ゆるキャン△ 〜岸辺露伴は止まらない〜   作:苗根杏

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エピソード#P≠Q:浜名トアヤノ

 

 

 

 

 なでしこの祖母の家で、とりあえず夕方までゆっくりすることにしたぼく達。うなぎ街道を出て、原付を回収して、それをリンくんが押して歩く。ぼくの車に関しては、別に回収は後でもいいとして、歩いてついていくことにした。

 

 浜名湖沿いを歩くと、じきになでしこが走り出した。恐らく、その駆け寄った家こそが、なでしこの実家とも呼べる場所。

 

 リンくんは原付を庭の砂利に停め、ぼくと一緒に、なでしこに続いて玄関に立つ。もちろん『上着は脱いで』。とある一件があってから、『念の為』ではあるが、ぼくはマナーに少し慎重になった。

 

 まあ、守っていて不快になる人はいないだろう。減るものでもなし。マナー違反を指摘するのは、周りにとって最も不快だがな。

 

 インターホンを押して少しすると、すぐになでしこの祖母らしき方が出迎えてくれた。

 

「おかえり、なでしこ。それにいらっしゃい。りんちゃんに露伴さん」

「ど、どうも」

「こんにちは。お世話になります」

「さ、上がって。暖かくしてあるから」

 

 彼女はすぐに、台所のあるであろう部屋の暖簾をくぐっていった。

 

 家の中について、特に言うことはない。むしろ、どうこう言うのは少々失礼だと思う。

 

 いや、ひとつだけ言うとするなら、これもありきたりな感想ではあるが、『なんだか懐かしい』というものだ。

 

 ラベンダーの線香に、どこか甘い香りと、木造建築特有の匂いが混じったものが、鼻腔と、ぼくのどこから出てきたかも分からない懐かしさの感情を奥深く突き刺す。

 

 靴を脱いだあたりで、奥から足音が──いや、これは『すり歩き』? いや……『ほふく前進』に近い音だ……。誰か、こちらに『這い寄って』きているかのような音がする。

 

 玄関から最も近い、右の部屋のふすまがゆっくりと開く。ふと、先程のマナーに関する一件を思い出してしまった。

 

 そこからぬるっと出てきたのは、煎餅をくわえながら寝転んで、上半身だけを出して挨拶をしてくる女の子だった。マナーのかけらもなかった。

 

「なでしこ〜? おかえり〜」

「あっ、アヤちゃん! 来てたんだあ!」

 

 また、またしても、女子高校生なのか。

 

 ラノベ主人公みたいなことを心の底でつぶやく。

 

 琥珀色の目が、ぼくら3人を背の順に見ていく。すると、彼女はムムムといった感じのジト目を、軽く閉じてニコリと笑った。

 

「初めまして。志摩リンです」

「はじめましてー。で、そこの人は? リンちゃんの色々は話に聞いてるけど」

 

 うなぎ屋のくだりを思い出し、人間不信気味になりながらも、ぼくは正々堂々と答えてみせた。

 

「岸辺露伴だ」

「…………」

 

 ほら、案の定。欠伸したものか、苦笑いしたものかといったような顔をしている。

 

「ほ、ホントだよっ?」

「うん、ホントです」

「ホントだぞッ」

 

 3人で言うもんだから、少し気圧されつつも、彼女はまじまじとスマホの画像とぼくを見比べる。

 

 ぼくはため息をついて、手に持っていた白紙のスケッチブックをこたつに広げた。足をこたつの布団に入れると、それだけで心地良さが芯の冷えた身体に広がっていく。睡魔が襲ってきそうだ。

 

 カバンから取り出したるは、愛用している某社のGペンとインク。あと、インクが飛び散らないように下敷きも取り出す。ペン先を軸につけ、軸から先までを10等分とすると、3〜4分目くらいまでインクをつける。

 

 インク瓶のフチを、すずりのように使って、余分なインクを落とす。

 

 さて、ここは流石に代表作『ピンクダークの少年』第3部の主人公でも描いてやるか。シロートでも分かりやすいようになッ。

 

「……こうしなきゃ納得いかないみたいです。あっ、ピンクダークの少年は流石に知ってますよね?」

「え? あー、聞いたことはある。ジャンプでしょ?」

「読んだことは?」

「アニメのOPはいいなあって思ったよ」

「絶対買わせるからな、コミック!」

 

