』として生活して欲しい。

 

けれど、私にそれを言う資格はない。だって、私は彼の自由を奪ってしまった原因なのだから。

 

そんな事を考えていると気付けば十時を過ぎていた。

 

もうそろそろ、お風呂入らなくちゃいけないわよね?

 

そう思い、私はお風呂に入る準備を整える。さすがに、ハプニングで男の人に裸を見られました。なんて、話にならないもの。

 

それに明日はちゃんとパスパレの皆に謝らないといけないしね。

 

ー数十分後ー

 

のぼせることもなく、何のハプニングも起こらず、無事お風呂からでたことにより、少し喉が渇いてきた。

 

そして、私は冷蔵庫を開け、フルーツ牛乳を取り出すとコップに注ぐ。

 

それを一息で、とはいかないもののゆっくりと飲み干していく。

 

フルーツ牛乳を飲み干した私は、一息つくと、ポツリと言葉を漏らす。

 

「『助けてよ。ゆうくん』か。最後に言ったのはいつぐらいだったかしら?」

 

何度も思い何度も唱えた台詞。

 

沢山の役をこなしてきたけれど、どうしてもこの台詞だけは恥ずかしい。

 

それは、私が彼に甘えてきた証拠であり、自身の弱さの現れだからだと思うからだ。

 

「まぁ、けど、彼には助けて貰ってばかりね。たまには私が自分で解決しましょう」

 

花音に既に手を貸して貰っているけれど、彼の手を借り続けていた時よりは、マシになっただろう。

 

私はそんな事を思いながら、彼に借りている空き部屋へと向かい布団へ入り、ゆっくりと目を閉じた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ー翌朝ー

 

俺は目が覚め、いつもと同じように、弓道場へと足を運び、数回射った後に朝食の支度を始めた。

 

その支度をしていると、化粧が終わったのか千聖が居間に入ってくる。

 

これは今更なのだが、千聖の顔色がずいぶんとよくなった。恐らく十一時過ぎには寝るようになったのだろう。

 

正直千聖が徹夜をしないことに驚いているのだが、ちゃんと体を休めているようなので安心した。

 

「おはよう。千聖」

 

「おはよう。祐貴」

 

そう言葉を交わすと、俺は朝飯作りに戻り、千聖は食卓につく。

 

その時千聖の目が一瞬だけ嬉しそうに輝いていたのを俺は見逃さなかった。

 

「はいはい。そんな目を輝かせなくてもすぐ出来るから」

 

「べ、別に輝かせてなんて……」

 

「分かってるって。あれだろ?久しぶりに好物がでて驚いてるだけなんだろ?」

 

「そう言うわけでもないのだけれど……」

 

「まぁ、良いだろ?たまにはこういう風に話すのも」

 

「そうね。それにしても、貴方今日やけにテンションが高くないかしら?」

 

それを聞いたとたん、ビクッと体が反応する。

 

た、確かに、千聖のなにか決心するような顔を見て、なぜか嬉しく思ったのは事実だし、それに気分が高まったことも事実なので否定しない。

 

だけど、これを聞いた千聖はどう感じるだろうか?

 

きっと、『お前何様だよ?』と思うに違いない。

 

「き、気のせいだろ、気のせい」

 

俺はそんな恐らくバレバレなごまかしをするも、千聖は気にするようなそぶりもなく、ただただ微笑んでいた。

 

「んだよ。別に笑うことないだろうが………。って、忘れるところだった。今日うちの学校の体育祭があるから、あんまり出歩くなよ?」

 

「貴方の学校の体育祭何をするのよ?」

 

「けが人が続出するだけでそれ以外何もないぞ?」

 

「それって普通の体育祭じゃないわよ……」

 

え、そうなのか?中学通ってないから普通の体育祭ってやつを忘れてしまったのかもしれないな。まぁ、競技自体は完全におかしいとは思っていたけどさ。

 

て言うか、一日係で一つの競技、もとい乱闘をするわけだけど、あ、この段階でおかしいわ。うん。

 

「まぁ、けど、うちの体育祭はこの町全体を使うから危険も伴うんだよなぁ」

 

そう言うと、千聖は「だからなのね」と言って千聖なりに納得しているようだ。

 

ただ、その時千聖の顔が寂しそうだったのは見間違いではないのだろう。

 

「ま、去年は俺が優勝したし、最低限のケガで終わらせるから安心しろよ」

 

「そもそも、怪我をする段階で学校行事としてどうなの?」

 

そう言われても理事長が決めたことだしなぁ。

 

まぁ、町内に多大な迷惑を掛けるから迷惑料として金も出しているみたいだし、昼休憩は商店街やファミレスで昼をする事が義務付けられてるからギブアンドテイクってやつなのか?

 

「大丈夫だって、病院と飲食店が忙しくなる程度で」

 

「だから、その病院が忙しくなること事態………。って、もう良いわ」

 

「そうか?まぁ、けど、ケガしない程度に頑張るわ。お前、今日なにか行動起こすんだろ?」

 

「なんで、貴方がそれを?」

 

「いや、昨日お前がなにか決心してるような顔をしていたから」

 

「そ、そう?」

 

「おう。お前と十数年幼なじみしていたからそのくらいはすぐに分かる」

 

そう言うと、「そう。そうよね」と言っていた。その時何かを思い出すような表情をしていたので、きっと小学生の頃を思い出しているのではないだろうか?

 

それに今のこいつになら、昨日まで言ってこなかった言葉を掛けられるはずだ。

 

「千聖」

 

「なに?」

 

「頑張れよ」

 

俺が『頑張れ』と言ったことに驚いたのか、千聖が目を丸くして、すぐに、「えぇ。頑張るわね」と返してくれた。

 

「それじゃ、俺は学校に行くから、お前も近所の人に見られないように気をつけろよ?」

 

「えぇ」

 

「そんじゃ、行ってきます」

 

俺はそう言って自宅を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

私は彼が玄関から出て行くところを見送りこう呟いた。

 

「行ってらっしゃい」

 

それにしても、彼が『頑張れ』なんて言ってくるとは思いもしなかったわ。いつもなら『無理するなよ』か『体崩さないように気をつけろ』だったのだから。

 

だからこそ彼の言葉に目をまるくしたのだが、それだけだった。

 

自然と苛立つことはなく、素直に受け入れることが出来た。

 

きっと彼は私が素直に受け入れることを分かっていたのだろう。

 

本当に彼には適わない。

 

私の表情を見ただけで体調は言い当てるわ、精神状態を把握するわと、彼がたまに人間なのか分からなくなるときがある。

 

けれど私はそんな彼を心強く感じる。

 

いつも傍で彼を見てきたからその背中を見ることで安心出来る。

 

そして、そんな人から、『頑張れ』と言われたのだ。そんな人から背中を押してもらえたのだ。

 

なら、彼に胸を張れるような結果を残さないといけないだろう。

 

そう思い私も彼を追って彼の家を後にした。

 

後ろから何者かが見ていることに気づかずに。

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