ゆるキャン△ 〜岸辺露伴は止まらない〜   作:苗根杏

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へやキャン△も実写版のゆるキャン△も終わり、ゆるキャン△の勢いが十分についたところで、この話を公開することとします。

こんなご時世ですが、気ままに山梨を巡る露伴先生とゆるキャン△メンバーのエピソードを書き続けられたらと思います。こういう時だからこそ、堅苦しかったり、暗くて活気がないのはイヤなので。物語の中でくらい明るくいきたいモンですね。

しばらくは家にいっぱなしだろうし、あつ森ほしいなあ。大人しくスマブラしてます。テリーとファルコン楽しい。


へやキャン△篇
エピソード#193×753×2.008:巡礼スタンプ


 ぼくの名前は岸辺露伴。正真正銘、本物の岸辺露伴だ。最近、ぼくの偽物がTwitterで炎上騒ぎを起こしていたんでね。なんでも、言動が全くぼくに似ていなくて、マンガの話をせず、ひたすらキャンプについてしか話さないそうだ。

 

 ファンからは『なんだ、本物と同じじゃないか』と言われてしまった。

 

 失礼な話だ。マンガなんて、話をする必要がないほどに、身に染み付いている。せいぜい自作の宣伝をするか、取材の写真を載せたり、日頃思ったことをつぶやくまでだ。

 

 サラリーマンはTwitterで書類の話ばかりするか? 仕事とプライベートは、ある程度切り離すのが『最低限の自己管理』とも呼べるからな。

 

 それに、ぼくは『読んでもらう』ためにマンガを描いている。『読んでもらう』ことで、ぼくはマンガを描く意味を得ているし、比べて、キャンプは『自分が楽しむため』の趣味だ。人に感動を与えたりだとか、仕事という名目上でもないのだ。

 

 だから何だって話だけど、要するに、『容認しろ』ってことだ。ぼくが、自分の趣味だけをつぶやいていたりすることを。マンガ家ではない。ひとりの人間として、岸辺露伴はキャンプを楽しんでいるのだ。

 

「だぁはァ───ッ!! やっぱワインは山梨ね!」

 

 今のテラス席の酔っぱらいの発言は、聞かなかったことにしよう。というか、してくれ。

 

 こんな話、皆は興味がないと思う。さて、『趣味』の話に戻そうか。

 

 今、ぼくは『道の駅 なんぶ』にいる。天気が良かったもんで、キャンプの帰りに寄ってみた。ぼくのFORZA siも、いつもより調子が良かったんでね……。

 

「露伴さーん」

「えっ」

「素で驚きましたね。私のこと、覚えてます?」

 

 忘れるものか。こいつは、物腰は柔らかいながらも、その言葉は的確にくすぐったい所をわきわきしてくる。掴みどころのない人間だ。ぼくの苦手なタイプ……なのかもしれない。

 

『斉藤恵那』。売店の人混みの中で彼女は、ぼくの後ろに立っていた。

 

「何の用だ?」

「『知り合いがいたから声をかけた』、ってだけですよお。強いて言うなら、マグロ丼が食べたかったから……かな。露伴さんは?」

「お前だけ、ぼくのこと『先生』って呼ばないのな(クリキャンの時は先生付けだったのに……)。ぼくはまあ、気まぐれで寄っただけだよ」

「おお! じゃあ『奇遇』ってやつですね。『何かに惹かれ合って』いるみたいです」

「フン……惹かれ合う、か」

 

 ぼく達……『スタンド使い』からすれば、シャレにはならないんだがな。大体の『スタンド使い』は目と目が合ったらバトル、なんて物騒なことはしないだろうが(どうしても戦わなければいけない訳ではないってことだ)、敵対する可能性の方が、味方になる可能性よりは高い。

 

 最近は専ら、新手のスタンド使いにジャンケンを挑まれたり、トンネルの中でエネルギーを吸い取られたり、頭のおかしい手フェチ殺人鬼に口止め代わりに爆破させられたり…あとは、ジムでヘルメス神の化身に喧嘩を売ってしまったり、グッチのカバンスタンドに振り回されたり(これらは僕の詰めが甘かったのもあるけどサ…)。そういう事も無くなり、至って普通に日々を送らせてもらっている。

 

 というか、あの頃が異常だったのだ。あのハンバーグ頭に知り合ってからというものの、毎日のようにスタンド使いと知り合ってだな……。最後に見たのが、『蓮見琢馬』達だったか。

 

