楽園の子   作:青葉らいの

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18『イシェバ港』

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『親愛なるフレースヴェルグのみんなへ。

 

 ヴァンダムさん、村の皆さん。

 お元気でしょうか。

 なかなかお手紙が出せず、ごめんなさい。

 私は今、リベラリタス島嶼群のイシェバ港でレックスたちを待っている間にこの手紙を書いています。

 みんなと合流した後に、アーケディアのマルベーニ法王様という人に会いに行く予定です。

 勢いで村を飛び出した形になりましたが、あの後、村と診療所では何も問題が起きなかったでしょうか。子供たちが怖がったりしていないか、モミミやヴァンダムさん達に迷惑が掛かっていないかが少し心配です。

 なるべく早く、村に顔を出せるようにできるといいのですが、いつ戻れそうか。それすらも分からない状態です。迷惑をいっぱいかけてごめんなさい。レックスたちと合流できれば、お手紙もこまめに出せると思うので、合流できた時にはまたお手紙を書きます。

 それでは。

                              アサヒより』

 

 イシェバ港に滞在して早二日。

 暇を持て余した私とコタローは、村に送るための手紙を書こうと机に向かっていた。

 ヴァンダムさんの手紙を参考に文字の勉強を兼ねて、のつもりだったんだけど。書こうと思っていた内容を口頭でコタローに伝えたら、ワナワナと相棒が震え出した。

 

「……なんつーか、真面目かっ!」

「え、え? なんか変? 近況報告のお手紙なんだからふざけちゃ駄目だよね?」

「それにしたって硬すぎる! 逆に心配されかねないぞ、こんな手紙送ったら!」

「えぇー……。じゃあ、どう書けばいいの?」

「そうだな……。『やっほ~、アサヒだよ☆ みんな、元気にしてる~?』みたいな感じか?」

「そっちの方が絶対心配されると思うよ」

 

 結論:手紙は難しい。

 

 

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 イシェバ港に到着して三日目の朝、ようやく事態は動き出した。

 どんな情報網を持っているのかは分からないけれど、今日中にレックスたちがこのイシェバ港に到着するらしい。みんなに会えると喜ぼうとした矢先、それ以上にテンションの上がったジークさんたちからの報告を受けたので逆に冷静になってしまった。こういうのを、人の振り見て我が振り直せっていうんだなと胸に手を置いて姿勢を正す。ジークさんの言葉の中に、納得できない部分があったからだ。

 

「ええと、それで。どうして私は船の中で待機してないといけないんですか?」

「そりゃあ、アサヒとボン達が顔見知りやからな。真の実力を見んなら、顔見知りが居たらやりにくいやろ」

「あの子たちの手も鈍るやろうしね」

「う……。そう言われちゃうと……」

 

 ここに来るまでの間、色々な話をした中にジークさんがレックスの前にちょくちょくと顔を出してる理由を教えてもらった。なんでも、ジークさんは旅から旅の放浪の身らしく、今は縁あってこれから向かう法王庁(アーケディア)で特使という役職に就いてるとのことだ。

 ジークさんは特使として、レックスが天の聖杯のドライバーとしてふさわしいか、そしてアーケディアで悪さを起こさないかを見定める必要があるという話だ。

 

「あ、じゃ、じゃあ、私もアーケディアに行っても大丈夫かレックスと一緒にテストしてもらえれば……!」

「アホか。アサヒはとっくのとうに問題ない言うて、法王庁に報告済みや。いまさらテストも何もあらへんし、仮に合流したときワイらのこと黙ってられるか?」

「……………………」

「すっげー目が泳いでんな。こりゃ無理そうだぞ、ジーク」

「せやろな」

 

 膝の上のコタローが余計なことを言ったおかげで説得の難易度が跳ね上がった。

 まずい、味方がいない。とサイカさんに視線で加勢を求めようとするけど「まぁ、アサヒは心配せんでウチらにドーンと任しとき!」と豪語されてしまった。こういう時、私と同じくらいの子ならどういう反応をするんだろう。と考えてしまって私は頭を振ってその疑問を払いのけた。違う、いまこの場で気にするのはそういうことじゃない。

 

「わか、り、ました……。それならせめて、あの、船室とかで隠れて覗いてる分には問題ないですよね?」

「言い方がかなりあかん方向に聞こえるが、まぁ、顔出さへんようにするならええで」

 

 意外とすんなり許可が下りて、私はちょっとだけ驚いた半面、安堵で胸を撫でおろした。

 

 

 

 そこで話は一度お開きになり、ジークさんは船外でレックスたちを待ち伏せしに行くと言って出て行った。

 私はというと、港全体が見える部屋を借りてそのカーテンをほんの少し隙間を開けて外が見えるように調整して待機していた。薄暗い部屋の中でコタローのコアクリスタルだけが青く光っている。

 

