楽園の子   作:青葉らいの

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33『スペルビア戦艦 格納庫』

 

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 時間はちょっと遡る。

 部屋の隅に丸まっていた私の真横を爆風が通り抜けた瞬間、ホムラさんかと思って顔を上げた。しかし、そこでまず飛び込んできたのは通常じゃあり得ない色の炎だった。

 幻想的にも見えるその白い炎の先に立っていたのは、全く見知らぬ男の人。

 その人は、チリチリと残る炎と同じ色の長い髪を一つに結んで、メレフさんのような軍服を着ていた。いや、軍服と言うには装飾が多い。王子様、というか騎士様と呼ぶにふさわしいような気品あふれる服装だった。そして、何よりも印象に残ったのはその瞳の色。吸い込まれるような金色の瞳は、私と目が合うとすっと細められる。思わず肩が大げさに震えた。その目が、なんとなく怖かったから。

 そうして、その男の人の口が――開く。

 

「どーも、新キャラです。あっははははは、違うか」

「へ……?」

 

 突然のおどけたような口調に、色んな意味で思考が追いつかない。

 床にお饅頭みたいに体を縮こませたまま呆然と見上げる私にその人はへらへらと笑いながら近づいてきた。腰には薄青く光る二本の剣が提げられている。けれど、ここにいるのはこのお兄さんだけだ。

 ドライバー、なのかな……。でも、それだったらブレイドはどこに?

 じっくり観察している時間もなかった。私が背にしているはずの壁から、新鮮な空気が流れて行ってる。それに伴って、部屋に充満していた煙まで薄れていく。燃えていたはずの紙の束はこの男の人がその白い炎でもろとも吹き飛ばしたようだ。

 

「立てるかい?」

 

 腰を折って手を差し伸べてくれる男の人は、キラキラとした微笑みを浮かべてやけに手馴れてた様子だ。

 

「あ、ありがとうございます。大丈夫です」

 

 元から怪我はしてなかったし、跳ねるように身を起こすと私はお礼のつもりでお辞儀をした。

 顔を上げると、まだその人はいてくれている。面倒見のいいひとなんだろう。無事を確認したから「はい、それじゃあ」ってなってもおかしくないのに。何を考えてるか読み取りにくい、金色の瞳でこちらを見つめる男の人は、十分間を置いてこう言った。

 

「良ければさ、出口まで一緒に行ってくれない? 俺、この船に密航してて、今このまま外に出たら面倒なことになりそうだからさぁ」

 

 これが、私が外に出られた大体の経緯だ。

 後は、扉から出た途端トオノに斬りかかられて、レックスたちと合流するまでオロオロと二人の様子を遠巻きに見ているしかなかった。

 

 

 

 そうして今、粗方の誤解が解けた私たちは気まずい雰囲気でその場に留まっている。できるならすぐにでも船から出たいけど、目の前に立ち塞がる天の聖杯ことヒカリさんがそれを許さない。腰に手を当てて仁王立ちで凄むヒカリさんの目は、ずっと白い炎を操る男の人に注がれていた。

 

「カイ」

「げっ、ヒカリ……!? 風の噂で目覚めたのは聞いてたけど――」

「記憶があるようで何よりだわ」

 

 カイと呼ばれた男の人が突然震え出す。対して、一歩ずつ踏み込んでくるヒカリさんに黄金色のオーラが見える。絆が最高値になった時に見える奴とは違う。なんだろう、なんかすごくすごいオーラとしか言葉が出て来ない。秘められた天の聖杯の力でも覚醒したような。

 恐々とするのはレックスたちも同じだった。誰も声を掛けられない。かけたが最期、絶対巻き込まれる。

 

「よくもアタシの前にのこのこ顔出せたわね、あんたはぁぁあっっ!!!」

「こうなると思ったから密航しようとしたんだって――ぶるがばっ!!??」

 

 ヒカリさんの渾身の右ストレートがカイさんに炸裂した。そのまま吹き飛ばされて廊下に二転三転ともんどりうつその人は、這う這うの体で手近な部屋に飛び込んでいった。

 待ちなさい!! と天の聖杯自らが後を追おうとする直後、離れたところからドポンッという重たいものが水に潜るような音が聞こえる。多分、私の捕まっていた部屋に空いた穴から、カイさんが雲海へ飛び込んだのだろう。ヒカリさんもそう思い至ったのか、それ以上追うことはせず、それでも怒りが収まらないと言った顔で廊下の先を睨みつけていた。