「露伴さんもマグロ丼、食べます? ここの名物なんですよ」

「ふむ……ちょうどハラは空いてる。昼メシにするのもいいだろう。だが、なぜ『マグロ』?」

「私が食べたい気分だったからですよ」

「違う。ぼくは『海無し県の山梨で、マグロ丼が名物として扱われているのは何故だ』と聞いたんだ」

 

 南部町は、山梨の最南端。海に一番近くはあるが……。

 

「それはね、山梨県民の『マグロ好き』が関わってるんですよ」

「『海が無いのに』か?」

「『海が無いのに』です。山梨は、静岡に続いて『マグロの消費量』が『2位』なんですよ」

「確かに、静岡市はマグロが有名と聞いたな」

「ここのマグロ丼も、静岡から来たものを調理してるんです。単に『静岡と山梨が隣り合わせ』だから消費量が多い、って訳じゃあないんです。山梨県民とマグロの繋がりは、『江戸時代』まで遡ります」

「ほう?」

 

 ぼくはメモ帳を取り出し、今までのマグロ談義をメモる。ちょっとした豆知識にも、作品の中にも使えそうである。作品には山梨県も出そうとしてたからな。

 

 どっちにしろ、住むところには詳しくなくっちゃあな。

 

「江戸時代、お魚の『鮮度』を保つ技術がそれほど進んでなかった時代。新鮮なまま、お魚を運べる限界の距離を『魚尻点』と呼んだそうな」

「その頃から、静岡ではマグロが多く獲れていたのか?」

「そうそう。その静岡で獲れたマグロを運べる『魚尻点』が、ちょうど『甲府市』だったんですよ」

「『甲府市』……甲斐府中、山梨県の中心だな」

「山梨の真ん中、甲府から広がったマグロは古くから『ごちそう』として山梨の食卓に広がっていきました。他のお刺身や、お寿司だって人気なんですよ。山梨にあるお寿司屋さんの数は、なんと全国で1位!」

「さすが『魚尻点』だな」

「山梨県では、大人が数人で集まって飲食をする文化である『無尽』が流行っていたことも、お寿司屋さんが広まるキッカケになったと言われています。山梨県のお寿司屋さんでは『無尽歓迎』の看板も多く見られますよ」

 

 スゴい。スゴいぞ、山梨。そうか、CMでやっていた『鮑の煮貝』も、それが原因なのかもしれない。煮貝は、干物や塩漬け同様、江戸時代あたりでは貝の保存方法として主流だったと聞く。『鮑の煮貝』は山梨の名産とされ、かの戦国武将『武田信玄』公も好んで食べたと言われているとも聞いたな。

 

「さ、露伴さん。トリビアのコーナーもこのくらいにして、ご飯食べましょ」

「そうだな。ぼくも歴史ある、マグロ丼を頼むとしよう」

 

 食堂の横の食券機の前に立った時、ぼくはボタンを押すのを、ほんの少し躊躇った。ぼくの人差し指の真ん前にあるボタンには『トロトロまぐろ丼 1410円』との表記がある。

 

『1410円』……。

 

「まあいいか」

「ん?」

「いや、何でもないよ」

 

 先週、本格的なシュラフと焚き火台とバックパック、その他諸々を買って、ぼくの財布の中身はちょっとした氷河期に突入していた。

 

 しかし、マグロ丼の写真を見るだけで分かる。『絶対に美味い』。『損はしない』と。

 

 食堂のおばちゃんに食券を渡すと、マグロ丼は2分ほどで提供された。思ったより早いもんで、座席でちょっとゆっくりするつもりだったんだが、ちょっとばかし焦ってしまった。

 

「お客様番号754番の方ですね」

「はい」

「ではこちら、マグロ丼の『食べ方』でございます」

「……はい」

 

 なんだか、家系ラーメンの店にあるような紙を渡された。こういう『食べ方をある程度限定しているもの』って、ちょいと苦手意識があるんだよな。『こうやって食べた方がいいよ! いや、するかどうかはキミ次第だけどね! でもこっちで食べた方が美味しいっちゃ美味しいよ!』ってやつ。ぼく、捻くれてるのかな。

 

「まずは、『ワサビ』と『特製醤油』を混ぜてから、丼にかけて食べます。次に『ゴマだれ』をかけて味を変えてお楽しみいただきます。そして最後は『濃厚マグロ出汁』で、絶品茶漬けを堪能いただけます」

「茶漬け?」

「はい、茶漬けです」

 

 とうとうマグロ丼という概念すら捨ててきた。

 

