バレンタイン。
東帝大にやってきていた飛彩先生のもとに、一人の患者がやってくる……。

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バレンタインの短編です(24日)

おそらくほとんどの人が考えたネタだと思います。
ええ、私も考えましたが、とても難しゅうございました。

一応、私のほかの作品とふんわりつながってるので、ちょっと分かりにくい場面があったらごめんなさい。
どうか、お暇つぶしにでも見てってください。

あともうひとつ、手術描写の方、こちら全て適当となっております(´・ω・)b




XとR

 

2018年。

崩壊を続けた白い巨塔は、ついに崩れ落ち、大学病院は本来のあるべき姿を取り戻そうと動き出した。

旧態依然の権力構造を一掃し、患者を第一に考えた患者のための医療である。

 

そんな中、どこの大学医局にも属さないフリーランス。

すなわち、一匹狼のドクターが現れた。

 

例えばこの女。

群れを嫌い、権威を嫌い、束縛を嫌い。専門医のライセンスと、たたき上げのスキルだけが彼女の武器だ。

外科医、大門未知子。またの名を――

 

 

 

 

 

 

2.14

 

東帝大学病院。

 

 

「はいこれ」

 

 

城之内(じょうのうち)博美(ひろみ)が渡した小袋を、加地(かじ)秀樹(ひでき)は訝しげな表情で見ていた。

 

 

「ちょっと、なんて顔してるんですか。女性からの贈り物なんですから、もっと笑顔で」

 

 

隣にいた(はら)(まもる)も同じ小包を持っている。

簡易的なラッピングされたものは、気持ちの欠片も感じられない。

 

 

「今更こんな社交辞令で義理ッ義理の貰ってもな」

 

「いいじゃないですか。貰えないよりは」

 

「どうだろうか? 安物のくせに、ホワイトデーにしっかりお返ししないと露骨に嫌な顔されるんだよ」

 

 

聞こえていたのか、城之内は振り返るとニヤリと笑った。

 

 

「聞こえてますよー、加地先生。期待してますからねホワイトデー」

 

「いやいや、それにさぁ、俺ももう割りと歳だし? チョコよりあんことかの方がいいよね?」

 

 

確かに本命と関係ないところじゃ変に気を遣うだけのイベントかもしれない。

原も小さくため息をついて、テーブルに並ぶ安物のチョコレートを見た。

 

 

「昔は義理でも嬉しかったんですけどね」

 

 

今はもう作業のようなものだ。何の感動もない。

ナースからもいくつか貰ったが、渡す方もなんだか淡々としているものだ。

 

 

「いや、でも、ほら」

 

 

加地は顎を動かして少し離れた場所を指し示す。

原も釣られて視線を移すと、そこには並べられた義理チョコをニヤニヤしながら見ている外科副部長・海老名(えびな)(たかし)の姿が見える。

 

 

「見ろよあの嬉しそうな面」

 

「さっきからずっとあの調子ですよ。うらやましいなぁ、純粋な心が今もあるなんて」

 

 

丁度そこで城之内が海老名にチョコを渡す。するとまさに散歩に行く前の子犬のようにはしゃぎ始める。

 

 

「でぃッヘヘっ! また一つ増えちった! モテるなぁ俺って」

 

「海老名せんせー、義理ですよ。義理ですからねー」

 

「またそんな事言っちゃって! ぐししし!」

 

 

その浮かれっぷりは明らかだ。外科副部長・猪又(いのまた)(たかし)は、わざとらしく鼻を鳴らす。

 

 

「全く、天下の東帝大ともあろうものが、くだらんイベントで盛り上がりやがって。高校じゃねーんだぞココは」

 

 

猪又はそこで城之内が近づいてくるのを確認する。

ならばと腕を組み、目を閉じ、唇を吊り上げた。

 

 

「だがまあどうしてもと言うなら貰ってやらん事もないが」

 

「なくなっちゃいましたー」

 

 

城之内はスタスタと猪又の前を通り過ぎて帰っていく。

 

 

「なんだよおい!」

 

 

叫び声がむなしく消えていく中、入れ替わりでやってきたのはド派手なコートに身を包んだ大門(だいもん)未知子(みちこ)だ。

相変わらず医者にあるまじき服装である。高いハイヒールで歩き、アンニュイな表情を浮かべている。

 

 

「おはようございます大門先生」

 

「ぉはよ、キンちゃん」

 

「守、原守。守な」

 

 

今日も今日とて覚えてもらえる気はしない。

一方で海老名は、相変わらずはしゃぎまわる子犬のように無邪気な笑顔を浮かべて大門へ近づく。

 

 

「なに? ちょ、やだ……、顔怖いよ?」

 

「へへッ! お前も持ってきてるんだろ。くれよ大門」

 

「は? なにを?」

 

「とぼけんなよお前。今日はバレンタインだろ?」

 

「馬鹿じゃないの?」

 

「え……?」

 

 

一瞬だった。海老名は捨てられた子犬のような表情を浮かべ、立ち尽くす。

 

 

「学生じゃあるまいし。チョコ渡しィ、いたしません!」

 

 

大門は、唇を震わせている海老名に一瞥もくれることなくパソコンを立ち上げた。

海老名はその後も何かを訴えるような目で大門を見ていたが、その想いが届くことはない。

諦めたのか、ションボリと肩を落として自分の席に戻っていく。

 

 

「大門先生がくれるワケないじゃないですか。ねえ加地先生」

 

「むしろデーモンの作るチョコなんざ食ったら最後のような気がするな」

 

「たしかに。あ、それより海老名先生、大丈夫なんですか? 時間!」

 

「あ、そうだ! やべッ、遅れる!」

 

 

原の一声で海老名は飛び上がると、そのまま部屋を出て行った。

その様子が引っかかったのか、大門は視線を入り口に移す。

 

 

「あれ? 今日なんかあんの?」

 

「チッ、これだからバイトは。昨日散々説明されただろうが!!」

 

 

猪又は立ち上がると声を荒げ、大門を睨みつける。

どうやら今日は東帝大の中でも特殊なイベントがあるらしい。

と言うのも、この外科医の中に短期間だけだが、新しいメンバーが増えるのだ。

 

 

「へー。そーなんだ」

 

 

相変わらずどうでもいいと言う素振りの大門に、原はまたため息を漏らす。

 

 

「もっと興味もってくださいよ。簡単に言えば勉強会なんですよ? 大門先生の手術に立ち会うとかなんとか」

 

「えー、めんどくさ!」

 

 

そこで猪又がわざとらしく咳払いを行い、なぜか勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

 

「今日やって来るのは天才と呼ばれた外科医だそうだ。バイトォ、お前のその鼻っ柱を叩き折ってくれるヤツがくるぞ!」

 

「興味ありませーん」

 

 

相変わらずだ。加地はあきれた様に肩をすくめる。

大門未知子と言う女は周りに興味がないのだ。毎日毎日手術手術、ご飯ご飯。まさにデーモンのような女である。

 

 

「ところで、今日来る外科医ってどこの病院でしたっけ?」

 

「あぁ、それは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

院長室に海老名の姿はあった。

現在、海老名の前では二人の男が固い握手を交わしている。

 

 

「えっへっへ! ねぇ、いやぁー、光栄だなぁ。こうしてねぇ、聖都大学付属病院さんとコネクションが築けるなんて」

 

 

東帝大病医院長・蛭間(ひるま)はにこやかな笑みを浮かべている。

 

 

「なあ海老名、お前もそう思うだろ」

 

「ゥへへッ、御意!」

 

 

相変わらず子犬のような笑顔を浮かべて、高速で頷く海老名。

一方で蛭間と握手をしていた男、(かがみ)灰馬(はいま)も笑みを浮かべて握手を続けている。

 

 

「いやいやこちらこそですよ蛭間院長。そちらの活躍は耳に入っていますよ。難しい症例をいくつも成功させてきたとか」

 

「いやね、ウチには優秀なドクターが揃っていますからね。ええ。パパっと切って、パパッと治しちゃうんですよ」

 

 

実際はほとんどが大門の手による成功なのだが、その辺りは――

 

 

『ソンタク! ソンタク!!』

 

 

秘書ロボットのソンタくんが騒ぎ出したのを見て、蛭間は露骨に嫌な表情を浮かべる。

 

 

「おいうるせーなアイツ……! あ、いや失礼。へへへ」

 

 

そこで蛭間は灰馬の隣にいた青年を手で指し示す。

 

 

「でもね、そちらの活躍もしょっちゅうお耳に挟んでいますよ。ねえ? 天才ドクターの鏡飛彩さん」

 

「それは、どうも」

 

 

飛彩は一歩前に出ると小さく頭を下げた。

兼ねてより飛彩の話を聞いていた蛭間は聖都大にアプローチを行い、技術交換、勉強会と言う名目で飛彩を東帝大に呼び寄せたのだ。

天才外科医のオペの技術を学びたい、そう言われれば灰馬も断ることはなく。

とは言え、実際の狙いはつまりのところ『宣伝』である。

あの鏡飛彩が、あの東帝大にしばらく身を置く、そうなると当然メディアも取り上げる。

ましてやそこで大きなオペを成功させれば、ますます東帝大の力は膨れ上がり、蛭間もニッコリと言うワケであった。

 

 

「そちらの方は?」

 

 

蛭間は飛彩の後ろにいた青年に手を向ける。

 

 

「宝生永夢です! 飛彩先生の第一助手をやってます!」

 

「おーおー、いいじゃないですかフレッシュで。じゃあ、おふたりをね、早速あの、ご案内してさしあげて、ほら」

 

 

秘書は頷き、飛彩たちを連れて部屋を出て行く。

すると灰馬は含みのある笑みを浮かべ、部屋の隅にあった風呂敷を手にする。

 

 

「蛭間院長。これは、ほんのお気持ちでございます」

 

「あらーっ! あららら……。ああ、いやぁ、こういうのはちょっと」

 

「いえいえ、別に他意があるワケじゃございせん! ただちょっと、蛭間院長が『おまんじゅう』がお好きとの事で」

 

 

風呂敷から現れたのは幻夢コーポレーションから発売された、マイティ饅頭(9個入り)であった。

 

 

「どうぞどうぞ」

 

「いや、しかしねぇ。へへへ」

 

「いやほんとにつまらないものなので。もらってください」

 

「そうですか、じゃあ、遠慮なく」

 

「ソノトーリ」

 

「いやー、ははは……、こうのは普段はあんまりやってないんですけどねぇ」

 

「ウチの飛彩と、宝生先生を、よろしくお願いします」

 

「御意でございます。いッへっへ!」

 

 

ペコペコと頭を下げながら灰馬は部屋を出て行った。

海老名はソワソワしながら前に出て、机の上に置かれたおまんじゅうを見た。

 

 

「あのっ、蛭間院長、それって……」

 

「ああ、そうだよ。おまんじゅうだよ。権力(あまくて)忖度(おいしい)、おまんじゅうだよ、ほら」

 

 

蛭間はニヤニヤしながら箱を開ける。

 

 

「海老名ァ、そう言えば今日はバレンタインだったなァ。お前にもちょこっと甘いものをやらないとなぁ」

 

「えッ、いいんですか! やったぁ! にへへへ!!」

 

 

子犬のような笑顔を浮かべた海老名。差し出した手には、小さなお饅頭がひとつ乗せられる。

 

 

「ぁなんだ、こっちか……」

 

 

海老名は一瞬で捨てられた子犬のような表情に(略。

一方で蛭間はメインである筈のお饅頭を全て箱から取り出し、笑顔で箱の裏側を確認し始める。

このしょぼっちぃ、おまんじゅうの下には、蛭間の大好物である札束(こんにゃく)が――

 

 

「って、あれ? おいなんだよ何もねぇじゃねーか!」

 

「ははは、本当にお饅頭だけじゃないですか」

 

 

海老名は子犬のような笑顔でおまんじゅうを食べている。

 

 

「チッ、ッんだよつまんねぇな!!」

 

「まあまあいいじゃないですか蛭間院長。それだけ汚れてないって意味なんですから」

 

「……おい海老名。そりゃお前、俺が汚れてるって意味か」

 

「え」

 

 

海老名は一瞬で捨てられた子犬のような(略

 

 

「いやッ、別にそういうワケじゃ……」

 

「どういうワケなんだよ。おい、おい、おいってなあコラ!」

 

「あ、いやだからそれは、あの――……」「だからなんだよ、なあおいって」「あ……、マジですいません」「マジ!? マジ! マジってなんだよお前コラ。なんだよその口の――」「いや違うんです。すいません! あッ、だから……、ガチですいません」「ガチ!? ガチってお前だからッ、ガチって! えぇ!?」「違う! 違うんですッッ!」「何が違うの!! おいって、なあ! 海老――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鏡飛彩です。よろしくお願いします」

 

「へえ、キミがあの天才の。僕は原守、よろしくね。分からない事があったら何でも聞いて」

 

 

一通り挨拶を終えた飛彩と永夢。

飛彩はそのままパソコンを見ている大門のほうへと。

 

 

「はじめまして大門先生。聖都大学付属病院から来ました。鏡飛彩です」

 

 

飛彩は大門のことを知っていた。表向きには報道されていないが、東帝大に自分と同じく天才と呼ばれた女医がいることを。

見たところ周りに女医はいない。となると、該当するのは大門であろうと飛彩は確信する。

 

 

「とても優秀な方だとか」

 

「それは……、どうも」

 

 

大門は軽く会釈を返す。

 

 

「今日はこれからオペの予定があるんですよね。俺も参加します」

 

「えー? アタシだけで十分なんだけど」

 

「何言ってるんですか大門先生。それじゃあ鏡先生が来た意味ないでしょう」

 

「そうだけどぉ、私聞いてない!」

 

「聞く気がなかっただけだろ。ほら、さっさと行くぞ」

 

「えー! ちょっと助けてよキンちゃん!」

 

「原守な。誰だよキンちゃんて! だから!」

 

 

加地に連れられて大門は渋々手術室に連れられていく。

とはいえ、大門が気だるげにしていたのはそこまでだった。

 

 

「はぁ、凄いなぁ」

 

 

思わず、永夢から間抜けな声が漏れる。

手術室二階にある見学室には永夢のほかに原と海老名の姿があった。

今回の症例は、肺の衝突腫瘍である。稀な病気のために当然手術も難しくなってくる。

けれども大門と言えばメスを持てば何の躊躇もなくスパスパ切り始めたではないか。

その鮮やかな手際に、思わず永夢は心を奪われる。

 

 

「相変わらず凄ぇな大門は。俺だったらもう患者さん死んでるよ」

 

「海老名先生、それ絶対外では言わないでくださいね」

 

 

もちろん海老名とて天下の東帝大、外科部長だ。

医療スキルで言えばそこらへんの医者など相手ではないほどの名医ではある。

が、しかし、大門未知子と言う女はそれを軽く凌駕するのだ。

とはいえ、今回は大門のオンステージとはいかなかった。一階の手術室で今まさに話題があがる。

 

 

「へぇ。アンタ、なかなかやるじゃん」

 

「それはどうも」

 

 

オオと声が上がる。共に参加した飛彩もまた負けず劣らずの技術で魅せてくる。

 

 

「すごいね。大門先生が人を褒めるなんて」

 

 

城之内の言うとおりである。しかしそれだけ飛彩の技術が、他の医師を圧倒していると言うことだった。

今は大門のサポートだが、この腕ならば一人でも手術を成功させられる。そんな確信を抱かせるには十分だった。

 

