間桐雁夜の復讐劇 作:あまのがはら
「ゆる、さ、ない」
「許さない……ッ」
「ふざ、るな……………フザケルナぁぁぁあ!」
酷い夢を見た。まるで泥の中へと溺れ続けるかのような苦しい夢だった。
「ん……」
見覚えのある天井。背中からの感触が柔らかい。これは俺の部屋のソファーだろうか。ひたいに乗せていた手を退けて体を起こす。
「目が覚めたか、マスター」
声の方を見る。
光の粒子が形を成し、人の形をとる。先ほど見た、俺の呼び出したサーヴァントだ。
「あぁ」
最悪の目覚めだったがな、そう雁夜は心の中でぼやく。
あれは何だったのだろうか。
先ほどまで見ていた夢について考える。木造の天井。それに手を築き上げて慟哭する男性。
そんなことを考えている時にサーヴァントと目があった。
「ん?どうかしたか?」
そういえば、こいつだ。先ほどまで見ていた夢に出て来ていたのはこいつだ。
「すまない、そろそろ互いの紹介でもしたほうがいいのではないかと思ってな」
「そ、それもそうだな」
そういうと、思考を一旦停止させ地面に足を下ろし、己のサーヴァントと向かい合う。
「俺は間桐雁夜。それ以上でも以下でもない。俺には聖杯にかける願いはない。ただ、聖杯を獲得することが願いだ。お前は?」
「聖杯を獲得することが願い、か。どうやら訳ありと見た。安心しろ、俺はなにが何であろうと聖杯を獲る。獲らなければならない、獲って、奴をーーー奴を、時平を、世界をッ!」
「おい、バーサーカー!」
いきなり目の色を変えて豹変したサーヴァントに慌てて声をかける。
「ッ!ーーすまなかった。そうだ、紹介だったな。
バーサーカー、菅原道真。改めてよろしく頼む、マスター。あぁ、どうして聖杯を望むか、だったか。俺が聖杯にかける願いは復讐だ。俺の真名を聞けば大体想像がつくんじゃないか?」
それを聞いた雁夜は何となく目を背けた。
菅原道真。15歳にして平安の世の技術水準を大幅に上げたことに始まり、遣唐使の廃止、政治基盤の革命、ただの歌詠から右大臣にまで上り詰め、『平安の賢者』と呼ばれた男。そのあり方はまさに賢者と呼ぶにふさわしいものだった。
しかしその最後は酷いものであった。
幕引きは、ただの歌詠が右大臣になり、政治を変えて行き、主導していくことを気に食わなく思った左大臣藤原時平の仕業によるものだった。
学者であり歌詠である道真と貴公子の時平は気が合わなかった。時平は情に任せて裁決に誤りが多く、その都度に道真が異を唱えて、対立するようになる。
道真は後援者である宇多法皇をしきりに訪ねて政務を相談し、法皇は天皇に道真に政務を委ねるよう相談した。これを知った時平の心中は穏やかではなかった。
時平は大納言源光と謀り、道真を陥れるために、事実を曲げた偽りの情報を後醍醐天皇に告げた。それを受け、後醍醐天皇は道真を太宰府へと左遷することを決定する。
その後、偽りであるとわかってもらえることを信じて、従事するも撤回されることはなく、2年後、病死したとのことだ。
成る程、確かその通りだ。
復讐を願うのは当然だ。
「そうか……」
なんとなく気まずくなってしまって次に何を話していいのか分からなくなる。
「何、何をするかなんて決まってるだろ」
いきなり口を開いたバーサーカー に少し驚きつつも、いまいち働かない頭では、バーサーカー の言わんとすることが分からなかった。
「何をするってんだよ」
「他のサーヴァントを駆逐して、聖杯を手に入れに行くんだよ」
視線を外に向けながら、バーサーカー は言葉を重ねる。
「さっそく、我慢のならなくなったサーヴァントが誘ってやがる。何、そんなボロボロなんだ、いきなり戦闘なんてしないさ。勝つ前にマスターが干からびちまったら元も子もないからな」
そう言い終えると、突然こちら側に歩み寄ってきた。
「な、何を!?」
俵を担ぐように、バーサーカー の肩に乗せられる。驚いたような顔でこちらを見るバーサーカー 。
「マスター、お前軽すぎないか?」
こりゃぁ戦う前にマスターをどうにかしなくちゃならねぇかなぁとボヤきながら窓際に行くと、開いている方の腕で窓を開け放つ。
「おいおいおい、まさかと思うがお前!」
「ちょっくら覗きに行こうぜ、マスター!」
俺は弾丸のように屋敷から(バーサーカー に背負われる形で)吹っ飛ばされた。
最短ルートを通るために、激しく動くため、吐いたのは言うまでもない。