「……スゥ〜〜〜〜〜〜〜ッ」
肺の許容範囲いっぱいに空気を吸う。まだまだ入る、もっとだ。
「………………」
5秒間、どこか遠くを見つめてジーッとする。体も動かさず、息を止めて。苦しくなっても、そのままキープ。
1、2、3、4、5…。
「ぶはぁっ」
一気に肺の中身を吐き出す。手の力を抜き、ブラブラと揺らす。首も回す。
……以上。スケッチをする時の『準備体操』終わり。
ぼくの名前は岸辺露伴。職業はマンガ家だ。マッ!知らないヤツの方が少ないとは思うがね。
今回、また富士山の方に取材に行く事となった。勿論キャンプもする。ちょいとばかし、ハマってしまったのだ。なけなしの金で色々と揃えたし、焚き火もバッチリ覚えた。ふふふ、料理の本まで買ったんだ。バッチリ、キャンプを楽しませて貰うぞ。
「ン〜〜〜〜…」
脱稿完了。大きく背伸びをし、首を鳴らす。
『志摩くん、今週の日曜空いてるか?』
『空いてます』
『キャンプに行こう』
『だったらここはどうでしょう』
『準備がいいな』
『来週、行こうとしてたので』
ふもとっぱら……おおっ、なかなかの景色だ。この前みたいに曇っていなければ最高だな。『気に入った』。
『行こうか』
「やあ、志摩くん。数分ばかし待たせたかな。寒くなかったかい」
「大丈夫です」
手に持っているのは…焼きそばか。ジャスコの食料品、惣菜コーナーに置いてある、焼き鳥やコロッケを入れるようなプラスチックの容器に入っている。花火大会の屋台で売っているようなサイズだ。何やら、鰹節のようなものがかかっているように見えるのだが…。
「……なんだい、それェ〜〜〜ッ」
「富士宮やきそばです。山梨の鳥もつ煮と並んで、B級グルメの中でもかなり有名なものなんです」
「聞いたことはあるが、実物をナマで見るのは初めてだ…」
クソ、朝はランチパック(この前の帰り際に買った桔梗信玄餅味)しか食べなかったんだよな。
「それ、どこに売ってるんだい?」
「…あそこの屋台、のぼりが上がってるでしょう…私はここで待ってます。荷物も私が見てますから」
「助かるよ」
本当に気の利く人だ。康一くんみたく、マトモどころか日本人ならではの『思いやり』ってゆー感情があるんだろうな。見習うべきなのであろうが、ぼくは天才マンガ家だ。気を使ってもらう側だ。こちらからへりくだっていくと、軽い人間に見られる。
ああ、気が遣える友人ほど生活をラクにしてくれるものはない。ただでさえ周りがハンバーグやらバカやらばかりだからな…ふふふ…。
「600円です」
「………グッ」
静岡や山梨などの甲信越の山奥では、普通の常識は通じない……というのは、値段がすごくいいかげんなのだ。日常の値打ちを知らない初めての登山客やキャンパーは、いったいいくらなのか見当もつかず、すごくカモられてしまう。しかしここの世界ではカモることは悪いことではない。だまされて買ってしまったヤツがマヌケなのである!
ここで買物の仕方を解説しよう。
例えば───この場合『全てお見通しだぜ』…という態度をとる。
「600…?ナニ?今、キミィ〜〜ッ…『600円』って言ったのかい?フフフ、フフッフフ。カカカカカ……『バカにするなよ』。高すぎるぜ」
と、笑ってみる。
すると。
「いくらなら買うんだい?」
…と、客に決めさせようと探ってくるんだ。そこで、だ。
「ひとつ150円にしろ」
自分でも、こんなに安く言ってしまうのは流石に悪いかなァ〜〜〜〜?というくらいの値を言う(まあ、コチラだってカモられてるわけだし、悪くは思わないがねという確固たる自信はあるがね)。
そしたらあちらは。
「……オッほっほっほっほっほ〜〜〜〜っ」
本気ィ〜〜?アンタ、富士五湖も言えないくらいの常識知らずなんじゃあないのぉ〜〜ッ?と、人を小馬鹿にするように笑って。
「そんな値で売ってたら、西湖のクニマス全匹飢え死にだもんねーーーッ」
ギィィーーーーッ…と、首をかっきるマネをしてくる。しかしここで折れてはいけない。
「それでは、もう少し麓にある店で買おう。山奥のド田舎の店は高いって、ここでは繋がらないネットにも書いてあったからなァ〜〜」
これは諦めたわけではない。この岸辺露伴が、そうカンタンに逃げるわけないだろう。
「分かったよ!うちは観光客にはフレンドリーなんだ。500円にするよ」
といって引き止めてくるんだ、そこでぼくはこう言ってやるのさ。
「200にしろよ」
値段交渉、開始。
「500」
「200」
「450」
「250」
「「300」」
「買ったッ」
やったぞッ!半額まで下げてやった!ザマーミロ!カップ麺2つ分くらいは儲けたぜッ!
