ジークさんトコの賄いごはん   作:ヤトラ

1 / 2
勢いで書いた。後悔はしている(設定とか勢い書きとか料理とか……)


「ジャガイモのパンケーキ・鮭のフライ挟み」

 ホテルユグドミレニア―――近年ルーマニアに建設された高級ホテルである。

 

 元々はユグドミレニア城砦と呼ばれていた場所を増改築し、歴史を感じさせる堅牢な城の雰囲気はそのままに、バリアフリーまで完備された宿泊施設となった。

 海外からの観光客を増やす為だと言うが、山の幸をふんだんに使った料理や優秀なスタッフによるサービスはどれも一流で、瞬く間にルーマニアを代表するリゾートホテルと評された。

 変わった警備員や謎の土人形、近辺の森では奇妙な狩人や筋肉(マッスル)が目撃されるようにはなったが、特別大きな問題は出ていない。

 

 その充実したサービスと料理の人気は留まる事を知らず、ルーマニアで一番の教会で働く神父ですら度々訪れては舌鼓を打つ程である。

 その神父に寄り添う冷たい雰囲気を醸し出す黒い女性や、仰々しい自称一流作家、厳ついサングラスの男と奇妙な客も現れるようになったが、それが逆に呼び水となって客が増えていく一方だ。

 客の中には銀の髪飾りをつけた可愛らしい給仕や、どうみても女の子にしか見えない男の警備員目当てで訪れる者も多いが、まぁ平和なホテル経営を続けている。

 

 

 ―――人々は知らない。この平和なホテルユグドミレニアの裏で行われている、壮大な戦いの物語を。

 

 

 

 ―――だいぶ薄れてきているけど。

 

 

 

▼▲▼―――▲▼▲

 

 1人のホムンクルス―――他のホムンクルスとは違った特別製―――は、保管庫の中で、ある物を前に唸っている。

 

「ジャガイモか……」

 

 ジャガイモである。それも芽が生えてきたものが、ゴロゴロと麻袋に大量に入っている。

 加えて本日は鮭が余った。この時期は河を登ってきた身の良い鮭が届くのだが、流石に多かった。冷凍庫という便利アイテムがあっても賞味期限という物がある。

 

 ホムンクルスの少年ことジークは悩む。

 

 ジャガイモの芽は切り落とせばいいだろうが、芽は大分長い。相当な時間が経った物をホテルの食事に出すわけには行かないだろう。

 そして魚は鮮度が命。その鮮度を台無しにするのは、成り行きとはいえ料理長となった自分にとっては心が痛むというものだ。

 

 なので今夜も(・・・)賄いに使ってしまおう。

 

「ジャガイモと鮭……よし」

 

 ジークは素早く献立を考える。大勢いる給仕のホムンクルスにも配れるような、大量かつ食べやすい献立を。

 

 今夜の賄いごはんを考え付いたジークは戦場―――夕飯時故に大変忙しい厨房へと戻っていく。手に持つ武器は包丁とお玉だ。

 

 

 

▼▲▼―――▲▼▲

 

 最後のお客様であるサングラスの大男と金髪碧眼のヤンキー少女をお見送りし、「CLOSE」の看板を掲げる事で、本日のホテルユグドミレニア内のレストランの営業は終了。

 多くの給仕ホムンクルスが「お疲れ様でした」を連発し、彼らの「一日の細やかな楽しみ」を堪能した後、夜の稽古に励む。赤の陣営の英霊が、いつ襲い掛かってきても良いように。

 何名かのホムンクルス達は後片付けや食器洗いを終え、次の仕事であるホテルのサービスへと奔走していく―――3人を除いて。

 

「はぁ……疲れました」

 

 レストランの厨房に置かれた椅子に腰かけ、背もたれに体を預ける金髪の少女―――ルーラーことジャンヌ=ダルク。

 黒を基調とした給仕服がとても似合っているが、その美しさを台無しにする程、ジャンヌの表情は惚けていた。よほど疲れたのだろう。

 

「お疲れ様、ジャンヌ」

 

