エピソード#Q=W+ΔU:本栖キャンプ
僕の名前は岸辺露伴。所謂『マンガ家』だ。こんな事は知ってようが知ってなかろーが、どうでもいい事だが。
こっちは、今から話す事…………知っておいて欲しい事なのだが…いや、一般教養として知っていて『当然』なのだろうが、一応話しておこう。
『富士五湖』を知っているだろうか。富士、とついている事から静岡県側にあると思われがちだが、山梨の地名だ。その名の通り、富士山の周りをグルッと囲む5つの湖だ。地元では、『この湖を全て言えるか?』という下らない理由で子供の賢さを決められるらしい。子供からしたら、たまったものではない。
『本栖湖』。
『精進湖』。
『西湖』。
『河口湖』。
『山中湖』。
山中湖以外は富士河口湖町という括りで、山中湖は単独で山中湖村という括りになっている。
マンガ家というものは、しばしば『取材』に行く。ぼくはあまり金がなく、連載も続けなければならない(まあぼくの場合は週に1〜2日ほど暇があるが)。なにより居候の身だ。1泊だけ、今住んでいるM県S市の杜王町から離れ、山梨の山奥、本栖湖に取材に行っていたんだ。
さっきの富士五湖についての話というのも、これからここで話すエピソードに関連する事なんだ。そう、あれは11月、寒さが本格的になっていった頃だった。
とあるキャンプ場から見る景色がとても美しいとネットの情報にあったので、試しに行ってみた。道具は安いものをその場で揃えた。おかげで、ガソリン代と食費以外にムダ遣い出来ないような財布の軽さになってしまったが。
「………美しい…」
東北の杜王町からはとても見えないような、大きな富士山だ。銭湯の壁なんか比べ物にならないぞ。空気も美味しい。杜王町も美しい所だが、山梨という所もスゴくいい所なのかもしれない。田舎と年寄りの言葉は敬遠したらソンする。
シーズンオフは、キャンパーも少ない。というか、いない。貸し切りだ。ぼくくらいの有名マンガ家になると、観光地で『団子』が出来てしまうからな。落ち着いてスケッチをしたりメモができたりするのは、こちらにとっても有難い事だ。康一くんの家から、寝袋とちょっとしたベンチを借りてきたし、とりあえずスケッチを……。
「…………ッ」
寒い。山奥の寒さをナメていた。薪は無料と言っていたし、ケチケチせずに焚き火でもするか。
なになに……乾いた『マツボックリ』と、切った『薪』が必要……か。マツボックリは着火材として、とても優秀らしい。ところで、このサイトにちょくちょくいるバンダナをしたダンボールに入っている軍人は誰なのだろう。まるで蛇のような立ち振る舞いだ。
その前にまずはテントを張らないとな。夜景もスケッチできるように、景色が綺麗な湖の近くにしよう。テントだけは本格的に買っておいたんだ。下に百均ではあるものの、レジャーシートも敷いている。
幾つか穴の空いた、フィルムケースくらいの小さな筒に、ワイヤーを通して固定するらしい。この釘は『ペグ』と言うらしい。
……くそッ、地面が硬すぎてハンマーがまるで使い物にならないぞ。こういう時、どうしたら…。
「!!」
あそこに大きな『石』があるッ!
石というものは、両手で持てるようなサイズでもかなりの重さがある。アレなら…!
「よっ……と」
さ……刺さった!やったぞッ!この岸辺露伴、テントを張れないという致命的ピンチを『乗り越えられた』ッ!
こんな事で喜んでいるようでは先が不安になるが、『今夜』だけ。こんな山奥にいるのも、今夜だけだ。
この棒状に折りたたまれたイスは康一くんの家から借りたものだ。サイズは、ぼくがギリギリ座れるくらいかな。さて、配置を決めようか。寝袋はとりあえず開けて、テントの中に広げておこう。
イスをテントの左横に…そのさらに隣には、画材などを置くテーブル…。
「設営完了だ」
我ながら完璧だ。富士山の前に、簡易的ながらもアトリエを作ってしまったぞ。
両手の親指と人差し指で、偉大なる富士山を囲む。今日は雲がかかっているが。今夜にでも晴れれば良いのだがな…昔、集英社の行きたくもない、ネタにもならないようなつまらない『サマーキャンプ』で、こんな事をしたな。同じように…指を長方形にして、距離をはかって…。
っと、スケッチを始める前に、焚き火の準備をしなくっちゃあな。確かあの森に薪があるんだったよな。
まずは蛇男の言っていた通りに、マツボックリを拾おう。カサが広い方が燃えやすいらしい。そんなに変わらないんじゃあないか?
