楽園の子   作:青葉らいの

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07『首都フォンス・マイム』

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 村と首都の間は普通に歩けば半日で着くらしいが、この世界では野生動物の他にモンスターも生息しているため、王都へ行くのも一筋縄ではいかない。腕の立つ人なら勝手にモンスターが怖がって近づかないらしいけど、今の私たちはまだその域に達していない。

 強さが同等くらいのモンスターは積極的に狙ってくるし、時には徒党を組んで襲ってくる場合もある。

 けれど一番厄介なのは、魂の頂で出会ったような、その地域で一体しかいないという名を冠する者(ユニークモンスター)だった。こちらから敵対の意思を見せなければ襲ってくることは無いが、手元が狂ってそれらをひっかけてしまった時は、最悪の一言に尽きる。

 

「アンカーショット!!」

 

 レックスの腕から放たれたアンカーのフックが二階建てバスくらい巨大な花を模したモンスターに当たり、緑色の瓶が二つほど宙に舞った。回復ポッドと言うこの世界特有の傷薬のようなものは、地面に落ちても一定時間は消えないのに人の手で力を入れただけで簡単に割れてしまう不思議な薬だ。この薬には殺菌、造血、組織再生の三つの効能があり回復手段が無いドライバーの命綱でもある。しかし、レックスのアンカーショットはそれだけじゃない。体勢を崩した敵にアンカーショットを撃つと地面に倒れ伏すダウンというリアクションが発生するのだ。

 そしてそれに続いて、取り囲むように位置取りをしていたヴァンダムさんが、スザクの鎌を構えて下から上に突き上げた!

 

「マッスルアッパー!!」

 

 ゴガッ! という音と共にユニークモンスターの体が宙に浮きグルグルと回る。ライジングと言う敵を浮かす技は今のところヴァンダムさんしか使っているところを見たことない。そしてその後に続く締めは私の役目だ。

 金色の緒でつながったコタローから伝わってくる力を手にしていたボールに籠める。

 

「ラピッドドロップ!!」

 

 そしてそれを両手を使って高く打ち出した。重力を伴って落ちてくるボールは見事にその花を模したドライバーであるそれの中心に、流星を連想するスピードで落ちた。

 足元を崩し、倒れさせ、打ち上げ、撃ち落とす。一連の流れはドライバーコンボと呼ばれこれが決まると相手に大ダメージを与えることができる。今戦っているユニークモンスターもゆらりと立ち上がるが、やがて光の粒子となって天へと昇っていく。そうして残ったのは足元にはお金と、コアチップにコアクリスタルが転がっていた。

 

「つ、強かったも~~! 日和散歩のマドレーヌ!」

「そ、そんな美味しそうなお名前でしたっけ……?」

「違いますも、ご主人。日和散歩のマードレスですも」

 

 そんなやりとりがありつつ、みんなはお互いの健闘を称え合ったり、落ちたお金などの回収をしている。その中で私は他のモンスターを倒した時にはなかった虫眼鏡のような不思議な形をした石碑に目が行った。

 これ、なんだろう? お墓のようにも見えるけど、何かのモニュメントだろうか。

 私は好奇心が刺激されてその石碑に近づいてまじまじ観察し、手を伸ばしてみるとレックスの慌ててた声が聞こえた

 

「あっ! アサヒ、それに触っちゃだめだ! さっきの奴がまた出て来る!」

「ええっ!?」

 

 あと1関節分のところでレックスの静止がかかり、私は石碑からぱっと距離をとった。

 咄嗟に突き飛ばすつもりだったのか、レックスも私の傍に駆け寄って安堵したような息を吐く。ドライバー5人がかりでようやく倒せた強敵と、もう一度戦いたいとは流石に思わない。

 二人して胸を撫でおろしていると、おっとりと笑ってホムラさんと私たちの様子を見たヴァンダムさんが歩み寄ってきた。

 

「大丈夫ですよ、レックス。触るだけならさっきのモンスターは出てきません」

「あぁ、あいつは墓に再戦の意思を伝えないと出てくることは無いからな。とはいっても気を付けろよ、アサヒ。お前の行動で、仲間が危険な目にあうこともあるんだからな」

「気を付けます、ごめんなさい……」

 

 気まずく謝ると、ヴァンダムさんはまた私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。気にするな、ってことかな。

 

「おーい、サルデ門はこっちだってー。行くよー」

 

 ニアちゃんに呼ばれて私たちは旅を再開させた。

 ゆっくりでも着実にフォンス・マイムへは近づいて行っているはずだ。

 

 

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 首都フォンス・マイムはサフロージュの木が至る所に植えられた都だった。

 インヴィディアの外は夜なのだろう。半透明の背中から差し込む月明かりが桜よりも少し濃いピンクの花を照らして、周囲を紫色に染めている。吹き抜けて来る夜風に乗って、サフロージュの花弁が視界を掠めていく。

 