 ぼくは声量をおさえつつ、叫ぶようにつぶやいた。

 

 ザシュッ、ザザッ。ガリガリッガリッ。Gペンがいつもの1.5倍の負荷に悲鳴をあげる。

 

「Gペンって、地球の何倍の重力がかかってるんだろ」

「そっちのGじゃないでしょ」

「えっ、まさか……」

「増殖もしないよ」

「でーきーたーぞー! アヤさんとやらァ! どうだ、これでぼくがホンモノだってことが分かったろう!」

 

 制作時間5分にして、その書き込みはラフにしては濃すぎる。一発描きでサインまで付けてやった。サービス精神が旺盛な作家だとは思わんかね、ええ? 

 

「…………すっごぉ。この学ランの人は見たことある……その後ろのも。劇画と漫画の中間、みたいな……独特な画風……」

「どうだぁー!」

「こんなふんぞり返った態度してるけど、私からも言わせてもらいます。ホンモノだよ」

 

 なんかちょっと貶された気がしないでもない。

 

「しかもこのせんせーは! 私の友達なんですー!」

「そんな事言ったか?」

「ええっ!?」

「冗談だ。友達ではあるだろう、そこは認める」

「……なんか優しい」

「機嫌いいんじゃない?」

「もっと気難しい人かと思ってた」

「言いたい放題!」

 

 満足して道具を片付けていると、茶髪が改まって自己紹介をはじめた。

 

「改めまして……土岐綾乃ですー。なでしこの幼馴染です」

「綾乃ちゃん。よろしく」

「今度買うんだぞ、コミックス!」

「ジャンプ作品、チェンソーマンしか見たことないんですよね〜」

「グロ耐性の方は問題なさそうだな」

「ピンクダークの少年、思ったより血がおおいもんねぃ」

「少年漫画にしては普通だろ」

 

 そこから、『お正月の実家ムード』になるのは、それほど遅くなかった。

 

 土岐が昔のなでしこの写真を見せてくれて、それにリンくんと2人で驚いたり。

 

「「丸っ!?」」

「中一の頃の写真だよ。なでしこのお父さんが食べるの好きでねー。一緒に沢山食べてたのか、中三までは丸かったんだよね」

「ど、どうやってこんなに痩せるんだよ」

「中三までって、1年しか経ってない……」

「夏休みゴロゴロしてたら、お姉ちゃんが噴火しちゃったんだっけか。原付で後を追いかけられながら、浜名湖をぐるぐるさせられてたんだよね」

「あの時のお姉ちゃんはオニだね、オニ」

 

 なでしこのほっぺをつまんでみたり。

 

「ほっぺの柔らかさは変わらないねー」

「んへへぇ」

「2人もやってごらんよ」

「さ、触って……いいのか……?」

「んー。どうぞー」

「……少しはスキンシップに警戒心を持った方がいいぞ」

 

 お祖母さんも交えて、近況報告をしあったり。

 

「なでちゃん、よくキャンプの話してくれるわよね」

「うんっ! 最近すっごくハマってるんだ!」

「へぇ、この真冬に……?」

「あんまり人がいないから、やりやすい」

「寒い中で食べるカップめんも美味しいんだよー!」

「キャンプ飯は奥が深いぞ」

「えっ、なに。先生もハマってるの?」

「まあ……趣味というか、な」

「へぇ〜ッ、そんなに惹かれるものかあ……」

「これは皆でフルーツ公園に行った時の写真。こっちはクリスマス! この時の朝ごはん、私が作ったんだ〜♪」

「わ、美味そっ。日本の朝食って感じする」

「実際めちゃくちゃ美味かったぞ」

「そっか、朝に和食か……こういうキャンプもあるんだ……」

「なでちゃんは料理も上手になったのねぇ」

「えへへ〜」

 

 人生ゲームなんかを久しぶりにやってみたり。

 

「あっ、先生が上がった!」

「子供3人、孫2人。家族に囲まれて大往生……つまらん人生だ」

「原稿のネタにはならないけど、これはこれでアリじゃないですか?」

「まあ、な……そうか、家庭を持つことは考えてなかったな……」

「好きな人とかいるの〜?」

「アラサーに高校生みたいな恋バナ持ちかけてる……」

「……好きな人、ねぇ。いないよ、そんな感情は今まで持ち合わせたことがない。作風柄描くことはないが、少女マンガは描けないだろうな」

「周りに、可愛い女の子がいっぱいいるのに〜」

「その場合、まずは世間が黙ってないだろうな」

「冗談ですよ冗談。えへへ」

「……調子が狂うッ」

「わっ、やったー! 上がったー!」

 