 

「え、えっと……知り合い?」

 

 この状況でヒカリさんに尋ねられるあたり、レックス、勇敢過ぎる。

 

「あやつはカイといってのぉ。このリベラリタス島嶼群を根城にしていた正体不明の男じゃよ」

「え、ジジイも知ってんの?」

「まぁな。この辺りを回遊する巨神獣にランダムに乗っておるから、滅多に会うこともなかったんじゃが……」

「そんな奴が、なんでヒカリと知りおうてるんや?」

 

 ジークさん、駄目ですって! 今それ聞いちゃあ!

 ほら、睨んでる! ヒカリさんが睨んでる!!

 

「……昔の、腐れ縁みたいなものよ」

 

 そうなると、500年来の知り合いってことになるんだけど。

 明らかに、それ以上は聞いてくれるなと言わんばかりにそっぽを向かれ私たちは閉口せざるを得なかった。

 でも、この騒動のお陰で私のやらかしは有耶無耶になっているようでほんのちょっと安心――

 

「ドライバー、コタロー、わっちのいないときのオイタはこの後たっぷりと……。お覚悟え?」

 

 安心していた矢先、年上のお姉さんの凄みに成す術なく私は身を震わせた。

 怒られるとは分かってたけど、やっぱり怖い。

 ちなみに「なんで俺もなんだよ!?」と抗議の声を上げたコタローだったがトオノには一顧だにもされず、私も私で大事なお説教仲間を絶対に逃がすつもりはない。

 

 

 

 

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 どうにかこうにかしてアヴァリティア商会の巨神獣船から脱出する間、私がいない間に起こった首脳暗殺事件のあらましについて説明された。どうやら、ニルニー代表にスペルビアに毒殺の可能性があると言伝を頼んだらしいけど、そのまま放っておいていい事件でもない。結局のところ、結果は聞かなくちゃいけないだろう。

 急ぎ足でスペルビアの巨神獣戦艦が停泊する方に走っていると、ちょうどその巨神獣戦艦から派手な爆発音があたりの空気を一変させた。

 横を走るレックスに、気になったので聞いてみる。

 

「……レックス、毒殺じゃなかったんだっけ?」

「お、俺に聞かれても知らないって!」

 

 分かりやすく慌てふためくレックス。

 そんなやりとりをしつつ、巨神獣戦艦に辿り着いた私たちは混乱を鎮めようとするスペルビアの兵士さんの前で止まった。詰め寄るようにニアちゃんが「何事!?」と尋ねれば、兵士の人は一瞬のけ反るもメレフさんから事前に何かを聞かされていたのか、すんなりと事情を話してくれた。

 

「格納庫で爆発が……! くそっ、ラゲルト女王が到着したばかりだって言うのに!」

 

 ラゲルトと言う人は、傭兵団のあるインヴィディア烈王国の王女様だ。顔は見たことないけど。というか、格納庫って倉庫みたいなもの――だよね?

 そんなところで爆発なんて、ますます意味が分からない。

 船内も顔パスだった。道行く人みんなが道を譲ってくれて、格納庫への道も教えてくれる。それでも巨神獣戦艦内部は広大で入り組んでいた。道に迷いながら捕まっていた時のことで思い出したことがある。

 その確認をするために丸い体を跳ねるように走るトラに声をかけた。

 

「ねえ、トラ! グレートサクラって知ってる?」

「ももっ!? 何でアサヒがサクラのことを知ってるも!?」

「実は、船に捕まってるときに聞いたの。『グレートサクラの用意ができました』って言われて、出掛けて行ったんだけど。これがどんな意味なのか分かる?」

「アニキ――」

「分かってる。アサヒ、サクラってのはトラのお父さんが作った設計図を基に作られた人工ブレイドの名前だよ。あの時は、グレート、とはついてなかった気がするけど……」

「もしかしたら、バーンが改造したのかもしれないも! こうしちゃいられないも!!」

 

 人工ブレイドって言うと、ハナちゃんみたいなの……だよね?