 

「でも嫌になるね。こうも天才様が揃っちゃうと。やめてよデーモン二世とか」

 

「アタシは大門! はい、終わり!」

 

 

手術はなんの問題もなく終わった。バイタルも安定し、手術は成功だ。

術後、飛彩は大門の前にやって来る。

 

 

「見事なオペでした」

 

「んー!」

 

 

そう言って大門は飛彩を通り抜けてさっさとどこかに行ってしまった。

塩対応どころではない。粗塩だ。岩塩だ。無表情で固まっている飛彩へ、原がフォローにやってきた。

 

 

「気にしないでね鏡先生。大門先生はいつもああだから」

 

「孤高のドクターと言うワケですか」

 

「そう言うと聞こえはいいけどね、他人に興味がないんだよ」

 

「確かに。円滑なコミュニケーションがチーム医療に繋がりますから。あれはあれで問題だ」

 

 

技術だけが全てじゃない。

医療は一人で行うものではないのだ。他のスタッフに不信感を募らせることは、結果としてオペの質の低下に繋がる。

 

 

「分かってるじゃない。どう? 鏡先生、今日は歓迎会って事で飲みに行かない? 僕が奢るからさ」

 

「結構です。ノーサンキューだ」

 

「うん。嘘でしょ?」

 

 

スタスタと歩き去る飛彩を、原はメガネを曇らせてみていた。

 

 

「だから天才って嫌なんだよなー……」

 

「すいません、飛彩さんもそういう所あるから」

 

 

一連の流れを見ていたのか、今度は永夢はペコペコ頭を下げながら走ってくる。

 

 

「じゃあ宝生先生だけでも行く?」

 

「いいんですか! ぜひ! ご一緒したいです!」

 

「これだよー、こういうのだよー え? なんでも言ってー、食べたいもの全然奢るからさー!」

 

 

原は上機嫌に永夢と肩を組んで歩いていく。

 

 

「実はボク! 先生に憧れてたんです!」

 

「マジで!?」

 

「はい! 患者の心に寄り添う医療! とってもすばらしいと思います! ボクも患者さんを笑顔にする医療を目指してて!」

 

「最高じゃん宝生先生ーッ! やっとだよォ、やっとこういう話の分かる先生に会えたよ! ようし! 今日は語り明かそう! 宝生先生!!」

 

「はい! キンちゃん!!」

 

「―――」

 

 

なけるで。

 

 

 

 

一方、東帝大から少し離れた遊園地。

 

 

「ぅうう! こっわ! きゃははは!!」

 

 

人気のホラーライドアドベンチャー。

幽霊たちが住む洋館の中を、カートに乗って巡ると言う定番のものだ。

"西馬ニコ"はケラケラ笑いながら存分に楽しんでいらっしゃる。だが隣に座っている"花家大我"は先ほどからずっと腕を組んで一点を見つめていた。

アトラクションはものの五分ほどで終了する。ゴールにたどり着き、レバーが上がり、ニコは思い切り伸びを行った。

 

 

「あー! 楽しかったね」

 

「………」

 

「あっは! ずいぶんと大人しかったじゃん。もっとビビると思ってたのに」

 

「………」

 

「もしかして内心はドキドキだったとか?」

 

「………」

 

「って、ちょっと、いつまで座ってんだよ。早く降りようよ」

 

「………」

 

 

花家大我は、目をあけたまま気絶していた。

 

 

 

「あはは! だっさ!」

 

「うるせぇ!」

 

 

大我が意識を取り戻したのは五分後のことだった。

出口まで支えてくれたスタッフのお姉さんの哀れみに満ちた眼差しを、大我は一生忘れないだろう。

 

 

「エグゼイド達には絶対に言うなよ」

 

「えーっ、どうしよっかなぁ?」

 

「おい!」

 

「分かってるって。大丈夫大丈夫。ただし、今日はとことん付き合ってよ!」

 

 

ニコはウインクでピースをひとつ。

けれども反対に大我の表情は優れない。

 

 

「ま、まだ乗るのか」

 

「あったり前でしょ! チョコあげたんだから、お礼くらいしろよ!」

 

「チョコって、ポッキー一本じゃねぇか! あんなちょこっとで」

 

「うっわ、チョコをちょこっとって、さむッッ!!」

 

「なッ! ちがッッ! 今のは別に狙ったんじゃ――」

 

 

ギャーギャー騒ぎあっていると、そこで第三者の声。

 

 

「あれ? 花家先生ですか?」

 

「お?」

 

 

話しかけてきたのは高校生くらいの少年だった。

はて、どこかで見覚えがあるような。しばしの沈黙。すると先に指を鳴らしたのはニコだった。

 

 

「あ! 思い出した! バーニアの!」

 

江上(えがみ)大介(だいすけ)です」

 

「ひっさしぶりじゃん! 元気だった!」

 

 

そこで大我も思い出した。

いつだったか、スナイプがはじめてレベル50に変身した時のゲーム病患者だ。

 

 

「ああ、お前か。もう大丈夫なのか?」

 

「はい! そりゃあもう! おかげさまで!」

 

 

それは医者としては嬉しい言葉だ。

しかし一度ならず二度までも遊園地で出会うとは奇遇である。

 

 

「実は今日は女の子と来てて」

 

 

前回、江上は好きな女の子に遊園地に誘われたものの、絶叫マシーンが苦手なのがストレスの原因になっていた。

どうやら今日はその女の子と一緒に来ているらしい。

 

 

「もう絶叫マシーンは大丈夫なの?」

 

「え、ええ。まあ、何とかですけど」

 

 

別にこれが二回目ではない。

もう何度も一緒に二人きりで遊園地に来ている。

彼女は絶叫マシーンが好きなので、何とか慣れてきたと。

 

 

「へぇ、良かったじゃん。じゃあ付き合えたんだ」

 

「………」

 

「ん?」

 

「そ、それが、まだ」

 

「はあああああ!?」

 

 

ニコは目を見開き、思わず飛び上がる。

バーニア初戦からずいぶんと時間が経った。いろいろ世界の危険とかもあった。

にも、にも関わらずだ。まだ江上と女の子の関係は進展していないらしい。

 

 

「ま、マジで馬鹿じゃないの!!」

 

「おい、そんなこと言うなよ」

 

「い、いやッ、いいんです。僕自身分かっているので……!」

 

 

しかし江上とて馬鹿じゃない。流石に何もない男女が、何度も何度も二人きりで遊園地になんていかない。

いやいや、毎日通話アプリでメッセージのやりとりもしているし。二人きりで映画も言ったし、ご飯もいったし、綺麗なイルミネーションも見に行ったことだってある。

 

 

「だ、だから、その、今日ッ、もしチョコレートもらえたら、その……!」

 

 

江上は顔を真っ赤にして鼻を膨らませる。どうやらずいぶんと気合が入っているようだ。

 

 

「告白しますッ!!」

 

「おお! やるぅ!」

 

 

そうなると彼女の写真が見たいと言うニコ。

すると江上は携帯を取り出し、アルバムの部分をタップした。

すると携帯には、江上と、その女の子が二人で写っている画像が表示される。

 

 

「どえ! めっちゃ可愛いじゃん!」

 

相沢(あいざわ)さんって言うんです」

 

「はー! ちょっと大丈夫? 騙されてない? なんか変な壷とか、かけじくとか……」

 

「おい! 失礼だろうが!!」

 

「ちょ! 大我ッ、怒鳴んなよ! 冗談だってば!!」

 

 

大我もニコも分かってる。流石にここまでコミュニケーションを取れればまず間違いなく告白は成功するだろう。

なんだったら相沢の方が告白を待っているに違いないはず。

 

 

「ッて言うか、ここまで期待させておいてオッケーしないクソ女なら止めておいたほうがいいよ。マジで」

 

「は、はあ」

 

 

そこで大我が気づく。今現在、江上は一人ではないか。

 

 

「で? その相沢ってのはどこなんだ?」

 

「え? あ、えっと、トイレに行くって……。そういえばもう結構時間が――」

 

 

キョロキョロと辺りを見回す三人。するとなにやら遠くの方に人だかりができているのが見えた。

まさか、と走る大我。しかし嫌な予感ほど当たるものだ。人ごみを掻き分けると、そこには倒れ、苦しそうにしている相沢が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どいてー! 急患ーッ!!」

 

 

大門、飛彩、永夢は小走りで救急隊員に合流する。ソトレッチャーが動く音のなか、三人の動き方はそれぞれだった。

まず大門は救急隊員から患者――、相沢の情報を聞いている。永夢は相沢に話しかけていた。反応はあるか、呼吸の具合はどうか?

そして飛彩は大我と並び、情報を交換している。

 

 

「ブレイブ、まさかお前がココにいるとはな」

 

「そっちこそ、どうして東帝大の近くに?」

 

「まあ、それはいいだろ」

 

 

今は状況が状況だ。飛彩も特に追求することはなかった。

それよりも患者の状況だ。永夢が呼びかけても無反応、ペンライトで検視を行ったがどうやら意識はほとんどないようだ。

同行する江上の話ではトイレに行く前に少しめまいがすると言っていたらしい。

 

 

「顔も少し黄色くなってる」

 

「症状は貧血に近いが……」

 

「その割には呼吸が荒い!」

 

 

飛彩たちの会話に割り入る大門。

確かに貧血にしては呼吸が荒く、苦しそうだ。

とにかく今は治療と検査が優先である。

 

 

「あとは俺達に任せろ」

 

「頼んだぞブレイブ、エグゼイド」

 

 

医師免許のない大我はここまでだ。

一方で永夢は一瞬立ち止まり、振り返る。

 

 

「江上くん。大丈夫。心配しないで待っててね」

 

「あ! はい!!」

 

 

覚えててくれたことに感動しつつも、やはり不安は不安だ。

江上は去っていく永夢たちの背中をソワソワと見つめている。

するとそこで、大我が叫んだ。

 

 

「ブレイブ!」

 

「ッ?」

 

「患者の名前は――! いや……、悪い、なんでもない」

 

 

ならばと治療室に進む大門たち。

すると、その時だった。相沢に――、ノイズが走る。

 

 

「!」「!」

 

 

瞬間、飛彩と永夢は理解した。

いや、理解よりも早く悪意が加速した。

迸ったノイズが、相沢の色素を『薄く』させる。かとも思えば突如現れる茶色い謎の物体。

肉団子のようなソレは相沢を包み込むと、そのシルエットを全く別のものに変える。

 

 

「ゲーム病!!」

 

「ちょっと何言って――、ってエエエエエエエエエエエエ!!??」

 

 

振り返った大門は、目を見開き思い切り叫ぶ。

いや、無理もない。跳ね起き、ストレッチャーから飛び降りた相沢は、もはや人間の姿をしていなかった。

バグスターユニオン。他のタイプとは違い小型で、人型ではあるものの、やはりその全身は茶色い肉のようなもので覆われている。

ましてやその手にあるのは巨大な『鎌』だ。

有無を言わさず、バグスターはそれを振りかざした。

 

 

「ちょいちょいちょい! なになになにィッッ!?」

 

 

大門はたまらず頭を押さえて走り出す。どうやらこういう所は一般的なリアクションらしい。

 

 

「おい、うるさいぞ大門。どうしたんだよ」

 

 

海老名、加地、原も駆けつける。

そして、バグスターユニオンを確認。

海老名、加地、原、共に気絶。

 

 

「だああ! もう! 情けない男共ッッ!!」

 

 

大門は海老名たちを踏み越えると、曲がり角に身を隠す。

 

 

「ちょっと! アンタ達も早く逃げたほうがいいよ! 警察ッ、ポリスメンにお願いしよ!!」

 

 

しかし大門の叫びを無視する飛彩たち。

代わりに、ゲーマドライバーを取り出し、装着する。

同じくして取り出すのは、ガシャット。

 

 

『タドルクエスト!』

 

『マイティアクションエーックス!』

 

「はい?」

 

 

タイトル画面が広がり、ブロックや宝箱が射出されていく。

呆気に取られる大門。そんな中、永夢の瞳が一瞬赤色に染まる。

 

 

「こっからはオレのターンだな」

 

「しくじるなよ第一助手」

 

 

それぞれの構えを取る永夢と飛彩。

 

 

「変身ッ!」『ガシャット!』

 

「変身」『ガシャット!』

 

 

永夢と飛彩を中心にして回転を始めるキャラクターアイコン。

 

 

『レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム!?』

 

 

永夢は腕を正面に、飛彩は腕を左へ伸ばす。

 

 

『アイム ア カメンライダー!』

 

 

キャラクターアイコンがはじかれ、永夢と飛彩の体が三頭身ほどのシルエットに変わった。

 

 

「えええええええええええええッッ!?」

 

 

大門は目を見開き、後ずさる。

流石の天才医師でも、影の病は知らなかったようだ。

一方で仮面ライダーエグゼイドとブレイブは並びたち、武器を構える。

 

 

「バグスター切除手術を開始する」

 

「患者の運命はッ、オレが変える! 行くぜ!!」

 

 

ドタドタと走りだすエグゼイド。

瞬間、キメワザスロットホルダーにある銀色のボタンをタッチする。

 

 

『スッティージ! セレクト!』

 

 

ゲームエリアの展開により、ここはもはや仮想世界。

一瞬で景色が病院内から採石場に変わる。大門たちの姿も消え、障害物も少ない。

ここならば思いきり暴れられるというわけだ。早速全力疾走のエグゼイド。

いや、もう勢いがありすぎて前のめりに転んでしまうほど。

 

とはいえ、それはマイナスではない。

エグゼイドはそのまま地面を高速で転がり、バグスターの背後にまわる。

バグスターはエグゼイドを目で追おうとして諦めた。前からはブレイブが距離をつめており、ガシャコンソードに炎を纏わせて振るっていく。

しばし、鎌と剣がぶつかり合う音が響く。一方でエグゼイドは地面を蹴って跳んだ。

空中にブロックを出現させて、足場にしていくことでさらに高度を伸ばしていく。

 

 

「オラッ!」

 

 

そして、ある程度のところで急降下。

バグスターはブレイブに気を取られているために、エグゼイドには気づかない。こうして足裏がバグスターの肩を捉えた。

ふみつけ、再び跳ね上がるエグゼイド。そしてブレイブは動きが鈍ったバグスターに炎の斬撃を刻み込んでいく。

 

 

「ォオオオオオオオ!!」

 

「「!」」

 

 

だが、バグスターもやられてばかりではない。

吼え、そして思い切り鎌を振り回す。そのリーチ、スピード、風が巻き起こり、空中にいるエグゼイドもブレイブも、まとめて吹き飛ばされる。

 

 

「グォっッと!!」「チッ!!」

 

 

地面を滑る二人のライダー。

しかし反撃はすぐだった。エグゼイドは飛び上がりブロックを。

ブレイブは近くにあった宝箱を開いてエナジーアイテムをゲットする。

 

 

『『高速化!』』

 

 

黄色い光を纏ってエグゼイドとブレイブは猛スピードで攻撃を仕掛けていく。

防御を崩し、しばらく斬りつける音。ガシャコンブレイカーがガチュンガチュンと音をかき鳴らした。

激しいラッシュによるダメージの蓄積。確実にバグスターユニオンが動きが鈍る。

ここがチャンスと睨んだか、エグゼイドはブロックを破壊していき、お目当てのアイテムを掴む。

そして、それを、レンガブロックへ投げた。

 