「〜〜♪」
「あ、戻ってきた」
「見たかい、志摩くん!300円だッ、半額だぞッ!」
「(あれ。さっき買った時は100円だったのに)」
さて、勝利の焼きそばだ。よく味わって食べるぞ。
「……うまい…」
「お口に合ったようで何よりです」
「スゴいぞ、これ。上に乗ってる粉が思った以上に活躍している。写真も撮っておこう」
「それもいいですけど、冷めないうちに食べちゃいましょう」
「ここが…」
「ふもとっぱらキャンプ場…」
「「(開放感すごっ)」」
草原が地続きに広がっている…日本放送協ナントカでやってる、ダーウィンが来ナンタラの遊牧民族が住んでる所みたいだ。寝転がって青い空を見ているだけで、幸せな気持ちになれるそうだな。
「ちょっ!露伴先生!?」
「…これ、悪くないぞ。いや良い。むしろスゴく良いぞ、これは。志摩くんもやってみるといい」
「て、テントの設営をしてからにしておきます…」
雲の流れが早いな。1分間ごとにスケッチしておくとするか。
「………………」
「…真剣、ですね」
「当たり前だろ。誰だって職業には真剣になるものさ。真剣じゃあないコンビニ店員は『いらっしゃーせー』とか言う前に、職務怠慢でクビになっているさ」
「(よく分からないけどカッコイイ。情熱大陸とか流れてそう)」
「あ、設営終わりました」
「では『取材』と洒落込もうじゃあないか」
ちゃんと『2000円分』の価値はあるんだろうなァ〜…こういってはケチケチしているみたいだが、期待してるぞ…。
「トラか…?」
「……ライオン?」
「いや、チーター……」
「ネコ……?」
この動物は一体なんなんだ。まあ、デザイン的には悪くはないぞ。写真でも撮っておこう。四方八方から、丁寧に、ピントを合わせて。
「材質は木かな。随分前に塗ったのか、近所のカラフルな鉄棒くらいにペンキが剥がれている。腐ってはいないようだが」
「よ、よく分かりますね……」
「プロじゃあないが、これくらいは分かる。年季の違いって奴さ」
「スゴい!スゴいぞッ!こんなに綺麗な『逆さ富士』は他でも数少ないッ!!」
「ろ、露伴先生。スケッチブック破れませんか…?」
「心配するな!いつもこんな感じだから…なッ!!」
「うひー」
綺麗な景色というものは、どのジャンルのどんなストーリーにある、どんな雰囲気にも欠かせない。小説だって、官能的に景色を味あわせるだろう。
富士山なんてのは最高だ。日本一高いだけでなく、日本一美しい。
「2匹だな」
「2匹ですね」
ハッハッと尻尾を振る日本犬。馴れ馴れしい犬だな。ヨダレとか飛ばすなよ。
「……ナニッ!?」
「先生!」
片割れがコチラに向かってダッシュしてくる…が、小屋の根元に括りつけてある鎖のおかげで、間一髪の回避。
が、現実は非情だ。余裕こいてて、もう1匹の犬に気づかなかった。こちらも届かないだろう、と思いきや。
「ゴブッ…!」
腹に尖った鼻が突き刺さる。ミゾオチだ。
「うわぁ……」
「………ふふ、フフフ…」
胸ポケットからメモを出す。これで服を拭く(服と拭くをかけたわけじゃあないぞ)というわけでもなく、立派な『取材』のためだ。犬の鼻の質感、走ってくる速さ、ミゾオチに突っ込まれた人間の痛みを。今しか味わえないこの瞬間を、メモしておくんだ。
「いい体験…させて、もらったよ…」
「真剣すぎます先生!」
「富士山、ピンク色だ…」
「……………」
「あ、写真」
はっ。そうだ、色的な違いは写真にも撮っておかなくっちゃあな。
「…だーれだっ」
「……本当に誰だ。ぼくは写真を撮っているんだ、とても忙しいんだ。キミみたいなのは見たことも聞いたことも……ッ!?」
あるッ!あるぞッ!
このピンク色の髪、伊勢丹みたいな上着、そして間抜けた顔!間違いないッ!
「一緒にお鍋、しよ!」
「え……?」
「なッ!」
か…『各務原なでしこ』ッ!!
NEXT CAMP
「うっ………美味すぎる……」
「(よっぽど気に入ったんだな)」
「せっ?!先生…!?」
「……『ハマってしまった』んだ」
エピソード#{sporadic group}=26:運命ギョーザ
To be continued…
スタンドっていいですよね。精神力をヴィジョン(ネイティヴ)として具現化した、自分の守護霊。傍に現れたつ者。立ち向かう者。幽波紋ってとこにも波紋の意匠が見られてて好きです。私はクレイジーダイヤさんかタスクが欲しいです。