楽園の子   作:青葉らいの

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05『ウニータ交易所』

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『俺さ、ホムラと出会う前はサルベージャーだったんだよね。いや、今もだけどさ』

『サルベージャー?』

『雲海に沈むお宝を探して換金する仕事。交易所とかで見たことない?」』

『あぁ、あの機械部品みたいなの? あれが雲海に落ちてるの? 水とか入って壊れない?』

『……アサヒってさ、自分が楽園の子ってこと隠す気ある?』

『……………………』

『まぁ、とにかく。俺はじっちゃんの背中で雲海に潜りながらサルベージしたお宝を交易品として売って生活してたわけ』

『ねえ、レックス。レックスはサルベージしたものたくさん見てきたよね?』

『え? う、うん』

『これと同じの、見たことないかな?』

『これは……?』

 

 ―――――――。

 

『ごめん、俺は見たことないよ』

『そっか……』

『あぁ、でもトラなら』

『トラ?』

『あいつ、あれでも人工ブレイドを自分で作っちゃうような奴だからさ。アサヒのそれも、もしかしたらわかるかもしれないぜ』

『ありがとう。明日聞いてみるよ』

 

 

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「ももっ! アサヒとコタローも! 交易所に来るなんて珍しいも~!」

「こんにちは。店主の人は……留守?」

「王都に買い物に行ってるも! その間はこのレララが店番を務めるも! さぁ、何をお探しですかも? 初回利用のアサヒにはいろいろおまけしちゃうも~!!」

 

 店主不在で勝手におまけしたら怒られないのかな。

 やたらとテンションの高いレララに愛想笑いを浮かべて、私はゴザのような上に綺麗に並べられた交易品の品々をじっくり見ていく。三角形に紙を折ったところにはその部品の名前と値段が書かれているのだけれど……。正直言って、こちらの世界の文字は私のいたところのものとは全然違う。数字だけは辛うじてアラビア数字を使ってくれているのだけが救いだ。

 

「お店で売ってるのはこれで全部なの?」

「もも? 裏手に回れば選別中のものがあるも。でも二束三文で買い叩いたガラクタと一緒だから、探すの大変も~。探し物があるならレララが探してくるも。何が欲しいんだも?」

「ええっと……正式名称が分からないから、自分で探してもいい?」

「お店の商品になるかもしれない物をお客さんには触らせられないも~! 自分で探したいなら、前金を払うも! 保険料だも~!! 1500Gも!!」

「おいおい、それはいくらなんでも足元見過ぎ……って、払っちまうのか!? アサヒ!」

「? だって、必要なんでしょ?」

 

 お財布から1500Gをレララに渡すと、ほくほくと飛び跳ねながら私を裏手へ連れて行ってくれた。足元のコタローが「俺か……!? 俺の金銭感覚がおかしいのか……!?」とブツブツ呟いている。高かったのかなぁ。と思うけどいまいちこちらの世界の高い安いが分かっていない私としては、自分で探させてくれるなら何でもいいやと気にしないことにした。

 バザーのテント見たいなお店の裏手には、大中小様々な木箱が積み立てられている。手前側には小さな木箱。奥に行けば行くほど大きい木箱が置いてある。うわ、思った以上に骨が折れそう。

 

「後は好きにするも! あぁ、でも持っていく前に一度レララに見せるも!」

「部品と部品がくっついてたら分解しちゃってもいいかな?」

「ももっ!? それも一応相談してほしいも!!」

 

 あとは鋭いものもあるので怪我しないように注意することと、物によっては追加料金を貰う場合があるなど、色々言われてレララはお店番に戻っていった。ぴょこぴょこ跳ねる後ろ姿が完全に木箱に隠れるのを見届けてから、私は地面に膝を突いて小さい箱から検分していく。わぁ、細切れのケーブルとかネジとかバネとかごちゃごちゃだ。でも思った以上にいろんな部品がある。これなら、と思っていると視界の端っこで部品と格闘する私をみてコタローがよろりとふらついた。