『湿っていると火がつかなかったり、爆ぜたりします』
……この岸辺露伴、ネットの情報を鵜呑みにするつもりは無いが、一応気をつけよう。
そして薪だな。太いもの細いもの、色々集めておいた方がいいらしい。そして等間隔に切る…と。さっき買った『ナタ』が役に立つぞ。
グッ…な、なかなかパワーを要求されるな。承太郎さんや仗助みたいな、パワーのあるスタンドなら、赤子の手を塵にするくらいの難易度なのだろうが。
ぼくの『天国への扉』は、特殊な戦闘に優れている代わりに、パワーだけは人間並み…いや、『それ以下』だ。こればかりは自給自足で…ッ!
「うおっ」
足で薪の片端を押さえ、もう片端を手で引っ張り、真っ二つにしようとしたのだが…見事に折れた反動でコケてしまった。服はあまり汚れなかったようだ…良かった。ぼくのいつも着ている服は、殆どがオーダーメイドの服だ。おいそれと買えるものではない。
ましてや今は居候をしている金欠マンガ家。クソ、取材に来たのに屈辱的になってきた。キャンプというものは、リフレッシュにも丁度いいらしいな。
「すいません」
「ン?」
「岸辺露伴さん、ですよね」
「ああ。確かにぼくは岸辺露伴だ」
「…ピンクダークの少年、読んでます。この本でいいなら、サインくれませんか」
………………………。
「貸してごらん」
「?…はい」
「……これで、いいか?」
「!?」
カバーを外した裏表紙に、ピンクダークの少年の主人公となる『ヘル・ゲート』を描いてやった。最近、『この本でいいなら』、『サインくれませんか』、といった謙虚なガキは殆ど見ない。コイツは見た感じ小中学生くらいなのだろうが、なかなか『礼儀』というものをわきまえている。近頃の学生はアトムみたいな髪型にしたり、学生服に億や$などと書いたり、悪い意味で個性的でバカな連中ばかりだと思っていたのだが…ぼくの周りがバカってだけなのか?毒されているな。
その中で、コイツは髪型以外はとてもマトモに見える。少しだけ、気に入ってしまった。康一くん、君が評する自分勝手でエゴイストな岸辺露伴は、一瞬ではあるが他人の思いを読み取り、こともあろうか受け入れた。少しは成長したかな。
「ああ…スゴい!」
「なに。いつもしてる事なんだ、気にせず受け取ってくれ」
「は、はい!ありがとうございます!」
引き際もわかっているんだな。
…これは決して『そういう』感情ではないが、コイツのことが『気になった』。ネタにもなるだろうし、ちょっと取材でもしてみるか。
「君はココの人なのか?」
「ええ。山梨県民です」
「ちょうど取材しにキャンプに来た所なんだ。色々聞かせてくれないか」
「!ど、どうぞ!あ、その前に…」
「ム?」
彼女は自転車から荷物を下ろし、ぼくにこう言う。
「私も、キャンプしに来たんです」
「ああ…設営が終わり次第、ね」
「すいません」
「いいのさ。ぼくは取材させてもらう側だし」
「あっちには、本栖高校っていう高校があるんです」
「本栖…というと、キミが通っている所だね。帰り際に見ていくとするか」
彼女の名前は『志摩 リン』。さっきは小中学生などと言ってしまったが、れっきとした地元の高校生だ(チョットだけ申し訳ないような気持ちになってしまった)。祖父の影響で、中学生頃に『ソロキャンプ』を始めたらしい。以来、よくシーズンオフにココのキャンプ場に出没するようになっていったんだとか。
ああ…暖かい焚き火にあたりながら、マンガのネタにもありつける。好奇心は満たされる。幸福な時間はアッという間に過ぎ、スッカリ夜になってしまった。
とは言えど、少し寒い。催してしまった。
「あ、夜ご飯の準備…」
「そうか。ならぼくも少し」
「後でまた、続き…します?」
「是非とも」
あちらも積極的で助かる。さてと、トイレは…。
「フゥ〜〜〜〜〜〜ッ…」
インスタントラーメンなど普段は好んで食べないのだが、今回は別だ。鍋もあるし、焚き火でやればいいだろう。腹が減ってはスケッチが出来ない。
この岸辺露伴、いつ如何なる時にも万全の体制で挑むことにしているからな。彼女の話も、もっと集中してメモにおこしたい。
「…………………」
…………?少し違和感を感じる。残尿感なんかじゃあない。『外から』…『聞こえる』……。
「…うう、ぐす……」
女の泣き声だ。啜り泣き、しゃっくりも混じっている。ぼくの考えが螺旋階段のように複雑にひねくれているだけなのかもしれないが…『罠』という可能性もある。スタンド使いとスタンド使いは、いずれ惹かれ合う。取材にまで来て戦闘とは、スタンドのデメリットここに極まれりといった所か。
トイレの外に出て、コッソリ近づいてみる。
「…………」
「えぐ…へう"…」
「なァ」
「!!」
こちらの存在に気づいたようだ。すると猛ダッシュでこちらに走ってきて、ぼくの体にひしとしがみつく。
やられた。
不意打ちにも程がある。まるで死にかけのシマウマが、ライオンから逃れる、命懸けの逃避のように。アニマルチャンネルで観た。髪と服がピンクの女は、ぼくから離れようとしない。
「た……」
ン?
