破壊者の事件簿file.01 Magical Girl Lyrical NANOHA Evolution   作:霧雨風嫌

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01 襲来
01-001 ~少年少女の衝突~


 セミの鳴き声が響いて聞こえ、すでに暑くて仕方ない気温が更に熱く感じる。今日は全国の学校生との待ちに待った夏休みの初日のようだ。

 

「『戦う少女達の選択』、か…」

なんの変哲もない住宅街の、「阿笠」の表札を掲げた大きな屋敷の前で佇みながらそう呟くのは、小学五年生の容姿とそれに似合わない大人な雰囲気を併せ持つ少年、つまりこの俺、工藤新一だ。ここは確かに阿笠邸で、この家の家主、阿笠博士と、元黒ずくめの男達の仲間だった少女、灰原哀の二人が中にいることは、今さっきこの家を出た俺が断言できる。しかし今、阿笠邸があるのは、FBIの協力者が暮らす工藤邸のとなりではなく、元の住所の米化町2丁目22番地でも無い。ある事件に巻き込まれ、小学一年生の姿まで幼児化し江戸川コナンとして生活してきていた俺が、なぜこんな姿になったか、そしてなぜ阿笠邸がこんな場所に建っているのかは、すでに自分は理解しているので気にしてはいない。

 さて、先の言葉が出てきたのは阿笠邸を出る前、今の状況の整理と今後の方針について、中にいる二人と話していたときだった。リビングを囲む多くの窓ガラスの外が真っ暗だったのが、モノクロのオーロラを経て明るい日差しが入り込みだした瞬間、広いリビングに置かれたデスクトップPCが勝手に起動し、中心の月と輝く星の夜空を背景に三つの杖らしきものが三角形を描く謎の絵が表示された。デスクトップの背景として設定され、謎のエラー表示で変更ができないその画像に付けられた名前が『Selection of fighting girls』、直訳して『戦う少女達の選択』だった。当然元からそんな画像がパソコンに入っていたわけではない、きっとなにか意味があって変化したのだろう。口にだしてしまったのは、心の中で引っ掛かるその言葉の意味を考えていたからだろう。『戦う少女達』、おそらくこの世界の重要な存在なのだろうが、果たして彼女たちが何を『選択』するというのだろうか。その少女達はいったい何と戦うというのか。もしそれが俺なのだとしたら。いくつもある疑問や可能性が頭の中を駆け巡る。そして、一番の疑問、俺は一体、何をすればいいのか。

 

 

 そんなことを考えていると、着ていた服の胸ポケットから単調な電子音が聞こえてくる。「探偵団バッジ」、通称「DBバッジ」の呼び出し音だ。元居た世界で俺の新たなクラスメイト5人で結成された「少年探偵団」の証でもあるこれは、阿笠博士の発明品で超小型トランシーバーが内蔵されたハイテクメカだ。ここは元居た世界ではない、別の世界に来ている今、これで連絡が取れるのは一緒にこの世界に来た灰原と博士のみ、つまりこの通信を取ると、頼りないおじいさんぽい声が聞こえるか、

「あなた、一体いつまでそこに居座るつもりなの?」

・・・このような幼くもツンツンとしたとげのある女性の声が聞こえるかだった。

「わりい、ちょっと考え事しててよ」

「動かないと何も始まらない、とか言って勝手に出ていったくせに、自分も結局悩んでるんじゃない。もう少し自分の発言に気を付けた方がいいんじゃない。」

御覧の通り、かわいげのない毒のある言い方は新天地でも変わらず健在だ。(変わったら変わったでめんどくさくなりそうだが)

「へいへい。ていうかなんでバッジで連絡してるんだ。外にいるの解ってるんだったらちょっと出て直接・・・」

「嫌よ」

引きこもり気味な部分も健在だ。今の灰原は、組織に追われる事はなくなり、今まで以上に自由になったはずなのだが。

「・・・まあいいけどよ。そういやどうやって俺の場所を把握したんだよ。今塀の裏にもたれかかってるのに」

「貴方の行動が分かるように追跡メガネの予備を地下から持ってきたのよ。何か起きても分かるように今はつけながら調べてるの。」

追跡メガネ、発信器に盗聴器、望遠鏡機能などの機能がある、俺がいつもつけてるはk背の発明品の一つだ。発信器はバッジにもついている。灰原がいつも使う地下室にそれの予備があり、灰原が言っているのはそれのことだ。

