楽園の子   作:青葉らいの

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30『宿屋エルナタウロ』

 

 

 

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 ルクスリアの第一王子、ジーフリト・ブリューネ・ルクスリアは、勝手知ったる顔でアーケディア法王庁の大聖堂に飛び込んだ。少し遅れて、彼のブレイドである眼鏡のチャキチャキ関西弁使いのサイカがその後を追う。

 一時的に旅に同行していたスペルビアの特別執権官のメレフから、スペルビアとインヴィディアの両首脳の暗殺計画の話を聞かされたのは、少し前のことだ。それに合わせるようにいなくなった、楽園の子と呼ばれる(本人は嫌がっているが)恐らく別世界から来た少女アサヒの行方が分からなくなって、ジークを含めた仲間たちは情報収集をするために二手に分かれようという運びとなった。

 その結果ジークとそれ以外と言うバランスもへったくれもないチーム分けになってしまったのは、それもこれも、自分とサイカ以外が全員同じくチョキを出したのが悪い。これもサイカの言う「不運」なのか。薄々と自分の中でも、そういう傾向があるかもしれない。とは思いつつも認めるのは癪だった。

 その理不尽さをスピードで表すジークは、緑あふれる中庭の壁画を見つめていたマルベーニ法王を発見して、速度を緩める。休憩中なのか、不用心にも兵士は連れていないようだ。

 大の男の足音に気付いたマルベーニは、ジークが声をかける前にこちらへ振り向き、不思議そうな顔をする。

 

「どうした? 船は港に停泊させているはずだが?」

「アサヒを見てへんか?」

「特にこちらに戻ってきたという報告は受けていない。彼女に何かあったのか?」

「まだ、何かがあったとは断言できひんけどな。別行動した後アサヒが見つからへん」

「どこかで寄り道をしている可能性は?」

「無いとは言い切れへんな。でも――アサヒは、誰かに迷惑を掛けることを必要以上に嫌ごうとる。そのことは、ボンたちより長く旅をしてたワイらがよーく知っとる」

「……そうか」

 

その言葉に何を思ったのかはジークはわからない。だがマルベーニは少し考えこんだ素振りをした後、おもむろに顔を上げて、語り出した。

 

「実は、アヴァリティア商会の船がニルニー代表代行の申告より一隻多いと報告を受けている。加えて、コタローは以前アーケディアのとある商人が同調していた記録も残っている」

「なんや、コタローはアーケディア出身やったんか」

「そうだ。しかも前のドライバーが取り扱っていた商品は――洗礼済みのコアクリスタルだ」

「……なんやて?」

「こちらで掴んだ情報では、以前のコタローのドライバーは商売がうまくいっていなかったらしい。負債を抱え、それをアヴァリティア商会のバーンが聞きつけ、コアクリスタル密輸の話を持ち掛けた。仕事を成功させた暁には莫大な報酬を約束したが、代わりに担保としてそのドライバーの家財、財産、そしてコタローのコアクリスタルを指定して――な」

「ちゅーことは、今コタローがアサヒと同調してるんは……」

「そのドライバーはリベラリタス島嶼群で見つかったよ。腹をモンスターたちに食い破られ、無残な姿で。そして首は……どこを探しても見つからなかった」

 詳細を語るマルベーニに、その光景を重ねてしまったのか、ジークの隣で話を聞いていたサイカは口元に手をやって吐き気を押さえるような素振りを見せた。自分のブレイドを気遣う視線を向けるが、それ以上に今はコタローの話を聞く必要がある。一瞬だけ詫びるように目を伏せると、再び眼帯の青年はアーケディアの法王に向き直る。

「殺された理由は物取りか? それとも私怨か?」

「どちらでもあると言えるし、どちらでもないとも言える」

「どういうこっちゃ」

「手を下したのはコアクリスタル狩りではないかと報告が来ている。その商人の荷物は途中で投げ捨てられていたが、密輸されたコアクリスタルとコタローのコアクリスタルはその首同様、見つからなかったそうだ」

「なんで、そんな重要な話を黙ってたんや。事前に少しでも話しとったら今頃――」

「意図して隠していたつもりはなかったが、単に話すタイミングが無くてな」

「………………」

「君が信じるか信じないかはこの際どちらでも構わない。今はここで拘泥している場合ではないのではないか? もしも、いなくなった理由がコタローの前のドライバー絡みなら、彼女だって無事ではないはずだ」

 