 まあいい。生憎マグロ丼を食べるのに、これといった拘りはない。大人しく、この食べ方に従っておくか。

 

「では、『お楽しみくださいませ』」

「うおっ」

 

 盆に乗った丼を見たぼくは、反射的に声を漏らしてしまった。

 

 中トロ、ネギトロ、ビントロ。マグロの色々なトロを詰め込んだ中に、小さな黄身のアクセント。ワサビの緑が、見た目的には絶妙にマッチしている。『盛り付けのレイアウト』がとてもいい。マンガ家が言うんだ、間違いない。

 

 丼を持ってテーブルに戻ると、横に斉藤恵那が、当たり前かのように座っていた。

 

「ん? どうかしました?」

「他にも席は空いてるだろ」

「んー……なんとなく、露伴さんの隣がいいなって」

「何だそれ……」

 

 こいつの事はいいんだ。とりあえず、丼に手をつけるとしよう。

 

 まずは、ワサビを別に用意されている小皿に移す。そこに『特製醤油』を適量入れ、軽く『ゼルゲノム』みたいな感覚で混ぜる。実験みたいだな、って事だ。

 

 小皿の中で出来上がったゼルゲノム・ワサビ醤油をマグロ丼にかけていく。

 

「いただきます」

「いただきまーす」

 

 まず、中トロ。マグロと言われて思いつく絵は、大体この濃ゆい赤色の刺身なのではないだろうか。The マグロってやつだ。

 

 小さな卵の黄身を割って絡ませた下の米と一緒に、赤々と輝く中トロを口に運ぶ。舌の上で赤身がとろけると、追ってワサビの辛さと爽やかさが、鼻から口へ。そして身体全体に染みる。文句無しの美味さ。

 

 ビントロもいただこう。こちらは薄いピンク色に輝き、脂を多く含んでいるのがひと目でわかる。

 

 こちらも口にしてみると、油断すると噛まずに飲み込めてしまいそうな柔らかさをしていた。ああ、白米がよく合う。ワサビは普段、味がやかましいという理由であまりかけないのだが、これに至っては『ワサビと特製醤油の相性が合いすぎている』ッ! 犯罪的だ……ッ。

 

 醤油、売店に売ってないのかな。

 

 そして、ネギトロ。軍艦や海鮮丼で目にするネギトロと、そこまで変わらない見た目をしている。食べてみると、やはり美味い。

 

 ヤバい。この丼、とてつもなく美味いモンしか入っていない。余計なものが無いのだッ。

 

「ふふ。美味しいですね」

「……ああ……」

「なんか、表情が『悟り開いてますよー』みたいな感じになってる」

 

 3分の1ほど食べ進めたところで、醤油の隣のボトルを手に取る。『ゴマだれ』だ。

 

 マグロはおろか、海鮮丼にさえゴマだれをかける、なんてことは、人生で1回もしたことがない。いくら美味いマグロ丼だからって、ゴマだれがベストマッチするなんて……と、不安を抱きつつも、コイツらのことだ。きっと何かあるんだろうと思い、ビントロを食べてみた。

 

「!!」

 

 べ……! 『ベストマッチ』だッ!! 

 

 先程までのマグロ丼にあった、本来のとろけるマグロの個性、醤油の酸味、ワサビの辛味。このゴマだれの旨味とまろやかさは、どれを邪魔することなく、また、どれに邪魔されることもない。

 

 気づけば、ぼくの頭には『平穏』という文字が浮かんできた。

 

 激しい怒りもない。かといって、深い悲しみもない。スリルのある冒険も、とびきり弾けるような楽しみもない。いいことも悪いことも混ざって、平坦な道になる。しかし、ほぼほぼ平らな道のような『平穏な生き方』が、とっても素晴らしく思えてくるぜ。

 

「はい、露伴さん。マグロ出汁」

「ありがとう、斉藤」

「もー。私と露伴さんの仲じゃないですか、恵那って呼んでくださいよ」

「…………フン」

「そういうツンデレっぽい所も、好きだけど」

「一端の女子高生なんだ。誤解を産む発言は控えるんだな」

「ホントの事なのになー」

 

 同級生に狙われないか、心配なばかりである。

 

 気を取り直して、最後は『茶漬け』。茶なのかどうかは怪しいが、とりあえずマグロの出汁をかけてみる。といっても、残り1口か2口分ぐらいしかない。食べ応えはそれなりだろうがな。

 

「……な……!?」

 

 くおっ……と! 『トロけるッ』! マグロの出汁とは、ここまで美味いものなのか! 白米に絡んだ、残ったワサビの鼻まで抜ける辛さ! 香るゴマだれのまろやかさ! 今までの過程が、1つもムダになること無く……『合わさっている』ッ! パズルの最後のピースが当てはまったみたいに! 

