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戦闘を始めて間もなく、私たちが入ってきた唯一の出入り口からバラバラと音がした。
不審に思ってちらりとそちらを振り向けば、ずいぶん前に倒したお城の兵士の人たちが、私たちを挟み撃ちにせんと、武器を構えて走って来るところだった。この部屋、大きい割に扉は出入り口用に一つしかない。扉に向けて誰かがアーツを撃ってみるのもありだが、恐らく今ここにそんな余裕のある人はいない。期待できないならば、速度勝負。
「二手に分かれるで! アサヒとニアとメレフは制御装置を、ワイとトラとボンはエーテル加速器や!」
「あぁ! そっちは頼んだよ、メレフ!」
「任せておけ!」
綺麗に男女のドライバーで分かれた私たちだったけれど、王様側も黙っているわけはない。
右手を優雅に突き出して、今まさに加勢せんと迫りくる兵士の人に命令を出した。
「制御装置を最優先に死守しろ!」
なら、その人たちが到着するまでに止めてしまえばいい。
みんなで同じことを考えていたのか、口に出さずともお互いの目配せだけで分かった。
古代兵器というだけあって、エーテル加速器の近くには兵士の人が待機していた。恐らくあのレバーを上から下に引くことで兵器は動き出すのだろう。壊すにしろ、制圧にするにしろ、単純な造りと言うわけではなさそう。なのでここは、ビャッコさんの古代文明の知識の出番だ。
「ニアちゃん、行って!!」
「分かった!」
ビャッコさんにまたがったニアちゃんから頼もしい返事が返ってくる。私はサポートに入るために、兵士の人とニアちゃんの間に割って入るように立ち塞がった。
「ラピッドドロップ!」
まずは牽制のためにコタローのアーツの中でも唯一の範囲攻撃で兵士の人を散らす。その間に、エーテルを純化、圧縮、凝縮していくことは忘れない。別の場所では、蒼炎が輝きを放っている。制御装置まで高々十メートルのはずなのに、それが異様に遠く感じる。白銀の鎧に身を包む兵士の人たちの隙間からは、ルクスリアの国王様が、野趣あふれる容貌とは正反対の複雑そうな表情をしているのが窺えた。信じられない物を見るような、そんな顔だ。
どうして、という声を聞いた気がした。それは誰にとっての、どんな意味の言葉だったのだろう。
その声の主を見つける前に、入口から兵士の人たちがなだれ込んできた。あれよあれよという間に取り囲まれて、なかなかニアちゃんを制御装置まで連れて行ってあげられない。
見れば、レックス達も同じように動きを封じられて、エーテル加速器のところまでたどり着けていないようだ。ここでようやくエーテルが溜められる最大限まで溜まり、青色の強い光がボールから放たれる。
「コタロー! 力を貸して!」
「おう! 遠けりゃ音に聞け! 近くの奴は目にも見てろ! これが俺たちの最大火力だ!」
限界まで純化、圧縮したエーテルはブレイドコンボには繋げられない。けれど、同等ぐらいの威力は出る。
無色透明な風の力が、埃や様々な細かい粒を巻き上げて形になっていく。
「吠えてっ!」
「吹き飛べっ!」
「「テアリングハウル!!!」」
コタローの遠吠えを合図にそれらは分裂し、オオカミの群れのように目の前に立ち塞がる兵士の人たちに襲い掛かる。風の狼の群れに引き裂かれ、吹き飛ばされた白銀の鎧をまとう兵士の人の間から、ルクスリア国王と目が合った。その人は、目で謝っていた。
「許せよ」
それは誰に向けての言葉だったのだろう。
それでもその人は、振り上げた手を止めることはしなかった。たった一度の合図。そうして制御装置の前にいた兵士の人は、大仰なレバーを上から下に引き下ろした。
エーテル加速器が唸りをあげ、赤い電撃が砲身に溜められていく。
「しまった……!」
メレフさんが視線を向けた先に連られて目をやると、レックスの「ホムラ!」と言う声が次いで聞こえた。
「――させへんで!!」
同時に黒い人影が跳躍した。その人はエーテル加速器の上にうまく着地をすると、青い輝きを放つ大剣を巨大な兵器に突き立てた。
青い電流と赤い電流が瞬く。――けれど、足りない。
その時に閃いたのは、いつかテンペランティアで戦った古代兵器の甲板での光景だった。あの時は確か、スペルビアの発掘した古代兵器をシンが操ってて、独立なんとか機構っていう自動迎撃装置のケーブルを断ち切っても、動きを止めなかった。
『確かにね。でも、こいつのコアには、まだエネルギーが残っている。同じなんですよ、ブレイドの武器と!』
あの眼鏡のヨシツネという人の言葉が思い返される。
もしかして、このエーテル加速器もあれと同じ?
