ナザリックの弁護士   作:赤備え

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トリック考えるのキツいっす……。


異世界の弁護士

~ 10月28日 午後1時30分 実験会場 水晶塔(クリスタルタワー)前 ~

 

(…あれからもう1年経つのか。久しぶりに見るけど相変わらず大きな塔だ)

 

僕は太陽の光を反射して宝石のように煌めく全面硝子張りの大きな建造物を見上げた。

 

「やっぱり何度見ても圧倒されますよね、この塔」

 

「『大英帝国案内書』によれば英国の象徴(シンボル)にするため世界一の高さにするべくまだ工事中とのことでございます」

 

寿沙都さんは辞書のように分厚い本を読みながら説明してくれた。

 

「これ以上高くなったら困ります!倫敦の街を全て見渡せるのはいいけど床が抜けたりしたらと思うと登れないんですよ!」

 

「成歩堂さまはお高い所が苦手なようですね…」

 

この凛とした佇まいをしている大和撫子な女性は『御琴羽寿沙都』(みことば すさと)さん。

 

僕が在学している帝都勇盟大学医学部の教授である御琴羽悠仁(みことば ゆうじん)さんの一人娘で今は法務助士として僕の弁護に対して助言をしてくれたり事件の情報を整理して資料を作成などをしてくれていつも僕を助けてくれる僕にとって一番頼れる存在だ。

 

「それにしても……さっき港に着いた時アイリスちゃんに『先に行って待っててね!』って言われて来てからもう1時間経つけどまだ来てないですね」

 

「ドーバー港でアイリス様がいきなり現れたので驚きました。ホームズ様とアイリス様が作られた『電影中継装置』を使うほどお忙しいということなのでしょう」

 

「……驚くのはいいですけど勢いで僕を投げるのはやめてくださいよ…」

 

「も、申し訳ありません。つい条件反射で……」

 

寿沙都さんは柔術の達人でもあり、可憐な見た目に似合わず大の大人を投げ飛ばすほどの力を持っている。『寿沙都投げ』という独自の技をもっていて僕は何度も理不尽な理由で投げ飛ばされている。正直いつか骨折しそうで怖いからやめてほしいんだけど……

 

「早くしないとドビンボー博士の公開実験がもう始まっちゃうよ」

 

「きっと事件の捜査でお忙しいのでしょう。ああ、名探偵様の華麗な名推理を聞きとうございます!!」

 

「そうなのです、ミス・スサト。僕はつい先程お得意の推理で一つ難解な事件を解決してきたのだよ。まぁあまりに単純すぎて頭の準備体操にもならなかったのだがね」

 

「そうなんですか……ってホームズさん!?いつの間に!?」

 

「10分くらい前にはもう着いてたよ。君が全く気がついてくれなかったからから寂しくて板キャラメルを3枚も食べてしまったじゃないか!」

 

「いたなら声かけてくださいよ……」

 

この神出鬼没な男性はシャーロック・ホームズさん。世界で知らない人はいない大探偵…らしい。気まぐれ、楽天家な性格でのほほんとしているけど推理力に関しては他の人では比較にならないほど天賦の才を持っていて僕はこれまで関わった様々な事件で助けてもらっていた。でも突拍子のない推理で何回も僕が間違いを訂正したことが多いような……。

 

「もー、ホームズ君ったらまた夜遅くまで実験してて起こすのにすごく時間がかかったよ~。熱い紅茶を5杯顔にかけてようやく起きたの!」

 

(熱湯かけられてすぐ起きないのは逆にすごいな……)

 

ホームズさんと一緒に暮らしているアイリス・ワトソンちゃんは10歳という若さで医学博士号を取得している神童で様々な画期的作品を開発している。しかも「シャーロック・ホームズの冒険」という冒険活劇な小説を書く作家という一面もあり正直な話ホームズさんが有名になったのはアイリスちゃんのおかげと言ってもいいだろう。家賃や生活費もアイリスちゃんが出してるしどう見てもホームズさんを養ってる保護者にしか見えない。

 

「……お久しぶりです、ホームズさん」

 