 

「朝っぱらに帰ってきたと思ったら、交易所に行こうとか。行ったら行ったで部品弄りだすわ……。あの一晩でアサヒに何があったってんだ? まさか大人の階段を……!? いや、上ったにしても、もっと…こう……! あっただろ! いろいろな方面の人が喜ぶような、そういうのが!」

「コタロー、まだ寝ぼけてる? 結構時間かかるかもだから、寝ててもいいよ?」

「素で言ってんのか、それともあしらわれてんのかもわからねえような高度な返事はやめようぜ、アサヒ!」

 

 勝手に妄想している愛玩ブレイドは置いておいて、私は部品の選定を続ける。

 ざらざらと手の上で小型の部品を転がしながらコイル、端子、イヤホンジャック、確保した。あとは……エナメル線とイヤホンと適度な大きさの箱と木片とかがあれば言うことないんだけど……。一つ目の箱からそれ以上は出て来ず、二つ目、三つ目と小さな箱を開けていってエナメル線はほどなく手に入って、しかも奇跡的にクリスタルイヤホンを見つけることができた。そこで喜んだもの一瞬、はたと気が付いて私は検分の手を止めた。

 

「そういえば……この世界ってアルミホイルとかビニールとか見たことないかも……。困ったな。石油とかってあるのかな……? コタロー、見たことある?」

「言ってることが全然わからねえ時点で察してくれ」

「そっかぁ……」

 

 こちらの世界の代替品が思い浮かばず、作業の手を止めて考えてると「ももっ!」という特徴的な声が聞こえてそちらを振り返った。レララは今接客中だ。と、いうことは――

 

「ハナの言う通りだったも! アサヒ―、探したもー!」

「えっへんですも」

「トラ、ハナちゃん。ちょうどよかった、相談したいことがあったんだ」

 「「相談したいこと(です)も?」」

 

 反応がそっくりな二人に、私はかくかくしかじかと状況と目的を伝えると、トラが目を輝かせた。

 

 

 

 

 交易所で必要なものを購入して、私たちは骨休めの広場で車座になって座っていた。

 お弁当箱サイズの木箱に十字の対角線上に木とエナメル線を這わせた菱型のアンテナを伸ばして、中にはアースとコンデンサと呼ばれる回路、そして出力には交易所で購入したクリスタルイヤホンを付けて完成だ。

 

「じゃじゃーん、鉱石ラジオ―」

 

 出来上がったラジオを持ち上げトラとハナちゃんに見せると、二人はパチパチパチとまばらに拍手をくれた。コタローはふんふんとでき上がったラジオに鼻を近づかせて、危ない物じゃないかを確認している。

 

「すごいも! おもしろいも! トラ、こんなの見たことないも!」

「これ、何をするものですも?」

「えーと、あたりに飛んでる電波を検知して音にして流すものだよ」

「! すごいですも!」

 

 元の世界で読んだ本で知った知識だったが、作ったのは二度目ということもありだいぶうまくできたようだ。学校で一度作った時には、すぐ壊れてしまったけれど、トラのハナちゃんのメンテ用の素材と道具を貸してもらえたお陰でかなりしっかりと作ることができた。さて、後は実際に動かして試してみるだけ。

 私は首の後ろに手を回して、細い金属の感触を確かめる。噛み合っていた金属のチェーンを外して、中心に垂れ下がっていた銀色の板状のものを掌に転がした。

 

「アサヒ、それはなんだも?」

「これが鉱石ラジオの要になる鉱石だよ。前にハナちゃんが私からビビビビーってするって言ってたから思い出したの。――っと、その前にトラ。こういうの他に見たことある?」

「「ない(です)も」」

 

 きっぱりと言い切られてしまっては取り付く島もない。

 この認識票(ドッグタグ)は私が施設に預けられた時から持っていた、いわば唯一の身元を証明するものだ。

 掌の上で光る銀色の板には、英語でもロシア語でもない不思議な文字が刻まれている。あちらの世界にいた時にも、市役所の人も施設の人も誰一人としてその文字を読むことはできなかった。

