ここでひとつ豆知識をば。海の日(海物語じゃなくて祝日)って、なんで休みなのか知ってますか。毎年7月第3月曜日にある海の日は、前まではただの海の記念日というノー祝日だったそうです。
それが2003年の祝日改正法、ハッピーマンデー制により、海の恩恵に感謝するとともに海洋国日本の繁栄を願うものとして、また国民に海についての関心意欲態度、知識理解を深めるための祝日に。今はただのお祭りですがね。
ぼくの名前は岸辺露伴、マンガ家だ。まあ紹介したところで、だから何?と思うヤツもいるだろうが。
何をしてるか…って、ぼくだって四六時中マンガじゃあない。馬刺しを買ってるのさ。とある用事のためにね。マンガ家が馬刺しを買う光景だって、何らおかしくないだろ?実質、マンガのためだし。
さて……君、馬刺しは食べたことがあるかい?躊躇ったろう、最初…ぼくもだぜ。熊本で食べたのが最初だった。
さあ、少しは興味、持ってくれたかな。
『牛鬼』。
うしおに、うんむし、ぎゅうきとも読むその鬼は、西日本に伝わる妖怪だ。北野天満宮にいる、『菅原道真を大宰府に連れて行くのを嫌がって座り込んでしまった』と言われている『撫で牛』も、その一種とされている。
そいつは祭りの主役にもなるが、沢山の文学作品、アニメやマンガの悪役などにもされる。何故なら、その牛鬼は、海岸、湖を歩く浜辺の人々を襲い……食べる。
「……わっ!」
「ぎゃあああああああああああああ!!!!」
「ひぃっ」
「そんな怖がるなよ。牛鬼だって妖怪だろ、所詮」
「だから怖いんだよせんせー!」
「お茶目かよ先生…」
………最近はネットで何でも検索できるんだな。
だからといって、取材に行かない理由にはならない。
ぼくの貴重なマンガ以外の楽しみである『キャンプ』と、もちろん『マンガ』も両立させる。今までの生活も至福だと思っていたが、そんな生活も、案外楽しいのだ。バカ高校生組以外は。
「さあ、設営するぞ」
「お願いします〜お願いしますぅ〜」
「なでしこ、何してんの」
「食べられないように祈ってるの!ほらリンちゃんとせんせーも!」
「…なんて書いてあるんだ、この石碑」
「わからないです」
人を食べる、ねえ。人間だって豚や鳥、牛、馬、羊を食べてるワケだし、やっぱり命を食べるのは仕方ないのかもしれないな。
何かを殺さず生きたいなら、石ころにでもなるしか無いな。アンジェロ?だったか。アイツみたいに、な。それかジョセフさんの言ってた…カーズか?友人のシュトロハイムとやらの考察によると、生きたまま鉱石か何かになったとか…。
……ジョセフさん、そこまでしないと倒せないヤツを相手にしてたのか。今じゃすっかりオーラも無くなっちまったように見えるが…。
「はいはい。食べられませんよーに、と」
「取材してくれますように、と」
「せんせー!?」
「ぼくはキャンプもあるが、取材をしに来たんだぞ?牛鬼だろーがなんだろーが、それを『材料にする』事には変わりない」
「死なない限りどんな酷い目に遭っても、マンガのネタにするんですね……」
大体合ってる。
「ここまで来ると褒めるしかないね…ある意味こういう『姿勢』?憧れちゃうなあ」
「キャンプのために原付免許取ったリンくんと、本栖湖からの富士山を見るために自転車で来てそのまま寝落ちしたなでしこも、お互い様だろ。さ、行くぞ」
「あー!待ってよ露伴せんせー!」
「……先生、ヒマなのかな。いつも付き合ってくれちゃって」
チャイ。インドのミルクティー。紅茶と砂糖とミルクを一緒にやかんでグツグツ煮る。あま〜い。近くにはバケツ入りのミルクと、七輪風のコンロがある。
インドの庶民的飲み物で、1ルピー(約15円)で2杯くらい飲める。
「ま、仕事が早いってことなんだろうさ」
フタをずらし、おかわりの合図。机を人差し指で2回たたき、店員さんにありがとうの合図をし、もう1杯。
甘さと温かさが、冷えた体に伝わり……えも言われぬ至福感にみまわれる。こういう体験したから、先生はキャンプにハマったのかな。
四尾連湖。
デンキウナギがいるわけじゃあないぞ。
山梨県西八代郡市川三郷町のカルデラ湖。本栖湖の北西にある。横に楕円状の形をしていて、富士五湖などと同じように、噴火時に流れ出た溶岩、噴出物により出来たと思われる。
江戸時代には富士八湖(忍野八海の由来か?)とも呼ばれていたらしく、明見湖、浮島沼、そして四尾連湖を足して出来たんだとか。今の富士五湖は全て山梨にあるが、浮島沼だけは静岡県にある。富士だし、間違ってはないんだよな。
紅葉の名所……らしいんだが、今は真冬なので、枯葉が地面に落ちている方が目立つ。