「ヴー」

 

 肩をトントンと叩く少女を見てクスリと笑いながらジークが労いの言葉を掛ける。服は未だに白い料理服のままだ。

 そんなジークの隣に立っているのは黒のバーサーカー(フランケンシュタイン)だ。ウェディングドレスの上にエプロンを羽織っている。

 

「労働とは本当に尊いですね……それにしたってダーニックも人使い、いえサーヴァント使いが荒い物です」

 

「サーヴァントは人間やホムンクルスよりも体力あるからな。……まぁ人使い、いやホムンクルス扱いが荒いのは解るけど」

 

 ジャンヌの言う事は最もなので、流石のジークも苦笑いしか浮かべない。黒のバーサーカーもコクコク頷いて同意する程だ。

 

 本来は中立の立場であるルーラーが、どうして黒の陣営であるホテルユグドミレニアで給仕として働いているのか。

 黒の陣営がホテルとして城を構え、無関係な人間を盾に籠城を企てている……その真意を確かめる為にルーラーは、あえて黒の陣営に乗り込んだのだ。

 

 ―――というのは建前で、単にお金が無いのと、賄い目当てである。

 

 何せ聖杯大戦であるはずなのに、表向きはとても平和。戦闘らしい戦闘と言えば、赤のライダーや赤のアーチャーがちょっかいを掛ける程度か。

 かなり平和な長期戦になることが予想される中、ルーラーは自分の生活を支える為に働く事を決意。そこを付け込んだのがダーニックである。

 

「ダーニックの黒い笑顔は未だにトラウマですよ……」

 

「まぁ(黒のランサー)も現状に満足しているみたいだし……」

 

 ジャンヌの脳裏には黒いオーラを醸し出して笑うダーニックが、ジークの脳裏にはいつも通りの仏頂面を浮かべる黒のランサーが浮かぶ。

 ダーニックは中立を貫くルーラーの立場を尊重しており、「ただの給仕」として雇う事にした……ルーラーを自陣側に置けたことを喜んでいるのが見え見えだが。

 

「それじゃあ、これから賄いを作るから、少し待っていてくれ」

 

「はい。今夜も期待していますね」

 

「うー」

 

 キッチンへと向かうジークと黒のバーサーカーを見送るルーラーの表情は明るい。

 

「……そういえば思ったのですが黒のバーサーカー」

 

「う?」

 

「どうして貴女がキッチンにいるのでしょう?」

 

「ウァ……アー、ア、アー」

 

 疑問に思い質問してきたルーラーに答えるべく、手振り羽振りで何とか意思を伝えようとする黒のバーサーカー。可愛い。

 

「……なるほど未来のアダムの為に美味しい料理を覚えたいんですね」

 

「アウ、ア、アィ……ウ、アー」

 

「あ、貴女のマスターの為でもあるんですね。微笑ましいです」

 

「う!」

 

(解るのか……)

 

 意思疎通どころかバーサーカーの言葉を理解しているジャンヌ。これもルーラーとしての能力なのだろうか?

 言葉が解ってもらえた事が嬉しいのかテンションが上がっている黒のバーサーカーをキッチンに向かい入れ、いざ料理を―――。

 

「やっほー! 遊びにきたよー!」

 

 そんな矢先にやってきたのは黒のライダー(アストルフォ)だった。カジュアルな私服姿からして、仕事は終わったらしい。

 表は外回りの警備員という役割を持ったライダーは、赤の陣営が中々攻めてこない事もあって基本的に暇なのだ。

 

「ライダー……貴方は本当にタイミングが良いですね」

 

「お、ルーラーじゃん。ヤッホー。タイミングが良いって事は、また『マカナイメシ』を作るのかい?」

 

 意図して賄い飯を提供する時間を狙ったわけではないらしく、黒のライダーは嬉しそうにジャンヌの隣に座る。

 

「お疲れライダー。これから作るから、良かったら食べていくか?」

 

「食べる食べる!」

 