 銀色の塗装は端っこの方が一部剥げていて、緑色の地金が見えている。いつ剥がれたのか。そのあたりには全く記憶が無い、ただのアクセサリーだけど。他の認識票(ドッグタグ)とは違い、これは特殊な金属で覆われていることからこの鉱石ラジオの検波器に使える。それを知ったのは、私が数年前にこの鉱石ラジオの試作機を作った際、面白半分で咬ませてみたら聞こえたという経緯があるからだ。この銀色の金属が何でできているのかは、知らない。もしかしたら全く未知の金属なのかもしれない。

 とりあえず、首から外した銀色の板を検波器の部分に咬ませて、アンテナ代わりの金属の板と板をこすり合わせる。

 

「音がしないも」

「違いますも、ご主人。音が小さすぎるんですも。ハナがスピーカーの代わりになるですも」

 

 そう言うとハナちゃんはイヤホンをジャックから抜き取って、代わりに小指をジャックに蓋するようにくっつけた。そこからどう接続されているのか、ハナちゃんの口から「ジジッ、ザザーッ」とノイズのような音が聞こえてくる。女の子の口から聞こえてくるノイズって、怖いな……。と思いながら、周波数を弄るために金属を縦にスライドさせていく。

 

「ジッ……ザッ……ね」

 

「シ…。…………ね」

 

「シ…。ザザッ――ね。ザザザザザッ!」

 

 ブツンっという音と共に鉱石ラジオの音は途切れた。

 ラジオから流れたのは無線傍受とかではなく、完全に呪怨とかのそれだった。

 スピーカーを買って出てくれたハナちゃんも端子から指を離して自分が発した音源に対して首を傾げる。

 

「なんだったんですも? 今の、女の人の声みたいだったですも」

「こ、怖いも……。アサヒは何か怒らせてはいけないものを怒らせた気がするも……!」

「おいおい、こりゃ洒落になんねえぜ……」

「え、いや、こんなはずじゃなかったんだけど。おかしいなぁ」

 

 向こうの世界で理科の先生に手伝ってもらって作った鉱石ラジオは確かに音はか細いし、聞きにくいこともあったけどこんな怨霊の声を受信するような代物ではなかった。この世界特有のものなのなのかな。それに、みんなは何も言わなかったけれど、さっきの女の人の声。泣いてる……ような気がした。それを確かめるためにその後も、イヤホンを接続して音を拾おうとするも、ノイズばかり走って特に何も聞こえてこなかった。

 ザリザリという音と逆の方からコタローが鼻を鳴らしてトラに問いかける。

 

「そういやお前ら、アサヒを探してるって言ってなかったか?」

「!! そうだったも! 忘れてたも! ヴァンダムのおっちゃんがアサヒを呼んで来いって言ってたも!」

「えっ!? そ、そういうことは早く言って欲しかった……!」

「ごめんも。トラ、珍しい機械を見て当初の目的を忘れてしまったも!」

「ご主人……」

 

 憐れむようなハナちゃんの視線からトラは乾いた笑いを浮かべて回避する。

 これ以上何を言っても時間が戻ってくるわけじゃない。認識票(ドッグタグ)を抜き取った鉱石ラジオはトラとハナちゃんに預け、私とコタローは駆け足で傭兵団本部へと向かう。

 

 

 

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 一方その頃、雲海の底近くに隠された秘密基地のような場所に黒い潜水艦が接岸した。

 そこから降りてきたのは10代後半の風貌をしたイーラの参謀ヨシツネとそのブレイドのカムイである。

 ヨシツネは疲れたようにため息を吐き、逆にカムイは銀色の蝙蝠の翼のようなものを使って縦横無尽に宙がえりをしながらふと、接岸した施設の岸辺に金髪の青年と黒髪の少女が立っているのを発見した。

