楽園の子   作:青葉らいの

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65『続・ゲトリクス神託跡地』

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 天の聖杯の本来の力を呼び起こしたレックスと、ヒカリさん達の力は圧倒的だった。

 なにをどうやっているのかは分からないけど、明らかに天の聖杯の二人が持っていない属性が瞬き、翻り、イーラ最強のシンともう一人の天の聖杯であるメツを追い詰めて行く。

 例えば水。

 例えば風。

 例えば雷。

 例えば土。

 例えば闇。

 スイッチを切り替えるように、アルストでブレイドが持つであろうすべての属性を操るその人たちがいれば、怖い物なんてなかった。私たちの繰り出したアーツは全て、レックス達の手によってブレイドコンボに昇華されていく。こんなにうまく繋がっていいのだろうか、と疑いたくなるほどの連鎖だった。

 

「……すごい……!」

「あぁ、これが――天の聖杯の本当の力なのか……!?」

 

 足元で同じ光景を見ているコタローも、驚きを隠せないらしかった。

 私たちは揃って開いたまま塞がらない口を何とか閉じて、改めて目の前の敵を見据える。

 どれだけ粒子を操れようとも、どれだけありとあらゆる物質を消去できる力を持っていようとも、仲間の力を束ねそれを一つにまとめて行くヒカリさん達の力には及ばない。

 そうして、高めに高められた私たちの士気が最頂点になった時にレックスの声が響いた。

 

「みんな、息を合わせて! ――まずはオレっ!」

 

 間髪入れずに投げ渡された金剛石のように透明な天の聖杯の剣がヒカリさん達の手に渡ると、その剣先にプラズマのような青白い光の玉が集まっていく。

 

「スターバーストッ!!」

 

 突き刺すような強烈な一撃。しかし、その一撃では終わらない。

 

「トラ! 遅れるな!」

「ほい来たも! ハナ!」

「てっててーん! やっちゃうですも! ――ハナ、スピンカッター!」

 

 ハナちゃんのドリル付きの盾が唸りを上げ、横にスピンをしながらメツ達に突っ込んでいく。ブーメランのような軌道を描き、無事に自分の手に戻ってきた盾を再び構えトラが飛び上がった。

 

「ニアの番だも!」

「ニア様の出番だよ! ビャッコ!」

「はぁああああっ! ――アクアウェエイブッ!!」

 

 ビャッコさんの咆哮と共にツインリングの中心から渦を巻いた水が一直線にシン達に向かって進む。勢いを伴ったそれは、いくらシンが氷属性のブレイドだったとしても、簡単にかき消せるものではなかった。

 ビャッコさんの生み出した水の奔流が治まる前に、ブレイド姿のニアちゃんから視線が飛んできた。

 

「アサヒ! 派手によろしくっ!」

「任せて! コタロー!」

「食らいやがれっ! ――エアリアルハウンド!」

 

 仲間の士気と共に濃度を増したエーテルを取り込んだコタローのボールは、即座に二段階目の必殺技が撃てるまでに溜まっていた。私は手に持ったボールを高く放り投げる。それと同時に、足元の豆柴型のブレイドも軽やかな音と共に地を蹴り、ボールの高さまで飛び上がると、不可視の空気の刃がイーラ最強のブレイドともう一人の天の聖杯に牙を剥いた。

 続けてコタローから生み出された風から供給された大量の酸素に、隣にいたスペルビア最強の操る青い炎がより一層輝きを増させる。

 

「メレフさん、お願いします!」

「いいだろう! カグツチ!」

「はい、メレフ様。スペルビアの威信にかけて。――過龍!」

 

 カグツチさんの両手に握られた伸縮する二本の剣が鞭のようにしなり無数に斬撃を加えて行く。その時に纏った炎が空気を燃やす音が、熱風と共に私の髪を嬲った。

 炎は更に風を生み、摩擦を起こした風がバチバチと電気を巻き起こす。

 

「ジーク! 良く狙えよ!」

「おうっ! 行くでぇ、サイカッ!」

「ウチらのコンビネーション、見せたるわ! ――サンダァァア…ドゥームやーーーっ!!」

 

 雷鳴が耳を劈いて、思わず私は耳を塞いだ。

 天の聖杯であるヒカリさん達の発する光に負けず劣らず、瞬間的に塗りつぶされた視界が元に戻った時には、空気中にサイカさん達の生み出した雷の残滓が、パリパリと細くて青白い光を放っていた。

 形勢は確実にこちらに傾いている。というよりも、ヒカリさん達の強さが破格なんだ。

 私たちの猛攻に、メツが最初に膝を突いた。その後、駄目押しとも言える力で後方に押しやられたシンに向かってレックスがローリングスマッシュを放つ。

 それは惜しくもシンには当たらず固い地面にぶつかったけれど、その剣の接触した部分からは光の柱が立ったように見えた。それほどの莫大な量のエーテルが辺りの空気もろとも塗り替える。

 

「莫迦な――!」

 