 

『鋼鉄化!』

 

 

エグゼイドは跳ね、レンガブロックを思い切り叩く。

普通は粉々になってしまうブロックも、今は鋼鉄化の影響でカチコチだ。

与えられた衝撃によってブロックは弾丸となり、バグスターに直撃する。

 

 

「―――」

 

 

完全に動きが止まった。

懐に入ったブレイブは、轟々と燃える剣を振るい、バグスターを両断してみせる。

爆発が起こり、相沢の肉体が地面に倒れる。

しかしまだ終わりではない。これはあくまでも第一段階。

バグスターユニオンは消滅したが、粒子は再び集合し、バグスターが再生成されていく。

 

 

「術式レベル3」『ドレミファビート!』

 

「大! 大!! 大変身!!!」『ゲキトツ! ルォボッツ!』

 

『ガッチャーン! レベルアーップ!』

 

 

レベル3に変身するドクターライダー達。

バグスターが走ってくる中、エグゼイドは咆哮をあげてロケットパンチを放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ???」

 

 

大門はゆっくりと状況を確認する。

先ほどまでいたライダーも、化け物も、今はどこにもいない。

ましてや最も重要な患者さえも。今は廊下に海老名たちが転がって白目をむいているだけである。

なんなんだこの地獄のような光景は。大門は体育座りになり、必死に状況を理解しようとする。

 

 

「なに? なにぃ? なんなの……!」

 

「あらあら、大変なことになっちゃたわね、未知子」

 

 

すると声が。

大門が振り返ると、そこには神原(かんばら)(あきら)が立っていた。

 

 

「晶さぁーん! 助けてぇ! もう意味分かんない!!」

 

 

半べそをかきながら晶にしがみつく大門。しかしすぐに真顔になり、離れる。

 

 

「あれ? でもなんでココにいるの?」

 

「いえね。少し興味深い話を聞いたものだから」

 

「?」

 

 

そこで大門は、晶の向こう側に一人の青年が立っているのに気づく。

白い服に白いマフラーをした茶色い髪の青年だ。

 

 

「だれ?」

 

「あの人は紅――、いえ、別にいいわ」

 

 

そんな事よりも。晶は無人となったストレッチャーを見る。

 

 

 

「ねえ未知子? ゲーム病って知ってる?」

 

「なにそれ」

 

「そうよねぇ。でもまあ、あるんだから仕方ないわよね」

 

 

軽い説明を受ける。

いろいろとあるが、要するにドクターライダーでなければ、どうしようもないと言うことだ。

その時、ゲームクリアの文字が表示され、エグゼイドとブレイブが戻ってくる。

同じくしてストレッチャーには相沢の姿も確認できた。大門はすぐに走り、患者の様子を確認する。

 

 

「……ッ」

 

 

先ほど相沢を包んでいたノイズはもうない。

 

 

「大門先生、もう大丈夫ですよ。患者さんを苦しめていたバグスターはボク達が――」

 

 

変身を解除する飛彩と永夢。

だがそこで一つ、飛彩には引っかかることがあった。

バグスターウイルスに感染していたのならば、大我がそれを見落とすものだろうか?

それを証明するように、永夢の慌てた声が聞こえてきた。

 

 

「あ、あれ! なんでっ!?」

 

 

相沢を苦しめていたバグスターは倒した。

にも関わらず、相沢は相変わらず苦しそうに呻いているじゃないか。

 

 

「どういう事!? その、バグスターってのは倒したんじゃないの!」

 

「そ、その筈なんですけど……、え、えっと」

 

 

永夢の助けを求めるような視線を受けて、飛彩は軽く頷いた。

 

 

「おちつけ第一助手。簡単な話だ」

 

「え?」

 

 

つまり、相沢はゲーム病には感染してたが、同じくして現実的な病にも蝕まれていたのだ。

当然大我はゲーム病を疑い、ちゃんと調べていた。その時はゲーム病にはなっていなかったのだ。

 

 

「行くぞ! 早く治療を!」

 

 

大門と永夢は頷き、ストレッチャーを強く押していった。

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 

相沢が目を覚ましたのは、まもなくの事だった。

フェイスマスクの酸素補助もあってか、呼吸はだいぶ落ち着いている。

どうやら意識もしっかりしているようで、周りを確認する余裕はあった。

 

 

「相沢さん! よかった!!」

 

「あ……、江上くん」

 

 

相沢は少し戸惑う。江上のことは知っているが、知らない部屋にいる。ましてや江上の傍にいる大我やニコは知らない。

 

 

「ここは病院ですよ」

 

 

永夢が優しく語りかけた。

そこで察したのか、相沢はしばらく天井を見つめている。

 

 

「そっか、私……」

 

「心当たりがあるんですか? 前から何か、体の調子がおかしかったとか」

 

「そういうワケじゃないんですけど……、ただ――」

 

 

話を聞いた永夢はすぐに飛彩たちのもとに走った。

 

 

「血尿?」

 

「はい。遊園地でめまいがして、その後トイレで」

 

 

頷く飛彩。大門と共に検査結果が書いてある紙を睨む。

 

 

「血液のヘモグロビンや血小板の著しい減少」

 

「それに呼吸器の異常もある。肺……?」

 

 

もう少し検査をしなければ。今度は肺の写真を撮る。

するとやはり肺のほうに影があった。とはいえ、少し形がおかしい。腫瘍とは思えないのだ。

ましてや相沢の話によると体に異変が起こったのは、本当に今日、倒れる少し前だとか。

 

 

「んー?」

 

 

近いものは何個か思い浮かぶが、確信を持てるものがない。

復活した海老名たちは、一度簡単なカンファレンスを。

AIによる診断システム『ヒポクラテス』を使い、該当しそうな症例をいくつか挙げたが、これもやはりピンとくるものではなかった。

そうしていると、ナースコールが。

なにやら相沢が足の痛みを訴えたらしい。

 

 

「足ィ?」

 

 

肺だけではないのか?

一度全身を調べてみることに。

すると、異常事態が起こった。

 

 

「どういう事……?」

 

「馬鹿な!」

 

 

これには大門と飛彩も表情を歪める。

なんと肺にあった影が綺麗サッパリ消えていたのだ。そして代わりに、痛いと言っていた右足に影が見える。

つまり始めに検査をしてから再検査までの僅かな時間に、影が移動しているのだ。

もちろんそんな事は普通に考えてありえない。さらに不思議なことに、先ほどまではあんなに苦しそうにしていた呼吸が、今はなんの問題も無いと。

 

そのままの意味で捉えるのならば、肺にあった異常がまるまま無くなった。

するとまた連絡が入る。今度は左手に痛みが走ったらしい。もしやと思い、再び写真を撮影。

見れば、足にあった影が消え、左手に移動しているではないか。

 

 

「どうなってんの……ッ!?」

 

 

流石の天才二人を以ってしても、答えを導き出せない。

一方で海老名は一連の状況を蛭間へ報告に走った。

 

 

「えぇ、つまりあれかい? 症例が分からないってか」

 

「はい! いやもう俺も、あんなのは初めて見ます」

 

 

蛭間は驚いたように視線を泳がせ、両手を組む。

 

 

「となると、当然オペは……」

 

「できないでしょう。なんの病気か分からないんだから」

 

「あのッ、大門未知子でも分からないのか」

 

「ええ」

 

「鏡先生もかィ?」

 

「みたいです。今のところは」

 

「はぁー……」

 

 

蛭間は椅子を回転させて海老名に背を向ける。

 

 

「まずいなぁ。まずいよな。なァ、海老名」

 

「え?」

 

「これもしかしたらお前、過去に症例のない、つまりのところ、新種の病気って可能性もあるんだよな。なぁ、海老名」

 

「ど……ッ? ま、まあ。可能性は、もしかしたら」

 

「となるとやっぱり、難しいよなぁ。なぁ、困ったなぁ、海老名」

 

「え、ええ、まあ」

 

「今はなぁ、海老名ぁ。東帝大と聖都大の大切なコネクションを築いている最中なんだ。なるべく変なことが起こって欲しくないよな。なあ海老名?」

 

「……っ」

 

「なあ、海老名――」

 

 

その時、蛭間の声がドッと冷たくなった。

 

 

「お前、忖度(そんたく)って、知ってるか?」

 

 

海老名は打ちのめされたような表情でしばし固まっている。

忖度。それはつまり、他人の気持をおしはかること。

 

 

「ま、まさか医院長……、患者さんを見殺しにするんじゃ」

 

「バッカ! お前ッ、恐ろしい事を言うんじゃないよ!!」

 

 

蛭間は椅子を回し、海老名と向かい合う。

 

 

「あッ、すいません。そういうつもりじゃ……」

 

「だよな。医者ってのは患者様を、お助けしてなんぼだもんな。なあ海老名」

 

「ええ、ま、あの、仰るとおりです」

 

「だからこそ、病気が分かりませんでしたじゃダメなんだよ。相沢さんには、もっと大きな病院に行ってもらうとか」

 

「……ッ」

 

「それこそ、国立高度医療センター本院とか。或いは海外とか」

 

「海外って、蛭間院長流石にそれは……!」

 

「例えばだよ例えば! 例えばついでになぁ、大門未知子ってのは、たまに切ってみて確かめる事があるよな?」

 

「え? ああ、でもそれは――」

 

「だから例えばだっつってんだろ? なぁ海老名、例えば――……」

 

 

その後、海老名は相沢の病室に向かった。

一旦、中にいた江上たちに席をはずしてもらい、海老名は一枚の紙を相沢に差し出す。

 

 

「これは……」

 

 

甲だの乙だの。まあ簡単に言えば契約書である。

あなたの病気はもっと大きなところで検査しないとどうしようもないので、移ってくれと言う点。

そしてもしもこの病院で治したい場合は、いかなる結果でも文句は言わないでくださいという点。

 

 

「そ、そんなに難しいんですか私の病気って」

 

「それは、あの……」

 

 

すると強引に開かれる扉。

大門、飛彩、永夢が強引に入ってくる。

 

 

「ちょっと何勝手なことやってんのよ!」

 

「あ、おい! 大門勝手に入ってくるなよお前! おいって!!」

 

 

大門は海老名の紙を奪いとる。

永夢と飛彩も内容を確認。

 

 

「な、なんですかコレ! 酷い!」

 

 

永夢が叫ぶと、海老名は叱られた子犬のように大人しくなった。

大門はうんざりしたように紙をグシャグシャにしてゴミ箱に投げ捨てると、相沢の前に手をついた。

 

 

「ねえ、私に切らせて」

 

「え?」

 

「おい、なに言ってんだ大門! 死ぬぞ!」

 

「し、死ぬって……?」

 

 

いきなり聞こえた物騒な言葉に、相沢は怯えたように肩を竦めた。

 

 

「海老名先生!」

 

 

なんて事を言うんだ。永夢はまるでチベットスナギツネのような冷めた表情で海老名を見る。

 

 

「あ、す、すいません。いやッ、でも、病気が何か分からないんだろ? だったら……」

 

「海老名先生ッッ!!」

 

「あ、あぁぁ、ごめん、俺もうちょっと……、黙ってるわ」

 

 

海老名は捨てられた(略

とにかく後ろに下がる。だがもう遅い。相沢の不安は膨れ上がるばかりである。

 

 

「私っ、なんの病気か分からないんですか……?」

 

「はっきり言うとそう。でも一つだけ確かなことがある」

 

「え?」

 

 

大門はグッと相沢に詰め寄り、目と目を合わせた。

 

 

「すぐにオペしないと、死んじゃうよ」

 

「!」

 

 

それは不安にさせてでも伝えなければならない事だった。

痛みの原因である影は、相沢の体の至るところに移動し、稀に痛みを発生させる。

それだけならばまだしも、問題は検査のたびに、血液の血小板が減少していることだ。それだけではなく赤血球なども減少傾向にある。

正直な話、今すぐにでも切らなければ危険な状況だった。

 

 

「おそらく原因は体を移動する影よ」

 

 

移動する点を考えると、大門も飛彩もいくつかの考えがある。

だが何はともあれまずはメスを入れなければ先には進めないのが現状だった。

 

 

「………」

 

 

相沢は少し戸惑っていたようだが、時間がないと言うことなので、答えは一つだった。

しかしその前に少し時間が欲しいという。

 

 

「ちょっと、いいですか?」

 

「なに? ご両親に電話する? さっき連絡しておいたからもうすぐ来るとは思うんだけど」

 

「いえッ、そうじゃなくて……、ああいや、それもあるんですけど」

 

「?」

 

 

相沢が言い出したのは、江上と話がしたいということだ。

頭をかく大門。関係性はなんとなく聞いているが、今はそれどころではない。

こうしている間にも相沢の血液には何かしらの異変が起こっているのだ。

 

 

「江上くんとお話させてくれたら、サインしますから」

 

 

ともあれ、どうやらその部分は頑固らしい。

大門は呆れた様に首を振ると、後ろに下がった。

 

 

「ッ、なるべく早くしてよね。一分で!」

 

 

すぐに入れ替わりで江上が入ってくる。

 

 

「な、なに?」

 

「あのね江上くん。あなたにどうしても、謝らないといけない事があって」

 

「え?」

 

 

いつ容態が急変するか分からないので、入り口には大門をはじめとして飛彩や永夢、その奥には大我やニコも立っている。

相沢はなるべく小声で話そうと思っていたが、つい感情が入ってしまい、誰もがその音を拾うことができた。

 

 

「罰ゲームなの」

 

「え?」

 

「だから、あなたと一緒に遊んでたのは……、その、罰ゲーム」

 

 

何を言っているのか、しばらく理解できなかったが、それは随分と残酷な事実だった。

相沢が入っている女子グループの中での話らしい。

 

一度待ち合わせに遅刻してしまった罰として、適当な男子をその気にさせろと言われた。

そうやって適当に選ばれたのが江上である。一番はじめに遊園地に誘ったのも、江上が絶叫マシーンが苦手だと知っていたからだ。

彼が怯える姿を、影で観察して笑うつもりだったらしい。

 

 

「今も、それは続いてて」

 

 

毎日のメールも、女子グループに転送して笑いものにしているとか。

さらに言えばなんと、江上が相沢に告白するかを裏で賭けている子もいるらしい。

簡単に言ってしまえば、いじめの様なものだった。

 

 

「―――」

 

 

江上はなんと言えばいいのか、全く分からない。

ただショックに打ちのめされて、椅子にへたり込んだ。

 

 

「こういう事になったのは、きっとバチが当たったんだね……」

 

「そ、そんな……」

 

「本当に、ごめん。だから、もう、おしまいにしよ」

 

 

相沢は途切れ途切れに謝罪を述べていく。

 

 

「私は、あなたのこと、好きでもなんでもないから」

 

「ッ」

 

 

江上はあまりのショックからか、目に涙を浮かべている。

あまりにも可哀想だ。ニコは拳を握り締めて前のめりになった。

 

 

「許せないあの女! ちょっと文句言ってやる!!」

 

「待て!」

 

 

大我はそんなニコの襟を掴むと、後ろにまわす。

 

 

「なにすんだよ!」

 

「ガキってのは面倒で困るな」

 

「???」

 

 

大我は白衣に手を突っ込んだままズカズカと中に入っていく。

 