「ああ、本当に久しぶりだね、日本での活躍は手紙で知っているよ。今じゃあ『救世主の成歩堂』って呼ばれているらしいじゃないか」

 

「あはは……僕はただ依頼人の無実を信じて弁護をしているだけなんですけどね」

 

「ついこの間も大きな事件の弁護をしてたって書いてたの!詳しいお話ききたいな~」

 

アイリスちゃんがキラキラとした瞳で僕を見上げる。まだまだホームズさんとアイリスちゃんには語りたいことが沢山あるけどまずはこの大英帝国に来た本来の目的を果たさなきゃいけない。

 

「『国際科学捜査大討論会(シンポジウム)』…去年は中止になったけどまた開催するんですね」

 

1年前の倫敦万国博覧会(ロンドンばんこくはくらんかい)と同時に開催する予定だった大討論会は僕やホームズさんで解決したとある殺人事件の影響で中止になったんだけど1年しか経過してない内に開催するというのはいささか早急すぎるのではないかとは思っていた

 

「まぁ、そこは仕方ないことだよ。ヴォルテックス君があの事件で英国の信頼を失墜させたおかげで今や世界中から批判を浴びているからね。国としては一刻も早く信用を回復させたいだろう。女王陛下も憂いていたよ」

 

世界各国の捜査機関が集まるこの大討論会に当然日本も呼ばれたのだけど本来来るはずだった医学教授の御琴羽悠仁さんが突然の高熱で寝込んでしまい。代理として僕と寿沙都さんが急遽渡英することになったんだ。

 

「それにまた公開実験も行われるって聞きましたよ。ドビンボーさんからも手紙が来ましたけど僕と寿沙都さんに是非栄えある実験体の一人として参加してほしいって書いてありました」

 

1年前にドビンボーさんが公開実験をした際には犯人の思惑によって殺人の道具にされたばかりか罪をなすりつけられ、僕が弁護をして無罪になった経緯がある。でもドビンボーさんは自分の理論を証明するまで諦めないと前向きだったし今度の発明品は確実に成功すると手紙で豪語しているからドビンボーさんなりに努力しているのはとても嬉しいことだ。

 

僕は高く作られた実験台の上に置かれている大きな布に覆われた実験装置を見つめた。1年前のものと比べても大きさは寸分違わず同じのようだけど一体どんな装置なのだろう、手紙には「当日までのお楽しみです!」としか書いてなかったけど。

 

「……ん?ああ!!」

 

実験装置のすぐ傍に白衣を着た男性が立っているのが見えたけど向こうもこっちに気が付いたらしく慌ただしく実験台の階段を下りると僕たちの元に走ってきた。

 

「ミ、ミスタ・ーナルホドーにミス・スサト!お久しぶりです!」

 

綿を大きく丸めたような髪型をしているこの男性は間違いなくベンジャミン・ドビンボーさんだ。少しひ弱そうな印象なこの人があのバンジークス卿の友人なのは未だに信じられない。

 

「ようやく……ようやく完成したのです!1年前僕の理論は粉々に砕け散りましたが、あれ依頼ゼロからまた再構築し、ようやく僕の理論が正しいと証明できる日が来たのです!!」

 

「まぁ、それは大変喜ばしいことでございます。本当に……おめでとうございます」

 

「ミス・スサト…うう、ありがとうございます!!皆さんのおかげです!感謝してもしきれません!」

 

涙を流しながら嬉しそうに語るドビンボーさんを見ると本当に依頼人を信じぬいて戦って良かったと実感できる。

どんな時でも依頼人を信じる、改めて身が引き締まる思いを抱いた。

 

「おっと、もうそろそろ時間じゃないか。じゃあそろそろ僕たちも実験台に行こうか」

 

「うんうん!早く体験してみたいなー。どんな仕組みなのかワクワクしちゃう!」

 

「え?なんでホームズさんとアイリスちゃんが実験台に登るんですか?」

 

「おや?ドビンボー博士から聞かされてなかったかい?僕とアイリスも実験体になるんだぜ」

 

「え…えええええええええぇ!?」

 

そんな話全然聞いてなかったぞ!?初耳だ!

