毒が薬になるように、病もまた良い方向に転がることもある。
彼女の病はまさにそういったものだった。
死ねない――は言い過ぎか。とにかく死にづらいというのは、僕にとってはただのプラスのように聞こえるけど、れっきとした病であった。
ともかく、帰ってきた彼女にガタガタ震えながらその日の学校を過ごしたけど、これといった追及はされなかった。
彼女がもし僕の罪を告発していたら今頃おなわであろうから、不思議に思っていたけど、彼女の対応があまりに自然体であるから、むしろ昨日の方が幻であったのではないか、なんて調子のいいことを想像していた僕に、放課後、一緒に帰っていたら急に「なんでころしたの」なんて聞いてくるから、僕はぎょっとして、「なんのこと?」だなんて半笑いで答えたけど、目がマジだった。
「なんでころしたの?わたしがばけものだから?けががすぐになおるから?でもけーくんもおなじばけものだし、わたしのからだのこともきょうまでしらなかったよね。だからなんでころしたのかな。とってもいたかったんだよ?なおってもいたみはかんじるから。それに、おちたあとにがんばってうちにかえらないといけないし、やぶれたふくのいいわけもしないといけないし、たいへんだったの。でも、けーくんがうたがわれたらいっしょにいれないから、ひみつにしたんだよ。えらいでしょ?でもけーくんはえらくないよね。わたしのことつきおとして、ころそうとしたよね。どうしてわたしをうらぎったのかな」
この状況を端的に言うと、やばやばである。
いつものかわいらしい顔はどこへやら、無表情で、光のない目で、淡々とまくしたてられるというのは、なかなかである。
夕焼けと、その赤色を精一杯返そうとする川の水面。せせらぎと名前も知らない虫の音色。
男の子と女の子。
僕と彼女の二人っきりの世界に、しかし僕は第三者の介入を示唆することによって現状の打破をもくろんだ。
「きょうしのやまだと、いじめっこのたなかがやれっていったから」
「ぼくだってこんなことしたくなかった」
「でも、ふたりにおどされたから」
いくらでもクズと罵るがいい、今日を生きたものが正義である。
田中はがき大将でいじめっ子だったが、そこまでハードなことはしてこなかったし、教師の山田もいじめを黙認し、むしろ増長するような発言はするが、この件に関してまったくの無関係である。
でもまあ、いわれもない免罪は僕自身めちゃくちゃかぶってきたし、高々小学生の恨みを一つ二つ買った程度で人生が狂ったりしにだろう。
高をくくって、うそをついた。
「けーちゃんがそういうならしんじるよ」
くくったうそは大手を振って
「じゃあ、ころそうか」
敵地に真ん中で、テロを引き起こした。革命である。
終わりは何かの始まりであるように、作戦の終了は作戦の開始である。
内容に大きな違いはない。対象が化物から善良な一般市民に代わるだけである。
化物二匹のささやかな反撃がいまはじまる――のか?