 そんなこんなで遊んでいると、おやつの時間になった。うなぎパイをかじりながら、リンくんは、ふと思い出したようにカバンを探る。

 

 道中の土産に、いちごの入ったお餅(なんでもかなり並んで手に入れたらしい)を買ってきたらしい。

 

 しかし、これにも美味しい食べ方があるようで。ぼくたち3人は、リンくんに連れられるように外の庭に出た。

 

 なでしこが庭に出るなり駆け寄ったのは、バイクであった。リンくんのビーノではない、その隣のもう1つのバイク……。

 

 ピンクの浜松ナンバー、HONDAのAPE100スペシャル。2008年式なので、もちろん今では廃番なので、新しく買うとなったら中古で手に入れるしかない。

 

 リンくんのビーノを興味津々で眺めていたこともあったし、どうやらなでしこはバイクに少し興味があるらしい。まだ免許は持っていないらしいが。

 

 それを見た土岐は、ニヤニヤしながらなでしこの方に近寄る。

 

「乗りたいかー、なでしこー」

「…………」

 

 一見普通に話しかけているように見えるが、作品作りのために、有名どころのアニメをひととおり見漁ったぼくには分かる。この言い方は『金田』だ。

 

 ……『AKIRA』見てるのか、こいつ。今どきの子にも広まっている作品、ということなのか。

 

「よォし、行くぞォ」

「あ、先生は山形なんだ」

「続けろ金田」

「ういっす」

 

 どこからか取り出したヘルメットのゴーグルをかけ、土岐の気分は完全に金田正太郎。

 

「あたし用に改良したバイクだ。ピーキーすぎて、お前じゃ無理だよ」

「そんなのに乗ってる方が、気が知れねえぜ」

「えっ? え?」

 

 案の定戸惑っているなでしこに、リンくんが耳打ちをする。君も知ってるのか……AKIRA……。

 

「のっ、乗れるさ!」

「ははっ。欲しけりゃ、なでしこもデカいのぶん取りな」

「……満足か?」

「うん。金田ごっこ♪」

「わかんないよぅ」

「土岐。AKIRAは知ってるのに、ぼくの作品は知らないんだな」

「知ってますよ、『ピンダー立ち』でしょ?」

「バッチリにわかじゃあないか」

 

 オイオイオイそんなポーズ描いた覚えないぞ、という立ち方をする土岐の顔は、何故か自信に満ち溢れたドヤ顔だった。

 

 リンくんもなでしこにつられて、APEを眺める。

 

「100ccだね。私のよりもおっきいし」

「最近取ったんだー」

「私も車検中の代車でトリシティ乗ったけど、速かったなあ」

「バイトでお金貯める?」

「今のところ、全部キャンプに消えてるから……」

「あははっ。ホントに好きなんだねえ」

 

 いっぽう土岐は、ぼくのフェアレディZの方を見ていた。

 

「あたしはこっちに乗りたいかなー」

「…………構わん。好きにしろ」

「みんなー、これで山梨まで行こー」

「わーい!」

「そこまで好きにされては困るぞッ!?」

 

 ふと3人の方を向いてみると、リンくんは何やら見覚えのある賽銭箱を組み立てていた。銀色に鈍く光る、メタル賽銭箱こと『コンパクト焚火グリル』。

 

 改めて説明しておくと、しまっておいた足や壁を組み立てることで賽銭箱モードにした後に、中に着火剤や墨を入れる。火をつければ焚き火。そのまま蓋をして上で肉を焼けばBBQ。

 

 これを使うことで、森の中などに多い『直火禁止』のキャンプ場でも焚き火ができるって寸法だ。

 

「これが、キャンプに使う……」

「ミニ賽銭箱だよ」

「焚火グリル」

 

 もはや慣れた手つきで火をつけ、その上に餅を乗せていくリンくん。

 