 

「ど、どういうことなんですかドビンボー博士!」

 

「あ、すみません。報告するのが遅れてしまいました……実は、ミスター・ナルホドーを含め計5人に実験体になってもらうんです」

 

「ご、5人?じゃああともう一人は…」

 

「俺だ」

 

声をした方向に目を向けると大勢の人ごみの中から現れたのは白い制服を着て凛々しい目つきをした僕の親友が立っていた。

 

「あ、亜双義…!」

 

亜双義一真(あそうぎ かずま)、僕の親友にして終生のライバルとして認識している大和魂を持つ日本男児だ。

 

「な、なんでお前が……?」

 

「ドビンボー氏がバンジークス卿に頼んだらしいのだが検事としての仕事が忙しくて断ってな、それで代わりに俺がいくことになったのだ」

 

大英帝国に来てからすぐにこいつと出会うとは…運命めいたものを感じずにはいられなかった。

 

「久しぶりだな……亜双義」

 

「ふっ…。キサマも元気そうでなりよりだ。『救世主の成歩堂』」

 

「そ、その名前でよぶなよ!恥ずかしいだろ!」

 

亜双義とは手紙のやり取りを時々していたが親友に直に言われると恥ずかしさがより増すな……

 

「全員そろいましたね!それではそろそろ時間になるので皆さん実験台に上がってください!僕の集大成をお見せしますよ!」

 

ドビンボーさんに促され僕達は英国の土に足を踏み込んだ初日から親友との再会に戸惑っている暇もなく実験台に上がった。

 

「前回の反省をふまえて僕はまた新たな理論を作り直したんです。僕はまだ諦めていないんです。人が瞬時に移動できる装置……それを逆転の発想で大きく移動手段を修正したのです!」

 

「その名も……『超電気式・時間移動技術』( ちょうでんきしき・じかんいどうぎじゅつ)!!」

 

「じ、ジカンイドウギジュツ……!?」

 

「そう!私は考えました。人が瞬間的に移動することは本当に不可能なのかを!いえ!それは断じて違います。人を瞬時に飛ばす方法、それはその()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

(またとんでもない理論を作ってきたな……)

 

1年前の実験の理論も全く分からなかったのに今回は更に訳の分からない理論になってるじゃないか……

 

「成歩堂さま、申し訳ないのですが私はドビンボー博士のおっしゃっていることの意味が理解できません」

 

寿沙都さん、それは僕も一緒です。

 

「うーん、例えるなら人間には寿命があるよね?長い時間をかけて歳をとるけど、その歳をとる時間が早くなるっていう感じかな?」

 

「ふむ、これはまた大胆な理論を提唱してきたねぇ。時間を世界そのものではなくあくまで対象者自身の時の流れを操るということかい」

 

 

「……ピンとこないな……」

 

アイリスちゃんとホームズさんは分かったようだけど僕のような一般人には到底理解できない別次元の話だと思う事にしよう……。

 

「え~、皆様!これからお見せするのはマジックでもなくただの見世物でもありません!この会場に集まっている紳士淑女の皆様は歴史的瞬間の目撃者になるのです!」

 

ドビンボーさんは拡声器を通して緊張した声で話し始めた。ついに始まるのか……。

 

「本日あなたたちが目にするのは……時間飛行!時間の流れを早め、人は未来へ行くことが出来る!!それをじつげんするのがこの装置です!!」

 

実験装置に掛けられていた大きい布が引っ張られ、その全貌が明らかになる。それは1年前の装置にとてもよくにていて大砲のようなものが付いた台の下に大きなゲージが付いている。

 

(外見が1年前と全く同じじゃないか!)

 

変わったところと言えばゲージがちょうど5人程度入れる頬大きくなっているというくらいだ。

 

ドビンボーさんはおもむろに懐から封筒を取り出すとそれを衆人環視の中大きく掲げた後ちょうど封筒が入るくらいの大きさのゲージに入れた。

 

「まずこの時間飛行を成功させるためには未来の自分に伝言を伝えなければならないのです。過去の自分から行きたい場所の指示をこの封筒の中に入れてあります。これを名探偵ホームズ氏宛に送信します!」

 

様々なレバーが並んでいる内の一つに手をかけると思い切り手前に引いた途端小さいゲージ内に大きな火花が散った後、なんと封筒が消えていた!