 

 無理やり感というか、押し付けられているという感じがしない! 不快にならないのだ! 

 

 わ……忘れていたッ! 南部町の『道の駅』、そのキャッチコピー! 

 

『食のテーマパーク』ッ! 

 

 食事を、まるでジェットコースターに乗ったり、メリーゴーラウンドに乗ったりしているかのように『楽しむ』! さっきから感じていた『食のエンタメ性』……こ、これかッ! 

 

「露伴さん、とろけてますね」

「はぅ……っ」

「分かる分かる。はぅ〜……ってなるよね」

「…………だな……」

「露伴さんもリンと同じで、黙々と味わうタイプだ」

 

 楽しい。ひたすら美味しく、楽しい。ただのマグロ丼ではない……正直、こいつを侮っていた。甘く見ていた。

 

 マグロ丼の美味しさだけではない。山梨県民のマグロ好き、江戸時代からこの県に広がってきた『ごちそう』、南部町の美味しい空気、斉藤恵那や野クルとの遭遇……。

 

「あ! えっ!? 露伴せんせー、それに恵那ちゃん!?」

「……んあ?」

「おぉ、野クルの一味。こんにちは〜」

「麦わらみたいに言うなや」

「お前ら、こんな所で何してるんだ?」

「軽いお食事だよー。この後も2人きりでデートするんだ」

「おいやめろ。……やめろ」

「えらい念を押して注意されたなぁ」

 

 マジで同級生に『え、こいつオレのこと好きなんじゃね?』とか思われないのか、斉藤。高校生男子全員、勘違いすること間違いなしだろ。こんなの。

 

「なでしこちゃん達は?」

「スタンプラリーだよ!」

「へえ、楽しそうだね」

「ム?」

 

 ……そういえばさっき、あんな所に『スタンプラリーの机』なんてあったか? ちょうど、斉藤と話していた位置なんだが…………まあいいか。

 

「マグロ丼、美味しそうだねえ」

「ここの看板メニューらしいよ〜」

「なあ、なでしこちゃん。なんで山梨なのに、マグロ丼が看板メニューなのか知っとる?」

「そういえば……」

 

 さっき聞いたな。マ、これに関しては『梨っ子』が説明してくれるだろう。ぼくは外の『南部氏展示室』でも見ているか。

 

 外に出ると、中の暖房との温度差で、身体がぶるっと震えた。

 

「っっはぁぁぁぁ───!! この地酒、最ッ高!!」

 

 ……リンくんを除いて、クリキャンのメンバーが勢揃いしていることを、この子たちはまた知らないのだろうか。それよりぼくは、あの人の腎臓が心配だがな。

 

「あ! 露伴さんじゃない! ちょっとこっち来なさい!」

「えッ」

 

 み、見つかった!? 

 

「いや、遠慮しておきます」

「なによぉ! 私の酒が飲めないっていうの!?」

「お姉ちゃん、典型的な絡み酒やめようよ」

「露伴ちゃんと飲みたいのぉ〜!!」

「うるさいなあ、この酔っ払い!アル中カラカラ!大蛇丸!」

「おいしいかもー! でへへ」

 

 結局、この後に飲まされた『ワイン』が美味すぎて、その場でリアルに2時間ぐらい飲酒して、FORZA siを置いて鳥羽妹に送ってもらった。

 

 みっともないので、あまり口外はしないでほしい。

 

 




気づいたら、連載から2年経ってました。15話しか書いてないし、去年に至っては2話しか書いてませんけど。マジで年1更新にだけはならないようにします。

この話に出てきた道の駅のモデルでもある『道の駅なんぶ』は、実際にめちゃくちゃいいところです。

というのも、このエピソードは、へやキャン△9話を元にしていると共に、私がゆるキャン△の梨っ子街めぐりで行ってきた道の駅なんぶのエピソードも含んでいます。マグロ丼も食べてきました。南部氏も見てきました。ついでに身延とかも見てきました。レポートと言っても過言ではありません。

既に街めぐりイベントは終了していますが、色々ひと段落したら南部町や身延町に行ってみてはいかがでしょうか。特に春の久遠寺のしだれ桜や、市川三郷町の神明の花火は、一見の価値ありまくりです。
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