正反対の二人   作:やまたむ

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過去と今

その凍った空気のなか、祐貴だけはのんびりと間食の準備をしていた。

 

そして、固まって数分後、ズズッとお茶をすする音と、鹿威しのカコンと言う音を皮きりに、祐貴の父、和人と、祐貴の母、悠香は祐貴に詰め寄る。

 

「あんた、それでも千聖ちゃんの幼なじみなの!?冷静に考えてわかるでしょ!!?Pastel*Palettesのメンバーだって事ぐらい!!」

 

「そうだぞ!!お前、文字通りの産まれてからの付き合いのくせに千聖ちゃんの仕事をたまに手伝っているくせに知らないとかふざけんなよマジで!!」

 

「いや、芸能人だからこそ訊いたんだけど……」

 

「意味わかんないわよ!!」

 

「て言うか、謝れ!!パスパレのメンバーに謝れバカ!!」

 

「しょうがねぇだろ!!俺、テレビとか見ねぇんだから!!」

 

そんなバカ騒ぎしている家族を横目に、千聖はお菓子の置かれた卓袱台につく。

 

「ち、千聖ちゃん?止めなくてもいいの?」

 

「いつもの事よ。それに止めようとしたら『うるさい、変態』っていわれのない罵倒を受けるわ」

 

「うん。止めないでいよう」

 

その短いやりとりを見ていなかったのか、はたまた、見てもやっぱり止めないとと言う正義感が働いたのか、パスパレのキーボード担当の若宮(わかみや)イヴが止めようと動くが、

 

「黙れ変態」

「うるさい変態」

「黙ってて変態」

 

といった謂われのない罵倒を受ける。

本当に理不尽である。ファンが見たらこの一家に対してのバッシングの嵐は間違いないだろう。

 

「うぅ……チサトさーん」

 

勿論そんな理不尽な罵倒に彼女が耐えられる訳もなく、イヴは千聖に抱きつく。

 

それを千聖は受け止め、イヴに「だから、言ったじゃない」と言い聞かせる。

 

まぁ、その光景を見て血を吹いて倒れるどうしようもないバカな親がここにはいるのだ。

 

そのバカな親とは、祐貴の両親である。

 

なぜ、二人が血を吹いて倒れたのかというと、

 

「イヴチサ……だと……!!」

「違う……わ……」

 

百合が大好物だったからに他ならない。

 

因みにこのあと悠香が続けた言葉は「チサアヤこそ至高」だったのだが、意味が分からないので置いておこう。

 

まぁ、その意味を何となく理解してしまったヴォーカル担当の丸山彩は顔を真っ赤に染めてしまうのだが……。

 

「よし、それじゃ、バカな二人は置いといて、君らの名前教えてくれないか?このままだと何かと不便だし」

 

と、平静を装っているが、祐貴も半端なく動揺していた。

 

それは、付き合いの長い千聖にはもろに伝わっているし、他のパスパレメンバーも見抜いて生暖かい目でその言葉に同意した。

 

「そんじゃ、まぁ、改めて。俺は弓塚祐貴。千聖の幼なじみで、趣味は弓道。どこに通ってるかは聞かないでくれると助かる」

 

「う、うん。それじゃ、次は私が。Pastel*Palettesのヴォーカル担当の丸山彩です。ど、どうしよう。こんなことになるならこういうときの練習しとけば良かったよぉ~

 

「あはは、彩ちゃんは相変わらずだなぁ。あ、あたしは氷川日菜。パスパレでギターやってるよー」

 

「まぁ、それが彩さんらしくていいじゃないですか。あー、それと、自分は大和麻耶って言います。パスパレではドラムを担当しています」

 

「はっ!ワタシはなにを!?」

 

と、千聖によりある程度落ち着いたイヴが声を上げる。

 

「ほら、イヴちゃん。自己紹介」

 

「あ、はい。ワタシは若宮イヴともうします。日本人の父とフィンランド人の母がいます。パスパレではキーボードを担当しています」

 

「因みに私はベースよ」

 

その会話で何となく、千聖がバンドを事務所の意向で組んでいることを祐貴は察した。

 

だが、祐貴が理解したのはバンドを組んだところまでで、アイドルバンドと言うことは理解していない。

 

「へぇー。それで、君らにとっての千聖はどんな感じか訊いても?」

 

それを聞いた千聖は、何かいやな予感を感じる。

 

そのため、口を挟もうとするが、復活した悠香に口を押さえられる。

 

だが、その光景を見ていたものはあまりおらず、気づいていた祐貴は白けた目を向けていた。

 

まぁ、それもすぐに目を戻してパスパレのメンバーに続きを促す。

 

「うーん。私にとって千聖ちゃんは……」

 

そう彩が、言ったことを皮きりに今回、千聖がうまく行かずに腹をたてていた理由などを聞いた。

 

千聖は舞台の稽古中に呟いた言葉は幸いにも聞かれておらず、安心して息をついていた。

 