「それで俺をモニタリングか、いい趣味してんなお前。」

「右も左もわからない名探偵さんが、勝手に迷子になっても困るでしょ。それよりもあなたに行ってほしいところがあるの」

「行ってほしいところ?何か手掛かりが見つかったのか?」

今の俺は確かに目的が不明で何を成せばいいかわからない、だから俺のやるべきことをまず探さないといけないが、そのために何処に行けばいいのかも分からない、あながち灰原の皮肉も間違ってはいない。(だから言い返さないというわけではないが)

「どこだ、どこに行けばいい。」

「そう焦らないで、こっちのインターネットで周辺のことを調べたの。まず門を出て右の方、ビル群が見えるでしょ。とりあえずそっちの方に向かってちょうだい。道中で説明するから。」

「ああ、わかった。」

門の横にある塀にもたれかかっていた俺は、指摘された方向を向いてみた。確かに3~4キロ先に高層ビル群が見えた。東京の都心ほどではないが、この周辺で開発が集中した都市なのだろう。そこ以外は特に目立った高層建築物は見当たらず、遠くに山が見えるぐらいだった。

「よし、行くぞ。」

やっと見つけた目的、その先に進むためにと意気込む俺はそうつぶやき、その都市部に向かって走り出した。

「海鳴市藤見町、それがこの町の名前みたいだわ。海鳴市自体はそれなりの広さだけど、特に変わったことのない普通の町ね」

ポケットに入れていたバッジから聞こえてきた。持って走ると聞き取りずらいので音量をMaxにしている。ちなみにこの世界に入ってから携帯電話は圏外だ。家の中ではインターネットが使えるが、現状俺たちの通信手段はこれしかない。

「みたいだな。外に出ても普通の住宅街だし、あの都市部も何かあるようには見えないしな。俺たちの世界では聞いたことがないけどな」

知らない光景を見てももしかしたら、と疑っていたがさすがにここまで来て疑ったりなどしない。ここは自分たちのいた世界とは大きく、いや、根幹から異なる世界だということは。

「その逆もだけど、その辺は省くわよ、異世界なら当然の事だろうでしょうしね。それより、確かにこの町に特殊な様子はないわ。でもこの町で起きた事件の中に奇妙なのを見つけたの。最初に見たときは私も疑ったけど。」

「おいおい、早速非常識的なのがあるのか?」

「まあ話の内容は非常識ね。今この世界は2017年7月15日何だけど、一年前の四月にこの町の公園で池に浮いてたボートと桟橋が破壊される事件が起きていたわ。それからしばらくの間、この町で何度も巨大な怪物の目撃情報が相次いで発生していたわ」

それを聞いた途端体の力が急に抜けてきた。とはいえ走る速度を緩めるわけではない。少しばかりいろいろなものに不安を感じてきた。

「・・・それで?」

「約二か月でその目撃情報はなくなったのだけど、その年の12月24日に今度は近くの海上で推定100メートルの巨大な怪物の目撃情報があったみたい。最初の事件は犯人は分からないまま、目撃情報も写真や動画はいくつかあるけどどれも信憑性が低いし、物的証拠だって何もない。でも、この普通な世界で何よりも不思議な出来事だと思うわ。これで以上よ、何か?」

「・・・」

「・・・」

そう、これから先は俺たちが今まで信じていないような事も平然と起こりうる。俺たちの元居た世界の常識とは異なる、新たな常識があるかもしれないのだ。今の俺達は、それを受け入れる柔軟な思考を手に入れていかなければいけない。しかし、しかしこれは・・・。

「・・・一応聞くぞ」

「何よ」

「・・・その情報、俺の役目と関係あるのか?」

「何言ってるのよ、そんなの解るわけないじゃない」

「・・・ああ、まあ、そうだよな、いやそうなんだけどさ」

そういって今度は完全に走るのをやめた。まだ1キロ歩いたかどうかの辺りだったが、このまま走ったままでまともな話し合いをすることはできない。さすがにそれは非常識すぎるのではないか?

