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彼女の自己紹介は、とりあえず印象的だった。少なくてても僕にとっては。
ふつーの人なら、「可愛い女の子だな」程度の印象を感じさせるものだったが、僕には「こいつ神か」と感じられるほどだった。
化け物歴を長年(産まれたときから)やってきた僕だからこそわかるが、彼女は化け物だ。そして基本、化け物は受け入れられない。初対面から真っ向に否定され、独りになる、そんな雰囲気を持っている。
しかし彼女は違った。いや、より正確に言うなら同じであった。どうも彼女にもその雰囲気はあるはずだった。だが、彼女はその上から親しみやすさを足したのだ。孤独の雰囲気も、化け物の雰囲気も、近寄りがたい雰囲気も全部全部上から善の雰囲気で押し潰すのだ。
恐ろしい時間をかけたはずだ。優しい雰囲気など、親しみやすい雰囲気など、そうやすやすと身につけられるものではない。努力に努力を重ねたのであろう。それが僕だけに、僕だからこそ伝わったのだ。
故に僕は感動ーーだったけか? いや、今となっては昔のことであまりよく覚えていないのだけど、取り合えず僕の心を大きく揺れ動かしたのは間違いない。そして、それは障害が発動する条件を満たしているということでもある。
はてさて、少し前置きが長くなったが取り合えず僕は彼女を憎んだのである。
憎み恨んでいた僕は当然復讐を目論んだ。
死ぬよりも恐ろしい目に合わせてやる、と。
そのための準備として、初めに彼女の友達になるところから始めよう。なんて、もし過去の自分に突っ込めるなら突っ込んでやりたいものだ。「お前どうかしてるよ」ってね。
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あんなこんなで約一年。無事に彼女の信頼を得て親友一号になっていた僕です。別にこれといって特別なことをしたわけではない。ただ、僕がイジメられて、彼女が助けてくれるうちに親しくなりました。
そもそも、彼女は正義感が強く。たとえ僕のような化け物でも、困っていたら助けざるをえないそうで、僕にとっては都合がよっかたわけで。
憎むべき相手に助けられて恥ずかしくないのか。なんて、その程度で恥ずかしくなる心など持ち合わせていない。僕だって成長するのだ。たしか、小学二年頃にはもう、並大抵のことでは何も感じなくなっていた。感じなければ障害は発動しなくなる。
もっとも、感じなくなるってことは表情も動かなくなるわけだけどね。それはそれで気味悪がられて。親戚もさらに距離を置くようになって、クラスメートの目もどんどん冷たくなって、いよいよ居場所が彼女しかなくなっていた。
まぁ、だからなんだって話だけどね。僕の目的は彼女への復讐だけを考えていたから、自分のことなんてどうでもよかったんだ。
「何してるのけー君?」
たしか、小学二年生の夏だったか。大きな橋の上で急に動かなくなった僕を心配して、彼女が僕に声をかけた。
大きな橋、などと表現したけど、実際のところ子供にとってはという感じである。この話を書くにあたって、昔の土地を実際に回って見たけど、案外こんなものかと拍子抜けてしまった。
ともかく、その大きい橋は、すぐ下がそこそこ深い藪になっていて、落ちたらあまり良いことにはならないだろう場所だった。
当時の僕は一体何故そういう思考に至ったのか疑問だけど、ともかく彼女をそこに落としたいと思っていた。いや、落さなくてわならないと、そう思っていた。
そうしたとき、僕の復讐はようやく達成出来ると本気にマジで思ってた。
「ねぇ、りんちゃん。あれなんだろう?」
僕は藪の中を指差した。当然、そこにはなにもないが、
「なに?」
彼女が近づいてきて、藪をのぞき込む。それが、僕の、狙い。
「どこ?けー君」
「ほらそこだよ」
彼女が身を乗り出し、無防備な背中を僕にさらす。
『蹴りたい背中』という小説がある。読んだことはないけど、何年か前に芥川か直木だかの賞をとっていたので、妙に頭に残っている。
ともかく、僕は、その背中を、
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その後、僕はるんるんで家に帰り、明日学校に行った。
よく考えれば、優等生が消えて真っ先に疑われるのは僕であって、言い逃れるすべもなく、後を考えるとやばやばだったけど、その心配は一ミリも必要なかった。
杞憂であった、というか当時の僕はそんな心配もしてなかったけど。
だって、彼女は教室にいたから。
一つの怪我もなく、なんの変化もなく、いつもの机で、いつもの笑顔を浮かべながら、座っていた。