「ハナ! チェーンジ、JKモード!! 下から押し上げるも!」
「了解ですも! ご主人!」
マントが解け、丸い殻のような物に隠れたハナちゃんが、メイドさん姿のJKモードになって空中を駆ける。
その派手な演出を目で追っているときに、ルクスリア王様の方に偶然視線が行った。壮年と呼べるくらいのその人は、先ほどの私と同じようにハナちゃんを視線で追って、お互いの目が合う。途端に、なにかモヤモヤした気持ちが浮かび上がってきて、私は慌てて視線をエーテル加速器の方に戻した。
「うぉぉおおおりゃあああ!! ですもーーーっっ!!!」
エーテル加速器の上にいるジークさんごと、砲身を持ち上げたJKモードのハナちゃんの活躍によってその軌道がわずかに逸れる。その一拍後に、エーテルの充填が完了した赤熱したレーザーがホムラさんの背後にある巨大な円形の窓のようなものを貫通した! 赤い一筋の閃光は、数秒間光を放った後にがくん、と砲身を項垂れさせ動きを止めた。
「やったよ、レックス! あいつら、止めたよ!」
「うん!」
弾むようなニアちゃんの声とは対照的に、ルクスリアの王様は石造りの片膝を着いて俯いていた。
なぜか、私は王様の方にばかり気が向いてしまい、気が付いたら拘束具を断ち切って地面に倒れたホムラさんに向かってみんなが駆け出しているところだった。コタローに促されて、後ろ髪を引かれるように王様から視線を外し、ようやくそちらへと駆け出す。
みんなの隙間から見えたホムラさんには目立った傷はない。ようやく安堵の息をみんなが吐いた時に、私たちの後ろから低い男の人の声が聞こえた。
「500年だ」
「っ!」
「500年の間、我がルクスリアは
王様はレックスに向けてまっすぐ問いかける。しかし、レックスが口を開く前に、王様はゆっくりと語り出した。
「聖杯大戦で古王国イーラは滅亡し、国の英雄アデルは帰ってこなかった。古王国イーラは、あくまで英雄アデルを中心に纏まっていた国だった。だが、父祖たちはそうではなかった……。我が王家はイーラにおいては傍流。戦後の混乱に乗じて今の地位を得たにすぎぬ」
世界を救った英雄の伝説は、人心に深く根付いている。その英雄アデルの名前を使うのは必要悪だった。だって、そうしなければ、そうでもして民を纏めなければ多くの血が流れ、ルクスリアとして国を纏めることができなかったから――。
そういう時代だったのだ。と、王様は言い訳をするように呟いた。
「それでも――。世界を二度と灼かせないという思いも本物だったのだ……」
「……なに綺麗ごと言うとんねん。早い話が、うまいこと権力の座におさまっただけやろ!! ムカツクわ……!」
「歴史とは、そういうものだ……」
「我がスペルビアだって、いつそうなるか――」
「あぁ、軽々に責めることはできんな」
国を背負う立場としてカグツチさんとメレフさんが、同情の眼差しをルクスリアの王様に向ける。
私には国を纏めるとか、そんなお話しにはついていけないので、静かに大人の人たちの話を静かに聞いてるだけだった。そんな折、同じように静かに話を聞いていたニアちゃんがふと、顔を上げた。
「アデルって人は、本当に帰ってこなかったの?」
「うむ。記録では天の聖杯を封印した後に、行方知れずとなっている。恐らく帰国の途中、いずこかで命を落としたのであろう……」
「――行方知れずではありません」
「なんと言った? 天の聖杯」
「彼は――アデルは全て予見していました。国が滅んだ後、人々がどうなるかを。……でも、あえて戻らなかった」
「アデルの意思でそうしたと? なぜだ?」
ルクスリアの王様の問いかけに、ホムラさんは言葉ではなく左耳の翠色のピアスを外して手のひらの上に差し出した。その動きが何かのスイッチになっていたのか、映写機のように放射状に光を放ちだすと、私たちと王様の間辺りにフードを被った男の人の姿が立体的に浮かび上がった。確か、こういうのってホログラムって言うんだっけ。翠色のちょっとノイズがかった映像は、機械を通したような音声で滑らかに語り出した。
