間桐雁夜の復讐劇 作:あまのがはら
輪廻転生を経験した、と自覚したのは15の頃だった。
まるで夜の海底から気泡が浮いてくるかのように『前世の記憶』が浮かんできたのだ。自分の名前、家族。そう言ったものは思い出せなかったが、近代と呼ばれる世代の技術やノウハウ、知識はその記憶の中に含まれていた。一般教養と呼ばれ当たり前と言われていた知識。
あらゆるものが木造だったりアスファルトが見られないこと、そして時代錯誤の和服を皆が来ていることがわかればあとは簡単だ。その知識はこの時代、『過去』においては先進的という言葉など生ぬるいというほど革新的な知識ということだ。
俺はその知識を用いて色々なことに手を出した。
まずはこの時代に合わせて詩歌を始めた。これが想像以上に面白かった。俺の肌に合っていたというのもあるのだろう、メキメキと才覚を発揮していった。それこそ、天皇の御前で披露するほどに。
その次に勉学に励んだ。政治、農耕、医学、倫理、建築学、数学、科学etc……。はるか未来の知識をこちら側にあるもので再現するというのはとても楽しかった。特に、政治や人の動きなど、予め予想しておきその通りに動いた時など一人部屋で小躍りし、使いのものに変なものを見る目で見られた。ひたすら勉学に励んだその結果、俺は
次に手を出したのは武術。お付きの剣術指南役と戦ったり、馬を走らせ矢を放ったりした。憧れからだろうか、こちらの方も驚くほど上手くなっていった。そしてつけられたあだ名が『文武両刀』。文と武という二つの刀を扱うということからつけられたらしい。
嬉しく思ったことは言うまでもない。
そして俺は京へ呼ばれた。
文武両刀と謳われるその才覚や実績を買われた俺は宇多天皇から
そして、官職も蔵人頭に始まり中納言、大納言と、順調に出世街道を歩いていった。
天皇が醍醐天皇に変わった後も昇進を続け、右大臣にまで上り詰めた。
しかし、俺の道はそこで完全に閉ざされてしまったのだ。
ここ太宰府に飛ばされ、それらでもいつかは我が罪が冤罪であると証明され、信じて御恩を重ねてきた。しかし、そんな俺をあざ悪かのように病は体を蝕み続ける。
こんなにも
支えであった息子達もはるか昔に流刑にされ、その他の家族も今は遠くの地にいる。
百歩譲って俺が流されるのはまだいい。しかし、何故子供を、未来を繋ぐための宝までも消されなくてはならない!
どんなに熱くなったところで、支えを失い、生きる理由さえ失いかけ、憔悴しきった俺に抗う術などなかった。
「ゆる、さ、ない」
震える手を天井へとかざす。何もない天井へ。全てをぶちまけてやるために。
「許さない……ッ」
その時、俺は幻想を見た。
天井が吹き飛び、ただ夜空が広がる漆黒の海が眼に映る。その漆黒の海の中心が捻れ
これこそが世界の意思、抑止力。
死に際で呼び起こされた記憶の断片。なんだったか、たしか『F te』とかいう作品に出てきたやつだ。
抑止力。集合無意識によって作られた、世界の安全装置、カウンターガーディアン…だったか。
「ふざ、るな……………フザケルナぁぁぁあ!」
盃に溜まりに溜まった泥をぶちまけるかのように感情が爆発した。
「そうか、そうかそうかそうか!!そんなにも史実通りにしたいか!そこまでして俺を消したいか!?知識を用いてこの
残された命の残滓すら燃やし尽くしながら天を仰ぐ。涙の代わりに血が流れ、息を吐くための口や鼻からも血が溢れる。
極限に置かれた体からの大量出血により、身体中が震える、信号が放たれるがそれを自分の中に生まれたナニカで強引に捩じ伏せる。
聖杯
万能の願望機。全てを叶えるエネルギーの奔流。絶望の淵に立たされた今、思い出した。
そうだ、万能の願望機、全てを叶えるこれさえあれば!
目を見開き叫ぶ。
「よく聞け!此の身が朽ちたその時、俺は全てを貴様に預けて犬に成り下がってやろう!だから、聖杯を!全てを叶える万能の願望機を俺に与えろ!!貴様を殺すためになぁ!!」
よく考えてみれば支離滅裂此の上ないことだし、普通に考えれば受けるメリットなどなくデメリットしかない。しかし
天上に浮かぶ青い円環はその形をひときわ大きくし、さらに輝きを増した。
病人とは思えぬ動きで床から上半身を起こすと、枕元に置かれていた盃を強引、ひったくるかのように取り上げると、容器に収められていた酒を溢れ飛び散るのにもかかわらずなみなみに注ぐ。そしてその盃を天へと掲げた。
「此処に契約は成ったッ!」
寝間着が酒で汚れるのにも構わず一気に飲み干す。
「せいぜい首を洗って待っていろ!貴様なんぞに俺は負けん!!必ず殺してやる!!!」
ふと、天に掲げていた手が透けていくのが見えた。自身の手から腕、肘にかけてどんどん光の粒子を伴って消えていく。
これでいい。俺は世界を壊す。
そして、息子と、家族と、平和にく ら
その夜、床に伏せていた道真公の姿が塵すら残さず消えたことが、不可思議な話として後世まで語り継がれ流ことになるなんてことは知る由も無い。