「な、何だろう。私まで緊張してきた……」

「なんでアサヒが緊張してんだよ。――っと、来たみたいだぜ」

「窓、少しだけ開けちゃおうか。コタなら何か聞こえるかもしれないし」

「とは言っても、俺はブレイドだからなぁ。聴覚はほとんど人間と同じだぞ。一応やるけどよ」

 

 なんだかんだ言っても、ちゃんとやってくれようとするコタローの頭を撫でて、私はカーテンの隙間から外の様子を覗き見る。港と小島をつなぐ桟橋のようなところを、大人数が歩いてくるところだった。

 

「なんだか、人増えてない? レックスにホムラさん、ニアちゃんとビャッコさんとトラとハナちゃん、後はファンさんはわかるけど……あの黒い軍服の人と、隣の青い女の人はブレイド……かな?」

「さぁな。お、ジークが出て行ったぞ」

「コタ、何か聞こえる?」

「『待っとったでぇ』ってジークの声は聞こえたが、駄目だな。会話が早くてついていけねえ」

 

 私も耳を澄ませてみるが、ところどころの声が聞こえるだけだ。やっぱり、音を集める能力はコタローの方が上なのかもしれない。とか、考えているうちにニアちゃんの呆れた声に耳を傾けた。

 

『三日もって、馬鹿じゃないの? ――――、まずはあんたが実力――さいよ』

『―――。おもいっきし見せたる―――、構えや』

 

 おもむろにジークさんが背中の大剣を引き抜いて構え、その少し下がったところでサイカさんが片腕をジークさんに向けて伸ばし、臨戦態勢を取っていた。けれど、ジークさんはすぐに斬りかからず、レックスたちの輪からなぜか離れた黒服の人に顔を向ける。

 

『あんさんもやるかい?』

『――、――――――――』

『だそうや。残念やったなぁ、――――――様の助けが得られんで』

 

 あぁ、ちょうどあの黒い人の名前が聞き取れなかった。でも、話の流れからすると、その人は今回のテストには参加しないみたい。けれど、その程度でレックスたちが怯むなんてことは無い。むしろ余裕綽綽といった風に各々武器を構えるなか、チラッとニアちゃんがこっちに顔を向けたのを見て私はパッとめくっていたカーテンから手を離す。

 

「み、見つかった?」

「いや、ただ辺りを見回しただけみたいだぜ」

 

 コタローの言葉を受けて、私は再びカーテンを少しだけめくって窓の外を覗き込む。

 その瞬間に、青白い光がフラッシュのように瞬きまばゆさに目が慣れた時にはレックスたちの叫び声が遅れて聞こえてきた。

 スペルビアの港で私を助けてくれたのと同じく、ものすごい速さでレックスたちの合間を移動し、攻撃したのだろう。

 

「ガチじゃねえか、ジークの奴……!」

「あ、でも、レックスたち動いてるよ。わざと外したのかも」

 

 青の岸壁でも、そうだったけどジークさんは結構そういうパフォーマンスが好きみたいだ。格の違いを見せつける、みたいな感じで。あぁ、サイカさんもノリノリだし……。

 地面に這うように倒れるレックスたちとは別の、もっと桟橋寄りに移動したその人たちの中から、女の人にような声が聞こえてきた。

 

『雷轟のジーク……。ルクスリア王家第一王子にして王国随一のドライバー』

「「『ルクスリアの、お、王子――!?』」」

 

 その衝撃の事実に、私とコタローは隠れていることも忘れて、同じく驚くニアちゃんと一緒に室内で大声を上げた。

 レックスたちの戦っているところとは少し離れているとはいえ、私のいる船室は静観組の人たちの声がここからでも聞こえてくるくらいの位置だ。こちらの声が聞こえていても、少しもおかしくない。

 私たちは慌ててカーテンから手を離してその場にしゃがみこんだ。幸い、窓の外ではそのまま話が進んでいるらしく、ジークさんの「もっと褒めて~」と催促する声が聞こえてくる。

 

「ご、誤魔化してくれたのかな……」

「いや、あれ絶対素だろ」

「本当に王子様だったんだ……。というか、王子様なのに……」

「王子の種類も色々あるんだろ。それよかどうする? まだ覗くか?」

「んー……」

 

 コタローを抱えた状態で、カーテンをちらりとめくると誰もこちらの船室に目を向けていなかった。だからと言ってバレてないとは断言できないけれど、さっきみたいなことが起きないように、息を殺しながら私とコタローはみんなの戦う様子を見守った。

 レックスたちは、前に会った時とは段違いで強くなっていた。

 同調しているブレイドも増えたようで、ホムラさんの炎の他に地面や氷がジークさんたちを追い詰める。

 いつの間にか、高校生くらいの女の子に変身する能力を身に着けたハナちゃんの小型ミサイルがジークさんを取り囲み、ニアちゃんがビャッコさんと共に飛び掛かり、レックスが青の岸壁の時と同じように大きく振りかぶった一撃でジークさんを桟橋の手すりギリギリまで吹き飛ばした。