 

「あっれ~? ベンケイとサタヒコじゃん! どしたのにゃ~!? まさか、お出迎えとかぁ~?」

 

 甲板も階段も無視してカムイは同じイーラの二人の前に降り立った。サタヒコと呼ばれた金髪の青年はカムイに軽薄な笑みを浮かべたが、隣のベンケイはぶすくれて目を合わせようとしない。するとようやく、カムイと違って空を飛ぶことのできないヨシツネが彼らの輪に加わった。

 

「これはこれは、我が愛しの妹じゃないですか。あなた自らが出迎えとは……明日は槍でも降りますかね?」

「うるさい。あたしは面倒だから来たくなかったんだよ。それをサタがしつこく言うから仕方なく……」

「心外だなぁ。もとはと言えばベンケイのミスなんだから、ベンケイから頼むってのが筋だろう?」

「チッ……」

 

 見るからに訳ありな二人に対してヨシツネとカムイは顔を見合わせた。ここから先は茶化しても話は進まないだろうということで、カムイはワクワクしながらちょっとだけ黙って三人の様子を窺った。

 

「……あのさ、コアクリスタルを探してんだけど……」

「正確に言うと、とある商人が同調してたブレイドのコアクリスタルが望ましいんだけど……。まぁ、数が合えば別段それじゃなくても構わない」

「コアクリスタル、ですか? 具体的には?」

「属性は恐らく風、武器はボールの回復系ブレイドだろうね。これが一番特徴的なんだけど――犬型だ」

「風で、回復の犬型ブレイド……?」

 復唱するヨシツネよりも早く、ピンときたカムイはにんまり笑って「ヨシツネぇ~! それって、さっきの――!」と言う前に自分のドライバーに発言を制される。赤い眼鏡をくいっと上げて、ヨシツネは高ぶった声色で言う。

「あぁ! 事実は小説より奇なりと言いますが、これぞまさに運命! 最っ高の演出ですよ! ベンケイ!」

「意味わかんないんだけど。そのブレイドのこと知ってんの、知らないの?」

「ええ、もちろん知ってますよ。そのブレイドは新たなドライバーと同調して今はフレースヴェルグにいます。天の聖杯と一緒にね……」

「チッ! まためんどくせえのと一緒にいやがる……! ちょっと今から行ってそいつのコアを――」

 

 踵を返して己のブレイドであるラゴウを呼びに行こうとするベンケイの進路をヨシツネが腕一本で阻んだ。足を止められ不機嫌そうに兄を自称するその仲間に目だけで抗議をすると、得意げに眼鏡を押し上げ、更にオーバーリアクションで語り始めた。

 

「いいえ! ここはこの僕が、可愛い妹のためにそのブレイドのコア共々奪ってきてあげますよ。天の聖杯と一緒にね!! まぁ、あなたはそのまま千本狩りでもしていてください」

「策でもあるのか?」

「僕を誰だと思っているんです? サタヒコ。今の話を聞いて、より創作意欲がわいてきました! 早く思いついた脚本を紙にまとめなければ……! カムイ、いくよ!」

「あいあいさ~!」

 

 一応形だけとは言え生活スペースも完備された秘密基地の奥に進むヨシツネとカムイ。

 ヨシツネはエンジンがかかってくると身振り手振りが大げさになり、声を張り上げる悪癖があった。ブレイドのカムイはそんな彼の影響を受けているのか、やんや、やんやと楽しそうに奥へと進んでいく。それを見送るベンケイとサタヒコは背筋にうすら寒いものを感じていた。

 

 

「天の聖杯にも犬型ブレイドにも彼らのドライバーたちも全て!! すべては僕の手のひらの上です!!」

 

 

 人目も憚らず、愛しの妹などと豪語している割にはその妹にドン引きされていることも知らず。

 このポンコツお兄ちゃんはどこまで行っても止まらない。

 

 

 




次話『青の岸壁 再び』
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