「こういうのを花明かりっていうんだよね。綺麗だね、コタロー」

「あぁ、そうだな」

 

 インヴィディアの巨神獣の体内に広がる場所は大体が薄暗く、ぼんやりとした明かりが差し込むことが多い。そのため毎日日照不足に陥っているため、自生している花々は自ら光を発するように独自に進化を遂げた。しかしそれは巨神獣から離れる、花を手折ったり引き抜いてしまうとエーテルを供給することができなくなってしまうのか時間が経つと光が消えてしまうので、サフロージュの木も他の植物もここでは貴重な光源として自生するままになっているのだろう。

 向こうの世界の夜桜を思い出しながら景色を眺めていると、後ろからビャッコさんとヴァンダムさんの真剣な声が聞こえてくる。みんなはこの景色ではなく、近くに停泊している巨神獣船を見ているようだ。

 聞けば、ここインヴィディアと別の国のスペルビアの開戦が間近ではないかという話だった。その証拠にインヴィディアは軍備を拡張しつつあると、ヴァンダムさんは語る。この巨神獣船も輸送か、それとも兵器なのかは分からないけれど戦争に関するものであることは間違いが無いらしい。

 この世界で、巨神獣という生き物は人と寄り添う献身的な生き物らしい。様々な改造を施されても文句ひとつ言わず、その体を人間のしたいようにさせると言っていた。レックスのヘルメットの中にいるじっちゃんも、元は巨大な巨神獣だったらしい。なにせ体がまだ大きかった時には、背中に小屋を建てられお尻にクレーンを刺されても、文句ひとつ言わなかったというのだから巨神獣というのはそれだけ従順な生き物なのだ。

 私は腕の中のコタローに小さく声をかける。

 

「コタローは巨神獣と話せる?」

「いや、あいつらも無理だ。あのじーさんみたいなのはともかくとして、言語が違うとかじゃなく発声なんかの方法が違うんだろうよ」

「イルカが超音波で会話するのと似てるってこと?」

「まずイルカってなんだよ……」

 

 犬猫はいるのに、イルカはこの世界にはいないのか。

 まだまだこの世界の生態を把握するのは程遠いな、とその途方のなさに息を吐いた。

 

 

 

 巨神獣船が停泊していた場所よりさらに奥に進むと、石造りの要塞のような街が見えてきた。階段が多くて入り組んでいる。入ってすぐのところに広場のような場所があってそこで交易などをしているらしい。石畳の暗い色のせいか、それとも戦争が間近なせいか、陰惨な雰囲気を感じ取る。サフロージュの木の花弁がこの街にも吹き込んできて、暖色の蛍のような光の軌跡を描きながら、いずこかへと飛んで行く。幻想的な街並みにもかかわらず、この街の人たちはどこか暗く沈んだ顔をしている、

 白熱灯だろうか。二股に分かれた街灯に照らされる石畳の広場の一角で、長蛇の列ができていた。

 顔をすっぽりと覆った兵士が何かを並んだ人に手渡している。今は女の子がパンを受け取っていた。

 歴史の教科書とかテレビで見たことあるやつだ。ええっと、確かあれって――

 

「配給、かな……?」

「よく知ってるな、アサヒ。あそこは配給所だ。少ない物資を国の管理下で分け与えているんだが、ほとんど早い者勝ちっていうのが実情さ」

 

 日本でも世界大戦のときにはよく見られた光景だったはず。

 それが目の前で繰り広げられているというのは、やっぱり不思議な気分だった。そして、それを不思議と思う自分の中で苦いものを感じる。この光景がこの世界の普通であるならば、日本はやっぱりこの世界の人たちにとっては楽園なんだろうな。と思っていると、足元のコタローが「おい、なんかやべぇ雰囲気じゃねえか?」と注目を促した。改めて配給所に視線を戻すと、先ほど並んでいた女の子のパンを横から来た男が割り込み、女の子を突き飛ばして物資を受け取っていた。

 突き飛ばされた女の子は固い地面に倒れる。ホムラさんが慌てて駆け寄った後を私も着いてその子に近づいた。

 

「お、俺は国のために働いた兵士だぞ……! 優先的に配給を受け取るけ、権利があるはずだっ!」

 

 ホムラさんが女の子を庇うように立ち塞ぎ、私に抱き起こされた女の子は、こちらではなく取り上げられた配給品を今にもあふれ出しそうなほど涙を湛えて見上げていた。その泣き出しそうな目に配給を横取りした男は「な、何だよその目は……!」と意外にもたじろいだ。しかし、もう後には引けないと思ったのか振り切るように罵声を張り上げる。

 

「子供は大人の言うことを聞いてればいいんだよぉっ!!」

 

 そこで、レックスがホムラさんの横に並び立つ。

 こちらを向いて頷いてくれたので、この場は二人に任せて私は女の子の手当てをすることにした。

 普通の手当てだと時間がかかるので、今回は武器のボールを両手で持ってアーツを発動させる。

 