 ジークはぐっと言葉を詰まらせた。

 今の話を聞いて、アサヒ達が消えた理由がただの迷子でなくなった可能性が出てきた。いや、狙いがコタローであるならそのドライバーのアサヒの身も危ない。最悪の展開では、殺されてしまう可能性だってあった。

 二国の首脳暗殺に楽園の子の失踪。確かに法王であるマルベーニを追及している場合ではない。

 

「……王子」

「分かっとる」

 

 気遣うようなサイカの自分を呼ぶ声に短く返すと、いまだに何かを隠していそうなマルベーニを正面から見据える。

 

「万が一、アサヒがこっちに来たんならワイらが探しとったこと伝えてくれ」

「承知した。こちらから言える立場ではないが、彼女を頼む」

 

 言われるまでもない。と返すのは簡単だが、それは結果で示せばいい。

 ジークは背中に法王からの視線を感じながら、再び大聖堂を後にする。

 一見バランスの悪いチーム分けが、こんなところで功を奏するとはジークも考えていなかった。

 ただの迷子かと思いきや、これは面倒なことになった。と、内心で舌打ちをして、彼は別れを告げたばかりのアーケディアの道を再び駆ける。

 

 

 

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 集合場所である宿屋にアサヒを除いた全員が集まっていた。

 レックスたちには港側の情報収集を主に頼んでいたのだが、ジークが合流した時にはレックスは頭を抱えていた。

 

 港にターキン族と思しき姿を見たというクッキー売りの少女。

 毒薬の取り扱いを尋ねたノポン族がいるという輸出入を管理する商人。

 強烈な臭いを発する食料と、巨大な荷物をを運んだというスペルビア兵。

 インヴィディアの女王に忠誠を誓い、女王の命がなければ戦う意思はないというインヴィディア兵。

 

 スペルビア、インヴィディア、アーケディアの三つの勢力に属している人々に平均的に聞いて回ったはずだが、聞いた人数の、その分だけ憶測と事実と会談の話題が出るわ出るわという状況だった。

 あまりの情報量のためこうして情報を整理する場が必要になるほど。 

 そうして、すべての情報を統合すると、以下のようになる。

 

「会談中の食事に毒を盛るのが一番効果的……か」

「強烈な臭いのするもんが運び込まれたっちゅーんは、毒の違和感をかき消すためかもな」

「ターキンを雇ったのも、一流の暗殺者を雇うより安上がりに済むからでしょうね」

「バーンは人工ブレイドを作っていた時も、ターキンを手先にしてたも! アニキ、冴えてるも!」

 

 ぴょこぴょこと飛び跳ねて褒めるトラに、レックスは照れ臭そうに頭を掻いた。

 その横で複雑そうな顔を擦るニアがぽつりと呟く。

 

「首脳会談の情報は集まったけどさ――」

「アサヒ様の情報は、まったくと言っていいほど出てきませんでしたね……」

「そのことやけど、大聖堂で王子が法王様と話した時には、アサヒは戻って来てへんて。でもその時、コタローの話になったんよ。ね、王子」

「――あぁ」

 

 さすがにサイカの口から首のない死体の話をさせるのは酷だろうと、ジークはその後の話を引き継いだ。

 コタローにまつわる意外な過去の話に、レックスたちの顔色が曇る。

 

「コアクリスタルの密輸にコアクリスタル狩りか……」

「コタローは珍しいブレイドや。見た目は動物やし、体も小さくて回復っちゅーんが御しやすい。貴族の令嬢なんかが好みそうなもんやな」

「なるほどのぉ。しかも人間の言葉が喋れるとなれば、余計ということじゃな」

「………………」

「ニア、大丈夫ですも? 顔色が悪いですも」

「ありがと、ハナ。でも、今はアタシの心配じゃなくて、アサヒとコタローの心配が先だろ? ――どうするのさ、レックス」

「とりあえず、毒が盛られる可能性があるってわかったし、スペルビアの巨神獣戦艦に行ってみよう。メレフにうまく引き継げれば、未然に防げるかもしれない」

「せやな。そうと決まれば、早速――」

 

 そう言ってジークが港の方に顔を向けた時だった。

 いくつもの巨神獣船が停泊している港が、いつになく騒がしく、また先ほどまではなかった人混みができつつあった。そのざわざわとした雰囲気に、てっきりインヴィディアの女王ラゲルトがスペルビアの船にやってきたのかと思ったレックス達だが、国の首相が来たことによる色めきだった様子ではなく、何か事件があったような不穏なざわめき方だと、直感した。

 

「行ってみよう」

 