そんな千聖の様子を見ながらも、パスパレの話を聞く祐貴は近所のお兄さんのような感じだった。

 

「それで、小さいときの千聖ちゃんの話も聞いてみたいなぁ」

 

「はい。ワタシも気になります」

 

「自分もっす」

 

「あたしもー」

 

と、話終えたパスパレメンバーは話を千聖の幼少期に移す。

 

「祐貴?」

 

「どした、千聖?」

 

「あなたが話さなくてもいいのよ?」

 

そういう千聖は必死だった。とにかく、自分の幼少期を祐貴に話させる様なことはしたくなさそうだった。

 

それはしっかり祐貴に伝わっており、ある程度千聖の口から話された。

 

祐貴はそれに対して少し補正をかけたり、改竄されてないか自分の記憶と照らし合わせながら、話に参加する。

 

その二人の共同作業を見ていたパスパレのメンバーと祐貴の両親は後にこういった。

 

『あの二人の間には信頼関係とは別種の何かがあると思う』

 

と。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

パスパレから千聖の幼少期について話を聞きたいと言われ、俺は様々なことを言わなかった。

 

まぁ、言わなかったことと言ってもそう大したものではない。

 

主に千聖が苦手だったものや、黒歴史認定していた時の話をしなかっただけなのだから。

 

それに、生まれたときからのつきあいである俺と千聖だからこそ起こる論争だってあった。

 

その内容は『どっちが先に生まれたか』と言う内容から始まり、『どっちが兄姉か』という話だ。

 

実際俺と千聖はタッチの差で生まれたらしいのだが、これが、コンマ数秒も変わらないらしく、決着が付かない。

 

また、俺と千聖は互いのことを弟や妹の様に感じる場面が多々あるため、そういった内容に発展しやすいのだ。

 

そんな、パスパレのメンバーとの交流は夕方まで続いた。

 

まぁ、夕方になって外で起こっていた喧騒が鳴り止み、漸く外にでれるようになったから、と言うのがこの交流の目的だったりする。

 

「あれ?なんか静かになった?」

 

「もしかして終わったの?」

 

「あぁ、終わったな。まぁ、閉会式はないから、俺のことは気にしないでいいぞ?」

 

「閉会式?あ!そう言えば弓塚さん、今日体育祭でしたね。でも、なぜ閉会式がないのでしょうか?」

 

「うちの学校の体育祭、怪我人や気絶する生徒が続出するから……」

 

俺は苦し紛れにそう言う。

 

「それに、弓塚クンの学校の体育祭と外の喧騒が関係あるって言い草だったし」

 

「それより早く帰った方がいいんじゃないか?ほら、家の人も心配するだろうし」

 

「それもそうだね。それじゃぁ、私たちはこれで」

 

と言って丸山さんたちは立ち上がり、玄関へと向かっていく。

 

ただ、そのとき氷川さんの顔がにやけていたので、俺がそう言いだした理由について見当がついたのだろう。

 

まぁ、おそらく気づいていないのは丸山さんと若宮さんくらいなので、あの二人が話さない限り何も問題はない……だろう。

 

「それで、千聖。お前は帰らないのか?」

 

「いえ、帰る予定だったのだけど……」

 

そう言って千聖は後ろを振り返る。

 

そこにはサムズアップしたバカなおや二人が立っていた。

 

「なるほど、説得させられたか……」

 

「どちらかというと脅迫の方が近かったわね」

 

と、俺のコメントに対し、千聖が返してくる。

 

「酷いわねー千聖ちゃん。私はそんな事してないわよ。あくまで、今外でたらまた、千聖ちゃんが狙われるんじゃないかって心配して、とどまるように言っただけじゃない」

 

その、母さんの言葉にうんうん。と父さんも頷いている。

 

「と、いうわけで今日も泊まらせてもらうわね?」

 

俺はそう言われ、ため息をついたが、その要求を断ることができなかった。

 

そのとき後ろの方でよしっ!と言う声が聞こえてきたが、この際スルーしておく。

 

──────────────────────

 

『ゆうくん、ちーちゃんまってよー』

 

『薫、早く早く』

 

『はぁ……はぁ……。ゆうくん、早すぎよ。私休憩したいわ』

 

『うーん。まぁ、いっか。薫ー!休憩にするよー』

 

 

 

『ふふ。あんなに手を握っちゃって……』

 

『いいわよねー。青春って』

 

『お前たち、ゆうくんたちはまだ小学生なんだぞ?』

 

『いいじゃねぇか十夜。あいつらが楽しそうなんだから』

 

『まぁ、それもそうだが……』

 

『がんばって、薫!』

 

『薫、こける演技をするんだ。そして、ゆうくんを……』

 

『この二人も相変わらずだな』

 

 

そんな、平凡な過去。

 

誰もが持っている過去。

 

そんな過去という幻想にとらわれてしまった私。

 

私は彼を■■したい。

 

そんな感情はすぐに私自身で否定した。

 

彼を■■する事はできない。

 

だって彼は私とは相容れない道に進んでしまったから……。

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