間桐雁夜の復讐劇   作:あまのがはら

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サーヴァントについては次回から詳しく入りますのでまた




第1話

 

 

 

必要最低限の灯りしか灯されてない洋館の廊下を壁伝いに這うように歩く男がいた。

男の名は間桐雁夜。約一年前までは、ごく普通だった男、現在は自らの目的のために自らの体を捧げた。間桐家の魔術(呪い)、刻印蟲を植え付けたからだ。

しかし、想像以上に刻印蟲の負荷が大きかった。一年間、体に馴染ませるために肉体、ありとあらゆる臓器に刻印蟲を植え付け嬲られた結果、雁夜は、左半身の神経を焼き尽くされ使い物にならなくなりら内臓機能は無に等しく固形物は喉を通らなくなった。

 

 

しかし、やっと此処まできた。

 

 

ふと右手の甲を見やる。絡み合った三つの鉤型、三方対象の血の色をした紋様。聖杯戦争の参加資格であることを示す『令呪』。

なんの修行もしてこなかった落伍者なんぞと間桐の当主である間桐臓硯に言われてから一年。やっとだ。

 

今からサーヴァントを召喚しにいく。サーヴァントとはサーヴァントとは、英雄が死後、人々に祀り上げられ英霊化したものを、魔術師が聖杯の莫大な魔力によって使い魔のことだ。そんな英雄様を今から呼びにいくのだ。そのために自室を出てからもう何分経っただろうか。歩いて数分の距離をもう何時間も歩いているような気がする。

 

苦しい、痛いと体が絶叫するが全てを理性でねじ伏せる。

 

前方から人の気配がする。下がっていた頭をあげて前を見ると、虚ろな瞳をした紫色の髪の少女が怯えたような顔でこちらを見ていた。

無理もない。壊死して白濁した眼球に周囲の顔筋麻痺。鏡で見た自分でさえゾッとしたのだから。

 

「………………やぁ、桜ちゃん。びっくりしたかい?」

 

不恰好な作り笑いを浮かべて声をかける。

 

「うん。顔、どうしたの?」

 

「あぁちょっとね。また少しだけ体の中の蟲に負けちゃったみたいだ。おじさんはきっと桜ちゃんほど我慢強くないんだね」

 

「カリヤおじさんどんどん違う人みたいになっていくね」

 

「ハハ、そうかもしれないね」

 

ー君もだよ、桜ー

 

その後も二言三言会話をする。

 

「なぁ桜ちゃん。おじさんの仕事が終わったらまたみんなで一緒に遊びに行かないか?お母さんやお姉ちゃんも連れて」

 

「お母さんやお姉ちゃんは………………そんなふうに呼べる人はいないの。いなかったんだって思いなさいってそうおじいさまに言われたの」

 

俯いたまま答える桜を見て唇を噛む。

 

雁夜の目的。それは聖杯戦争を勝ち残り、聖杯を手にすること。そして、桜をこの蟲と闇にまみれた呪われた一族から解放すること。

俺は、なんとしてでも成し遂げなくてはならない。

 

ゆうことの聞かない体に鞭を打ち、目線を桜に合わせるように膝をつく。唯一動く右側の腕で桜を抱くと出せる限りの力を込める。

 

「……じゃぁ、遠坂さんちの葵さんと凛ちゃんを連れておじさんと桜ちゃんと、四人でどこか遠くに行こう。また昔みたいに一緒に遊ぼう」

 

眼前の少女の体がわずかに震える。

 

「ーーーあの人たちとまた会えるの?」

 

「ああ、きっと会える。それはおじさんが約束してあげる」

 

そう言うと、また同じようにノロノロと立ち上がる。

 

「じゃあ、おじさんはそろそろ行くね」

 

「……うん」

 

今の桜は絶望という感情で精神を麻痺させることで自らの身を、心を護っている。堪え難い苦痛に抗するために彼女のとった選択肢は『痛みを感じている自分』を消し去ること。

もし、『あと数日で君を苦しみから救ってあげられる』と声をかけようものなら、彼女は一瞬で崩壊するだろう。希望は何重にも張り巡らされた絶望という防衛線を破壊してしまうから。