「たしけて…」
「で、拾ってきた…と」
「…………」
「…拾われてきたと」
「へう"」
志摩くんにも事情を話しておいた。
ザックリ言うと、コイツは今日ここらに引っ越してきたばかりの静岡県民らしい。名前は『各務原なでしこ』。遠い所から富士山を見に来たはいいが、途中で疲れて横になった途端……。
そのまま寝過ごし、午後6時に至る。暗くて帰ろうにも帰れない、という悪循環。
ひとつだけ思ったよ。コイツ、アホだ。こんな人も来ないようなところに単身突撃し、あろうことか寝過ごしたとは。まるで『マンガのキャラ』みたいだ。
『だから気に入った』。
コイツ、なかなか面白そうなネタに出来るぞ。利用、といってはアレだが、少し使わせてもらうくらいはいいだろう。後で覗いてみるか。
「スマホ、無いの?」
「スマホ!スマホスマホ、最近買ったスマホスマホスマホスマホス…」
トランプ(52枚セット、税込430円)。
腹の虫を大きく鳴らし、その場に崩れ落ちるピンクの女。こんな女がスタンド使いとは思えない。アホの億泰の例を除けば。
「ラーメン、食べるかい?」
「ラーメン!!」
「2000円だ」
震える手をこちらに差し出し、『100円玉』をくれる。
「冗談だ。そこのベンチに座れ」
「…わ、わかりまひたっ」
拍子抜けしたような顔で、反面嬉しそうな声で座る。いちいち行動が犬みたいだ。康一くんが飼っているボリスと似ている…いや、それより活発で人懐こい犬のよう。生憎ぼくは動物が苦手だが、犬は幾分か慣れている。扱いもまた然り。
「3分待てよ」
「了解っ!」
「露伴さん、こっちに携帯コンロありますよ」
「ナイスだ志摩くん」
これは…コッヘル、だな。長細く、コンパクトな携帯コンロだ。こちらからお湯を拝借するとしよう。カップはひとつしか無いからな。
「これも、お祖父さんの遺品なのか?」
「まだピンピンしてますよ。カブで全国走り回ってます」
「………失礼した。ところで、後でそのお祖父さんについても聞かせて欲しい」
「あっ!お湯湧いたよ!」
「マイペースだな、お前」
「うまかっちゃんで良いか?」
「何ですか?それ」
「……豚骨だよ」
「とんこつ!食べますっ!」
食い付きがいい。明るいうちに寝ていたのなら、昼飯もマトモに食べていないだろう。あそこで会わなかったら、コイツはどうなっていただろうか。誘拐、なんて事は滅多に無いだろうが…警察に保護でもされていたのかな。
明日から学校だと言うし、初日から『山奥で遭難した女』というレッテルを貼られることになってしまうのだろう。ぼくは少しではあるが、可哀想に思える。スクールヒエラルキー最下層が受ける扱いなど知れている。ぼくとて被害者だしな。いつもマンガを描いては、スケッチブックを破られたり、クラス中に批判された。絵柄が気持ち悪いとも言われた。変人扱いなんて、何処に行ってもされたさ。『血湧き肉躍る』漫画は人を選ぶよな。
あいつら、今のぼくを見たらどんな顔をするんだろうな。驚くか、嫉妬するか、あるいはただただ笑うしかないか。ふふふ、今までクソみたいにつまらなく思えた同窓会も、考え方によっては悪く無いぞ。
「ほら」
「おおーっ…」
「……口の中、ヤケドするなよ」
「わかりましたっ!とんこつ、とんこつ〜♪」
仕草が何故か危なっかしく見えてしまう。
乾麺を半分に割り、カップに入れてやる。3分間がバリカタに丁度いい待ち時間だ。あとはゴマ油とめんつゆで完成。
クッ〇パッドとやらは、中々アテになるメニューばかりだ。ぼくも何回か参考にして作った事があるが…ドシロートでも、カンタンにチャーハンが作れてしまったよ。これが『文明の利器』ってヤツだな。
「…………」
「おっ、美味しそう…!」
「…ねえ。カレーめんあるけど、一口交換する?」
「いいよー!」
年相応のやり取りをする女子高生二人。ぼくならば、初対面のヤツとは、こんなに親しげに話せない。『こみゅ力(?)』が低いからな。自覚する事は少ないが、どうもコミュニケーションというものに向いていないらしい。この前はクソッタレ仗助にまで言われてしまった…。
……ム!なかなか美味いじゃあないか、このラーメン。どんどん箸が進むぞ。新鮮だ。トニオさんの料理を初めて食べた時みたいな感覚だ…マッ!こんな不健康な食べ物、進んで食べないがね。マンガに支障が出てみろ、企業にクレームを入れてやるぞ。
そうだ、スケッチをしなくっちゃあな…ン?