 シンに驚愕の表情が浮かんだ。そしてそれはすぐにその人の姿ごと見えなくなった。

 イーラ最強と謳われたブレイドが、自身に宿った『粒子を操る力』を使って光の速度で動いたのだ、と気付いたのはそのすぐ後だった。

 ゲンブの頭で戦った時とは違う。全力全開のヒカリさん達の力を借りたレックスが、シンの速度に追いつけない訳がなかった。

 シンの纏う薄青いオーラみたいな光と、レックス達の纏う翠色の光が中空に描かれる。その軌跡を私たちは首を巡らせて追うことしかできなかった。メツを倒す絶好のチャンスであるにもかかわらずに、だ。

「これが、ホムラとヒカリの本当の力――」と、呆然とする私と同じように空を見上げるニアちゃんの声に反応をしたのは、低い男の人の声。

 

 

「何てめぇまで驚いてんだよ、楽園の小娘。こんなもん、お前だってそいつを使えばできんだろうが」

 

 

 振り向いた先には、メツが口の端から血を流しながら不敵に笑っていた。

 私たちの全力の攻撃をあれだけ受けても、まだ笑うだけの余裕があるのか。と背筋に冷たいものが走る。

 それはみんなの警戒度を上げるには十分すぎる出来事だった。

 メツを取り囲むように、ジークさんやメレフさん、トラもニアちゃんも一斉に武器を構える。

 そんな状況下においても、その天の聖杯の視線は私だけに注がれていた。

 

「さっきから、なんや遠回しにようわからん事言いおってからに……。アサヒがなんやっちゅーんや!?」

認識票(ドッグタグ)

「……なんやて?」

「インヴィディアの遺跡の後に塗装が剥がれたんだってなぁ? なら、ゲンブの頭じゃどれくらい剥がれてた? なぜ剥がれた? 全部、天の聖杯(ヒカリ)が関係してたんじゃねえのか?」

「そっ――んな、こと……」

「まだだ。てめぇはいつからそれを手に入れていた? どこで! どうやって!!」

 

 私は奥歯が鳴るほど歯を食いしばって、口を衝きそうになる言葉を力任せに押し留めた。

 答えられるわけがない。否定すればするほど、メツの嗜虐心を煽りそうなのもそうだけれど、それよりも前にこの認識票(ドッグタグ)は、私が地球で生まれた時から持っていたものだ。このアルストに来るまで、鉱石ラジオに組み込んで電波を拾える以外にはただのアクセサリーでしかなかったから。それが、このアルストに来てから天の聖杯の力に呼応するように銀膜が剥がれて、高密度の記録媒体や受信機だとかと言われて――。

 理論武装をしようとすればするほど、メツが言わんとすることに根拠を与えてしまうようなことばかり思いつく。もし、それらが全て本当なら、そうとしか考えられないじゃないか。

 ――駄目だ。考えるな、私!!

 

「認めたくないなら俺の口から言ってやる」

「ま、待って、やめて……!」

「てめぇの出自なんざ知ったこっちゃねえ。だがな、その認識票(ドッグタグ)は間違いなく天の聖杯――いいや、神と繋がってる。てめぇは、正真正銘の楽園の子なんだよ!」

「違っ――」

「惨めったらしく理論武装してんじゃねえぞ。飽き飽きしてんだよ、そういうのには」

「っ!!」

「怖いか? 事実を知るのが。なら、てめぇには俺の口を封じるための方法も、道具も全部揃ってるはずだよなぁ!? ――やれよ。てめぇの持つ力と技術を使って、全力で!!」

 

 コタローのボールを掴む手が無意識に震える。

 あんなにぼろぼろの姿のメツを前にしても、今の私には逆立ちしたってあの人に勝てる気がしなかった。

 

「それとも――この天の聖杯(おれ)直々に、その力引き出してやろうか? あぁ!?」

 

 ここからメツとの間には距離があるはずなのに、彼がこちらに手を伸ばした途端、応えるように認識票(ドッグタグ)から一瞬だけ翠色の光を放つ。私は服越しに熱を持つそれを握った。

 そうして問うような、挑むような銀灰色の瞳から逃げるように目をぎゅっと瞑って私は叫んだ。

 

「――やだっ!!」

 

 聞き分けのない小さな子供じみた拒絶の言葉。

 何に対する拒絶かなんて、私にも分からなかった。

 メツの口車に乗ることも、それでメツを自分の手で倒してしまうことも、メツの言う事実を認めることも、全部したくなかった。

 そして、私たちの会話を遮るように、光が堕ち爆発音が辺りに響いた。それは、中空で斬り合っていたシンとレックスが地上に戻ってきた音だった。

 土煙の立ち込めるその中で、シンの苦しむ声とレックスの声が風に乗って聞こえて来る。

 

「甘いな……。今斬らねば、後悔するぞ――」

 

 遠くからするシンの声は、違うと分かっているのに、まるで私に向けて言ってるみたいだった。

 目の前には多少は回復したけれど満身創痍のメツがいる。

 今、斬らないと次はもうないかもしれない。

 