 

「話は聞かせてもらった。だが引っかかる事がある」

 

 

大我は部屋の隅においてあった相沢のリュックを親指で示す。

 

 

「どうでもいい相手のために、あんなもん持ってくるのか?」

 

「………」

 

 

相沢は俯き、沈黙する。

実は相沢が倒れているときに、大我は彼女の手の近くに白い箱が落ちてるのを見つけた。

 

 

「中は見させてもらった」

 

「うわッ、勝手に中見るとかマジひくわー……」

 

「ぅるせぇ! 何か分からなかったんだから仕方ねぇだろ!!」

 

 

とにかく、中には相沢の発言を疑問に思う『物』があった。

相沢は唇を震わせ、視線を逸らす。

 

 

「ねえ、もうとっくに一分経ってるんだけど!!」

 

 

ズカズカと割り入ろうとする大門だったが、その時、腕が伸びる。

飛彩だ。どこか遠い目で江上たちを見ている。

 

 

「ちょっと! なにすんの」

 

「いいじゃないですか。少しくらいなら」

 

「あんまり時間ないって言ってるでしょ!」

 

「血液の減少スピードは下がってきています。少しくらいなら余裕はあるでしょう」

 

 

なにより――、飛彩は僅かに目を細める。

 

 

「……俺の恋人は、ゲーム病が原因で消滅しました」

 

「ッ!」

 

「もっと話を聞いてやれば良かったと、いつも思っています」

 

 

大門は表情を歪めながらも、口を閉じた。

一方で大我から箱を受け取った相沢は、それを開けてみる。

 

 

「あ」

 

 

それは手作りのチョコレートだった。

ただ溶かして固めただけなので、形は歪だが、少しでも可愛く見えるように色々とカラフルにデコレーションしてある。

確かに、なんとも思っていない人間にあげるにしては気合が入ってる。

 

 

「もしかして……」

 

 

ニコはチラリと相沢を見る。

彼女は、ポロポロと泣いていた。

 

 

「――す」

 

「え?」

 

「手術は……、しなくていいです」

 

 

噛み殺すようにして放たれた言葉には、どんな意味があるのだろうか。

だけれども、そこにはとても深い感情があるように思えた。先ほどまでは生を望むような素振りをして、今は死に向かっている。

その矛盾した言葉は、ほんの僅かな時間と情報が齎したものだ。

少なくとも永夢は理解できずに、大きく取り乱す。

 

 

「ど、どうしてなんですか!」

 

「生きたくないから……、です」

 

 

永夢や海老名は理解ができなかった。ましてやそれは江上も同じで、ただ戸惑うばかりである。

だがチョコレートを見た大我やニコ、そして飛彩だけはなんとなく理解していた。

 

相沢は本当に江上の事が好きだったのだ。

 

だからこそバレンタインのこの日に、わざわざ手作りのチョコレートを作って渡そうとしていた。

けれども同時に『罰ゲーム』と言うしがらみから抜け出す事ができなかった。

彼女の話では女子のグループ内の出来事らしいが、そこに原因があるのだろう。

つまりのところ、彼女はコウモリだ。そしておそらくグループ内の序列は最も下なのだろう。

 

そう、事実、それは友人の集まりではない。

ただ学校内で安定した位置に立ちたいという欲望が生み出した仮初の立ち居地だ。

相沢と言う少女は不器用だった。何をやってもうまくいかない。本人はそこまで自覚はないが、半ば顔がいいだけにスペックも期待されてしまう。

だが勉強は苦手だし、運動もダメ、人付き合いも苦手なせいで今までいらぬ苦労ばかり。

 

今回のことだってそうだ。遅刻したくらいで、適当な男に迫れなんて酷い話だ。向こうはそれを分かっている。

相沢は断れない、断ったら仲間はずれにされるかもしれないと怯えている。それを全部向こうは分かっていた。

そして江上を騙しているという罪悪感。しかしそれでも自分の方が大切だと思うことへの自己嫌悪。

 

そして、いつの間にか江上に惹かれてた。

彼は自分のために苦手な絶叫マシーンを克服しようと努力してくれた。その思いに胸を打たれ、けれどもグループから抜け出せない苦悩。

江上に気持ちや『裏』を伝える事もできなければ、女子グループから抜け出す勇気もでない。

たまらなく惨めで、いつもふとした時に消え去りたかった。

つまり、たまに、凄く死にたくなる。

そうした中の今だ。ずっと溜まっていた黒いものが、大我にチョコを見られたことで溢れてきた。

 

 

「分かったんです。病気が治っても……、私は何も変わりません」

 

 

医者は人間関係を直してくれるのか?

医者は大学に入れてくれるのか?

医者は良いところに就職させてくれるのか?

医者は心の痛みを治してくれるのか?

医者はこの漠然とした未来への不安を消してくれるのか?

相沢は全て分かっている。無理だ。このままダラダラ生きてても、きっと苦しいだけだ。もっと苦しくなるだけだ。

だったらいっそ、このまま理由がある中で死ねるのならば……。

 

 

「分かってるの!? 手術しないと死ぬんだよ!」

 

 

叫ぶ大門。

けれども相沢の気持ちを汲んだのか、飛彩がまた前に出る。

 

 

「生きたくないと思っているものに、メスを入れる必要があるのでしょうか」

 

「は? アンタ、本気で言ってんの?」

 

「いえ、昔の俺ならそう思っていたでしょうが……」

 

 

飛彩には一つ信念がある。

だからこそ、無理やりにでもオペをする覚悟ではある。

 

 

「ただ、たまに分からなくなります。無理やり救うことは、正しいのだろうかと」

 

 

飛彩がこんなにも感傷的になるのには理由がある。それは相沢の名前だった。

相沢(あいざわ)沙樹(さき)。奇しくもそれは、飛彩の彼女である百瀬小姫と同じ読み名であった。

彼女の事をもっと理解してあげたのなら、悲劇は避けられたかもしれない。

ずっと、今も心の中にある。

 

 

「いたしません!」

 

「は?」

 

 

けれども、大門はキッパリと言い捨てる。

 

 

「苦悩! いたしません!!」

 

「ッ???」

 

「あのね、アンタなんか勘違いしてない?」

 

 

大門は飛彩を、そして自分を示す。

 

 

「私達は神じゃない。医者よ!」

 

 

別に、死にたいと思うこと自体を否定するつもりはなかった。

そんなのは別に人の自由だ。そりゃ生きてればいろいろ苦労する事もあるんだろう。

大門はそんな事を思ったことはないが、事実世の中には自殺する人だっているのだから理解はできる。

 

 

「けれど、その理由を病気のせいにするのは許せない」

 

「……!」

 

「別に迷いたければ迷えばいい。でもね、今みたいに生きるか死ぬかで迷ってるのは納得できない。だってアタシ達は医者でしょ!?」

 

 

生きたいか、死にたいかとか、本当にどうでもいい。

なぜならば医者は、生かせるのが仕事ではないか。

病による死を取る? 生きながらえる未来を取る?

 

 

「下らない! その選択肢を潰すことが私たちの仕事よ。生きるか死ぬかで悩ませるなんて医者失格もいいとこだわ」

 

 

医者は先生と呼ばれるが、だからと言って人生の先生ではない。

大門は飛彩の腕を払い、相沢の前に来る。

 

 

「どうせ悩ませるなら、生きて何をすればいいかを悩ませなさい」

 

 

相沢の前で言ったが、その言葉は飛彩に向けてだ。

 

 

「ねえアンタ」

 

 

そして次は確かに相沢に向けてだ。

 

 

「彼のこと好きなんでしょ」

 

「!」

 

 

大門は江上を見る。

釣られて相沢も江上を見た。

 

 

「なんで好きなの?」

 

「そ、それは……」

 

「ああもう! 時間ないって言ってるでしょ!」

 

「きゃ! あ、ぁうぅあ」

 

 

大門みたいなタイプは苦手だ。だから、半ば反射的に理由を述べた。

 

 

「つ、強い……、から」

 

「弱そうに見えるけど」

 

「ちょ、ちょっと失礼ですよ大門先生……!」

 

 

永夢は止めたが、事実、江上の腕っ節は弱い。それは相沢も知っている。

けれども強いと思うのだ。やっぱりそれは、絶叫マシーンが苦手なのに必死に特訓した、心の強さだ。

 

 

「だったら、アンタも強くなりな。彼氏と肩並べられるように」

 

「!」

 

 

相沢はハッとしたように目を見開く。

ふと、江上を見ると、彼はしっかりと頷いてくれた。

一瞬、ほんの一瞬だけ相沢は笑った。それを見て永夢が――、いや、それよりも早く飛彩が前に出る。

 

 

「手術をしましょう。大丈夫、あなたは絶対に助ける」

 

 

二人の天才が並んでいた。

相沢は唇を震わせながらも、確かに頷くのだった。

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

「はい、はい……?」

 

 

院長室では、蛭間が苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

セコセコと現れたのは神原晶。カバンを手にしており、ニコニコと笑っている。

どうやら飛彩と大門が行った、衝突腫瘍のオペの件らしい。

 

 

「このたびはウチの大門と城之内を使っていただき、真にありがとうございます」

 

「はい。ええ、まあね、今回は聖都大に向けてのアピールもありましたからね。いいですよ、お支払いしますよ」

 

「そう言って頂けると助かります。それでは、こちら、メロンです」

 

 

いつのも流れではあるが、そこで蛭間は目を丸くして固まった。

と言うのも、差し出された風呂敷が随分と小さいではないか。どう考えてもメロンはそこには入らない。

 

 

「えぇ、いやッ、ちょ、えぇ?」

 

「おや? どうされましたか?」

 

「いやいや、おたくさん――ッ、これっ、えぇ? どうしたのさ、随分と小さいじゃないの。ええ?」

 

「メロンです」

 

「いやいや、アンタそんなワケないでしょゥ。いやね、別にメロンがどうしても食べたいってワケじゃないのよ。ただおたくの法外な請求を受ければね、甘くて美味しいメロンの一つや二つ頂いたってバチは当たらないでしょうが」

 

「ですから、メロンです」

 

「いや――、だからッ」

 

「ですので、メロンです」

 

「おゥなんだジジイ喧嘩するか? だからコレッ、どう考えてもメロンなワケないでしょうが!!」

 

「メロンです」

 

「メロンじゃねーって! メロンなワケねーじゃん!」

 

 

ギャーギャー騒ぎながら蛭間は風呂敷を奪い取る。

こうなったら百聞は一見に。

風呂敷を取ると、桐箱が姿を見せるが、やはり小さい。蛭間はイライラしたように箱の蓋をブン取って見せる。

 

 

「――ぇ? ビックラポン……」

 

 

メロンが、確かに、そこにあった。

 

 

「どうぞ、メロンロックシードです」

 

「な、なんだよメロンロックシードって」

 

「メロンロックシードはメロンロックシードです。メロンロックシードを使えばメロンアームズになれますが、これは正確にはメロンエナジーロックシードなのでメロンエナジーアームズになります」

 

「――は? いやいや、説明聞いても……ッ、は? メロンエナジーアームズってなんだよ……!」

 

「こちら、ゲネシスドライバーもお付けします。メロンエナジーアームズはメロンアームズよりも強力ですので、是非、ご活用ください」

 

「いや、だからメロンエナジーアームズってなんだよ……!」

 

「こちら、請求書です。今回は格安ということで、555万となっております」

 

「格安でも高ぇな! 戦うことが罪かよ!! ってかメロンエナジーアームズってなんだよ!」

 

「メロンエナジーアームズはメロンです」

 

「いやッ、そりゃ見ればわかるけど、メロンはメロンだろ……、メロンエナジーアームズってなんだよ!」

 

「それでは、私はこれで」

 

「おいちょッ、ま――ッ! ちょ待てよ! メロンエナジーアームズって何だよ! メロンエナジーアームズってなんなんだよ! おぇ! おえィッ! なあ、おいって! ちょ、まッ、おぉおぉおおい! メロンエナジーアームズってなんなんだよォオオオオオオオオオ!!」

 

 

天を仰ぎ、叫ぶ蛭間。

こんなのメロンではない。ただの玩具ではないか。

蛭間は怒りからか、メロンエナジーロックシードをガジガジ噛んでいるが、もちろん味なんてありゃしないし、メロンのフレーバーなんて欠片もである。

ましてや、そこで鳴り響く電話。それをとれば、蛭間はますます怒りから顔を真っ赤に染めていくのだった。

 

 

「大門未知子ォオオオオオオオオオ!!」

 

 

だから見学室の扉を蹴破るようにして、蛭間が転がりこむ。

眼下に広がるのは紛れもなく、今まさにオペを行おうとしている大門たちではないか。蛭間はすぐにマイクのスイッチを入れ、叫ぶ。

 

 

『なに勝手にオペやってんだよお前は! なに勝手にオペってんだよ! マジマンジィィ!』

 

「あらあら、相当怒ってるみたいよ。ねえ? 大門先生」

 

 

城之内は煽るように笑うが、当然スルーである。

 

 

『え? おいちょッ、待て! 海老名! お前まで何やってんだ!!』

 

「やべぇ、気づかれた。どうしよう大門。おい何とかしてくれよ」

 

 

子犬のような(略

とはいえ、仕方ない。なにせ何の病気かはまだ確信がないのだから。

切ってみて、何かあるといけない。なるべく人数は多いほうがいい。

 

 

「それで巻き込まれたコッチの身にもなってくださいよ。ねえ加地先生」

 

 

とはいえ、もはや大門のめちゃくちゃは慣れたものだ。

 

 

「本当だよ。ほら、さっさと始めるぞ」

 

「そうね。用意はいい? 鏡先生」

 

「もちろん」

 

「じゃあ始めるよー。メス」

 

 

大門はメスを取ると、早速それを相沢の体に沈めた。

一方、手術室の外で待つのは江上たち。

 

 

「大丈夫かなー?」

 

 

中でもニコはそわそわしながら行ったり来たりと忙しない。

もちろんそれは江上も同じである。椅子には座っているが、不安からか、しきりに足を動かしている。

 

 

「落ち着け、ブレイブがいるんだから大丈夫だろ」

 

「大門先生もいますからね」

 

 

流石に大我と永夢は落ち着いている。

だが永夢たちも影が移動する病気なんてのは聞いたことがない。あれは明らかに異常だった。

そう、異常なのだ。それはつまり――、異形なる存在の証明ではないだろうか。

 

 

『おやおや、オペが始まってしまいましたか』

 

「!」

 

 

トコトコと歩いてくるのは、小型の秘書ロボット・ソンタくんだ。

 

 

『ソンタク! ソンタク! お分かりですか皆さん。ソンタク! そうです、忖度なんです。大切なのは!』

 

「な、なにこいつ。キモ……」

 

 

ニコはギョッとして、大我の背中に隠れる。

 

 

「大丈夫だよニコちゃん。あれはソンタくんって言って、この病院の秘書ロボットなんだ」

 

「……そうは見えねぇがな」

 

「え?」

 

 

大我の言葉に反応し、永夢はソンタくんを見る。

するとどうだ、ソンタくんの背中から無数の赤い菱形の物体が射出されていくではないか。

5~7個ほどはあるだろうか? 空中を漂う摩訶不思議な物体はなんなんだろうか?