池をぐるっと回って、今回のキャンプ場所に着く。他のキャンパーは1人…。
「「((ほぼ貸し切り状態…!))」」
「どしたの2人とも」
「何でもないさ」
「うん、何でもない」
「…ああ、人がほとんどいない…ふええ」
「なでしこ。牛鬼が出るのは丑三つ時だから、その時には寝てるよ」
「……ならいいや!わーい貸し切りぃー!」
「単純か!」
とりあえず、お互いの持ってきたテントの設営に入った。リンくんはポールを組み立て、そこにフックを通している。ぼくやなでしこのテントとは違うタイプだ。
「リンくん、そのテント…」
「ん?」
「あ、よく見ると変わってる。なんか袖…?に通してないし」
「吊り下げ式のことかな」
「つりさげしき…?」
「確か2種類あるんだろ?」
「そうですね。なでしこの言ってる袖は、本体にポールを通すスリーブ式。私のはポールに本体を吊るす、吊り下げ式」
「どっちが楽なの?」
「あまり変わらないだろ。慣れればどっちも一緒だ」
「ええ、まあ好みにもよりますが、基本的には変わりませんよ」
「前に〇ールマンに行った時、片側に入れるだけで反対が固定されるヤツがあったぞ。あと寝室になる部屋とリビングが一緒の…確か、ツールームだったか」
「それなら山梨にも売ってるかも?昭和のイオンならありそう」
「おお!」
「高いけど」
「oh……」
キャンプ用品って、高いんだよな。それも便利だったり、新しいタイプだったりすると特に。
「このシートはここの下かい?」
「はい、そこに」
「何これ?またお高いヤツ!?ブルーシートでいいじゃん!?」
「ん、百均のやつじゃなきゃね。グランドシートは安いヤツでも代用できる」
「おおー!」
それから質問&取材攻めは続き…。
「とりあえずテントの設営は完了、と」
「シートと椅子、終わったぞ」
「ブランケットで寒さ対策っ!」
「お、単純だけど良さそうだな」
「……………」
「寝るな寝るな」
「丑三つ時に目が冴えるぞ」
「!」
ぼくとなでしこでブランケットにくるまりうとうとしていた所、リンくんが『ココア飲む?』と湯気の出るポットを差し入れしてくれたので、ありがたく頂くことにした。
…眠さは増しそうだが。ま、その方が取材できるさ。とでも考えるか……。
「にしても、こりゃあうまいココアだぜ…」
「この一杯のために生きてる…」
「2人ともうちの父さんみたい!」
「まだ20なのにな……いや、このリアクションはマジだぜ。身体が安心感に包まれる」
突然思い出したように、なでしこはぼくに詰め寄り叫ぶ。アナスイの香水に似た匂いが漂う。
「あ、せんせー!サイン頂戴!」
「なんだよ改まって。まあサインくらい良いけどさ…どうした?ぼくのマンガを見たのか?」
「やふおく!」
「ぶっ飛ばすぞ!?」
「だって金欠なんだもん…道具買いたいし…」
「部費で賄うんだな」
「けち!」
「どの口が言うか」
ふん、ぼくはいきなりステーキ頭の仗助の次に、転売屋が嫌いなんだ。サイン本が大量に売られているのを見た時は全部買い占めたさ。昔の話だがな。
「そいえば、リンちゃんのキャンプ始めた切っ掛けってなに?」
「ああ…ぼくもまだキチンと聞けてなかったな。お前が来たせいで」
「え、私!?」
「じゃ、改めて話すとするか。まず始めたのは中学一年生の冬……私の母方のおじいちゃんがキャンプ好きで、年金ぱーっと使って新調したから、もう使わないキャンプ道具貰ったの。ちょっと興味持ったら、もうこれだよ」
ぼくもちょっと絵に興味を持って、気づいたらジャンプ漫画家だった。少し共感できる所があるかもしれない。
「何でもきっかけなんて、なんとなくじゃよ」
「出た、田舎のおばあちゃん」
「そうだな。わしもそう思うぞい」
「ぶふっ」
「何故吹いた!?」
「あははは!露伴せんせー面白い!」
「お前だって似たようなモンじゃあねーかッ!」
「…ふふ、ちょっとすんません、ツボで…」
「おじいちゃんがツボなのか!?それとも『ぼくの』おじいちゃんがツボなのか!?」
「うーん…こうか?」
リンくんが試行錯誤しながら、何やら茶色めの板チョコみたいなのを割って、メタル賽銭箱に入れている。
確かあれ、割って使うタイプの着火剤だよな。リンくんは着火剤をメタル賽銭箱の下に敷き、その上に四角い竹輪みたいな炭をのっけている。
「なんだ?その賽銭箱」
「先生まで!?B-6、焚き火グリルですよ!」
「……この中に炭を入れるのか?」
「そ、そうです。初めてなので自信はありませんが」
「そうか。ぼくはちょいと取材に…」
…!