 

「さぁ、今私が書いた伝言は無事未来のホームズ氏に届きました。これで未来のホームズ氏の行動は決定された!今からホームズ氏含め5名はあの水晶塔に瞬時に移動します!」

 

(なんだろう…すごくイヤな予感がするんだけど)

 

広場に集まる人々がざわついている中、僕は胸中に靄がかかったような不安な気持ちになった。

 

「さぁそれではホームズ氏たち!このゲージ内に入ってください!」

 

「寿沙都さん……僕、今すごくイヤな予感がしてるんです。何か僕に大きな災難が降りかかるような気が……」

 

「私も成歩堂さまと同じことを考えておりました。大丈夫なのでしょうか……?」

 

「なにを心配してるんだい!君は元々不幸体質だろう?多少の災難は仕方ないさ!」

 

「仕方なくないですよ!それに不幸体質ってなんですか!?」

 

「あっはっはっは!!」

 

(この人は本当に能天気だな……)

 

ゲージ内に入るのを確認すると扉を閉め、拡声器に向かってドビンボー博士は胸を張り宣言した。

 

「さぁ皆様!来たる20世紀最大の発明である『超電気式・時間移動装置』のお披露目です!」

 

レバーを全て引き、最後に豪華な装飾がされている金色のレバーをドビンボー博士は力強く引いた。

 

大砲のようなものから稲妻が荒れ狂うように先端にある丸い球体に集まり徐々に大きさになっていく。

 

そして気球に近い大きさになった稲妻の塊が一斉にゲージに向かって飛んできた!

 

「うわっ!!!!!」

 

視界の全てが真っ白になっていく中、この時これから待ち受ける数々の受難など全く知らず。僕の意識はプツリと糸が切れたように切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 

「…………」

 

「…………ん、んん……」

 

途絶えていた意識が徐々に回復するにつれ、ぼやけていた視界が徐々に鮮明になっていく。

 

「ホームズさんたちは……?」

 

実験は成功したのだろうか?僕は上半身をゆっくりと起こし辺りを見渡した。

 

長い廊下だ。壁の左右にある大きな窪みに武具を身につけた得体の知れない化け物の石像が所狭しと並べられている。無数の無機質な目が自分を睨みつけているような気がして思わず目を背ける。

 

「え……?」

 

まだ意識がはっきりと覚醒していなかったせいか、僕は右手に肌身離さず腰につけている名刀 『狩魔』(カルマ)を握っていることに気がついた。そして刀には何故か赤い液体がベットリと付いている。

 

ゆっくりと視線をすぐ横に向けると英国の女性が着ているような服装をした顔にあどけなさがある少女が横たわっている。

 

よく見るとその少女の顔は苦悶に満ちていて、肩や腰に深い切り傷があった。赤い血がドクドクと傷口から溢れ出ている。

 

「な……なんだこれは……!?」

 

状況が飲み込めない、一体何が起きているのだろうか。だが自分の事よりもまずこの娘の治療を優先させないといけない……!

 

「シャルティア!!」

 

悲痛な声と共に長い廊下の奥からズンズンと大きく足音を鳴らしながらこちらに向かってくる人がいた。やがてその人物……いや、人と呼べるようなものではない何かがそこに立っていた。

 

「アインズ様!この者です!宝物殿に入り込んで着た不届き者は!!」

 

横にもう1人軍服を着た男が僕を指差し声高に叫んだ。この人物も様々な体の部分に切り傷があり、痛ましい姿をしている。

 

「貴様……」

 

アインズと呼ばれた人物……豪奢なローブを見にまとった全身骸骨の怪物が僕を見つめ静かに問いただした。

 

「貴様がシャルティアを殺したのか……!!」

 

この時の僕はまだ知らなかった。

 

この先に起こる数々の受難。そしてあまりにも巨大な闇と闘うことに……。

 

 

 

つづく

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