1
いくら見た目が面白……可愛くても、相手は超合金製の人工ブレイド。
ハナちゃんを見ていてわかる通り、外は固くダメージが通りにくい。一方相手は自身で生み出すエーテルを巧みに操り、レーザーみたいな熱線やミサイルを連射してくる。サイズもあって有効範囲が広い。
グレートサクラのてっぺんから見下ろすバーンにとってはつまようじくらいのサイズしかない私たちは劣勢を強いられる――と思っていた。
「みんな、サクラの腕からモーター音がしたも! 5秒後、ミサイルが飛んでくるも、防御するも!」
「サクラの目が光ったも! ビームレーザーが飛んでくるから位置に注意するも!」
「アサヒー! そこにいるとロケットブンブンの当たる位置になっちゃうも! 距離をとるも!」
トラの忠告が的確過ぎて怖い!!
サクラの前身である人工ブレイドの生みの親の息子だし、それ以上にカスタマイズしたハナちゃんを完成形までこぎつけたトラだからこそできる芸当ではあるのかもしれないけど、それにしたって。それにしたってだ。
私は言いようのない感情を無理やり飲み込んで、渾身の力でコタローと一緒に後ろに飛びのいた。その瞬間、鋼の塊が私の一歩手前をギリギリ通り過ぎる。
――あ、危なっ!!
ロケットブンブン、という技名のそれは範囲攻撃のため、当たるとかなり体力を持っていかれる、けれど目検で周囲を確認したところ有効範囲に入っていたのは私だけだったらしい。
今までトラの読みに従っていたため、こちらの被害はほぼないに等しい。全く関係ないとは思うけど、以前読んだライトノベルでボスの攻撃パターンを全部覚えていた主人公がいたなぁ。なんて、なまじ被害が少ないため、そんなことを考える余裕ができてしまう。そうなると、面白くないのはバーンの方だ。自分の攻撃が先読みされて全く当たらない。その怒りが、バーンの行動を狭めていく。
『ムキィーッ!! なんだなんだも! なんでそんなに避けられるも!! 狡いも! チートも!』
「うわっ、何あいつ。地団太踏み出した!」
「まぁ、そうなるわなぁ。ワイかて同じ状況になったらそうなるわ」
「なんやウチ、トラが怖いわぁ……」
剥き出しの腕を擦るサイカさんに若干共感を覚えながら、コタローを控えさせてトオノを呼ぶ。傘から質量保存の法則完全に無視した青く光る刀を抜き放ち、構えをとると次いでトラの声が上がった。
「モーター音も! みんな、ミサイルドリドリに注意も!」
割と全方向にランダムに飛んでくるミサイルドリドリは、白い煙を描きながらいくつかはこちらに飛んできた。飛んで避けるか、ガードするかで考えれば防御するのが最適。
一度引き抜いた刀をもう一度柄の中にしまって、代わりに傘を開いた。そのまま露払いをするように傘を振りぬいて視界を確保する。
すると視界の端でレックスが飛び退くところを目撃した――んだけど。ヒカリさんが乱暴にレックスのヘルメットを掴んで飛ぼうとしていた方向とは真逆に引っ張る。完全に首が締まる体勢だったけど、それは些細なことだった。レックスが飛ぼうとしていた方向にミサイルドリドリが集中したのだ。
「ももっ!? 偏差射撃も!? バーンの奴……意外にやるも!!」
「専門用語過ぎて、もう訳が分からないっ!」
最早、トラとバーンの技の読みあいみたいな雰囲気になっている。
バーンからの攻撃は当たらなくても、こちらの攻撃が通らなければいつまで経っても倒せない。そうなれば不利になるのはこちらだろう。
ドライバーコンボかブレイドコンボがうまく発動してくれればいいんだけど……。
「崩れろっ!」
焦れていたのは私だけじゃなかったらしい。グレートサクラの足元に潜り込んだニアちゃんがチャクラムを振り回す。しかし、人間対巨大ロボットでは体格差でうまく崩れさせられないようだ。キキィンッ! という金属音と共に装甲に少し傷がついた程度だ。
「ニア! 危ないっ!!」
「帯電し始めたも!! その位置はウルトラビリビリに当たっちゃうも!」
「――きゃあっ!!」
レックスとトラの忠告も空しく、一瞬の光の後に甲高い悲鳴が聞こえた。反射的に目を瞑ってしまい、気付けばニアちゃんがグレートサクラの足元で倒れている。あの位置は危ない。下手したら押しつぶされる!!