 ジークの問い掛けに即答するライダー。ジークの作る料理は、例え賄いであったとしても美味しいのだ。

 

「……それで、今夜の賄いはなんなんですか?」

 

 今宵の賄い飯に期待しているのかそわそわしているジャンヌ。そんなジャンヌを見てクスリと笑ってから、ジークは今夜の献立を告げる。

 

 

「今夜はジャガイモのパンケーキ、鮭のフライ挟みだ。給仕の皆にも満点を貰ったから、期待して待っていてくれ」

 

 

 

▼▲▼―――▲▼▲

 

 まず、ジャガイモの芽を取り除いてから、剥いて擦り下ろす。先に擦り下ろしたのは変色するが、掻き混ぜて誤魔化す。そこに卵、小麦粉、塩、蜂蜜、牛乳を入れて更に混ぜる。

 普段は肉や魚を焼くのに使う厨房の鉄板に油を引き、生地を円形に垂らして焼いていく。こうして焼き上がるのは、ジャガイモのパンケーキだ。小麦粉の配分が良かったのか、表面はカリっと、中はむっちりしている。

 

 追加の擦り下ろしはライダーが、ジャガイモ生地の作成はバーサーカーがしてくれているので、次は鮭に取り掛かる。

 

 鮭の鱗を包丁の裏を使って削ぎ取り、表面を水で洗い流す。頭を切り落とし、腹を割って中の物を取り出し、流水で綺麗に洗い流す。それを包丁で二枚に分け、真ん中の骨を取り除いて三枚に下ろす。

 分けた身は皮を剥いで食べやすい大きさに切る。胡椒と塩を振って下味をつけ、先程のパンケーキの生地を水で薄めた液体に浸し、パン粉を満遍なく振ってから油でさっと揚げる。

 

「鮭って皮も美味しいんだよね~。ねぇねぇ、それ残しといて!」

 

「解ったよ」

 

 以前にも鮭の料理を食べた事があるライダーのリクエストで、鮭の皮は別で焼いておく。

 

 先ほどのパンケーキに薄く切った葉野菜とチーズ、鮭のフライを載せ、その上に更にパンケーキを挟めば完成。

 それを食卓に並べ、酸味の効いたベリーソース・マヨ醤油ソース・デミグラスソースの三種類の小皿を並べる。

 

「ジャガイモのパンケーキ、鮭のフライ挟みです。付け合わせにオニオンスープ、ソースはお好みでどうぞ」

 

 見た目はハンバーガーと大差ないし全体が小麦色と地味な色合いだが、パンケーキと鮭フライが分厚くてボリュームがありそうだ。

 タマネギとコンソメのシンプルなオニオンスープ、好きに選べる三種類のソースも食欲をそそる。湯気と共に立ち込める匂いに、思わずジャンヌは喉を鳴らす。

 

「で、では……天に召します我らが神よ、今宵も「いっただっきまーす!」あぁライダーズルいです!」

 

 食前の口上を言い切る前に理性蒸発野郎(アストルフォ)が遠慮なくガブり。選んだソースはベリーソース。

 

 むっちりとしたパンケーキは噛み応えがあって、ジャガイモの触感と味が鮭の旨みとソースの酸味を柔らかく受け止めていく。

 もっしもっしと噛むほどに食感が際立ち、具材とソースの味が馴染んで美味しさとなる。ライダーも思わず破顔する。

 

「おいひい!」

 

「それは良かった」

 

 ふがふがと頬張ったまま喋るのは行儀が悪いが、ジークはライダーの嬉しそうな顔を見れて満足している。

 ライダーの食べ方からフォークとナイフは必要ないと理解し、遅れてジャンヌもパンケーキを手に持ち、パンケーキに齧り付く。

 

「……美味しいです。食べ応えのあるパンケーキですねぇ」

 

 元がジャガイモというだけあって食べ応えは充分。デミグラスソースに鮭のフライの組み合わせも悪くなく、ジャンヌも笑顔を浮かべる。

 バーサーカーもスキル「ガルバニズム」を持つ人造人間にも関わらず、醤油マヨをタップリ絡めたパンケーキをもっしもっしと食べ、オニオンスープで流し込む。

 