「ほら止まってないで、いいから走りなさい。」

「わあったよ・・・」

そういわれて俺はまた仕方なく走り出す。普段とは違う灰原の考え方と、この世界の常識のぶっ飛び度に俺は少し、いやかなり動揺した。

「ひとつ言っとくけど、『元居た世界じゃありえないようなことなら何でもいい、とにかくこの周辺からそういったことを探してくれ』って言ったのはあなたでしょ。私、一言一句正確にそのこと覚えてるわよ。」

「いやだけどな、そんないきなり怪獣の話が出てくるなんて思わないだろ、普通。」

灰原の指摘はもっともだし、現状最適な行動をとっているのはあいつだ。しかし俺が予想していたものとは大きく異なって、特撮チックな非常識を信憑性0な状態で話されてもすぐに受け入れるなんてできない。逆に灰原はよくそれを気に留めたものだ。

「今はそんなことを言ってられないでしょ。貴方に与えられたっていうこの世界での役目が何なのかが分からないんだから、小さい可能性も検証するしかないでしょ。ほら、だからさっさと走りなさい。言い忘れてたけど、その都市部は怪物の目撃情報が多い場所なのよ」

「だぁあ、わかったよ。お前がそういうのなら、行くよ行きますよ」

「素直じゃないんだから」

「るっせーよ」

俺がそういうと灰原は鼻を「ふん」と鳴らして通信を切った。おそらくほかの情報も調べようとしているのだろう。全く、こんな調子で俺らの旅は大丈夫なんだろうか。先のことを心配してしまうが今はそれよりもやらなければならないことがある。灰原が言っていた「この世界で与えられた俺の役割」、それを探さないと俺たちはその先にすら進めない。今は灰原の探す情報ぐらいしか頼れるものがない、あいつの言うことを聞いておいた方が最善だ。改めてそう思い、俺は走る速度を気持ち早く上げてみた。

 

 もう半分ほどの距離に差し掛かり、少しだけ疲れを感じ始めた。小学五年生の体になったとはいえ、元の高校二年生体に比べれれば、その体力にはかなりの差が出るものだ。外を出るときにターボエンジン付きスケートボードを持っていこうとしたが、「それの強化をしておきたいが一から作ると時間が大きくかかってしまうから、少しだけ預からしてくれんかのう」と博士が言って預けたため、今は持っていない。文字通りのアイテムで遠くまで急いで移動するときなどによく使う、こんなときにあってほしい博士の発明品の一つだ。

 しかし俺は、それを使わなくてよかったと、次の瞬間そう思う。

「「うわぁあ!!」」

住宅街の交差点、周囲に人の気配がなかったために気を付けていなかった俺は、そこで何かと、いや、誰かと衝突してしまう。もちろん交差点で左右の確認をせず、一時停止もしないで走っていた俺にも責任がある。しかし、相手の相当の速さで走り、減速しているようにも見えなかった。そしてそんな二人が衝突したため、互いを吹っ飛ばしあって、俺は住宅の塀に頭を打ってしまう。塀に寄りかかって周囲の状況を見ると、数メートル先で倒れている人を発見した。灰原とはまた違った茶髪を短いサイドテールでまとめた、今の俺と同じぐらいの年に見える少女だった。トートバックらしきものは見えたが、そこから飛び出ているものはよく見えない。少女の顔は、視界がぼやけて見えずらくなっていた。今この世界は夏だが、陽炎が出るほどの厚さではない。メガネも吹っ飛んでいるが、あれは伊達メガネ、裸眼の視力は問題ない。つまり、俺は今視界をぼやけさせるほど、意識が飛んできているのだ。まずい、このまま意識を失うと車が来た時などで危険だ。あとは、灰原のお小言か。

「大・・丈夫・か」

薄れゆく意識の中、目の前で倒れている少女にそう語りかけたが、声が小さかったためか意識がすでにないのか、少女は返事をせず、動こうともしなかった。

 そして俺も、その意識が静かに消えていく。最後、少女を黒いドーム状の空間が飲み込むのを見届けて。

 

 




久々に書いてみました。
色々あって、別世界にいる江戸川コナンこと工藤新一、また灰原に博士たちですが、その訳はいずれ語るとして(タグやあらすじで解ってしまう人もいるでしょうが)、その経緯はこのシリーズで明かされません、近日投稿していこうと思う別の連続長編シリーズで明かすと思います。
劇場版名探偵コナンの最新作「ゼロの執行人」や、劇場版第4作目にして前作の続編となる「魔法少女リリカルなのはDetonation」など、まだまだ勢いを見せる二つの作品のクロスオーバーを、なるべく元の作品に沿って丁寧に描こうと思います。投稿はずいぶんとバラバラなタイミングになると思いますが、みてくださる方は何卒よろしくお願いします。
ちなみに前書きは前の投稿の最後3行ほどをコピーします。

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