『こんなとこで死ねるかァァァアアアアア!!』
そのときの俺は死にたくないと、こんなことで死ねないと強く思っていた。
そう、師匠が俺を未開拓の山奥でヘリから紐なしバンジーをさせたせい(お蔭)で受け身を取れるようになり、走馬燈が見えたことによって、なぜか、ゾーンと呼ばれるものに入れるようになった。
師匠曰わく、「元々ゾーンにはいるだけの器はすでにできあがっていた」らしい。
だが、そんなこと言われても当時の俺は納得できるはずもなく、そのときは師匠を心底恨んだ。
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体育祭が終わり、高校生活二度目の夏休みがやってきた。いや、夏休みがやってきてしまった。
恐らく、俺ほど夏休みが来て欲しくないと思っている学生はいないだろう。
「やってきてしまった……今年もこの時期が……」
そのことがうっかり口に出してしまい、周囲の人たちに不信感を抱かせてしまう。
そして、その視線に耐えられず、俺は否、俺たちは近くにあった羽沢珈琲店に入る。
「いらっしゃいませー。お好きな席にどうぞ」
そう言われ、俺たちは適当な席につき、飲み物とケーキを注文する。
「それで、話ってなにかしら?」
俺は同行者に問われ、手に掻きまくった汗をズボンで拭った後、一息吐き、周囲に聞き耳を立てている一がいないか確認して、
「いいから、早くしてくれないかしら?」
同行者から焦らすなと突っ込みを入れられた。
「すんません。まぁ、話っていってもバイト探すのを手伝って──」
「やるわ」
俺がバイト探しを手伝って貰えるか聞く前に体をテーブルに乗り出し、クリーム色の髪をポニーテールにした同行者の少女と言ってきたが、千聖はやる気に満ちた目で俺の目を覗き込んでくる。
ちなみになぜ千聖がポニーテールにしているかというと、千聖は今日オフで元々千聖と千聖の妹が出かけるところに、俺が連絡を入れたせいで、千聖は予定を変更して俺に付き合ってくれることになった。
そのとき千聖の妹が何か言っていたらしいのだが、そこら辺ははぐらかされた。
まぁ、今はそのことは置いておこう。
「マジでいいのか?おまえ忙しいだろ?」
「えぇ、それに、ここも募集していたはずよ?」
え、マジ?
俺の考えていることが顔にでていたのか、「本当よ?」と言ってくる。
そして、その光景を見ていたのか、店員さんと言うか、この喫茶店の娘さんが話に入ってきた。
「あの、アルバイトをお探しなんですか?」
「あぁ、父さんが仕送りを止めるって言って、バイトを探さないといけなくなったんだよ……」
「そ、それは災難でしたね」
「気にしなくてもいいのよ?彼が親の仕送りに頼りすぎていただけだから」
「いや、それは確かだけど、父さんたちがバイトしなくていいって言ってたんだからな?」
「あら、そうなの?まぁ、貴方がアルバイトをして、余計なことを引き込まないか心配しての事だったんでしょうね。つぐちゃん、この人色々と黒い背景があるけれど大丈夫かしら?」
千聖がそう言うと、羽沢さんは、「えっ?」と頭をひねらせ、千聖の顔をまじまじと見て、ようやく合点がいったのか、目を見開いて驚いていた。
「えっ、もしかして千聖さん……なんですか?」
「あら、もしかして気づいていなかったの?」
「あぁ、わかる。俺も千聖があらかじめうちにくるって知らなかったら三十秒くらい気づかなかったと思う」
俺がそう言うと、
「三十秒で気づけるのね」
「三十秒で気づけるんですね」
と返された。えっ?気づけないの?
まぁ、恐らく千聖だから気づけるのかもしれないかもしれない。正直千聖以外の芸能人は、この前会ったパスパレ以外は知らないので、道端で芸能人とすれ違っても、興味すらわかないし気づきもしないだろう。
そう言うことを踏まえて考えてみると二人の言い分はわからなくもないかもしれない。
そんな俺の様子を感じ取ったのか、呆れたように千聖はため息をつく。
俺がそれに、ジトッと視線を向けると、「なにか?(威圧)」という微笑みを向けてきて、俺は目をそらした。
そのそらした視線の先には、羽沢さんがいて、困惑していた。
「それで、話を戻すけど、つぐちゃん、この人大丈夫そう?」
「軽い面接はあると思うので、父に話は通しておきますよ」
「お願いするわね」
俺が何も言わないまま、話が進んでいて、千聖の人望がよくわかる。
そして、その話が進んでいるうちに、注文した品ができたらしく羽沢さんが呼ばれ、その品を取りに向かっていた。
その背中を見送ると千聖は「さて」と前置きして、確認作業を始める。
「面接があるってことは履歴書書かないといけないけど大丈夫?」
りれきしょ?なんだそれは?