「リザレクションスフィア」

 

 ボールが女の子の足元から頭までくるくると回り、優しい緑の光が小さな体に振りかかる。

 その光を浴びたところから地面に擦った傷も痣も、目に見えて綺麗になっていった。

 あちらはレックスの一言で交戦になってしまったようだけど、4対1なら負けるはずはない。だがそれは、女の子の方には分からないようで、私の服を掴み焦った表情でレックスたちの方を指さす。

 

「お、お兄ちゃんたち戦っちゃうよ!?」

「大丈夫、あのお兄ちゃんたち強いから。もう、痛いところはない?」

「え……? う、うん……」

 

 キョトンとした顔で体の痛みが無いことに女の子は驚きを隠せないようだ。体を捻って傷を確認する女の子を見ている間に兵士は情けない声をあげて仲間を呼びに行ったらしい。どうやらホムラさんの噂が、この街の一般兵士にも伝わっているとのことだった。早くここを移動しようという話になると青みがかった白い髪の女の子は兵士がいなくなったのを確認すると、私を支えに立ち上がってヴァンダムさんに近づいて行った。

 

「ヴァンダムのおじちゃん……?」

「あん? ――お、お前、もしかしてイオンか!? 見違えたぞ! コールのじいさんは元気か?」

「………………」

「そうか、あまりよくないか……」

 

 この二人はコールという人を通じて知り合いという話だ。

 イオンという女の子はそのコールという人のところでお世話になっているらしい。

 まずは移動が最優先。私たちはイオンちゃんの保護者であるコールと言う人に会いに行くことにした。

 

 

 

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「その時私は見た! 暗黒の力がすべてを飲み込む様を――人も巨神獣も暗黒の力に飲み込まれていく姿を! 

 このままでは世界が終わる。終わってしまう!! だがその時! 満身創痍の身を起こし、わが師。英雄アデルは決断したのだった!!」

 

「神よ! 我に力を!! 暗黒を灼き払い世界を照らす光の力を!!」

 

「――おおおっ! そなたは天の聖杯! 神の僕! どうか、我に力を!! この世界に光を!」

 

「こうして暗黒は払われた。しかし、その代償は大きかった。多くの大陸が、雲海の底へと沈んでいったのだ……」

 

「神の僕よ……。そなたのお陰で世界は救われた。その命の代償、我が償おう……! 我は語り継ぐ! そなたの伝説を! 我の名と共に、永遠に……」

 

 

 ――――――――――。

 ――――――――。

 ――――――。

 ―――。

 

 

 そのコールさんは劇団の座長を務めているというので、フォンス・マイム唯一の劇場にやってきた私たちはちょうど公演時間だったということもあり劇を見ていくことになった。

 それがさっきの話、そしてクライマックスのシーン。

 タイトルは『英雄アデルの生涯』。

 この世界では当たり前に知られている英雄譚だそうだ。あちらで言う、桃太郎とか金太郎とかの位置づけになるのかな。それとも世界の成り立ちを語ってるから古事記になるのかな、と思いながら私たちは大人数でぞろぞろと裏手のスタッフがいる控室の廊下を歩いていく。後ろの方でこそこそとレックスたちがもめているので、後ろの方が来ないことにヴァンダムさんが不審そうな顔をした。

 

「なにやってんだ? あいつら?」

「天の聖杯がいるのに、天の聖杯を題材にした公演をぶつけたんだ。こうなることは予想してたんだろ? ヴァンダム」

「まぁ、スザクにはバレちまわぁな。公演してたのは本当に偶然だったんだが、ちょうどいいと思ってな。それだけ重要だろ? 自分のブレイドの前のドライバーを知るってのは」

「………………」

 

 スザクが押し黙ったところを見ると、その意見にいくらか賛同するところがあるということだ。

 私は心配になって、抱え上げていたコタローの耳元にこそこそと話しかける。

 

「後ろ、どうなってる……?」

「レックスがホムラに妙な話をしてるな」

「まぁ、難しいよね……」

 

 耳を逸らせて聞き耳を立てたコタローの言葉にちょっとだけ落胆を見せてしまった。

 当事者でもない私が聞いてもデリケートな話だから、言葉に迷うのもわからなくはないけどここは、こう、天の聖杯のドライバーらしく、ホムラさんの不安を取り除くような話をしてあげて欲しかった……。

 なんだか居心地の悪そうなレックスと、心ここにあらずなホムラさんが角からようやく出てきて、私たちは劇場の廊下の突き当りの部屋にたどり着いた。部屋の中で物音がするので、中に人はいるんだろう。

 

「入るぞ。お前ら、いいか?」

 

 頷いた私たちを見て、ヴァンダムさんは扉を開けた。

 明かりの乏しい部屋は物が散乱している。その中で、ローブを着た人がごそごそと何かを探しているのが見えた。

 

 

 

 

 




次話『パジェナ劇場』
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