「ニアちゃん!」
慌てて駆け寄って床に倒れている体に触れると、ニアちゃんは気絶しているらしかった。
頬を軽くたたきながら覚醒を促すために声をかけようとするが、それを見逃すほどバーンは甘くなかった。
『踏みつぶしてやるもー!』と上げられた超合金製の足が私たちの頭上に影を作る。みんなが慌てて走り寄っては来てくれているものの、間に合いそうにない。
ギュッと身を縮こませて、痛みに身構えたその時だった。
「傘とは元来、持ち主の災禍を祓うものでござんす」
いつの間にかトオノが自分の武器を取って、その傘を勢いよく開いた。
私とグレートサクラの間に挟まるように傘を開くトオノが、不意に数センチ縮んだ気がする。上から襲い掛かった重圧に耐えているのだろう。歯を食いしばりながらも、こちらに向けたトオノの視線が早く逃げろと告げている。ビャッコさんに手伝ってもらいながら、ニアちゃんを抱えて離脱する。
「ニアちゃん、こんなところで寝ちゃだめだよ」
体を揺すってニアちゃんに声をかけると、その瞼がうっすらと開いた。
良かった、思ったより意識ははっきりしてるみたい。
「か、カッコ悪いところ見せちゃったね」
と、気まずそうに起き上がるニアちゃんは、視線の先にいるグレートサクラの姿を見て顔をしかめた。あれから、グレートサクラの耐久は減っていない。レックス達にも疲れの色が見え始めている。
「どうしよう。あんな馬鹿でっかいの、どうやって倒せばいいんだよ」
「それなんだけど。ニアちゃん、ちょっと私の作戦聞いてくれる?」
――ニアちゃん、ナナコオリちゃんと同調してたよね?
2
作戦、なんて銘打ったけど実際はただの罠だ。しかも、すごく単純な。
ブレイドコンボのためにはもう一人必要だったので、近くにいたトラを巻き込むことにする。攻撃力の要はレックスとジークさんなので、二人の手を止める訳にはいかなかった。
「ニアちゃん、トラ、準備は良い?」
「ハナにお任せですも!」
「は、はいっ! がんばります……!!」
頷くドライバーにやる気に満ちたブレイドのみんなの反応を見てトオノに目配せをする。一つ頷いてくれるのが嬉しい。
作戦のタイミングは、グレートサクラの挙動を完全に読めているトラに任せることにして、私はエーテルを溜めることに努める。ニアちゃんは私よりさらにエーテルを溜めないといけないので、早速グレートサクラに殴りかかっていっている。主に、ナナオコオリちゃんのくまりんが。
「アサヒ! ニア! いくも!!」
「「オッケー!」」
トラの声に私とニアちゃんは同時に構えをとった。作戦を伝えられていないレックスとジークさんたちは、何を始めるのかと目を丸くしている。
「ハナ・ミサイルですもー!」
「両断・竹取!」
ここまではテンペランティアの自動何とか迎撃装置までと流れは一緒だ。
大量の水蒸気が爆弾のようにまき散らされ、奇しくも目隠しのような効果を生み出した。
前はそこから炎が飛び出したけれど、今回は息が白くなるほどの冷気。
「お願い、――くまりん!!」
ナナコオリちゃんの声がするとともに、ピシピシ、パキパキという甲高い音を立てながら空気が凍り付いていき空気中の氷となった粒子がキラキラと光を放つ。
それはグレートサクラの足元だけでなく、地面にまで薄い氷を張るまでに至った。そこでターゲットを取っていたトラがグレートサクラを誘導して一歩、踏み出させる。それだけでいい。
『ももぉっ!?』
バーンのくぐもった声が響いた。そして、氷と水で消えた摩擦により足場が不安定になったところをニアちゃんの攻撃で体勢を崩させる。ずるっというよりもガガっ! と言うような固いものが地面を滑る音が格納庫内に反響する。そして、その状況を見逃すほど、レックス達も甘くはない。
アンカーショットで見事ダウンを取ったレックスに続き、ジークさんのやたら長い技がグレートサクラの巨体を持ち上げた。
「スザク!」
「俺は生まれた時からスザクだ!」
