ゆるキャン△ 〜岸辺露伴は止まらない〜   作:苗根杏

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エピソード#555×913×2.003:独立ソロキャン

 ぼくの名前は岸辺露伴。

 

 最近、ぼくより年下の作家が社会現象を起こしてしまい、内心めちゃくちゃに驚いている。いいんだ。『ピンクダークの少年』は常に安定した、ロングセラーにしてベストセラーなのだから。

 

 あえて言わせてもらおう。あのくらい、ぼくにだって書けるさ。嫉妬とかじゃない。いや、ちょっと嫉妬は混じってる。能力バトルの先輩である岸辺露伴先生からすれば、呼吸で戦ったり、特徴的な刀を使ったりするのは、どこかで見た事のある設定だなと言わざるを得ない。

 

 しかし、だ。ちゃんと面白いのが卑怯だと思う。ジャンプ漫画の集大成のような作品でありながら、絵やストーリーには作者の味が出ている。

 

 そこらの陽キャでもそれなりに語れる、言わば『エヴァンゲリオン』のような社会現象になるのも頷ける。アニメも全話録画して見てみたが、凄かったよ。

 

 本業の話はここまでにしておいて、趣味のことでも語っていこうか。

 

「フゥ〜〜〜〜〜〜〜ッ」

 

 ぼくの趣味は『キャンプ』。野外での一時的な半サバイバル生活、言わば野営だ。

 

 ソロキャンプは、勿論好きだ。服に穴が空くことや、ニオイがつくこと覚悟で、焚き火の前に座って、夕方の景色をスケッチしたりする。

 

 元々、ぼくが初めてソロキャンプをしたのも、本栖湖などの富士山周辺を取材しに行った時のことだ。あの頃の、テントひとつ立てられたときの達成感や、野外で食べるメシのうまさが、頭に焼き付いて離れなかったのだ。

 

 人類は、その進化の殆どを獲物の狩猟や採取に使ったと言われているし。昔の兵士や軍人だって、何ヶ月にも渡る遠征の間に数え切れないほどの野営を経験している。

 

 もはや野営という行動は、DNAに刻み込まれていると言っても過言ではない。もはや恐竜なんてのやナウマンゾウなんかがいた時代から、数千年前から。自分で建てた家に入り、自分の作ったメシを食って、焚き火を見てはぼうっとする。これらは本能行動だ。もっとも、今のキャンプは、昔より遥かに便利になっているが。

 

 そう、さっきぼくはソロキャンプが好きだと言ったが、最近は専ら『大人数でのキャンプ』も悪くないだろうと思っている。

 

 初めてのソロキャンプの日に、初めて誰かとキャンプすることの楽しさを知った。

 

『志摩リン』と『各務原なでしこ』。この2人に出会ってから、ぼくはキャンプにハマったのだ。元凶だ。

 

 志摩リン。ぼくのマンガのファンでありながら、良きキャンプ友達だ。高校生にして、祖父のお下がりのキャンプ道具を使いこなし、そしてその祖父譲りのキャンプ好き。バイト代の大半はキャンプ関連のモノに行っているようだ。

 

 各務原なでしこ。食い意地の張ったコミュ力のバケモノ。志摩リンの同級生で、学校の『野外活動サークル』に所属している。抜けているところはあるが、相手を思いやる気持ちは人一倍。暖かい心の持ち主と言えよう。

 

 ぼくは最初、本栖湖でリンくんに声をかけられ、お隣同士でキャンプを楽しむこととした。そしてトイレから帰る途中、富士山を見に来て、そのまま寝てしまったなでしこに会う。

 

 高校生にしてオフシーズンを狙うソロキャンプ・ガール。マンガのような行動力の表情豊かな女。面白い性格なもんで、ぼくは少し興味が出てきた。なでしことリンくんと一緒に、急遽3人でキャンプを行うことにしたぼくは、ラーメンと共に富士山を望んだ。来た時にかかっていた雲が晴れ、1000円札と同じ富士山が現れた。

 

 それから、リンくんとはもう一度キャンプをした。ぼくが半ば連れていったようなものだがな。静岡県にある、野原が辺り一面に広がるキャンプ場でのことだった。

 

 そこに何故か、なでしこが鍋と餃子たちを持って駆けつけた。坦々餃子鍋を差し入れに来たなでしこは、結局ぼくたちとキャンプをすることに。

 

 改めてキャンプの楽しさを実感したぼくは、個人的にフルーツ公園へソロキャンプをしに向かった。日本三大夜景で有名なところだ。

 

 が、またしてもなでしこと遭遇。まるで互いが『スタンド使い』かのように惹かれ合うぼくたちは、フルーツ公園で3度目のキャンプを迎えた。

 

 なでしこが所属・活動している『野外活動サークル』の『犬山あおい』『大垣千明』と知り合い、温泉を満喫した後にキャンプを共にした。

 

 その後はまんじゅうを食べたり、四尾連湖で再びリンとなでしことキャンプをしたり、何故かあおいに看病されたり。最終的には、リンとその友人である『斉藤恵那』と、野クルを含めて『クリスマスキャンプ』を実行する運びとなった。大団円だ。

 

