「少し早かったかな」
「他のみんなは来てるらしいですよ〜?」
「そうか……ん?」
「せんせー、ちくわと遊ぶ?」
「さ、『斉藤恵那』ッ!」
「やだなあ、身構えないでくださいよ〜。とって食べる訳じゃないですから。紹介しますよ、チワワのダニ…ちくわです。私の愛犬なんですよ〜?とっても利口ですし、決して人は噛みませんから」
「違うッ!そういうのを言っているんじゃあないんだッ!『何故ここにいる』!」
「クリキャンですよお」
「だから違うんだッ!何故ぼくの居場所が分かったんだッ!?」
ぼくの名前は岸辺露伴。今の住所は富士河口湖町だが、かつては……というほど昔の話でもないが、M県S市杜王町に住んでいた。
あそこもキレイな街だったさ。しかし今は、キャンプや山に惹かれてしまってね…。
「あの子はこうして…ほいっ」
斎藤の飼い犬───ちくわはうさ耳のカチューシャをノリノリで付けてもらい、曰くなでしこ達のいる方面へ走らされていった。いや、走るのもノリノリだった。
思考回路を斉藤と繋いでいるのかもしれない。リンくんに見せてもらったものでは、同じような表情で、同じような体勢で毛布にくるまって寝ていた。
で、今度は斉藤から見せてもらった写真なのだが、リンくんがひたすらスモアを食べる写真である。
『スモア』焼きマシュマロとチョコレートをビスケットやグラハム・クラッカーで挟んだお菓子。キャンプでよく作られる。もう少し欲しい、という意味のSome moreが名前の由来。起源はハッキリしていないが、1927年のガールスカウトの本に載っているのが最古の文献らしい。
「で」
「ん?」
「ぼく達は歩いて行くんだな?こっから」
「そうですねえ。これを送って…と」
………別に覗き見の趣味はないのだが、リンくんとのトークルームのやりとりが、とてもフツーの女子高生とは思えないほどにレベルが高い。
ノリが良すぎやしないか、リンくん。
「で?」
「…何がだよ」
「リンちゃんとはどうなんですか?」
「どうと言われても、仲はいいぜ?」
「『違いますよ』」
「…………?……」
「私は別に、お二人の今までの友情なんて『訊いていない』んですよ。リンちゃん、普段から露伴先生のことばかり話していますからね」
「何が目的だ?」
くっ…………なんだッ。なんなんだよ。
まずい!何かがまずい。こいつには、尋常じゃあない『スゴ味』があるッ!そう、既にこれは只の『質問』ではなく『尋問』ッ!
思わず自分が唾を飲み込んでいるのが分かった。
「そう、私が『訊いているのは』……」
「『ヘブンズ・ドアァ───ッ』(天国への扉)」
「…『リンちゃんとの恋の進展』ですよっ♪」
「ブゥ───────ッ」
自分の予測──こいつが、斉藤恵那が『スタンド使い』であるというものを大きく外れ、ぼくは思い切り吹くと同時にヘブンズ・ドアーを戻す。
心当たり?
無いに決まっているだろうッ!
「あ、もう見えてきちゃった……と!ちくわはどこだ〜?」
「………………」
「あれ?どうしたんですか先生。なでしこちゃんとリンちゃん見えてきましたし、行きますよ」
「あ、ああ。今行く…」
「……今度また、『訊きますからね?』」
背筋を何かが走った。それは別に初めてのものでは無かったようだ。
トンネルの中の部屋に閉じ込められ、養分を根こそぎ吸い取られそうになったとき。
背中に取り憑いたモノに、極限まで追い詰められたとき。
窓ガラスの破片が相手にひとつも刺さっていないにも関わらず、少し離れていたぼくの左手の甲に刺さっていたとき。
スタンドをバラバラにされたり、敵に爆破させられたり…………自分の原稿を見ても操られないヤツを見つけたとき。
「ッ………………」
なでしこ達の方へ行ってみると、ちくわが毛布の下へもぐってしまったのだそうだ。
「やあ」
「あ!せんせー!」
「おはようございます、露伴先生」
「……で、こいつは誰なんだ」
「ああ、説明してなかったなあ〜…」
「…………………?」
説明すると長くなるというのだろうか。それとも説明するのを憚られる事情があるのか。
それはともかく、ぼくは…我われは、この丸メガネを知っている。いや、この酔っ払い具合とこの鼾を知っている。
「焼き鳥の救世主の……彼女か?」
「いや、まあ。『そうですね』」
「オイオイオイオイオイオイオイ。『そうですね』じゃあ無いんだ…『なんでここに居るんだよ』」
「この人が『野クル』の『顧問』だからです」
「…………ほう?」
ヘブンズ・ドアーを使いたい一心にかられているが、今は我慢しておくとして、こいつが………焼き鳥の救世主の彼女が、なでしこ、千明、あおいが居る野外活動サークルの顧問?