そんな俺の疑問は予想していたのか、「やっぱり……」と呟きながら伊達眼鏡をクイッと持ち上げ、履歴書について教えてくれる。
なんでも、その人がどんな経歴を持っているのかを教えるための紙らしい。
書いたことがないので、空返事になってしまったが、やはりそのことも予想通りだったらしく、ため息を吐くだけで終わらされた。
「お待たせしました。チーズケーキおひとつ、ショートケーキおひとつ、紅茶おひとつ、ブラックコーヒーおひとつです」
「ありがとう、つぐちゃん」
「いえいえ、これが私の仕事ですから。あ、それと、父が面接してから考えたいらしいので、履歴書を書いてきてくれと」
り、履歴書を書かないといけないのか……やばいな……。
千聖に教えられた内容から考えると、入学した学校も書かないといけないんだろ?俺、叢雲学園に所属しているから、不採用間違いないだろうな。うん。
不良校の生徒を採用して、店の外聞を悪くするような事はしなくないだろうし。
そんな俺の様子を見て、千聖は「どうかしたの?」と耳打ちをしてくる。
そのとき、耳にかかる息がこそばゆく、また、至近距離で千聖の顔を見ることになり、少し目を泳がせ、その目の先に前のめりになったせいか、服が垂れてその小振りな胸元を直視してしまい、目を逸らす。
顔を真っ赤に染め上げた俺は、元々深く被っていた帽子を顔が千聖にも見えないように下げようとするが、千聖が帽子の鍔に手をかけ、取り上げた。
「あら、顔が赤いわね。どうかしたの?」
「いや、なんでもないじょ?」
「ふーん」
俺の動揺を察したのか、しらけた目で俺を見る。
そして、俺の足に激痛とまではいかないまでも痛みが走る。
「あ、あの、千聖さん?」
「なにかかしら?」
そう微笑みを見せながら、グリグリと足を踏みつける。
い、痛い。地味に痛い。
その痛みを出来うる限り顔に出さないようにすると、更にしらけた目を向けてくる。
因みに既に羽沢さんは仕事にも戻っており、せわしなく働いていた。
「ふふ、それで、何か言うことは?」
「すんませんしたー!!」
そう言うと、他のお客さんから目を向けられる。
「声が大きいわよ。もう少し小さくして」
そう言って千聖は足を踏む力を上げる。
「すんません」
今度は声のトーンを落として謝る。
他のお客さんにも頭をさげ、なんとか丸く収まったと思う。
そう収まった直後だった。
「みんな、今日はここで休憩しましょう!」
聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「あぁ、それがいい。美咲と花音も大分疲れているようだしね」
その声に続くように、舞台にでるような人のする声が聞こえてくる。
それに千聖は顔を背ける。もしかして知り合いか?
「そーそー、みーくんとかのちゃん先輩もこんなに走る事なんてないからね」
お、これは北沢さんちの娘さんの声か。確かはぐみちゃんだったよな?
「はぁー、三人とも速い。なんなの、マラソン選手でも目指してるの?」
と、聞き覚えのない女の子の声が。
「はぁ……はぁ……さ、三人ともすごいですぅ」
こちらもまた聞き覚えのない声だ。
その声を聞いたとき、千聖が少し微笑んだのでその子も知り合いなのだろう。
「千聖知り合いでもいたのか?」
俺が小声で千聖に尋ねると、千聖も
「貴方の知り合いもいるんじゃないかしら?」
と尋ねてきた。
それの確認のため入ってきた集団に目を向ける。
そこにいたのは、俺の知っている範囲だと、
そして、ちらっと見たはずなのにも関わらず、目ざとく俺たちの方を見ていた少女、弦巻こころは声を上げる。
「あら?あなた、もしかして祐貴!?」
「え?あ、ああああ!!本当だ!!弓塚の兄ちゃんだ!!」
「ん?ゆ、ゆゆゆゆゆゆ、祐貴!?なぜ君がここに!?」
それに連鎖してほかの二人も声を上げる。
ほかのお客さんは、まぁたこいつらか……と呆れてため息をついていた。
「薫、弦巻ちゃん、はぐみちゃん、静かにしような?」
「すみません。三バカがご迷惑をおかけしているようで」
「あぁ、気にしなくてもいいよ。それより、そこであたふたしてる水色の髪の子は?」
「そっちは私に任せて」
「ん?あぁ、それじゃ、頼むわ」
俺は薫たちを三バカといった黒髪の子と少し話をして、薫たちを落ち着かせる。
担当は俺が薫とはぐみちゃん、黒髪の子が弦巻ちゃんだ。
そして、ある程度落ち着くと、俺は再び席に戻り、ケーキを食べ始める。
「ところで、祐貴。誕生日パーティーにこなくなったのはなぜ?」
「あぁ、まぁ、色々あってな」
「そうなの?今年はこれるのかしら?」
「どうだろうなぁ。師匠から八月は修行をつけてもらう予定だから」
「お父様に?でも、去年お父様は参加してたわよ?」
し、師匠ーー!!なにしてくれちゃってんですか!?いくら何でもそれはないだろ!?