「1000円札の絵にもなってるって聞いてさあ!」
「………」
「聞いてよ奥さーん!」
そうか…富士山を見に来たんだっけな、コイツ。確かに日本円の千円札にある富士山も、ここ本栖湖から見た絵になっている。
…………おお、これは…。
「おい、各務原」
「なんれふかー?」
「…飲み込んでからでいい。『後ろ』を見てみろ」
「んっ………!!」
驚いたな。呆気に取られて口が空きっぱなし、感嘆の声まで漏れている。ぼくが言ってあげなくとも、いずれ見ることになったのだろうが…一刻も早く、一秒も早く、伝えたかったのだ。
夜の本栖湖に映える、雲ひとつない富士山を。
「ウチのバカ妹が、ほんッ……とォオ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜にッ!ご迷惑をおかけしましたッ!!」
「いや、いいよ。ぼくも好きでやった事だ」
「これ、持ってって下さい!オラ、さっさと乗れビチグソが!」
「いててっ、痛い痛い!胃がひっくり返るぅ〜っ!」
キウイか。『フルーツの王様』と呼ばれるほど栄養価が高いんだとか。疲労回復、便秘解消、むくみ解消、肌トラブル改善、風邪予防エトセトラ。最近、目と肩の痛みが気になってたんだ。
……トラサルディーって、よく考えたら、あらゆる健康食品やフルーツが商売あがったりだな。経済的に恐ろしいスタンドなんか、聞いたことがない。
「あ、そうだ!」
「……?」
その場でチンケな短い鉛筆と、正方形のメモ用紙二枚を取り出し、何かを書くなでしこ。
「はい!露伴さんとリンちゃん、また一緒にキャンプしよ!」
「………」
「ちょっと待て、ぼくは…」
「またねーっ!」
話を聞かない、変な奴だ……渡してきたのは、電話番号。なるほど、そういうことか。
「志摩くん、ちょっと」
「なんでしょう?」
「…ぼくの電話番号だ。決してヤラシー意味ではないが、連絡先を交換しておきたい……また、『ここ』に来たくなった時に…会いたいんだ」
「………はいっ!わ、私のも教えますっ!」
キャンプってのも、悪くないな。
「ねえ」
「んー?」
「あの人、マンガ家の岸辺露伴さんじゃあないの?」
「誰それ。わかんない」
「私の元彼が読んでたの、『ピンクダークの少年』」
「あっ!その名前だけは聞いたことある!スゴい絵だよねー」
「エグいわよ、アレ。物理的に血湧き肉躍ってるから」
「およよ…」
NEXT CAMP
「それ、どこに売ってるんだい?」
「そんな値で売ってたら、西湖のクニマス全匹飢え死にだもんねーーーッ」
「真剣すぎます先生!」
「一緒にお鍋、しよ!」
エピソード#(n-1)!+1=n²=25:山麓シュザイ
to be continued...
ゆるキャン△の小説がハーメルンに無い。これは山梨県民として、ゆるキャン△ファンとして無視できない事態です。
ということでほんわかと小説を書き上げようとしたんです。
ドジャァーン。ジョジョのクロスオーバーが出来ました。
これからも気が向いたら更新します。他作品との並行なので、こちらも遅くなるかもしれません。まあ努力はするだけしますよ。自分で言うのもなんですが、かなり異色なクロスオーバーです。結構書くのが疲れるんです。楽しいけどね、どうしても遅筆になっちゃうのは勘弁してつかあさい。この通り。
さて、次回もサービスサービス。