 なんとなくハナちゃんを見てみると、件の人工ブレイドは不思議そうに首を傾げられてしまった。

 

「アサヒ、行くよ!」

「――あ、待って!」

 

 順路を見つけたニアちゃん達の背中を私は慌てて追いかけた。

 その間もグレートの意味合いを考えてしまう。機能がグレートなのか、それとも武装がグレートなのか。

 実際は、どっちでもなかった。

 たどり着いた格納庫は体育館くらいありそうな広さで、鉄筋の骨組みが組まれていて木箱がいくつも重なっておかれている巨大な空間だった。その天井はクレーン車とかも入れそうな高さ。――にもかかわらず天井にたどり着くほど大きい人工ブレイドが、長いスカートを揺らす中年の女性とその前を守る二人の護衛の前に聳え立っていた。なるほど、大きさがグレートって意味だったんだ。

 

「待て、バーン!!」

 

 威勢のいい声が格納庫に響いた。

 黒髪、おかっぱ、メイドのような服装にフリルの着いたカチューシャの真ん中には大きく光る『G』の文字とその上には操縦席があるのか、ぼんやりした影からバーンがいるのだろうと推測できる。

 一目見た瞬間から、私は感動に包まれた。

 

「おおおお、すごーい……! 巨大ロボットだぁ……!!」

「感動しとる場合とちゃうやろ! アサヒ! テンペランティアにあったんと似たようなもんやで!?」

 

 ジークさんはわかってない。テンペランティアで戦った自動何とか迎撃装置とこれは全然違う。

 なんというか、全然物々しくない。むしろちょっと面白そうとも思う。

 ごごん、とゆっくりグレートサクラの顔がこちらへと向いて、どこかからスピーカーを通した時のような電子音声っぽい声が聞こえてくる。

 

「お前は――レックス! それに、楽園の子!? なぜお前がここにいるも!?」

「え? えっと、逃げたから?」

「くぅっ!! お前、俺を馬鹿にしているのかも!?」

 

 まさかこちらに話が振られるとは思ってなくて、正直に答えたらバーンの逆鱗に触れてしまったらしい。キュピーンとグレートサクラの目が光り、ひび割れるほど大きな声でバーンの声が聞こえてくる。

 

「やはり貴様も、そこの女王と同じく生きて返しはしないも!」

 

 グレートサクラの両手を勢い良く上げた傍から火の手が上がる。

 明確な戦闘開始の合図に私たちは武器を引き抜き――

 

「何事です!?」

 

 そんな言葉が割り込んできた。驚いた振り向いた先に、羽を模したようなサークレットを付けた男の子がメレフさんと見知らぬ男の人を引き連れてこちらにやってくる。メレフさんの弟さんだろうか。そう言ったお話は聞いたことなかったけど……。

 その男の子はグレートサクラとインヴィディアの王女様と私たちをそれぞれ見やって、瞬時に状況を把握したらしい。同時に、それを見つけたバーンは、スピーカーから聞こえてくるようなくぐもった音声で、こう言った。

 

 

「これで役者が揃ったも! ここからがバーン様の快進撃の始まりだもぉ―っ!!」

 

 

 かくして火ぶたは切られた。

 グレートサクラの内部には、音響機能も搭載されているらしくロボット物のアニメで流れてきそうな曲が流れだす。雰囲気作りもばっちりらしい。

 こちらの世界に来てからは、アニメやゲームの世界でしか体験できなさそうなオンパレードだったけど、これは今までの中でも群を抜いてアニメっぽい。

 

「くそっ、やっぱり気が抜けるなぁ!」

「えっ? え、そう? 面白くない?」

「そう思ってんのはアサヒだけだよ!」

 

 顔は苦笑いだったけどはっきりと言い切ったレックスは、グレートサクラに向かってヒカリさんの剣を構えて走り出す。

 え、面白そうって思うの私だけなの?

 




グレートサクラ戦の曲は燃えますよね。

次話『続・スペルビア戦艦 格納庫』

さて、問題のシーンが近づいてきたわけですが……ここからどうしよう。
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