レックスの呼ぶ声に応じて、いつ聞いても不思議な前口上なスザクが風とともに現れた。レックスのツインサイスが唸りを上げ、グレートサクラは頭から地面に叩きつけられる。
ブレイドコンボとドライバーコンボが綺麗に決まったことで威力は駄目押しのレベルだ。いつの間にか軽快な音響も止まり、グレートサクラはあちこちから白い煙を吐き出していた。
ここで、やったか。なんて言おうものなら第二第三形態とかが出てきそうなので、口を強く引き結んでおく。それが功を奏したのか、何とか態勢を立て直したものの、膝から崩れ落ちたグレートサクラのカチューシャの部分から一匹のノポン族が吐き出される。
火花を散らせ関節から蒸気をまき散らすグレートサクラをバーンは絶望した表情で見つめていた。最早、バーンに対抗策は残されていないのは火を見るよりも明らかだった。
「ここまでだな、バーン。貴殿を拘束する。裁定は法王庁に委ねるが、国家元首の暗殺未遂。軽く済むとは思うなよ」
「稀代の政商の末路、こんな形で立ち会うことになるとはね。残念です」
特別執権官とインヴィディアの女王がバーンに詰め寄っていく。追い詰められたバーンは、じりじりと下がっていったが、これ以上はグレートサクラが邪魔をして下がれないというところで、その短い手を後ろに回した。
その目にはぎらついた執念の炎が宿っているように見える。それと同時に、とてつもなく嫌な予感が私を支配した。私は、アヴァリティア商会の巨神獣船で見ていたはずだ。
「お、俺は――俺は、こんなところで終わる男じゃないも!!」
ボタン一つだけしかないあからさまなリモコンに、みんなはわかりやすく動揺した。メレフさんとインヴィディア女王様も危険を感じ取ったのかバーンから身を引いた。
「みんな離れて! あれ、たぶん自爆スイッ――」
「お前ら、死なばもろともだも!!」
一瞬だけ早く忠告ができたおかげで、一番前にいた二人は距離をとることができたけれどあの大きさの金属の塊が大爆発を起こせば、機械の破片が、どこにどんな飛び方をするか分からない。
ほんの一瞬。本当にほんの一瞬迷ってる間に、私のいる後ろ――守るべき立場の人たちの中から小さな影が飛び出していったのを信じられない気持ちで見つめた。
その人はこの中で私やレックスたちと同じくらいの年の男の子だった。
「ワダツミ!」
「――承知」
その子もドライバーらしく、後ろに控えていた男のブレイドが刀を水平にして水のバリアを作り上げる。みんなを守るだけなら、それだけで十分なはずなのに、男の子は止まらない。自爆ボタンを高々と掲げるバーンに速度を緩めず走り寄っていった。
時間にしたらわずかな、そして決定的な差によってその男の子は自らの体をバリアの外に晒した。
そして私も――。
気が付いた時には男の子の後を追っていた。
その間の時間はスローモーションのようにゆっくりと流れて行ったように感じる。時間感覚がおかしい。でも、そのおかげか男の子の動きもゆっくりに見えて、私は数歩分だけ先を走るその子の白い服に包まれた腕を限界まで伸ばした手でつかみ取った。
その勢いのまま、体を半回転させる。遠心力で吹き飛ばすために。ダンスのようなターンをして私と男の子の位置が入れ替わる。
「あなたは……!?」
驚いた顔をするその子に、何と言ったらいいか分からなかった。
きっと腕を無理やり掴んで痛かっただろうし、こんな手荒なことをして驚かない訳がない。それでもその体は彼のブレイドの作り出した水のバリアの中に飛び込み、背中からメレフさんが抱き留めたのを見届けた。
その間も、その子は私に問いかける視線だけを寄こして。
それに対して私が反射的に出てきた言葉は、
「ごめんね」
ただ、その一言だけだった。
それだけ伝えて私はさらに体を翻らせ既に光を迸らせ始めたグレートサクラの前でトオノの番傘を開いた。
直後に物凄い光が迫ってきて、私はなすすべなく意識を手放した。
次話『続々・スペルビア戦艦 格納庫』