 

 

 

 

 

「ばいばい、カリヤおじさん」

 

 

 

 

 

そう言うとこちらに背を向けて歩いて行ってしまった。

 

限界まで消耗したこの体、俺は桜ちゃんと桜の母である葵さんのために使い切ると決めている。だがもし、もとに返せたとしても、彼女(桜ちゃん)の精神が致命的なところまで壊れていたらーーー

 

そう思うだけで目の前が真っ暗になりそうだった。

 

(手遅れになってくれるなよ)

 

俺は桜ちゃんを壊した蟲蔵へと向かってまた壁を這った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら儂は貴様の精神力を侮っていたようだ。この一年で貴様の刻印蟲はついに魔術回路として機能を発揮し始めている。ーーーすなわち貴様は術者としてそれなりの力量を得たと言うことだ」

 

蟲が出入りするための大きな穴がいたるところに開けられた立方体の形をした地下蔵。本来なら蠢いているはずの蟲は一匹も見当たらない。その代わりとして、地面の中心にサーヴァントを召喚するための魔法陣が敷かれていた。

 

しわがれた声の主、木乃伊(ミイラ)のような外見をした老人こそが何千年の時を生きる間桐家現当主、間桐臓硯。

 

「じゃが、肉体の崩壊が随分と早いのう。貴様の命はもって一ヶ月と言ったところか」

 

貴様の植え込んだ蟲じゃないか、吐き出しそうになった言葉を飲み込む。

 

「それだけ持てば十分だ。聖杯戦争は二週間もあれば片がつく」

 

フラフラの体で魔方陣の上に立ち答える。

 

「であるならば雁夜よ。いよいよ今宵、貴様にはサーヴァントを召喚してもらう。召喚の呪文には途中に二節、別の詠唱を挟んでもらうぞい」

 

「どういうことだ?」

 

「お主の魔術師としての格は他のマスターどもに些か以上に劣るのでな、そうなるとサーヴァントの基礎能力にも影響しよう。お主には『狂化』の属性付加によってパラメーターの底上げがなされている『バーサーカー』を召喚してもらう。そこで、だ」

 

カサカサと言う蟲の足音。続いてごとん、と何かが床に置かれる音がした。自分の立つ魔方陣の向かい側に何かが置かれたようだ。

 

「儂からの餞別だ。貴様には一片たりとも期待などしておらぬ。ただ、ここで聖杯が手に入るならそれは上々。そこで蔵の中に眠っておったゴミを廃棄しようと思ってな。うまく使えい」

 

ここからでは箱の中身がなんなのかわからない。ただ、あの老害のすることだ、今更考えたところでどうにもならない。

 

手を魔方陣に掲げ、サーヴァント召喚のための呪文を唱える。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

祖には我が大師シュバインオーグ。

降り立つ風には壁を。

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する。」

 

手が震える。死んだ左半身で支えることもできず、精一杯力を入れることで耐える。

 

「ーーーーーーーーーAnfang(セット)

 

――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。

 

誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者。

我は常世総ての悪を敷く者。」

 

白濁した眼球から、口の淵から、ありとあらゆる場所から出血する。かまうものか。

 

これは俺が招いたことだ。かつて拒んだ運命が巡り巡って何の咎もない桜ちゃんの上に降りかかった。その罪滅ぼしのために、せめて彼女の未来だけでも取り戻す。

 

加えて聖杯を手にするために残るマスター六人を殺しつくすというのであれば、彼女らに悲劇をもたらした当事者たちの少なくとも一人には引導を渡してやる。

 

「されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。

汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。

 

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

やった、来た!俺はサーヴァントを召喚したぞ!

 

「ハァ、ハァ……」

 

「召喚に応じ参上した。お前が俺の、マスターか?」

 

黒色の烏帽子を頭の上にのせ、紫色の家紋の入った和装に身を包んだ男。その腰には鈍く輝く刀。

 

これが、復讐心を奥底に秘めた二人の初めての出会いだった。

 

 

 

 

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