「こうやって焼くんだ」

「さっき、なでしこの写真見てた時、さ。キャンプ飯に興味ありそうだったから、どうかなって」

「そうだねー。外でご飯食べるのって、あんまり無いから、趣味でやるのは楽しそうだとは思ったね。キャンプなんて、行ったの小学生の時ぐらいだし」

「外で食べるご飯が美味しいって教えてくれたのは、リンちゃんなんだよぉ」

「うむ、リンくんはスゴいんだぞ。ぼくら2人を一気にキャンプ沼に突き落としたんだからな」

「ねー!」

「なーッ」

「言い方……あっ、そろそろ焼けるよ」

 

 リンくんの視線の先には、今にも破裂しそうなほどに膨らんだ餅が、2、3個。家の中でも食べたが、こちらは焦げ目がついていて、焼きマシュマロのような匂いと雰囲気を感じさせる。

 

「いただきます」

 

 手に取り、数回冷まして、口にしてみる。まず最初に歯に伝わるのは、柔らかな餅の感覚。5mmほど隔てて、贅沢にも丸ごと使われている大きめのイチゴに歯がたどり着く。

 

「……ム!」

 

 これはッ。

 

 マイナス気温スレスレの外気に再び晒され、冷やされた身体にしみ渡る、湯気が出んばかりに熱された餅とイチゴのハーモニー。

 

 食レポに自信がないので、ここは安易に比喩を使わせていただく。

 

「『サウナ』だッ」

「えっ、サウナ……えっ?」

「あぁ……マッチポンプですね、分かります」

「だな! いやぁ、リンくんは分かってるなあ!」

「私もれっきとしたサウナーの1人ですよ」

 

 冬の外で暖かいものを食べる、オフシーズンキャンプ飯の醍醐味にも似た快感を、ぼくは過去に経験したことがある。それが『サウナ』だッ。

 

 ぼくも編集者に連れられて行ったことがある……リンくんも、前に行ったと言っていたな。

 

 昔は何のためにあるのかイマイチ分からなかったのだが、大人になってからその魅力に気づくというのは、ままあることで……。

 

 サウナの嗜み方を、一通り説明しようじゃあないか。

 

 まず下準備。事前に十分に水分をとっておく。これはスポーツドリンクなどが好ましい。入る前はなるべく空腹状態を避けるのだが、食後すぐもNGなので食後1〜2時間後が好ましい(食前、食後は控えるということだ)。

 

 あとは、体調が悪い時は無理をしないこと(あくまで回復ではなく体調のブーストをするものなので)。タオルは身体を隠すのと拭くのとで最低2枚を持参する。

 

 銭湯なり何なりの施設内に入ってからの準備として、かけ湯で軽く汗を流してから、身体を洗うこと。そして、サウナ内で汗を出しやすいように身体を拭くこと。そして施設のマナーをよく見ること。ルールとマナーを守って、楽しくサウナだ。

 

 入浴で身体を暖めるのもまたよし。ここら辺に関しては、自分がサウナに通って『自分流ととのい法』を見つけるしかない。トライアンドエラー、試行錯誤、七転八倒。人間が歩んできた進化の歴史のように、サウナはいくらでも自分に最適化し、より良い『ととのい』をぼくらに授けてくださるのだ。

 

「宗教勧誘?」

「いや、どちらかと言えば部活に近い」

「今度する? サウナ部、一日体験入部」

「野クルと兼部になっちゃうよぅ」

 

 これが終わったら、まずは『サウナ部屋』に入る。『LESSON1』の行程だ。君たちが想像し得る、あの熱気のこもった部屋だ。ここでは座って5〜10分ほど交感神経を熱する。入り口から奥に行くほど温度は高くなり、高い方が疲労回復・腰痛・肩こりに効果があり、入り口に近く温度が低い方は安眠効果やリラックス効果・冷え性改善になるらしい。

 

「サウナ愛用者、サウナの通……いわゆる『サウナー』は、サウナの本場であるフィンランドでよく使われている『ロウリュ』を使うんだよね」

「サウナ部屋内に設置された『サウナストーン』に、健康に良さげなアロマ水をかけて蒸気を発生させ、それをタオルで扇いでもらう……アツアツの蒸気をモロに受ける『アウフグース』を行うんだ」

「つまりは、サウナストーンでロウリュをした後にアウフグースする、ってこと」

「専門用語が多い……」

「アロマ水はちょっと興味あるかも〜」

 