弟子が一人無人島でサバイバルしているときにあんたは娘と一緒に普通の飯、いや、あれは豪華すぎか……を食べてただと!?
今度合ったら一発殴ってやる。
「あ、あの、さっきから何の話をしているのか付いていけないんですけど……」
「あぁ、ごめんね、えーっと」
「
黒髪の子、奥沢さんがそう言うと松原さんはぺこりと頭を下げる。
「そうか……それにしても、薫になにがあったらバンドが組めるようになるんだ?」
「あれ?知らなかったんですか?(薫さんの知り合いなのに?)」
「まぁ、中学時代は色々あって薫とは余りあっていなかったんだ」
「そうなんだよ。祐貴の兄ちゃんよく、町内十周とかしてたんだ」
「えっ?よ、よく体力持ちましたね。あたしは三周でもう限界ですよ」
「美咲ちゃん、彼と比べるとバカを見るだけよ?」
突然声をかけられ、奥沢さんは混乱している。
その様子を見て、千聖は眼鏡外し素顔をさらす。
それで、誰かを把握したみたいで、あぁ、とつぶやいていた。
どうやら、面影は合ったみたいだが、確信が持てなかったようだ。
「おい、千聖。それどういう意味だ」
「安心して、他意はないわ」
「意味わかんねぇよ」
「ごめんなさい。履歴書の書き方も知らない人に言っても伝わらないわよね?」
嫌味か。嫌味なんだな?
俺が機嫌悪いですよーという風に目を向けていると、ふふと微笑み、松原さんと話し始める。
だが、その最中にちょくちょく薫が入っていき不機嫌になっていく。
うん。放置しよう。
「あ、あの、千聖ちゃん?そっちの人は……?」
「あぁ、彼?彼は弓塚祐貴。私と薫の幼なじみよ」
「因みに私の幼なじみでもあるわ」
「はぐみ、中学生になる前から会ったことがあるよ」
「(あれ?もしかして、ハロハピで弓塚さんと会ったことないのあたしと花音さんだけ?)」
「そう気にする必要はないと思うぞ?」
「えっ?(弓塚さんって読心能力でもあるんですか?)」
「そんなことはない。高校生になってから、後輩や千聖の考えていることがある程度わかるようになったりしたけど」
「凄いわ!さすが祐貴ね!」
「うんうん。弓塚の兄ちゃんははぐみの考えていることをよく当てたりしてたよ」
あれ?これ、ほんとに読心能力あるのか?いやいや、表情からなんとなく読みとっているだけだから読心能力じゃないはずだ。
「って、そう言えばさっきまで走っていたみたいだけど、体力づくりか?」
「えぇ、そうよ!本当はミッシェルも一緒に走る予定だったのだけど、来れなくなったみたいなの」
弦巻ちゃんの寂しそうな声を聞いたのはこれが初めてだな。
そんなにミッシェルっていう人と練習したかったのか?
それと、奥沢さん、なに顔を青くしてるんだ?ミッシェルと奥沢さんは関係ないでしょ?え、関係あるの?
俺がそんなことを考えていると、注文をいつとったのか、羽沢さんがケーキとコーヒーを持ってきた。
「ご注文の品はこれでよろしかったでしょうか?」
「えぇ。ありがとう、つぐみ」
そんなやりとりを見守りながら、俺と千聖は帰る準備を整える。
「それじゃ、俺達はここで」
そう言って俺はレシートを持ってレジへ向かう。
「意外ね。あなた、ハロハピのメンバーと顔見知りだったなんて」
「あぁ、あのバンドってハロハピって言うのか。知らなかった」
「正式名称は『ハロー、ハッピーワールド!』って言うのよ?」
長っ!!まぁ、弦巻ちゃんが考えるとそうなるのか。
「それじゃ、あれだ。千聖、履歴書を書くの手伝ってくれないか?」
「ふふ。良いわよ」
そう、千聖は快諾してくれた。
うん。これで安心……じゃない!!面接とかもしたことないぞ俺!!
前途多難な俺の様子にため息を千聖がついていて、心の中で謝りながら、帰路についた。