 ギリギリで踏みとどまってくれて良かった。あの手すりの下は、雲海だ。

 

『やりよるな、ボン』

『あんたもね、驚いたよ。まさかメレフとカグツチの他に、こんなドライバーとブレイドがいるなんて』

『まだ使こうとらんのやろ、天の聖杯の力』

『ヒカリの力は悪い奴にしか使わない』

『何ゆうてんねん。ワイは善人やとでも言いたいんか?』

『違うのかい?』

 

 そういうと、レックスは炎の灯る武器を下した。

 戦う意思はもうない。という意思を言葉でなく行動で示せるレックスを私は本当に尊敬する。

 そして、ジークさんがその言葉と態度に対して返したのは、空を破るような大笑だった。

 

『なかなか言うやないけ、ボン。さすがは天の聖杯のドライバーや』

『……よろしいですか? ジーク様』

『あぁ、合格や。こいつやったら法王庁に入っても問題起こさんやろ。それと――もう出てきてええで!』

 

 ファンさんと話しているのを切り上げカーテンをめくったこちら側を向いて、ジークさんはそう言った。

 その言葉をずっと待っていた。

 私はコタローを床に降ろして船室から飛び出す。船の中の狭い廊下で、兵士の人とすれ違いながら私は全速力で船の出口を目指した。外の光が差し込む扉の下を潜り抜け、ずっと会いたかったみんなの元にまっすぐ向かう。

 

 

「レックス! ニアちゃん! みんな!!」

 

 

 我慢できずに声を上げると、みんなの驚いた顔が向けられる。

 その中で一番近くにいたニアちゃんに私は飛びついた。ほとんど背の変わらないその子は勢いに押されてちょっとのけ反ったけど、見事に私を抱きとめてくれた。

 

「アサヒ!? あんたなんで亀ちゃんと一緒に……!?」

「ええと、話せば長くなるんだけど……。スペルビアで助けてもらったの」

「スペルビア?」

「? スペルビアがどうかした?」

「い、いやぁ~……」

 

 ニアちゃんはなぜか言いにくそうに視線を背けた。その先にいるレックスたちも、どう反応すればいいか分からないような微妙な顔をしている。

 

「おう、そこの見せつけてる二人ー。今は大人のお話しを聞く時間やでー」

「べっ、別に見せつけてなんかない!!」

 

 即座に否定するニアちゃん。

 とは言っても、私も飛びついたりして少しはしゃぎすぎたなぁ。と反省しながらニアちゃんからちょっと離れてジークさんに向き直る。再び注目が集まったところで、ジークさんは自分が法王庁の特使であることを明かした。

「すまんかったな、何度も試さしてもろて」と、いい雰囲気でまとまりそうだったのをサイカさんの一言が混ぜっ返した。

 

「ホンマは一回で済ませたかったんやけどな。なんせ、ウチの王子様めっちゃ運が悪うてな」

「あー、なんとなくわかる」

「サイカもボンも何言うとんねん。あれはたまたまやろが。たまたま――」

 

 バキッ。いや、ボキッ。だったかもしれない。普段はあまり聞くことのない固いものがへし折れた音が、ジークさんの立っているはずの方向から聞こえた。一拍遅れてそちらを見ると、ジークさんが体重をかけようとした木製の手すりが根元からばっきり折れて、雲海にジークさんもろとも落ちる直前だった。

 

「あっ――」

 

 と言う声は、誰のものかはわからなかったけれど、その「あっ」と言う間にジークさんは雲海に向かって真っ逆さまに落ちていく。

 

「なんでやねーーーんっ!!」

 

 という断末魔を残して。

 心配と言うより、興味が先導して下の様子を見に行ったレックスたちは真っ白な雲の浮かぶ雲海を眺め、ジークさんが本当に落ちてしまったことを確認した。

 

「あ、本当に落ちた」

「本当にって……ニアちゃん何を予想してたの……」

「あ、あのっ助けに行かなくていいんですか?」

「心配あらへん。そのうち自力で戻って来はるやろし、先に船で行ってましょ」

 

 この場の唯一の良心であるホムラさんの言葉は、こんな状況に慣れっこのサイカさんの前では通用しない。私も、巨神獣に頭からぱっくり齧られてもびくともしてない姿を見ているので心配する気はあまり起きなかった。

 ジークさんのブレイドがそういうんだから、大丈夫なんだろう。というすごく大雑把な流れで船に移動を開始する私たち。そのはるか下で、ジークさんがうつ伏せに雲海に揺蕩っている姿を私は全力で見ないふりをした。

 




次話『アーケディア行 巨神獣船船内』
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