 サウナ部屋から出たら、かけ湯やぬるいシャワーを浴びるなり、タオルで体を拭くなりして汗を取る。

 

 その後、『LESSON2』は『水風呂』だ。ここでの時間は長くて1分。慣れていなければ30秒といったところだ。これもサウナ部屋と同じく、子供の頃に銭湯に来た時は、イマイチ何のためにあるのか分からなかったものの一つだ。まさかサウナと繋がっているとは……ぼくも最初に聞いた時は、少しばかり驚いてしまった。

 

 慣れていない人は、入るのに少し躊躇うかもしれないが、ここまでの流れをスムーズに行うのが『ととのい』への道だ。君たちが銭湯で見かける、まるで40度のお湯に入るかのようにサッと水風呂に入っている人がいたら、もしかしたらその人は『サウナー』かもしれないな。『あ〜』といった声出しをしている人はもっとプロだろう(ぼくはあまりオススメはしないでおこう)。

 

 水風呂でのポイントとすれば、風呂の中で少し身体をうねらせるように動くこと。これでサウナによって身体にまとわりついた『熱の衣』が剥がれ、一気に身体が冷たさを感じるのだ。同時に、膝裏などの水が触れづらい場所も冷やしてくれる。恥ずかしがらずにやってみよう。

 

 身体のピリピリとした痛みが、やがて全身に広がる。肩まで浸かると、四六時中酷使されている筋肉が悲鳴を上げ、長い長い1分が終わる。

 

『LESSON3』は『外気浴』だ。ここでの時間は5〜15分程度。好きなだけゆっくりと、独特の心地良い感覚が続く限り、身体を冷やさないくらいの時間、休憩する。

 

 血流が急激に良くなり、ドクンッ、ドクンッと、自分の身体中を駆け巡り、鳴り響く鼓動。頭からつま先までの衝撃のイナズマ。ピクピクという振動までもが付随し、脳は深ァ〜い快楽へと誘われるのだ。

 

 一種の瞑想である。無言で、何も考えず、ゆっくり、ゆっくりと深呼吸をしながら、ディープリラックス状態に陥る。

 

 このLESSON1〜3が『1セット』だ。無理しない程度に3セットほど繰り返すことで、更に深い快感が得られることだろう。

 

 これが『ととのう』の正体ッ! 

 

 スマホが無ければ、10分くらいの待ち時間など耐えられない! なんて思う方もいるかもしれない。友達と来ているなら、話をしないと気まずい! 暇だ! なんて感じるかもしれない。

 

 しかし、サウナに来てみればすべてがわかる。サウナは君たちに、極上の『暇』を与えてくれるだろう。

 

 子供の頃はあまり使わず、なおかつ使い道もいまいち分からなかった『サウナ』『水風呂』『外の長椅子』。この3つが噛み合った時は、伏線回収のスゴさに驚いたものだ。

 

「……おいしい……」

「ん〜〜♪」

「正月っぽくていいね。餅」

「簡易ととのい、完了……ですね。先生」

「だなッ」

 

 餅を食べ終わって一息。夕陽が沈みかける頃、土岐はこう言った。

 

「なでしこ、リンちゃん、先生。ちょっと分かったかも、キャンプ飯の良さ?」

「おおっ」

「サウナ部だけじゃなくて、野クルにも勧誘できるねぃ」

「学校違うだろ」

「野外活動サークルの前には国境などないのです」

「まあ、この気持ちよさは、サウナもキャンプも『国境を超えて伝わる』のかもね」

 

 縁側で、擬似外気浴を行ったぼく達。ふと土岐は時計を見て、バイトの時間だ、とつぶやいた。

 

 どうやらコンビニバイトには、正月休みは関係ないらしい。こういう方々のお陰で、我々は正月休みを満喫できるのだから、感謝せねばならないな。

 

 APEに乗った土岐を見送ろうとしたが、なでしこがそこで一言。

 

「ま、待ってアヤちゃん!」

「ん?」

「今夜、バイト終わりにさ──」

 

 To be continued...




4、5、6、7、8月合併号です。ごめんなさい。ホントに夏号、秋号みたいになりそうです。次回はあらかたできてるので、そこまでお待たせはしないかと。

その代わりといってはなんですが、今回はボリュームが結構ありますね。サウナのせいで。サウナ行きたいなあ。
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