『我が後胤達よ。私はアデル・オルドー。私は今日ここに、天の聖杯を封印する。しかしそれは、永劫のものではない。いつの日にか、我々人が天の聖杯にふさわしい存在となれた時のため、彼女を後世に託そうと思う。
彼女は希望だ。人がよりよき存在として、生きることができた時、彼女はきっと応えてくれるだろう。その日が来ることを信じて、我が願いと共に――』
たった一分もない過去からのメッセージ。
英雄アデルの立体映像は、それだけを告げると微かな残像を残してその場から掻き消えた。役目を終えたピアスは光るのを止め、完全に停止したのを確認するとホムラさんは再び元の位置にピアスを着ける。
「彼は後の世の、様々な混乱を予見していました。その上で彼は、迷う私に言ったんです」
――これは、試練だと。
「私が眠りについたのもそう。これは、人間が越えなければならない試練だと。でなければ、人は私たちと共に歩む資格はない。とアデルはそう言ったんです」
「歩む、資格……?」
「どういう意図から出た言葉なのか、私にはわかりません。単に、人間とブレイドとの共存を指したのか、それとも……。でも、それは覚悟だったと思います。人が、生き残るための――」
その時だった。ホムラさんの言葉が言い終わる前に、部屋が大きく揺れ出した。
私と近くにいたニアちゃんは、転ばないようにお互いに支え合いながら辺りを見回す。すると、ルクスリアの兵士の人が『陛下!』とこちらに駆け寄ってきた。
「何事か」
「ゲンブが――我々の制御を外れ、雲海に沈み始めました!!」
「何!? まことか!?」
血相を変える王様たちに置いてけぼりを食らっていると、ジークさんの横に控えていたサイカさんが、胸のコアを押さえながら突然苦しみだして膝を着いた。慌ててサイカさんの近くに駆け寄って全体を見てみるけど、何か怪我をしたりとかではないみたいだ。
ただ、冷や汗が止まらないようで、私は額や頬に流れる汗を拭ってあげることしかできない。
みんなの話を聞く限りだと、さっきのエーテル加速器の一撃が巨神獣に何か影響してしまったみたいだけど……。
「ゲンブの制御には
「えっと。ゲンブ、壊れちゃったんですか?」
「もう、ウチノ言葉も届いてへん……。このままやと、どんどん深く潜ってしもうて、そんで――」
そこで、サイカさんは言葉を切ってしまって肝心なところが分からず仕舞いだった。唯一知ってそうなジークさんは「阿呆が、あないな骨董品使うからや!」と頭に血が上ってしまって聞けそうにない。
続きを聞きたくても、蹲っているサイカさんの息がどんどん上がってく。その途切れた言葉を続けたのは、意外にもレックスだった。
「雲海は、密度的には水とほとんど同じなんだ。深く潜れば、それだけ圧力が高くなる。500も潜れば人間なんてペチャンコさ」
その言葉を聞いて背筋が凍り付いた。圧死、という単語が脳内にちらつく。
「深度は今なんぼや?」
「およそ2200メルト。一分につき、120メルトの速さで沈んでいってます」
「外郭の限界深度は?」
「2万5千が限界かと……」
「ほんならもって3時間ってとこかいな」
「計算早っ!」
「亀ちゃんの癖に!」
普通に感想を漏らしたつもりだったけれど、続いたニアちゃんの言葉で茶化したようになってしまう。
「あほ」とジークさんから手厳しい反応が返ってくると同時に、再びゲンブが揺れた。
ジークさんの眉間の皺が深くなった。
本当に、一刻の猶予もない状況の中、私は何もできずに苦しむサイカさんの背中を撫でてあげることしかできなかった。
次話『ルクスリア王国 下層』
多分。
こちらでは描写はしないですが、ゲーム内で一、二を争う迷子ポイントまでやって参りました。あそこをゲーム内時間で3時間で行くのかと思って「無理やん!」となったのはいい思い出です。