にしても凄い技術だ。菱形は空中を浮遊し、ソンタくんの周りに漂う。

ドローンだろうか? いや、にしてはやけに静かだ。

 

 

「そ、ソンタくん、それなに?」

 

『ファンネルです』

 

「ふぁ、ふぁ……?」

 

 

その時、菱形からビームが発射され、永夢たちを狙う。

 

 

『バン! バン! シューティング!』

 

 

間一髪だった。タイトル画面がシールドになってくれなければ、永夢たちは今頃光弾に焼き焦がされていただろう。

唖然とし、立ち尽くす永夢。意味が分からない。

一方で大我は鼻を鳴らし、皆を庇うように前に出る。

 

 

「おいおい、東帝大ってのはとんでもない物を導入してんだな」

 

『ホホホ! 流石はスナイプ。あれを防ぎますか』

 

「なにモンだ!」

 

 

そう、もはやソンタくんは皆が知っているソンタくんではないのだ。

既にこの世界には悪意が入り込み、活動をしていた。ただそれだけである。

 

 

『私は財団X! いや、スーパーショッカー所属の『ジル』と申します』

 

 

ジルはその科学力を使い、ソンタくんを戦闘用に改造していたのだ。

それにしても財団Xだのショッカーだのには聞き覚えがある。永夢はすぐにドライバーを装着し、ジルを睨みつける。

 

 

「まさか……ッ、お前達が相沢さんを!?」

 

『フハハ! その通りだエグゼイド!』

 

 

ソンタ君――、ジルは両手を広げて何度も頷いている。

 

 

『"ロストヒーローズ"により獲得した技術力! この世界は、それを試す実験場なのだ!』

 

 

ジルはジェットパックを起動させて飛び上がった。

 

 

『エグゼイド、スナイプ。お前達は邪魔な存在だ! 来たまえ! 私が排除してあげよう!』

 

 

そのまま背中のジェットを噴射すると廊下を飛行していく。

明確な悪意の登場。放っておけば大変な事になる。大我はすぐにレベル3へ変身。自らも飛行を開始し、ジルを追いかけていった。

それは永夢も同じだ。ゲーマドライバーを装着し、懐からガシャットを取り出す。

だが、ふと、気配を感じて後ろを見た。そこには悔しそうに拳を握り締めている江上が見えた。

 

 

「どうしてっ、クソ――ッ! 僕らは何もしてないのに!」

 

「江上くん……」

 

 

ゲーム病だってそうだ。

普通に生きてるつもりなのに、どうしてこうも上手くいかないんだ。

どうして辛い事ばかり起きるんだ。そういう漠然とした悔しさが心にはあったのだろう。江上とてジルの姿や声は聞いている。

分かってるんだ。あのとんでもない化け物は永夢たちにしか倒せない。

分かってるんだ。大切な相沢を蝕むものは、飛彩たちにか治せない。

分かっているんだ。たかが絶叫マシーンで怯えていた男には何もできないことが。

 

 

「僕は悔しいです……。僕はッ、何もできない!」

 

 

永夢はすぐに動いた。

へたり込んでいる江上の前に来ると、膝を床について目線を合わせる。

 

 

「違うよ」

 

「え?」

 

 

確かに、江上には相沢を治すことはできない。

 

 

「だって、そのために僕らがいる。ボク達はドクターライダーなんだから」

 

「先生……」

 

 

江上は倒す必要はない。苦しむ必要はない。

ましてやそれは特別な事じゃない。その為に永夢は学び、ゲーマドライバーを手にし、そしてお金を貰っている。

だからそれは特別な事に見えて、案外特別ではない。

 

 

「でも、問題は治した後じゃないかな」

 

「ど、どういう意味ですか?」

 

「相沢さんの不安を取り除くことはボクにだってできるかもしれない。でもそれはやっぱり一時的なものなのかも」

 

 

まだ言うて子供の相沢と江上。果てしない不安の波は定期的に訪れるかもしれない。

アフターケアはなるべくしたいが、新しい患者が待っている。

患者の笑顔のために戦うが、人間はずっと笑顔じゃいられないことだって分かってる。

 

 

「だから、本当の意味で相沢さんを救えるのは江上くん。キミだよ」

 

「!」

 

「相沢さんは元気になって帰って来るよ。そしたら最高の笑顔を見せてあげて」

 

 

永夢は柔らかい笑顔を江上に見せた。

 

 

「それは、キミにしかできない事だよ」

 

「……ッ、はい! ありがとうございます宝生先生!」

 

 

永夢は頷くと立ち上がり、ガシャットを起動する。

どこからともなく風が吹き、前髪を揺らした。同時に永夢の瞳が一瞬だけ赤く染まる。

先ほどの柔らかい雰囲気は消え、不適に笑い、ガシャットを装填、変身を行う。

 

 

『ガッチャーン!』『ゥルェベルマーックス!!』

 

『最大級のパーワフルボディー!』

 

< ダリラガーン!!

 

        ダゴズバァーン!! >

 

 

 

電子音がループする中、エグゼイドとなった永夢は手を前に出し、指を開く。

 

 

「さあ、ノーコンテニューでクリアしてやるぜ!!」

 

 

ガシャットの装飾を叩き、起動させる。

走り出したエグゼイド。同時にいつの間にか背後に現れていたパワードアーマーも展開し、エグゼイドを受け入れる場所を作った。

 

 

『マキシマァムパワァー!』

 

『エェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッックス!!!!!!!』デデーン!!

 

 

アーマーとエグゼイドが合体し、マキシマムゲーマー・レベル99へ。

すぐに足から炎が噴出し、エグゼイドはスナイプ達を追いかけに向かった。

マキシマムゲーマのスペックは高い。病院を飛び出すこと、ものの数十秒で追いつくことはできた。

スナイプは丁度ガトリングガンでジルを撃墜しているところだ。エグゼイドも合流し、一同は公園の広場に降り立つ。

 

 

「答えろ。あの女に何をした」

 

「そうだ! どうして相沢を狙った!!」

 

 

肩を並べるスナイプとエグゼイド。

しかしジルに慌てる様子はない。むしろ、立ち上がる際には笑っていた。

 

 

『フフフ! 理由? バカめ! そんなものあるものか!』

 

「なんだと……ッ!」

 

 

普段はキャッチーなソンタ君の表情が、やけに冷たく見えた。

何も変わらないはずだ。声も同じ。しかし中にジルがいるだけでここまで変わるものなのか。

機械的に腕を動かすのは、何の感情も、慈悲もないような表れ。

 

 

『モルモットが必要だった! 我々の技術は他世界との融合や会合により、日々、果てしない進化を続けている!』

 

「――ッ」

 

 

そこでエグゼイドの脳裏に宿る言葉、ロストヒーローズ。

先ほどジルが口にした単語だが、ふと思い出す。そういえば以前ウィザードからそんな単語を聞いたことがある。

異なる世界が融合し、技術が一箇所に集まった。

光の巨人だとか、モビルスーツだとか、珍しいものがあったと聞いている。

その時の事件を、彼らはロストヒーローズと名づけたとか。

 

 

『エグゼイド! 世界の可能性は無限だ! 人間のお前達では理解できないかもしれないが!』

 

「ふざけんな! そんな事のためにッ! なんの罪も無い女の子を巻き込んだのか!!」

 

『それがお前達の役割と言うものだ! 我々の進化の礎になるのならば、むしろ光栄な事だろう!』

 

「ッ!」

 

『今頃ブレイブも目撃しているはずだ! 我々の研究成果をな!!』

 

 

その通りだった。

腹部を開いた大門たち。

そこで、大門は見つける。相沢を蝕んでいた『影』の正体。

 

 

「なにこれ……!」

 

 

あまりにも簡単な話だった。ヘモグロビンや血小板が減っていたのは、それを取り込む存在があったからだ。

大門はしっかりと見た。と言うよりも目が合った。

相沢の体内に巣食っていた小さな『虫』と。

 

 

「!?!!?」

 

 

あまりにも一瞬だった。

虫の体はあまりにも小さいが、その口から霧のようなものが大量に噴き出したのだ。

それは一瞬で大門を包むと、マスクを超えて大門の体内に入る。

"フォッグ光線"。それは対象を麻痺させる攻撃だ。

大門は大きくフラつき、そのまま壁にもたれかかって、気を失った。

 

 

「な、なに!? なによ!!」

 

 

海老名や加地たちが大きく患者から離れていく中、飛彩はむしろ目を見開く。

飛彩も虫は見た。もちろんそれはただの虫じゃない。

完全なる化け物だ。

 

 

「クッ!」

 

 

そうなると話は変わってくる。

飛彩はゲーマドライバーを装着し、ガシャットを構えた。

 

 

「すみません。外します!」

 

「外す!? ちょっと鏡先生! オペはどうするの!」

 

「これは最早ッ、オペなどではない!」『タドルクエスト!』

 

 

飛彩は変身を行い、レベルアップを果たす。

 

 

『タドルクエストォー!』

 

 

それほど広くないオペ室だ。宝箱は密集している。

手当たり次第に箱を開けると、お目当てのエナジーアイテムを獲得する。

 

 

『収縮!』

 

 

文字通り、ブレイブの体が小さくなる。

そして、そのまま相沢の体内へ入っていった。

 

 

「……もう、めちゃくちゃだよ」

 

 

加地がポツリとつぶやいた。本当にそうである。

一方で相沢の体内に降り立ったブレイブ。その前に、先ほどの虫が姿を見せる。大鷲の紋章が刻まれた赤い瞳に、ピンクの体。

周りは血と肉、張り巡らされた血管や神経。かつてない異空間で、ブレイブは剣を構えた。

 

 

『宇宙細菌・ダリー』

 

 

公園の広場では、ジルがその虫の正体を口にしていた。

細菌と名づけられているが、見て分かるとおり昆虫の一種である。ターゲットの体内に侵入し、血液中のフィブリノーゲンを食料とする。

 

 

『かつては別世界の生命体だったが、我々ショッカーは既に怪獣軍団と手を組んでいる。既存のダリーに更なる改造手術を施し――』

 

 

饒舌に、なによりも楽しそうにジルは計画の内容を語る。

と言っても、別に特別中身がある話ではない。ただジルの所属するショッカーと言う組織が新しい力を手に入れたので、それを試す。或いは進化させるための実験場こそがこの世界と言うわけだ。

ジルは自らが動きやすいようにソンタくんを改造。自らの分身として現在使用している。

ジルが力を入れているのはダリーの存在だ。知らず知らずに体内に侵入する虫。そして寄生されたが最後、後は死を待つのみ。

 

 

『もしもこれが上手くいけば、ダリーをすぐにでも量産する計画に入るのです!』

 

 

全く新しいバイオテロの形となるだろう。

そうすればショッカーの理想、世界征服への道は大きく前進するはずだ。

 

 

「無駄だ! ブレイブがいる!」

 

『フッ! ダリーを外科手術で摘出することは不可能!』

 

 

虫ではあるが、知能は高い。

自分を取り除こうとする意思を敏感に察知し、肉や血管にしがみつく、もしくは別の場所に移動する。

ましてや掴んで摘出も難しい。すばやい動きだけではなく、口からは対象を弱らせて意識を奪うフォッグ光線を発射することもできるのだから。

現にダリーが本能で脅威を察した大門は、気絶中である。

 

 

『仮に小さくなって体内に侵入したとしても、ダリーの耐久を削るほど威力がある攻撃を、患者の体内で撃てると思いますか?』

 

「ッ」

 

 

確かに。

そして現在のブレイブも同じだった。

 

 

「クッ!」

 

 

ダリーは細長い脚や、牙でブレイブを狙う。

それをかろうじて防ぐことはできるが、反撃が難しい。ガシャコンソードの威力を落として、なんとか切りかかるが、それではダリーの防御力を突破することは難しい。

かと言って体内で炎や氷の力を使うのは相沢の身を危険に晒してしまう。

もちろんそれを分かっているからこそ、ジルはダリーを評価しているのだ。

 

 

「ならば!」

 

 

だが問題はない。なぜならばブレイブには対象を別空間に送るステージセレクトがあるからだ。

これでダリーだけをゲームエリアに引き込めば何の問題もなかった。ブレイブはすぐに銀色のボタンを強く押してみせる。

しかしそのとき、ダリーが鳴いた。ただ吼えただけではない。甲高い金切り声はステージセレクトのシステムを浸食し、無効化してみせる。

 

 

「馬鹿な!!」

 

 

妨害機能も搭載である。

ダリーは素晴らしいウイルスであると、改めてジルは説いた。

 

 

『だがお前達は、それでも我々の計画を邪魔してくる可能性がある!』

 

 

ジルとしても正直、飛彩たちがココにいる事は予想外だった。

改造ダリーはまだ不完全だ。万が一にも計画が失敗する可能性はある。

だからこそ、もう一つ、並行して進めていた研究にてエグゼイドたちを始末する。

 

 

『来て下さい! ドクター猪又!!』

 

「えッ!?」

 

 

ジルの背後から歩いてきたのは、東帝大のドクターである猪又であった。

そういえば、いつの間にか姿が無かった。永夢は特に気にしていなかったが、どうやらそれには明確な理由があったらしい。

 

 

『気分はどうですか? ドクター猪又』

 

「フフフ、悪くはない」

 

 

猪又はゆっくりと顔をあげ、ニヤリと笑った。

そこでエグゼイドは気づいた。彼は猪又と言うドクターをほとんど知らない。

東帝大に身を置く優秀な医者であるということくらいは分かるが、なにせ知り合ったのが今日であり、会話もほとんどしていないのだから、それは当然だろう。

 

だが、見かけた時のことは覚えている。猪又の髪の毛は全て白髪だった。

にも関わらず、現在エグゼイドたちの前にいる猪又は、髪が黒色で、一部分だけ白いメッシュになっているだけである。

つまり髪の色が変わっているのだ。たかが髪? いや、それにしたって一日でここまで変わるのはおかしい。

 

 

「まだッ、俺の――ッ、いや、私の……! ンンッ! 調子は戻っていませんが、それでもな、ルーキーを潰すくらいはできるだろうさ」

 

 

猪又はしきりに咳払いを行い、言葉を詰まらせていた。

まるで、それは、自分の体ではないような不都合さを感じる。

 

 

「ソイツにも何かしたのか?」

 

 

スナイプの問いかけに、ジルはあっさりとネタバラシを行う。

どうやら実験がうまくいった事に興奮しているのだろう。最も、流石に自分達の技術をペラペラ喋る間抜けでもない。

要するに、喋った上で、エグゼイド達にはどうする事もできないと分かっているのだ。

 

 

『統一化ですよ! ドクターライダーの皆さん!』

 

「統一化……?」

 

 

そこでエグゼイドは、猪又の腰に『ベルト』が装着されているのを確認する。

その形状には見覚えがあった。ドクターパックマンとの戦いで協力したウィザードと同じではないか。

まさかと思えば、予想通り猪又は指輪を構え、ベルトを起動させる。

一方で話を続けるジル。ダリーは言ってしまえばターゲットを病気にさせ、そして殺す。

それは普通の病と同じだ。一口に言ってもいろいろな種類があるが、中でも、そう、感染。

 

 

『我々も同じですよ。ドクターライダー。私達は皆、ウイルスなのです』

 

 

世界の融合は繰り返され、加速し、あまりにもスムーズに。当たり前になっていく。

なんでも最近、りんご5個分の白猫ちゃんが、オルフェノクになったり555だったり。

 

 