 ……そういえば、『斉藤恵那』。不気味なヤツだ。パッと見で、悪い人〜! ってカンジなオーラは出てないし、ぼくを嫌ってるワケでもないが、それがまたタチが悪いのだ。何を考えているのかイマイチ読めない。何故か山梨に引っ越してきてから、会う回数がリンくんより多い。

 

 そうそう。ぼくはクリスマスあたりに、杜王町から山梨県の富士河口湖町へ引っ越してきたのだ。財布に余裕が出来たので、杜王町の家も別荘として買い戻している。一応だが、故郷なのでな。

 

 長くなったな。要は、キャンプを好きになった原因がリンくん達に集約されているということだ。感謝はしている。給料の大体をキャンプに持っていかれてるのは、自分のせいだからな。

 

「設営完了。これよりスケッチに移行する」

 

 今回は富士五湖のひとつである『精進湖』のキャンプ場にて、ぼく1人で設営をしている。この後の食事も1人だし、明日の朝起きて帰るまで、ずっと1人。

 

 そう、完全に1人でする『ソロキャンプ』を久々に実行しているのだ。

 

「…………ふふ」

 

 ソロキャンをしてみて分かったのだが、こうして周りに誰もいないと、ぼくは少し独り言が増えるらしい。楽しい気持ちが漏れ出しているのか、はたまた心の中に少しだけ寂しい感情があるのか。

 

 まあ、あれだ。楽しいよ。やっぱり1人でいる分、誰にも気を遣わずに、黙々と景色のスケッチができる。ふと思い浮かぶ構想もあるし、ポーズの構図を自ら取ることで考えたりもできる。何より、それを外でしているのが『開放感』があって気持ちいい。

 

「…………こうか? ……」

 

 ぼくのマンガの強みは、なんと言っても『キャラがとる独特なポーズ』……と、メディアからは認識されている。マンガなんて読まない、なんて人でも、まあ知ってる程度には有名だ。

 

 その殆どは、海外の雑誌から着想を得ている。

 

 少しだけ、ストレッチ中のぼくのポーズを採用しているが、ほとんどが趣味で買っているファッション雑誌が『元ネタ』だ。

 

 しかしまあ、丸パクリって訳にもいかない。オマージュ程度に抑えるため、毎回そのポーズを『ぼくが一度マネして写真を撮る』。その写真から構図を考え、改めてキャラを描くのだ。

 

 回りくどい模写の末に、ぼくのマンガは完成している。今できている画風だって、昔に読んだ劇画が元になっているし。

 

 真新しいジャンルを開拓し、それを広げていく人には本当に頭が上がらないが、そのジャンルを更に世の中へ周知・浸透させていくのも、いいんじゃあないかと思う。最初から何もかもパクリだと言ってしまえば、日本語だって中国語のパクリだぜ。

 

 おしるこが甘いのは、砂糖の他に、少しの『塩』を足しているからだ。ただのオマージュにだって、『塩』を入れてやらなくっちゃあな。

 

 設営から2時間ほどしただろうか。腹の奥が、胃のあたりが締められるように縮む感じがした。もしや、と思った数秒後には、グゥ〜ッという音が鳴っていた。

 

 そろそろか。

 

「〜〜♪」

 

 久しぶりの、ひとりキャンプ飯の時間だ。といっても、今までロクに作ったことは無いが。

 

 一人暮らしなので、自炊はそこそこする方だ。料理が出来ない訳では無いし、味に自信はある。今回は、いつかトニオさんに教わった『アレ』を作ってみることにする。

 

 そう、イタリア料理である。

 

 無形文化遺産としても、世界の数ある料理の中でも、特に有名なものとして数えられるイタリア料理。古代ローマ帝国時代から練られてきただけあって、種類も豊富。

 

 彼らはエジソンがトースターを売り始める前から、1日3食の習慣を身につけており、さらにフルコース料理まで食べていたという。

 

 また、満腹感を得た途端に彼らがとる行動はというと、咽喉を鳥の羽根なんかで刺激して、嘔吐するというものだった。

 

 ローマ帝国の詩人にして哲学者であるルキウス・アンナエウス・セネカは、「ローマ人は食べるために吐き、吐くために食べる」と言っていたらしい。ローマ人の本気度がうかがえる。

 

「ヨシっ」

 

 さて作るぞ、と意気込んだその時。

 

「あ、露伴さん」

「斉藤。そのウソ、バレバレだからやめた方が……うわマジだ」

 

 こんな調子の声が、背中の方から聞こえてきた。まあ、その通りだ。お察しの通りである。

 

「チガウヨ」

「まだ何も言ってないんだけど……」

「……何しに来た」

 

 誤魔化してみたものの、諦めてテントから出ると、やはり志摩リンと斉藤恵那の姿があった。キャンプにしては珍しい組み合わせだが、手と背中の荷物からして、完全に……。

 

「キャンプでしょうねぇ〜」

「キャンプだろうなぁ〜ッ」

 

 

 To be continued




いわゆる振り返り回です。次回かその次あたりから年末年始、伊豆篇に入りたいです。
そういえば私の年齢、原付免許が取れることに気づきました。そのうちソロキャンは行きたいので、夏休み中には取りたいと思います。

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