(……ああ、やっぱり、作るのも食べてもらうのも、好きなんだな)

 

 英霊ではあるが、自分が作った料理を美味しそうに食べてくれるのは嬉しい。ジークは普段キッチンにこもって料理の腕を振るう為、レストランで食べる客の顔を見れないのだ。

 今なら黒のアーチャーが言っていた「生きるということ」の答えを言える自信がある……自然の恵みを料理し、それを食べて、或いは食べてもらうのが、今の自分の生き方だと。

 

 

 

 後に、バーサーカー(フランケンシュタイン)伝手にカウレス・フォルヴェッジ・ユグドミレニアから賄い飯の注文を受けることになり、そこから様々なマスターや英霊に「賄い飯」を振る舞うことになる事を、彼は知らない。

 




妄想を引き立てる為にちょっとした設定

●ホテルユグドミレニア
ユグドミレニア城を改装した高級ホテル。レストランも兼ねている。かなり好評で人が多い。
聖杯大戦争が薄れているが、表向きホテルにする事で敵側の派手な攻撃を防ごうという魂胆。

●ジーク
熊に襲われた所をジークフリードに助けられたホムンクルス。若くして料理長も務める。
ホテル料理の余りを使った賄い飯を作って、それを他人に振る舞うのが好き。

●ルーラー
ジャンヌ=ダルク。黒の陣営がホテルに、赤の陣営が教会となって落ち着いているので結構悠々としている。
しかし何にしてもお金がいるので、ホテルユグドミレニアで給仕として働いている。ジークの賄い飯大好き。

▼黒の陣営

●ダーニック
ホテルユグドミレニアの真のオーナー。ホテルに改装して「これで攻めれまい」とほくそ笑んでいる。

●黒のランサー
ヴラド三世。ホテルユグドミレニアの表向きのオーナー。ホテル経営も悪くないと考えている。

●黒のセイバー
ジークフリード。表向きは警備員。原作と違い生存している。よくジークの賄い飯に御馳走になる。

●黒のライダー
アルフォルト。表向きは警備員(放浪)。平常運転。よくジークの賄い飯をつまみ食いする。

●黒のアーチャー
ケイローン。表向きは給仕長。マスターを気遣いつつ穏やかなホテル経営を満喫中。

●黒のキャスター
アヴェケイロン。裏方。派手な行動ができないので地下でチクチクと宝具を作成中。いつ終わるのやら…。

●黒のバーサーカー
フランケンシュタイン。裏方。節電に煩い。マスターの為に料理を学びたいらしい。

●黒のアサシン
ジャック=ザ=リッパー。原作と変わらず殺人鬼化。マスターの提案でルーマニアで人気のホテルに行こうかと計画中。

▼赤の陣営

●天草四郎時貞
ルーマニアの教会の神父。ホテル化した黒の陣営に迂闊に攻撃できないからと、たまに冷やかしに行く。

●赤のアサシン
セラスミス。宝具を発動する機会が無くてイライラしている。埋め合わせはホテルの料理で。

●赤のキャスター
シェイクスピア。平和なのでどんちゃん騒ぎも派手な戦闘も無いから創作意欲が沸かない、ある意味で今作一の不憫者。

●赤のライダー
アキレウス。威力偵察として夜中のユグドミレニアの森にちょっかいを掛ける。賄い飯を狙っている。

●赤のアーチャー
アタランテ。猟師としてユグドミレニア管轄内の森で生活している。仕留めた猪や熊を提供したりする。

●赤のバーサーカー
スパルタクス。赤のアーチャーと共に行動している。よく猟師に襲い掛かる熊や猪に叛逆する。何してんの。

●赤のセイバー
モードレッド。ホテルユグドミレニアに獅子劫とよく行ってはジークやジャンヌをからかう。

●赤のランサー
カルナ。恐らく本作品で最も出番の少ないサーヴァント。鎧の都合上ねぇ……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。