『世界は融合を繰り返しています。当然それだけの可能性や命がある。無限とも言える世界の前で、たった一人の命に右往左往しているなど、愚かだとは思いませんか?』

 

 

稲津が迸った。

 

 

『チェンジ!』『ナウ』

 

 

猪又の体が黒いライダーに変わる。

いや、彼は猪又ではない。仮面ライダーソーサラー。

 

 

『ドクターライダーよ。我らこそが、秩序ある世界に無秩序を生み出してしまう細菌なのです!』

 

 

猪又は別の世界でライダーだった。けれどもそれは特別珍しい話ではない。

パラレルワールドは無限の可能性だ。時間さえも跳躍した無限の中で、同じ顔、同じ声の人間がいることは珍しくない。

けれどもあくまでも遺伝子的には限りなく近くとも、やぱりそれは世界の壁を隔てれば違う人間であり、全く関係ない話だ。

 

しかしショッカーは、それを統合させる研究に手を出した。

ありとあらゆる世界における類似を淘汰し、全を一に変えようと言うのだ。その結果がコレである。

ただの医者、ただの人間である猪又に中に眠る『他世界』においての役割をフルに活性化させる。

その結果、別世界のデータが重なった。

侵食されていく意識(セカイ)可能性(パラレル)融合していく。一つになる。

 

 

「お楽しみは、これからだ!」

 

 

エコー掛かった声で、ソーサラーはハルバードを取り出した。

 

 

「エグゼイド。忌々しいウィザードの仲間よ。な――、なんだこれは……ッ、うぐォオオォ! ハハハッ! まだ融合が――、うぐぉおッ、がッ、いいだろう! さっさと終わらせる必要があるようだ!」

 

 

愉快だと笑う声と、苦しむ声が交互に漏れる。

何もおかしな話ではない。二つの存在が融合しているのだ。

 

 

「チッ、ワケがわからねぇ!」

 

「とにかく助けるぞ!」

 

 

パワードアーマーをドタドタと揺らしてエグゼイドはソーサラーに殴りかかる。

しかし拳は届けど、ヒットした感触はない。エグゼイドの拳はソーサラーの腹部を貫いているものの、それはソーサラーが液状化したからである。

 

 

「愚かなヤツだ!」

 

「グゥウ!」

 

 

ソーサラーは液体となったまま、縦横無尽に動きまわり突進を繰り返す。

エグゼイドを、スナイプに思い切り水を打ちつけ、背後へまわりつつ実体化する。

 

 

「医者がッ! 魔法使いに勝てるものかよ!!」

 

 

ハルバードでスナイプの胴体を切り抜け、そのままエグゼイドにも切りかかる。

厚い装甲のアーマーだが、ソーサラーは刃を押し付けて魔法を発動。ハルバードの刃に凄まじいエネルギーがまとわり付いた。

 

 

「まずい!」

 

 

エグゼイドはガシャットを操作し、アーマーから離脱する。

同じくして巻き起こるエクスプロード。魔法で生まれた爆発は巨大なマキシマムゲーマを簡単に吹き飛ばしてみせる。

 

 

「この世界は我々が支配する! お前達はここでジ・エンドだ!」

 

「させるかよ! 患者の運命も、世界の運命も、オレが変える!」

 

 

エグゼイドはキースラッシャーを手に着地。

既に距離を詰めていたソーサラーと切りかかることに。

魔法使いと言えども、接近戦はエグゼイドと互角である。激しく武器を打ち付けあうなかで、意識を集中させて僅かな隙を狙っていく。

もはやここからはセンスだ。ともあれば、天才ゲーマーの名は伊達ではない。

 

 

「!」

 

 

エグゼイドは僅かに身を屈めた。

すると向こうからマキシマムゲーマから発射されたレーザービームが飛んでくる。

目の部部から放たれた光線はソーサラーに直撃すると、僅かに怯ませた。そこへ振り下ろされるキースラッシャー。

 

 

「おっと!」『ディフェンド』『ナウ』

 

「なにッ!」

 

 

だがソーサラーは掌に魔法陣を生み出すと、そのままキースラッシャーを受け止めてみせた。

刃を握り締めれども、防御魔法のおかげでダメージはない。

 

 

「クソ!」

 

 

エグゼイドは剣を引き抜くと、ソーサラーの足下を狙って振るう。

しかし硬い音。見ればハルバードが剣をしっかりと受け止めていた。

ならば次は思い切り上。首を狙った一撃は柄で弾かれる。

 

 

『バインド』『ナウ』

 

 

金色の鎖がエグゼイドを縛り上げる。

さらに強力なブリザードが巻き起こり、エグゼイドはもちろん、彼を助けようとしたスナイプを凍結させた。

 

 

『ライトニング』『ナウ』

 

 

その氷ごと閃光で破壊し、大ダメージを与える。

地面に叩きつけられるエグゼイドとスナイプ。笑うソーサラー。

このままではマズイ。エグゼイドは立ち上がると、ハイパームテキのガシャットを取り出す。

 

 

『ムンッ!』

 

 

だがその時、ジルを中心に発生する円形のフィールド。

エグゼイドは気づかない。ガシャットを起動させようとするが、何度ボタンを押してもガシャットは反応しない。

 

 

「な、なんでだ!」

 

『私だ』

 

「何ッ?」

 

『ククク! ムテキの話は既にショッカーには伝わっている。なかなか強力な力のようだが、所詮は人間が作った仮初の絶対にしかすぎない』

 

 

ショッカーの頭脳と技術力は黎斗(ニンゲン)を凌駕している。

ジルの頭部には『ハイパームテキ無効化マシーン』が埋め込まれてる。もはやムテキはただのガラクタでしか無かった。

 

 

『ちっぽけだ! ああ! ちっぽけだ!』

 

 

ジルはガチャガチャと音を立てて変形。

そのままソーサラーが持つハルバードへ装着合体していく。

一度振るえば、激しい雷光が迸り、エグゼイドとスナイプを包み込んだ。

 

 

「ガアアアアアアアアア!!」

 

「グアァアアアアアッッ!!」

 

 

二人の悲鳴がシンクロし、激しい爆発が巻き起こった。

 

 

『フフハハ! 終わりですよエグゼイド、スナイプ。そして――』

 

 

ブレイブ。

剣と牙を打ち付ける中、それは突然起こった。

 

 

「!」

 

 

まるで間欠泉が噴き出るように、相沢の脚から破裂音が。次いで血が噴き出してきたのだ。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「ぅひぃぃい!!」

 

 

あまりの事態に海老名は叫び声をあげて蹲る。

頭を抑えて震えているが、確かにいきなりでは驚くのも無理はない。

しかしそこは医者だ。想定外の自体には慣れている。すぐに加地や原は、止血に走り、状況を確認する。

 

 

「ねえ! どうなってんの?」

 

 

城之内の言葉がスイッチだった。頭によぎる記憶。

 

 

「加地先生ッ、これ、影があった場所じゃないですか?」

 

「ああ。となると……」

 

 

ダリーはしばらく、肺、脚、腕と移動を繰り返していた。

血液をむさぼるだけならば一箇所に留まっていても問題はない。自らの正体を隠すために移動をしていた?

いや、それもあるだろうが、もう一つダリーには目的があった。

それは『ダリーボム』。文字通り、爆弾型のタマゴを生み出すことができる。

 

一つ一つの威力は些細なものだが、血小板を貪った状態で傷ができれば、止血の時間はそれだけ長くなる。

それをいくつも起爆させれば、対象を大量出血に持ち込むことができる。

ダリーは利口だ。今のは威嚇とデコイの意味。外にいるドクター達を止血に向かわせることで、敵は目の前のブレイブのみとなる。

 

 

「キィイイイイイイ!!」

 

 

虫が、鳴いた。

口からは相手を弱らせるフォッグ光線が発射される。

 

 

「チッ!」『I got you(アガッチャ)!!』『オッケイ! ド♪ レ♪ ミ・ファ♪ ビィートォー!』

 

 

音の衝撃波で泡を散らしていく。

先ほどから防戦一方だった。ましてやダリーボムは脚だけではない。

ダリーを倒したとしてもボムがある。このままでは相沢の身が――……。

 

 

(なんとかならないのか……!)

 

 

焦りと苛立ちが募る。

それは『体外』も同じだった。頼みの大門はフォッグ光線を受けて気絶中だし、何が起こっているか、ワケが分からないし。

 

 

「落ち着け、慌てるんじゃない!」

 

「!」

 

 

だがその時、手術室の扉が開いた。

誰だ? 皆が視線を移すと、そこには鏡灰馬の姿が。

 

 

「鏡院長! どうしてここに?」

 

「西馬くんから連絡を受けて飛んできたんだ。私も手を貸そう」

 

 

仮にもCRの人間だ。異形の存在には慣れている。

ましてや天才・鏡飛彩の父親である。灰馬は加地たちからダリーの情報を得ると、すぐに出血の原因が何かを埋め込まれたのだと察する。

 

 

「とにかく出血部分を塞ぎ、虫が移動したと思わしき場所を開くしかない」

 

「つ、つまり全身オペ! 可能ですか!?」

 

「それしかあるまい。時間をかけたら終わりだ。早く始めよう!」

 

 

灰馬は海老名をたたき起こすと、すぐに切開に入った。

 

 

「あ、悪夢だ……!」

 

 

加地は声を震わせて目を凝らす。

ダリーのサイズは五ミリほどしかない。そのタマゴなのだから、サイズは一ミリくらいだろうか?

それを体内から見つけて摘出するなど――

 

 

『不可能』

 

 

勝ち誇ったような声色でジルは言い放つ。

さらにソーサラーはライトニングを発動。激しい電撃がエグゼイドとスナイプを撃った。

 

 

「クソ!」

 

 

煙を巻き上げながら、エグゼイドは地面を叩く。

 

 

「なんでだ……!」

 

『うん?』

 

「なんで、無関係な人を簡単に巻き込めるッ!?」

 

『先程も言ったでしょう。理由などない。相沢沙樹はただそこにいただけ』

 

「知ってんのか? お前らは」

 

 

スナイプも加わる。

 

 

「死ぬかもしれない恐怖を。病に体が蝕まれる不安を」

 

「私は人間ではない。理解はできないな」

 

 

ソーサラーは一蹴した。

それはジルも同じだ。ミュータントであるジルは、もはや人間ではない。

その時間も長いのか、どうやら既に人としての感覚は失っていたようだ。エグゼイドとスナイプの言葉に返すのは、笑みだった。

 

 

『この視点(ソンタくん)になってみて思いましたよ』

 

 

いろいろ病院内をまわったが、思わずあきれ果ててしまった。

骨が折れたくらいで長い間入院してるヤツ。

惨めにリハビリに励む姿。

病気で死にそうになってる虫けらども。

死んだヤツ。泣いてるヤツ。

 

 

『とんだ茶番だ。フフフ! 笑えてくる!!』

 

「―――」

 

 

仮面で隠しているから分からないが、エグゼイドとスナイプから湧き上がる確かな怒りが、そこにはあった。

一方でそれに気づいていないジルは、なおも饒舌に語る。

 

 

『人が人を救うなど無駄なサイクルをよくもまあ続ける!』

 

「分からないのか?」

 

 

食い気味に割り入る言葉。

エグゼイドの複眼が、ジルを貫いた。

 

 

『何が!?』

 

「その為に、みんな考えられないほどの努力をしてる」

 

 

人を救うために、病気を治すために、皆その道を歩んだ。

途中で権力に目がくらむ人もいるかもしれない。

けれども、どんな理由があってもドクター達は日々、病気と戦っている。だからこそ医療は発展し、かつては不治の病とされた結核やエイズも今では生を望むことができる状態になった。

 

 

「その努力を、お前は笑うのか!!」

 

 

永夢はバグスターと戦える。大我は化け物を殺せる。

けれどもそれは、特別凄いことじゃないと思っている。特効薬を開発した人とか、難しいオペをする人とか、患者さんの心に寄り添うスタッフ。

なによりも病気を治そうとする人や、励ます家族。彼らのほうが凄いと、永夢は思っている。

 

 

「人間を。ドクターをナメるなよ! ジルッッ!!」

 

『ンフフフフ! 何を叫ぼうが現実は現実だ。こうしている間にも次々とダリーボムは――……』

 

 

ジルはサーチモードに入り、ダリーの状況を確認する。

ダリーボムには一つ一つマーカーが打ってあり、場所の情報がリアルタイムでジルに届くようになっていた。

きっと今頃それらが爆発を起こし、相沢は血まみれになっている事だろう。

血小板が足りない状態では、止血も満足にできず、輸血の血液はダリーが食えばいい。完全だ。完璧だった。

なのに、ジルは沈黙する。

 

 

『馬鹿な……! そんな馬鹿なッッ!!』

 

 

そして吼えた。

 

 

「どうした、何があった?」

 

 

ソーサラーが確認する。

なにせ現在、ジルはソンタくんを通しているので、顔は全く変わらないし、顔色なんて分かるわけがない。

けれども震える声から相当焦っているのが分かった。それもそうだ――。

 

 

『全てッッ、摘出済みだと!?』

 

 

ありえないと、もう一度叫んだ。

そうだ、ありえない。小さなタマゴを短時間で取り除くなど、できる筈がない。

しかし、ジルは一つ大きなミスを犯していた。

 

今、手術室にいるのは、天下の東帝大が誇る精鋭たちである。

城之内博美。フリーランスの麻酔科医であるが、侮るなかれ。多くの麻酔科医がさじを投げた状況を、彼女はなんなくクリアしてみせた。

原守。普段は気が弱く、権力関係で板ばさみになることも多いが、日本の最高医療機関である、国立高度医療センター本院で戦略統合外科医長を務めたこともある。患者に寄り添う医療は、決してオペに自信がないからではないのだ。

海老名敬。よく捨てられた子犬のような表情を浮かべており、かつその実績は虚構で塗り固められたものが多い。けれども前述の通り、何も無く副部長になれるわけがない。

加地秀樹。『腹腔鏡の魔術師』と呼ばれ、あの大門ですらその腕を認めるほどの名医である。またの名を、ドクター『Y』。

この圧倒的なメンバーの中に、聖都大の医院長である灰馬が加わったのだ。

不可能を可能にするだけの理由は揃いすぎていた。

 

 

『ヌゥウウ! 気に入らないッ!』

 

 

人間を超越したと自負しているジルにとって、ただの人間にプランのひとつをつぶされたことが相当頭にキテいるらしい。

怒号をあげ、声を震わせ、そして叫んだ。

 

 

『もういい! 実験は中止です! 何がなんでも殺すッッ!』

 

「!」

 

『ダリー! ビッグボムを起動させろ! 一番デカいのを破裂させてやれ!!』

 

 

ジルはもうひとつ、ダリーに重要な機能を施していた。

それが今のとおり、ビッグボムである。それは文字通り巨大な爆弾だ。

ダリーの腹から高濃度エネルギー圧縮爆弾を生成。それを対象の中心、つまり相沢の場合『肺』の部分に設置する。

爆弾が破裂すれば、肉体が粉々になるだけではなく、周囲にいる人間も巻き込む一撃だ。

今はまだ爆発範囲が狭いものの、患者と位置が限りなく近いドクターたちならば致命傷を与えることはできようて。

 

ジルはすぐに遠隔で電波を送り、ダリーに命令を送る。

するとダリーはブレイブをなぎ払うと、目を光らせ、高速で肺のほうへと移動を開始した。

 