さっきまでベーコンを焼いていた形跡が残ってやがる。酒のツマミにしては大きすぎる袋だが、もうその中に入っていたであろうベーコンはこの酔っ払いの腹の中だ。
そしてこの酔っ払いが、いち教員であることが分かった。理解した。ああ、脳では受け入れられずとも、なんとか咀嚼して事実を飲み込む。
「だいたい分かった」
「それは何より」
互いのキャンプ道具を見せあったり、フリスビーで現地の子供達(どこかの民族みたいに言っているが、ここの研修施設に来ている保育園の子だ)と戯れたりしている間に、かなり冷えてきた。
さっきの子にもらったクッキーで全員、一旦休憩。お茶にすることにした。
「ごめんなさい、いつの間にか寝ちゃってたわ」
「おそよーございます」
「気持ちよさそうに寝てたよねー」
「あ、先生。ココア飲みますか?」
「ありがとう。『いただくわ』」
メガネの内側には、優しそうに生徒を見守る、ごく普通の先生のような……いや普通の先生なのだろうが、ココアの中にラム酒をドバドバ注ぐ赤らんだ顔には、間違いなく『ヤツ』の片鱗が見えていた。
「っぱぁ〜〜〜〜〜〜。温まるわぁ」
「グビねえだ…」
「こんな人だったっけ」
「四尾連湖ではこんな感じだったよー?」
「だな」
直接聞いてみるか?いや、しかしキャンプを続けるのに支障があるなら、あるいは───。
くそっ。ゼイタクな悩みだぜ。好きなことの間に揺れ動くなんて…。
「おろ?あなたは………?」
「げっ」
なッ!あ…『あっちから来たぞッ!』
「……また会ったな…」
「ああ、やっぱりそうでしたか。この前はどうも」
根は常識人だな。
否。ぼくは仗助達から多くのことを学んだ。根が常識人だとして、常識的な常識人だとして、それの裏には、知らない『何かがある』ッ。そしてそれには、必ず『譲れない何かもある』のだ。
あのクソハンバーグを例に挙げれば、たとえぼくと康一くんぐらいの友情で結ばれた友人でも、そこらにいる名前も年齢も知らない……つまり赤の他人だったとしても、『髪型を馬鹿にされるとキレる』。それには…これは康一くんから聞いたのだが、まあ悔しいが、コレもマンガのネタになりそうないい話だった。
ぼくだってマンガをバカにされたら少しは怒るし、ヘブンズ・ドアーを悪用して『今日一日で50回転ぶ』くらいは書くだろう。
「赤富士、キレイだね」
「ね」
……………………問題は、酒にこだわったりする理由や、酒に関するプッツンポイントが特に見つからないという事だ。
まず、鍋に牛脂を広げ、牛肉に軽く火を通す。次に砂糖、醤油、酒を入れてひと煮立ち。具材は榎、椎茸、しめじ、舞茸、ナメコ、薷、松茸、ツクリタケ。
「キノコ鍋作ってんのか」
「嘘やでえ」
まあ本当のところは椎茸、榎、葱、焼き豆腐、しらたき。春菊を乗せたら蓋をし、暫し待つ。
「正統派のすきやきだね」
「関西風やでー。あ、あき。スキレットでこの玉ねぎ炒めといてくれへん?オリーブ・オイルとにんにくなー」
順調に夕飯の支度が整ってゆく。あとは全員でブランケットに包まり、夜景を眺めて待つだけだ。
「あ!!」
「うおっ」
「せんせー、山梨に引っ越してきたってホントですか!?」
リンくんにしては大きな声を上げ、ぼくに顔を近づけてくる。
「マジか!」
「ホンマかいな!?」
「おおー」
「…まあな……富士河口湖町の精進湖に近いところだ。最近はバイクも買ったし、本栖湖のキャンプ場にも行ける」
「いいなあ、せんせー」
「あれ?なでしこは知ってたの?」
「えへへ、この前出かけた時に教えて貰ったんだぁ」
「……リンちゃんのみならず…」
「先生もすみに置いとけねーな」
「やなー」
「何の話だよ」
「またまたー♪あ、卵配っとくぜ」
「サンキューあき。そして出来たで…晩ご飯!」
それぞれがお椀に卵を割り、かき混ぜる。
「それでは」
『いただきます。』
それを言ってからの一同の箸の動きは、実にせかせかと忙しいものであった。
2話同時に更新します。私からのささやかなクリスマスプレゼントです。
三者懇談と、フォロワーさんの神引きへの嫉妬が生み出したものなので、こう、期待とかはナシで。2話同時ですよ。あと数ヶ月はお預けかもしれません。次回ぜんぜん出来てません。ごめんなさい。