「オレの本当の目的は戦うことじゃない。楽園に行くことだ。だから、オレ達の邪魔をするな」

「………………」

 

 逡巡する私の背中を押ししてもらった気がして、そっとボールを構える手を下ろす。

 みんなや、メツが驚いたような顔をするけれど、レックスの言葉を聞いて私には別の意思が宿っていた。

 

「……らない……」

「なんだと?」

「私がこの世界の神様と関係あるとか、正真正銘の楽園の子だとか、関係ない。――たとえそれがあなたを倒せるものだとしても、面白半分で与えられるみたいなそんな力、()()()()

 

 そうだ。これがどんなものであったとしても、少なくとも、誰かから無理やり与えてもらうものじゃない。

 しばらくにらみ合いが続いた後に、つまらなさそうにメツの舌打ちが聞こえる。そうして、その人は片手に握った剣を肩に担ぐと、先ほどまでのダメージを微塵に感じさせないような悠々とした足取りで、私の横を通ってレックス達のいる方に歩き出しだ。

 

「チッ、どいつもこいつも……。おい、小僧。俺達には俺達の目的がある。てめぇらには戦う理由がないかもしれねぇがなあ、俺達にとっちゃ戦う理由しかねぇんだよ!!」

 

 慌てて追いすがった時には、メツはレックスと一触即発の雰囲気を醸し出していた。

 いつ戦いだしてもおかしくない状況に、私たちは駆け足でレックスたちと合流する。

 明確な敵意にレックスが吼えた。

 

「お前たちの――お前たちの目的ってなんなんだ!?」

「知れたことを。人を滅ぼし、世界を滅ぼし、そして――」

「神を消し去ってやるのさ!!」

 

 シンの言葉を引き継ぎ謳うように高らかに、メツが天に向かってそう宣言した。

 メツは天の聖杯。

 その人は、自分のことを『神をも含めた存在を消し去るために、神自身が使わせた消去者(イレイサー)』だと言っていた。

 聞き慣れない単語に、レックスが訝しげな声でメツの言葉を繰り返す。

 

「イレイサー、だって?」

「そう、オレはイレーサーとして世界を消滅させる。そのためには楽園に眠る最強の(デバイス)――『アイオーン』を目覚めさせる必要があるんだよ。それが、神に与えられた天の聖杯の本当の役目なのさぁ!」

「違うわ! (とうさま)はそんなことを望んでいない! あなたは間違っている!」

「……いいや、正しいのはこの俺さぁっ!!」

 

 下から上へ突風が突き抜けた。

 バタバタと音を立ててはためく服の裾がようやく落ち着いた頃、私たちの目の前に毒々しいほどの紫色をした胴長の何かが中空に浮いていた。

 なにあれ、と予測さえ不可能な私の前で、その胴長のそれは真ん中にある銃身に向けて明らかに異常すぎる紫色のエネルギーが充填し始める。ぞわりと背筋が粟立った瞬間、上から下へ突き刺すように光の柱が轟音と共に胴長の頭上に降り落ちた。

 真横で雷が落ちたような音に咄嗟に耳を塞いだ。そこまでしても尚耳がわんわんと鳴っている。

 人間の私がこうなのだから、耳が頭により近いコタローは私以上に耳が痛いだろう。と、思っていると、足元から意外と元気な声が聞こえてきた。

 

「今度は何なんだよ!? なんだ、あの白いの!? 」

 

 コタローが鼻先を向ける先にいたのは、さっき貫かれていた謎の機械(?)よりも小柄な白い機体だ。

 ちょっとだけ色合いがヒカリさんの装いと似ているところがあるけれど、そんなことを口に出す暇さえない。

 紫色のと白いのが光線を撃ち出し、ぶつかり合い、その余波として生み出した突風に危うく吹き飛ばされそうになる。慌ててコタローを抱き寄せて、その場にしゃがみこんだ。

 

 

「もう遅れは取らねぇぞ。――ホムラ、ヒカリィッ!!」

 

 

 メツの鬼気迫った声と共に、断崖に吹き付ける風がより一層勢いが増した。

 まるで台風の中にいるみたいな強い風に、石造りの断崖の方が悲鳴を上げている。砂交じりの強風の中でうっすらと目を開くと、自分たちが立っている足場から次々と亀裂が入っていき、端からばらばらと崩れて行く真っ最中だった。亀裂は瞬く間に私のいるところにまでたどり着き、ガクンッと視界がずれる。

 足元に感じる浮遊感に、なす術はなかった。

 

「ぅおおおあああああああっっ!!?」

 

 恐怖感を散らそうとするコタローの絶叫を間近に聞きながら、この世界に来てから三回目のフリーフォールを強いられた。

 

 

 




第五章『決意』完
次話第六章『真実』

チェインアタックの順番は、仲間になった順だったりします。地味なこだわり。
この一話にどれだけ時間かけてるねーん……。

そしてすみません、コメント返信は今日の夜になります……。
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