 

「待てッ!!」

 

 

ブレイブはすぐに追いかけようとするが、そこでダリーはフォッグ光線を発射。対象を弱らせる泡がブレイブの全身にまとわりつき、思わず膝をつく。

 

 

「なんだこれは!」

 

 

外では灰馬が叫んでいた。

どうやらビッグボムは事前に仕掛けてあったらしい。とはいえ、それは一ミリにも満たない大きさのタマゴ。

そこへダリーはエネルギーを注入し、一気にピンポン玉よりもやや小さいサイズまで膨らませてみせる。

 

灰馬たちはすぐにタマゴを切除しようと試みるが、これがなかなかうまくいかない。

ボムは肺と半ば融合する形で設置されており、なによりもこんな未知の物体を切除するなど経験がなかった。

肺を傷つけることなく、タマゴを取り出す。それはいくら名医が集まっているこの状況とて、上手くいくものでもない。

なによりも見ただけでわかる。タマゴの危険性。点滅を開始しており、明らかに異常なものだ。

 

 

「ウォオオオオオオオ!!」

 

 

しかしブレイブは走る。

体内を駆け抜け、タドルファンタジーへ変身。泡を吹き飛ばし、マントをなびかせ、けれども剣は使えないので素手でダリーに掴み掛かる。

同時にマントが広げ、ダリーを包みこんだ。さらにそのまま走り、ダリーをボムから離れるようにしていく。

まだ不完全だからか、起爆には時間がかかるらしい。

ここしかチャンスは無い。ブレイブは叫ぶ。父の名を。

 

 

「!」

 

 

灰馬はボムを切除しようとメスを手にした。

しかしそれはあまり頭のいい行動ではなかった。事実、さすがの灰馬も切除するだけの技術はない。

にもかかわらず、灰馬はメスを入れようとする。

 

 

「鏡院長ッ、さすがにもう!」

 

「分かっている。分かっているんだ!!」

 

 

けれども、灰馬は相沢から退かなかった。

ブレイブと同じだ。意地なのである。

親子揃って、つくづく愚かかもしれない。もはや冷静な判断も、まともな思考も持ち合わせてはいなかった。

ただ、どちらも、患者を見ているようで、過去を見ている。

 

 

『鏡さん』

 

 

彼女は――、いつも笑いかけてくれた。

気難しい息子だからと灰馬はいつもハラハラしていたが、彼女は飛彩にも優しく微笑んでいた。無愛想な態度を取られても、明るい態度で接してくれた。

かわいい息子に彼女ができた。血を分けた親が、子を愛するのは当然だ。

けれども全く関係ない人が息子を愛してくれる。

灰馬はそれがとても嬉しくて、ついつい小姫に笑いかけてしまう。

 

 

『飛彩をよろしく。無愛想な息子だけど――』

 

 

もう何回こんな事を言ったか分からない。

飛彩は嫌そうにしていたが、灰馬はニコニコ、間抜けな笑顔を浮かべていた。

 

 

『小姫ちゃんはいい子だ! 飛彩、彼女は絶対に大切にしなさい! なんだったら結婚とか!』

 

 

妻からはみっともないと言われ、息子からは氷のような目でにらまれ、けれども小姫は笑顔を返してくれた。

それはきっと小姫としても嬉しいものがあったのだろう。

彼女は飛彩を愛していた

愛して、いたのだ。

 

 

『お義父さん。なんちゃって、あはは!』

 

『いやいや! 困ったなぁ! なははは!!』

 

 

浮かれていた。誰も、みんな。事実それは飛彩だって嫌じゃなかった。

 

 

『孫ができたら、いっぱい遊んでやるんだ!!』

 

 

気が早いと妻から何度も怒られた。

でも、きっとどこかで、嬉しかったはずだ。

現に、灰馬はとっても嬉しかった。浮かれていてもオールオッケーだった。小姫が本当の娘のように可愛かったし、その先の未来だって容易に想像ができた。

飛彩が自分の姿を見て医者になって、小姫と結婚して、可愛い子供が生まれて、お祖父ちゃんになる。病院で孫を連れた人をよく見ていたからこそ分かる。

それはとても素晴らしい事だった。

 

孫ができれば一緒に映画を見に行くのだ。

一緒にお風呂に入るのだ。一緒にご飯を食べるのだ。

お小遣いをあげるのだ。似顔絵を描いてもらうのだ。

素敵な家族になるのだ。

 

 

『たのしみだな! たのしみだなぁ!』

 

 

笑顔の灰馬がいた。

 

 

『………』

 

 

フラッシュバックする。

灰馬は、呆然とした目で、ベッドを見ていた。

部屋は、真っ暗だった。明かりがついていたかもしれないが、灰馬は何も見えなかった。

 

小姫は、死んだ。

 

消滅したのだ。

 

 

『………』

 

 

灰馬はただ無を見ていた。虚ろな目で、バカみたいな笑顔も消して、先ほどまで小姫が寝ていた場所を見ていた。

もはや彼女の痕跡など欠片もない。彼女が本当にいたのかも分からない。ワケの分からない理由で、病気で、彼女は消えた。

微笑を思い出すだけで虚しくなった。

あげようと思っていたプレゼントだけが虚しく部屋に残っている。

 

 

「――い」

 

 

真っ暗になった部屋で、灰馬は立ち尽くしていた。

飛彩の背中が震えていたが、何もいえなかった。

 

何も、できなかった。

だからこそ、今、メスを握っている。

いけない、視界が濁ってきた。過去なんて思い出すものじゃない。未練なんて今更だろうに。

けれども、どうしてか? 目の前の患者が『沙樹』と聞いたらば、涙がこみ上げてきた。

 

 

「救えなければ、医者になった意味がないッッ!!」

 

 

灰馬は声を震わせ、視界を濁らせて叫んだ。

 

 

「人は健康であるべきだ! 夢や、希望をッ、病が邪魔することがあってはならない!!」

 

 

けれども、世界は残酷だ。

ショッカーの技術力は、もはや灰馬をとっくにおきざりにしている。

肺に融合したボムを、灰馬は外す事ができなかった。けれどもここでメスを捨てて逃げ出すというのは、患者から背を向けることだ。

医者が、患者をみすみす見殺しにするということだ。

 

 

「鏡院長! もう――ッッ!!」

 

 

もうやめましょう。原はそう叫ぼうと思った。

しかしそのとき、原を通り過ぎて、灰馬の隣に来る者が。

 

 

「どいて」

 

 

大門未知子は首を振り、意識を覚醒させた。

灰馬が立っていた場所に立つと、強く瞬きを行い、状況を確認する。

 

 

「デーモン! 気がついたのか!」

 

「ごめん。ちょっと寝てた。これ切ればいいのね?」

 

「いやッ、そうだけど、簡単に言うなよ!」

 

 

大門はすぐにボムと肺の接合具合を確認し、頷いていた。

 

 

「私なら切れる」

 

「無理だ、やめろ! 失敗したらどうす――」

 

 

加地は、やっちまったと言葉を止めるが、もう遅い。

 

 

「私ィ!!」

 

 

声をあげる大門。

そのとき、世界が震えた気がした。全ての空間、全ての時間が、彼女の為だけに与えられた気がした。

視線が大門に集中する。どこからか口笛が聞こえてくるような錯覚。

そして当の大門は全員に一瞥をくれ、言い放つ。

 

 

「失敗しないので」

 

 

灰馬は、奇跡を見た。

大門のメスが見事に、しかもなんなくビッグボムを切り離すと相沢の体内から取り出してみせる。

 

 

「な、なんと言う……! これほどまでの技術を持った医者が存在していたのか!」

 

 

天才がいるとは聞いていたが、それは灰馬の予想、遥か上をいく腕前であった。

大門のメスに迷いはなかった。一切の不安を感じさせない手つきで、肺を傷つけないギリギリのラインでタマゴを切除していく。

しかしそれに気づかぬダリーではない。

再び大門にフォッグ光線を当てるべく走った。

 

 

「!」

 

 

しかし、ブレイブは確かにその足を掴んでいた。

普段のバトルスタイルとはまるで違う。ただ相手の脚を掴み、無様に地面に倒れる。

けれども、彼にも意地があった。魔王はすぐに泡にまみれ、意識が薄れていく。けれども絶対に掴んだ足は離さなかった。

 

そうしている間に、大門の手が見える。

タマゴを取り外している最中だ。ダリーにも焦りが宿ったのか、振り返ると、細長い脚を思い切り振り上げた。

 

 

「グゥウウオォオオ!!」

 

 

襲い掛かる衝撃と痛み、ブレイブは苦痛に吼えた。

無数の細長い脚が、槍のようにブレイブへ突き刺さっていく。

ファンタジーゲーマを貫通する一撃。しかしそこでせき止められているためか、クエストゲーマーの鎧には足先が食い込むだけだった。

ブレイブは黄色い目を光らせ、ダリーを睨む。

 

 

「お前は知ってるか……?」

 

 

言葉が理解できるかは知らないが、ブレイブは搾り出すように呟いた。

 

 

「命の重さを」

 

 

医療に身を置く手前、いろいろな死を見てきた。

いくら天才といえど、飛彩は人だ。目に映る全ての命を救えるわけではない。ましてや人は死ぬ生き物だ。

だけれども、その中で耐え難い喪失感や、希望を夢見た時間だとか、黄昏を見つめる背中だとか。そういう時間、瞬間は、あまりにも大きい。

あまりにも、重い。

 

生きることも、死ぬことも、当然といえば当然だ。

だからそれは、当然でなければならない。

 

 

「俺はお前らのように、命を弄ぶ者達をッ、絶対に許しはしない……ッ!!」

 

「!」

 

「理不尽は――ッッ!!」

 

 

血反吐を吐きながらも、ブレイブは目を光らせた。

それは一瞬だった。全てはこの一瞬のため。

ダリーの意識は全てブレイブに向いている。かつ、脚が鎧に刺さっているせいで簡単に抜けはしない。逃げられはしない。

 

ガシャコンソードがダリーの斜め後ろに出現する。

同じくしてタドルファンタジーの能力により、ローブを着たバグスターウイルスが出現。

ブレイブの意思により、そのバグスターウイルスはガシャコンソードを掴んで飛行、ダリーに全力で突撃した。

 

 

「!」

 

 

ブレイブを殺すために意識を集中していたダリーは、予想外からの攻撃に反応が遅れる。

氷の力をまとった剣はダリーに突き刺さると、一気に冷気を爆発させた。

 

 

「―――」

 

 

フルパワーだ。瞬く間に凍りつくダリー。しかしこんなものを体内に残してはおけない。

すぐにブレイブは従者(バグスター)を大量召喚して、連射。飛行する従者はダリーを掴むと、引き剥がすように持ち上げる。

一方でブレイブは拳を握り締めて立ち上がった。タドルファンタジーを解除すると、取り出すのは白と金のガシャット。

 

 

「病になるのは仕方ない!」

 

 

けれども、それが仕組まれる事は許されない。

 

 

「世界の癌はッ、俺が切除する! 術式レベル100!!」

 

 

タドルレガシー。

変身時に放たれる光は回復のもの。異形の力であるガシャコンソードによる冷気を緩和させ、体内状態が荒れるのを防ぐ。

さらに、ブレイブは光の翼を広げて飛び上がった。空中にいるダリーを掴むと、そのまま一気に飛行して体外へ出て行く。

 

 

「これで終わりだ」

 

「ギッ! ガ……!」

 

 

手術室では原や海老名がボムを持って慌てているところだった。

外に捨てようと話しているのを聞いて、ブレイブはダリーを投げた。

次いで、光の剣がダリーを追いかける。高速で飛来していく刃はすぐにダリーを捕らえ、原が持っていたボムに突き刺さった。

 

 

「えぇ!?」

 

 

ギョッとする原ではあったが、瞬間、ボムが手の上から消えた。

同じくして消失するブレイブとダリー。ステージセレクトである。もはや凍り付いているダリーに鳴き声を放つ余裕はなかった。

ゲームエリアが展開し、手術室まるごとが仮想空間となる。それがステージセレクトによりまるまま転送。

ダリーと、ダリーボムだけを引きずりこんだまま景色が変わっていく。

 

 

「俺はッ!! 世界で一番のドクターになる!」

 

 

採石場。そこでブレイブは元のサイズに戻り、ガシャットを引き抜き、ガシャコンソードへ装填する。

 

 

「なによりも俺はッ、仮面ライダーだ!!」『ガシャット!』『キメワザ!』『タドル! クリティカルフィニーッシュ!!』

 

 

剣を天に掲げると、光が収束してリーチが伸びる。

まさに天を貫く刃だ。ブレイブは雄たけびをあげ、振り上げたそれを一気に真下へ振り下ろす。

 

 

「ハァアアアアアアアア!!」

 

 

光の剣は一瞬でダリーとダリーボムを捉え、一瞬で蒸発させるように消滅させた。

 

 

「切除完了」

 

 

マントを翻し、ブレイブは手術室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――』

 

 

ジルは言葉を失っていた。

ダリーの消滅を確認。ボムの起爆が遅かったのは調整不足だ。しかしそれを考慮しても、相沢一人殺せないのは予想外だった。

おまけに実験途中の改造ダリーまで失う始末。

なにからなにまで失敗であった。

 

 

『ふ、ふざけるなよ……! こうなったら貴様らだけでも殺して――』

 

 

構えるエグゼイドとスナイプ。

ふと、思う。大門たちが奇跡のような手術を成功させたのは、奇跡のようではあるが、その実、必然である。

しかし今、確かに奇跡が起こった。

そのとき、不思議なことが起こったのだ。

 

 

「猪又ァアアアアア!!」

 

「!」

 

 

ソーサラーは反射的に振り向いてしまう。

無意識なのは、ソーサラーではなく、『猪又』の意識が働いたからだ。

 

 

「え!?」「ッ!?」『は!?』

 

 

敵も味方も、誰もが間抜けな声を出した。

そこにいたのは、まさに奇跡が生み出した超戦士だったのである。

 

 

「何コスプレごっこで遊んでんだァ? あぁ!? つうかよォ、つうかなァ――」

 

「グッ! ガァアア!!」

 

 

頭を抑えるソーサラー。

まさか、ここにきて、完全に抑えていたと思った猪又の意識が競りあがってくる。

一同の視線の先にいたのは、蛭間医院長、その人である。

いや、訂正しよう。蛭間院長・メロンエナジーアームズである。

 

 

『な、なぜ貴様がゲネシスドライバーを!!』

 

「あぁ? いやッ、ゲネシスドライバーよりメロンエナジーアームズってなんなんだよ!!」

 

 

適当にガチャガチャやっていたら、こうなった。

しかしそれにはちゃんとした理由がある。フリーランスの女医に希望も絶望も入り混じった思いを募らせると同時に、蛭間の体には確かにメロンの力が蓄積されていった。

アホみたいな金額を要求してくるメロンおじさん。彼がくれたメロンを摂取しているうちに、蛭間には確かにメロンパワーが生まれていたのだ。

 

激しい感情のうねりの中で精錬されたメロンは、炎となる。

だから蛭間は吸い寄せられるようにゲネシスドライバーに手を伸ばした。

そして、その結果、蛭間院長・メロンエナジーアームズへと変身を遂げた。

ライドウェアは生成されておらず、蛭間に直接メロンエナジーアームズの鎧がかぶさる形になっている。

 