 レックスの一言で宿から飛び出した彼らは、騒ぎの中心は港に停泊しているとある船に近づいた。そこにはカラスのような黒い羽を反射させたターキン族が、中規模の巨神獣船から木箱を手あたり次第下ろしている最中だった。その中心で取り仕切っているのは、見覚えのないノポン族だ。

 

「早く荷を下ろすも!! 少しでも商品に傷が付いたら、お前たちに全額弁償させるも!! それが嫌なら、きびきび動けも!!」

「クエーッ!」

 

 本人たちは切羽詰まっているようだが、会話の内容だけでは全貌を把握できない。

 モンスターでも入り込んだのか。それとも……と考えているレックス達の目の前に、木箱にしまわれていなかった荷物がターキン族によってぞんざいに地面に放り出される。その中に、見覚えのあるカバンが見えた気がした。

 

「ねえ、あれってアサヒの荷物じゃない!?」

 

 ニアの声に弾かれるようにレックスたちは荷物のところまで走って、悪いとは思いつつ中身を検める。

 中身は医療品が多い物の、見覚えのある日用品がいくつもある。インクやペンも入っていた。その中で決定的だったのは、ヴァンダムからの手紙だ。

 

「間違いない、アサヒの荷物だ!」

「じゃあ、コタローもこの中にいるの!?」

 この、異様な雰囲気に包まれた船の中で? と、怯むニアとレックスの横合いからジークが一匹のターキンを捕まえて、どすの効いた声で尋ねる。

「中で何があったんや!?」

「ダ、誰ダ!?」

「答えや!」

 眼帯をした屈強な男から全力で出される尋問に恐れをなしたのか、勝手に両方の羽を上げて降伏状態のターキンが言うには――

「船カラ煙ガ出テル! 火事、カァージっ!!」

「火事やて!?」

「た、大変だも! 船の動力部分は気体化させた巨神獣の体液を循環させてる可能性が高いも! もし、動力部まで火が燃え移ったら大爆発しちゃうも!!」

 

 機械や物の構造に強いトラの言う通り、巨神獣船内では引火しやすい巨神獣の体液などのため火気厳禁を強いている場合が多い。ホムラやカグツチなどのブレイドについては、乗船の際に火災の原因になった時には全責任を負うという誓約書を書かせてようやく乗船を許可することもある。そういう船は通常、人を運ぶ巨神獣船ではなく、貨物運搬用の巨神獣船であることがほとんどだが。

 そんなことは常識なアルストで、巨神獣船での火事というのは色々な意味で憶測が飛ぶ。

 

「火はまだ中で燃えとるんか!? 消火したんやろうな!?」

「ワカラナイ! ワカラナイ!!」

「船の中にいる人間の避難は!?」

「ワカラナイ! ワカラナイ!!」

「くそっ!」

 

 突き放すようにターキンを解放したジークは、振り返ってレックスたちの様子を確認した。

 アサヒの荷物をじっと見つめていたレックスは、ジークの視線に気づいて頷く。それを同意とみなして、ジークは船の入口に目を向ける。すると、内燃に突き動かされる二人を諫めるような制止の声がレックスの首の後ろから届いた。

 

「バーンの計画の方はどうするんじゃ!? まさか放っておく訳にはいくまい」

「あっ、そ、そうだった。メレフにそれだけでも伝えておかないと……!」

 

 急ブレーキをかけたレックスは、慌ててスペルビアの船のある方向に視線を向ける。すると人波をかき分けてくるキャスケットを被ったノポン族が「いったい何の騒ぎですも?」と見た目に反したダンディな声で顔を出し、レックスの顔を見つける。

 

「ニルニー代表代行! ちょうどよかった!」

 

 駆け寄ったレックスから事情を聴いたニルニー代表代行は、首脳会談の料理に気を付けるようにと聞くと、すぐさま了承の意思を彼らに伝え、その小さく丸い体を上下に小さく跳ねさせながらどこかへ走っていった。

 暗殺の件はこれで恐らく大丈夫だろう。

 

「急ぎましょう、レックス!」

「あぁ!」

 

 ホムラに後押しされるように、レックスは巨神獣船に乗り込んでいく。その後を追って、彼の仲間が同じように船の中に消えていった。レックスの腕の中には、アサヒの荷物がある。絶対に落とさないように、それが彼女の命綱であるように。

 

 




と言うことで、オリジナル展開に入りました。
ジークのミスター味っ子回は、申し訳ありませんがゲーム本編でお楽しみください。

次話『アヴァリティア商会 巨神獣船船内』予定です。
新ブレイド、ヒバナちゃん可愛いヤッター。
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