チッ、全力ダッシュの音が聞こえると、無意識に振り向くようになってしまった。やはり音の元はなでしこだった。フリスビーを取ってきた犬のように目を輝かせている。
「せんせー!あっちにカヌーあるよ!」
「ほう…見に行ってみるか?」
「私カヌー初めて!」
「の、乗るのか…?」
「…………………………」
「……乗ればいいんだろッ!言っとくがぼくも初めてだ!転覆しても知らないぞッ!」
「せんせ〜♪」
「ぜー、ぜー……」
肺に吸い込める空気が…3分の1くらいになったような気がするッ………。く、苦しい……今度確か、ぶどうヶ丘高校の方に『スポーツジム』がオープンするそうだが………真剣に『会員』になることを考えたぜ…。
「あ、隣のキャンパーさんだ」
「そういえばもう1人いたな…」
テントでもカヌーでも大声で騒いでいたので、ちょいとばかし申し訳ない気持ちになる。
「こんにちはー!」
「オイオイオイオイ!?なんでそうお前は誰にでも話しかけるッ!?」
「ああ、こんにちは。あちらのテントの?」
「はい!」
2人のうち1人が、サバイバルナイフを片手に、もう片方には新鮮そうなピーマンが握られていた。随分と顔立ちの整った男だ。声も高い、ルックスもイケメンだ。女ウケはさぞかし良かろう。
ロッジ型テントの中には、沢山の調味料にキッチン用品、美味しそうな料理と……酒瓶が並んでいた。しかも数本はもう空だ。そしてその向こうには、フードをかぶって缶ビールを飲む丸メガネ女がいた。
ああ、飲んだくれだ。
「刑部姫…?」
「ん?せんせー?」
「何でもない。すいません、お邪魔しました」
「いえいえー」
素敵なカップルだったな。
少しして、撮影、取材、それぞれを終え、山頂まで着いた。いい運動になったぜ。食事の前にはある程度、運動しとかなくっちゃあな。
「栗だ」
「栗だな」
\た、田植え!/
グゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ。
…落ちてる毬栗だけを見て腹を空かすとは………たく、この女は。
「帰るか?」
「うん!そろそろプチ鍋の準備しなきゃ!」
「鍋………」
「ふふふ、味は保証するよっ♪」
「………」
「めっちゃ落ち込んでる!?」
「着火剤が…なくなってる…」
全部使ったのか!?なのに…『着かない』ッ!火が着かないんだッ!
「せんせー!」
「ん…?なんか案でもあるのか?」
「あるよ、とっておき!こっち!」
「は!?ちょ、お前…!」
ぼくの手を、この真冬だというのに、嘘のように温かい手が包む。いや、包みきれず、その温もりは中途半端だが……十分すぎるほどに、温もりを。
なでしこを、感じられたような気がした。
「さっきのキャンパーさん、多分ベテランだよね?」
「あ、ああ…たぶんな」
「あの人ならきっと知ってる!火の着け方!」
「そうだな、うん…」
「………露伴せんせー?顔とか耳とか手とか真っ赤だよ?」
「そんなのどうでもいいだろッ!今は火だ!」
「なんとか着いたね!」
「本当に竹輪炭って言うんだな…それ、焼き鳥か?」
「そう!私とリンちゃんがさっき買ってきたの!」
「あぶねー、焼けないかと思ったわ」
「ぼくは人生であんな頼もしいヤツは見た事無いな。後光がさしてたぜ」
冗談交じりに言っているが、ぼくは、あの男の事を本当にスゴいと思う。彼女持ちだし、アウトドアもできるイケメン。女の理想、ってやつか?
マンガにおいちゃ、ぼくの右に爪先でもはみ出ることは、世界ひろしといえどいないだろうがな。
「ほんとです。さしずめ救世主…」
「焼き鳥の救世主?」
「クク。とたんに情けなくなったな」
「あ、焼けた。2人とも、どーぞー」
「ありがとう。ぼくも肉とか野菜なら持ってきたから、リンくんも食べるといい」
「じゃ」
「いただきまーす!!」
「いただきます」
「……いただきます」
NEXT CAMP
「出たな怪人ブランケット」
「いい匂い…♡」
「よだれ拭け」
「火、消えないね」
「なでしこ。お化けや妖怪だの騒いでるが、そんなの無いぜ。ファンタジーやメルヘンじゃあ無いんだからな」
エピソード#x-y=1(x,y=mn),x=9:焼肉ノススメ
to be continued…
「は〜……あのじーちゃんの肉、美味かったなー。ガーリックが効いてるのなんのって…しかしあの目は怖いなあ。思えば…しまりんに初めて会った時に似てたな。気の所為か?もしかしたらじーちゃんだったりして、なんつって!」
始まりの部分は某やる夫スレを参照させていただきました。荒木節ってやつですね。あとヘタに色恋関係っぽい描写をすると怒られそうで怖いです。
そういえばジョジョ5部黄金の風がアニメ化しますね。ラブライブサンシャインの映画もイタリアで、ラブライブとジョジョ両方好きでクロスオーバー小説まで書いてる私にとっては、なんだか奇跡な気がします。あ、『奇跡だよっ!!』ですね。