全てはメロンの力なのだ。

甘くておいしい、お口にとろけるメロンが生み出した奇跡なのだ。

 

 

「猪又ァ、貴様ァ、天下の東帝大の名前に泥を塗るつもりか……! ええ、おい!」

 

 

異常な光景だった。白衣を着た蛭間。その周りに、なんか、すごく、メロンの鎧がある。

 

 

「ってかメロンエナジーアームズってなんなんだよマジで? ええおい? なあ、おい」

 

 

まだ分かっていないらしい。

ライドウェアが生成されないと言うことは、つまり一種のバグであり、当然そうなるとソニックアローもなにもない。

 

ただメロン型の強化アーマーを身につけた蛭間が、そこにはいた。

手術の途中、神原から猪又が公園で暴れていると報告を受けた蛭間は、至急駆けつけた次第である。

 

猪又を止めるため。それは猪又を心配してではなく、東帝大を心配してだ。

猪又が何かやらかしてしまえば、それは東帝大の信頼を落とすことになる。そうすると蛭間が大好きなお金や権力が揺らいでしまうではないか。

それだけは絶対に避けなければならない。

もちろんそれは、猪又であっても同じだ。

 

 

「グッ! ば、馬鹿な……!」

 

 

ソーサラーはうめき声をあげてヨロヨロとフラつき始める。

 

 

『どうした!』

 

「ぐ、ぐぅう! い、意識が――ッ! 朦朧とッ!」

 

『くぉおぉ、こちらも不完全だというのか!』

 

 

ソーサラーの全身が震える。

 

 

「忌々しいッ、人間ごときが――、そうだッ、俺は腐っても医者だ――ッ! 人間ごときが私を――、命を奪ってはならない。ましてやッ、東帝大外科副部長としてのメンツ――、がぁああ! こ、このような事がぁあぁあぁ!!」

 

 

混じる声、意思。葛藤が見て取れた。

 

 

「猪又ァアアア!!」

 

 

ダメ押しに蛭間が叫ぶ。

しっかりしろとの激励か、それとも猪又を取り戻さんとするエールか。

 

 

「メロンエナジーアームズってなんなんだよォオ!!」

 

 

いや、どちらでもなかった。

蛭間はまだ自分の周りについてる鎧の意味が分からない。

だが叫んだ。とにかく叫んだ。そこへ確かに宿るメロンパワー(適当)。

音は衝撃となり、確かにソーサラーの――、いや、猪又の耳を貫いた。

 

 

「――ぃ」

 

『!』

 

「御意ッッ!!」

 

 

猪又の覚醒。それに伴い、ドライバーが、指輪が粉々になり、変身が解除された。

地面に倒れたのは、全て白髪の猪又。そう、彼はソーサラーの支配を打ち砕いたのだ。

今、公園の広場に立っているのは間違いなく、ドクター・猪又孝である。

 

 

『く、くそッッ!! 同一化がッ! 統一化が失敗した!!』

 

 

ハルバードも消え去り、ジルは地面を転がる。

これは、まずい。ダリーは消滅し、ソーサラーも消滅した。

これは、いけない。ジルは飛び上がると、ファンネルを大量に発生させる。

 

 

『こうなったらそこにいるメロンジジイだけでも!!』

 

「やらせるか!」

 

 

前に出るスナイプ。取り出したガシャットを装填し、バンバンシュミレーションズへ変身する。

複眼の前に広がる大量のレーダー。それらは不規則に動き回るファンネルを次々に補足し、撃ち落としていく。

 

 

「永夢! これ使って!!」

 

 

そこで飛び出してきたニコ。どうやら隠れて一部始終を見ていたらしい。

その傍にはレーザーの姿もあった。どうやらニコはある人物に連絡を入れていたようだ。

彼女が投げたのはなにやらボタンがついた箱のようなもの。エグゼイドはそれ受け取ると、首をかしげる。

 

 

「これは?」

 

「いいから! 押して! 押して!!」

 

「あ? お、押す?」

 

 

 

言われたとおりボタンを押す。

するとエグゼイドの体が光に包まれた。

 

 

「な、なんだこれ!」

 

「それは――」

 

 

説明を行うニコ。

どうやら連絡を入れたのは黎斗にらしい。

ムテキを使えなくする攻撃を敵が行ってきた。それを聞くと、黎斗はレーザーにあのボタンを渡したのだ。

 

 

「……!」

 

 

光が情報を与えてくれる。

エグゼイドはうなずくと、ハイパームテキのガシャットを取り出した。

 

 

『ッ、無駄だ! 何をしても変身できるわけ――』

 

『ンッwwパwwッwwカwwーwwンww!!!!』

 

 

煽るような電子音が聞こえてくる。

 

 

『……は?』

 

「ハイパーッ、大ッ変身!」『ムゥゥゥゥゥテェキィイイ!!』

 

 

★☆★輝けぇー!☆★流星のご・と・くゥー!☆★☆

 

★★★黄金の最強ゲーマァー☆☆☆

 

☆ハ★イ☆パ★ー☆ム★テ☆キ★ー☆ッ★!

 

☆★☆★エグゼェエエエエエエエエイド★☆★☆

 

 

『あああああああああ!! なんッでだよ!!』

 

 

ジルは怒りに叫びながら地団太を踏んでいる。

すると先ほどのスイッチがあった箱が光り、ホログラムの黎斗が出てきた。

 

 

『ふふ、驚いてくれたかな?』

 

『貴様ッ、ゲンムか!』

 

『たまにいるんだよ、キミのような浅い考えをもったものが』

 

『!?』

 

 

つまり、こういうことである。

ジルは"ハイパームテキ無効化マシーン"を埋め込んでいる。

だからこそ、黎斗はあのボタンで、ハイパームテキの"ハイパームテキ無効化マシーン無効化プログラム"を起動させたのだ。

 

 

『な、なんじゃそれは!』

 

『保険をかけておくのが開発者というものさ!』

 

 

だが、そこでジルは声をあげて笑う。

浅いのは黎斗のほうだった。なぜならばジルもこの最悪の状態を想定していたのだから。これを使うまでもないと思っていたが、早速切り札を発動する。

 

 

『震えるがいい! "ハイパームテキ無効化マシーン無効化プログラム無効化ジャミングウェーブ"!!』

 

 

ジルの頭部からドーム状のエネルギーが広がる。

これに触れたエグゼイドは、ムテキへの変身能力が解除されてしまうのだ。

ショッカーはありとあらゆる可能性を考慮し――

 

 

『キメワザ!』

 

『ハイパー! クリティカルスパーキング!!』【HYPER! CRITICAL SPARKING!!】

 

『おい、なんでだよ。今無効化しただろうが……』

 

 

すると、黎斗がニヤリと笑う。

 

 

『神の才能を知れェ、アハァー……!』

 

『ま、まさか……』

 

『そのとおり。今のエグゼイドには"ハイパームテキ無効化マシーン無効化プログラム無効化ジャミングウェーブ無効化システム"が組み込まれているのさァ!!』

 

『あああああああああああああああ!!』

 

 

そうしている内にスナイプがファンネルを全て迎撃した。

そうしている内にエグゼイドが走りだす。

 

 

『く、くそ! 変身できたからと言って!』

 

 

ジルはスキャンでムテキを解析。

そしてすぐにプログラムを更新し、ムテキに攻撃が通用するようにアップデートを行う。

 

 

『これでッ、私の攻撃はお前に通用する!!』

 

 

拳から光弾を連射する。

が、しかし、エグゼイドが空間を連続で跳躍しながら確実にジルへ近づいていく。

 

 

「当たらなければ――」

 

『ひッ!』

 

 

また、消えた。

ジルは必死に探すが、エグゼイドはどこにもいない。

 

 

「問題ないよな」

 

『!!』

 

 

背後からエグゼイドの声。

だがもう全てが遅かった。

蹴り上げで空中に打ち上げられると、さらにエグゼイドはワープを行使。ジルの斜め上に現れると、そのまま蹴りの嵐を打ち込んでいく。

そして最後のフィニッシュ。着地したエグゼイドと――。

 

 

【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【GREAT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【GREAT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【GREAT!】【HIT!】【GREAT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】【HIT!】

 

 

巻き起こる、HITの嵐!

 

 

『ガァアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

 

ジル――、つまりソンタくんは爆散。

この世界からショッカーが消えた瞬間であった。

一方で手術室。縫合も無事に終わり、手術の成功を意味してした。

 

 

「はい終わり」

 

 

大門はそのまま相沢の鎖骨あたりに手を添える。

 

 

「ちゃんと本当の気持ち、渡せるといいね」

 

 

そう言って大門は手術室を出て行く。

 

 

「なんでアイツあんな冷静なんだよ……」

 

「そうですよ。なんなんですかあの虫……」

 

 

加地たちが怯んでいる中、飛彩は走り、背中を追いかける。

 

 

「大門先生! お疲れ様でした」

 

「お疲れ」

 

 

大門はなんのことなく、ひらひらと手を振って歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫かな?」

 

 

ニコは不安そうに病室を見つめている。

そこには眠っている相沢と、ソワソワしている江上がいた。

手術は成功だ。まもなく相沢も意識を取り戻すだろう。問題はその後である。ニコはどうにも不安らしい。

 

 

「おい、もう帰るぞ。俺たちの役目は終わりだ」

 

「えぇ! なんで! もうちょっといようよ!」

 

「どうだっていいだろ。起きてアイツが何て声をかけようが、俺たちには関係ない」

 

「ひッど! 鬼! 悪魔!」

 

「んだと!!」

 

 

ギャーギャー言い合う二人を、永夢は呆れたように見ていた。

けれども笑みを浮かべると、改めて江上を見た。

 

 

「人間、清濁併せ呑んでこそだよ。彼はそれができると思うな」

 

 

ドクターの役目はここまでである。後は一人の人間としての戦いだ。

チョコを握り締めて緊張している江上を見て、永夢は安心したように微笑んでいた。

 

 

 

「――ハァ」

 

 

大門は屋上にいた。

夕焼けをみつめながら、グラスにありったけのガムシロップを移して口にしている。

ふと、気配を感じて大門は左を見た。するとそこにはフォークとナイフ片手にホールケーキをパクついている飛彩がいた。

 

 

「あ、アンタ、いつもそれ食べてんの?」

 

「ええ。糖分補給は大切ですから」

 

 

しばし二人は並んで糖を摂取する。

 

 

「見事なオペでした。俺も天才と呼ばれてはいますが、あなたはレベルが違う」

 

 

それは本心だった。飛彩は大門を見ずに、景色を見ながら呟く。

 

 

「どうも。でもアンタこそ、あんな虫退治……、私には無理!」

 

「確かに、意味不明かもしれません。ですが……、小姫はその訳の分からないことで消えました」

 

 

小姫が、沙樹ではないことは、大門にも分かった。

 

 

「あんたの彼女……、だっけ」

 

「はい」

 

「まあ、私もたまには考えるよ」

 

 

ある日、未知の病気が流行し、現代医療じゃどうしようもなくなる時だとか。

 

 

「それでも、少しでも治す方法を探す。だからアンタも、アレになったんでしょう?」

 

 

アレとは、ブレイブの事だろう。飛彩は確かにうなずいた。

 

 

「俺は彼女から、世界で一番のドクターになってほしいと言われました」

 

「ふぅん」

 

「けれども、それは手術の腕が全てじゃない」

 

 

かつて飛彩は犯罪者だからと言う理由で、患者を助けるのを拒んだことがある。

かつて飛彩は、患者が治す気がないからと、結果的に見捨てたことがある。

今ならば分かる。永夢ならば見捨てない。大我ならば血反吐で白衣を汚してまで戦う。彼らだけではなく、全ての医者からは学ぶことがある。

自分はまだ未熟だ。

 

 

「俺はこれからも、学び続けます」

 

「アタシからも何か学んだってわけ?」

 

「ええ。失敗しないと胸を張っていえる傲慢さを」

 

「それ……、褒めてる?」

 

「もちろん。改めて、勉強になりました」

 

 

飛彩が差し出した手を、大門は少し雑ではあったが確かに取った。

二人は確かに、しっかりと握手を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

「こちら、メロンです」

 

「……本物だ。ところでね、あのー、神原さん」

 

「はい? なんでしょう」

 

「いや、マジで、結局メロンエナジーアームズってなんだったんですか?」

 

「はて、なんの事でしょう?」

 

「いやいや、とぼけないで頂きたい。だって――」

 

 

蛭間、フリーズ。

 

 

「あれ? なんだったかな……」

 

「そんなことより、こちら、請求書です」

 

「いっせ――ッッ! あのな! 相変わらずたけェんだよ!! ンだよこれ! マジで!」

 

 

けれども毎回なんだかんだと払うことになる。

それは今回も同じで、五分後には晶は病院内をスキップで駆け抜けている。

 

 

「晶さーん! おなかすいたぁ!」

 

「未知子ォ! ごくろうさま! よくやったわね! 肉食いに行くわよ! 肉肉ゥウウ!」

 

「やったー! お肉サイコー!!」

 

 

大門とともに肩を並べてスキップスキップ。

けれども、そこで晶は足を止めた。

 

 

「……未知子、ちょっと先に行ってなさい」

 

「えー? 早くしてよー? やっき肉! お肉! ふぉー!!」

 

 

晶は大門と分かれると、ロビーに座っていた青年の前に立つ。

 

 

「ご苦労様でした」

 

「ねえ、ひとつきいても?」

 

「どうぞ」

 

「本当にメロンエナジーアームズってなんなの?」

 

「別に、知らなくてもいいことです」

 

 

"紅渡"は、晶からロックシードを受け取ると、小さくため息をつく。

まさかエグゼイドの世界が晶たちの世界と融合してしまうとは思ってもみなかった。それだけ世界の壁が薄くなってきているということか。

 

 

「これからどうなるの?」

 

「ショッカーも消えたので世界は分離します。あなた達は宝生永夢たちの事を忘れるので、全ては元通り。秩序は保たれます」

 

「あら、そう」

 

「それでは僕はこれで」

 

 

そう言って、渡は一瞬で消え去った。

晶はため息をついて、踵を返す。

 

 

「晶さんおそーい!!」

 

 

待ちきれないのか、そこで大門が戻ってきた。

 

 

「ねえ、なに話してたの?」

 

「別に。鏡先生たちの記憶が消えるんだって」

 

「へー、そうなんだ」

 

「あら、意外と冷静じゃない」

 

「ま、あんだけブッ飛んだ事が起きればね」

 

 

けれども問題はない。あれだけの腕を持った医者(ライダー)がいるのだ。

きっと多くの患者をコレからも何とかしてくれるはずだ。

 

 

「……晶さん。やっぱり焼肉は今度ね。今日は帰ったら勉強するわ」

 

「あら? 珍しいじゃない。未知子が肉をスルーするなんて」

 

「ちょっと、負けてられないなって思ってね」

 

「???」

 

「じゃないと、世界で一番のドクターに追い抜かれちゃうからさ」

 

 

大門はニヤリと笑い、ツカツカとヒールの音を立てて歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 






CFで飛彩先生って伊達さんに普通に敬語使ってたんで、意外と社交性はあるんですよね。
ドクターXはあれですよね。蛭間と海老名の絡みはいつまででも見てられますよね。
とっても面白いドラマだと思います(´・ω・)b

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