冒険に異世界を求めるのは間違っているだろうか 作:その辺の人
「」ばっかりです。
誤字のご連絡ありがとうございました。
午前の武器屋にて
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ベルに服を選ばせている間にバッツはざっと装備品の店の並びを見渡した。
バッツには無数にある武器、防具の出来と値段がどの店も大して変わらないように思えた。
仕方なく新品を諦めたバッツは、中古品の高額な装備を扱っている店に注目した。
とりあえず一番値の張るこの刻印の剣はどこで手に入れたのかと店の主人に尋ねたところ、ダンジョンで力尽きた冒険者の遺品だという。
刻印については、ヘファイストスという神が営むファミリアの製品についているもので、そのファミリアは街で一番大きな装備品専門の工房だということを教えてもらった。
バッツは服を買ったベルが通りに見えたので合流してヘファイストス・ファミリアの人間を探すことにした。
金で買おうと思うととても手が出ないこの上質な装備を、冒険者らしい方法で手に入れたいと思ったバッツは、何かと交換したり、困っていることを解決して少しでも安く売って貰おうと考えたのだった。
「ベル、今中古の剣を見てたんだけどさ、ウン百万ヴァリスだってよ!」
「す、凄い!…とても僕らじゃ買えませんねー…」
「だからさ、この際どこまで値引きしてもらえるか試そうぜ!昼まで時間あるんだしさ。」
「え!?こんなレベル1に値引きなんてしてもらえるかな…」
「試してみないとわからないだろ?まずはヘファイストス・ファミリアの人探しだな。」
二人は武器・防具に関わらず高額な製品はどこで買えるのか聞き込み、3つほど店を回ったところどの店主も返事は同じだった。
バベルを登れば高級店がある。
二人は緊張しながらもバベルへ向うことにした。
「ここが…少し緊張するな…」
「か、帰ろうよ…僕らじゃ不釣り合いすぎるよ…」
「…男は度胸!たのもー!」
「えっ?…こんなところに置いてかないでよー!?」
「何じゃうるさい…客か?」
「おれはバッツ。客になりたいからお願いがあるんだ。聞いてくれ。」
「冷やかしは御免だ。見ればお主らレベルも低かろう?1か2と見た。ここで買い物とは背伸びしすぎだ。」
「だから客になる前にお願いがあるんだって。なんか手伝うからさ、金以外で何とかならないか?」
「ふはっ!こんなところまで来てそんなことをいう奴は初めてだ!やはり冷やかしじゃないか。だがどうにもなるわけなかろう。見ろ、こいつ一本だけでも1000万ヴァリスがはした金だ。」
「そういわずにさ、たのむ!…おい、いつまでぼーっとしてる、ベル。」
「や、やっぱり無理だよバッツ、帰ろう!」
「その小僧の言う通り。バッツ、お主は面白いが身の丈がわかっとらん。」
「むっ!…ベル、俺の本気が見たいとか言ってたよな。」
「なんで今その話をするの?そんなことより早く帰ろうよ…」
「ようし、あんた…名前は何だっけ。」
「椿。」
「ツバキ!よく見てろよ。」
バッツはヘスティアの厳命など知ったことかとばかりに、一人つるぎのまいを繰り出した。
直後に椿の目が見開かれる。
その鮮やかさに思わず固まるベルと椿。
2人はバッツの技として完成されたそれをみて、複数の斬撃が、まったく対応できずに完璧な角度で急所に打ち込まれた相手の姿を錯覚した。
「…失礼した。バッツ、先ほどの言葉は取り消す。ファルナを授かったばかりというだけで相当な使い手なのだな。私の出会ったなかでは、お主が最高の技術を持っているかもしれん。」
「人は見た目じゃ判断付かないぜ?案外ボケまくりのジジイが世界救ってたりするもんだ。」
「バッツ、今何回切ったの?よくわからなかったよ…」
「3回…いや、4回か?正直目で動きを追えたのに斬ったということしかわからんかった。しかし、手前の技術では絶対受けきれん連携だった。実に見事だ。」
「じゃあなんか俺向きのいい感じのやつ、ない?」
場の流れを掌握したバッツの挑戦的な発言で、椿に火が付く。
「ふふっいい感じのやつか…あるぞ。手前の新作の試し切りがな。正直お主の腕に適う得物かはわからんが、やるか?」
「やるやる!」
「ぼ、僕もついてっていいですか椿さん!」
「構わん。この達人の連れとあれば断れないさ。さあこっちだ。」
「こいつはベル。成り行きで鍛えてるんだ。実はもうミノタウロスとも戦った!伸びると思うぞ。」
「そうか!それはなかなかやるな小僧。手前の知り合いにもそんな子供がいる。」
「そうなんですか…もしあったらお互い頑張りましょうって伝えておいてください!」
「ははっ、あったこともないのにか。分かった伝えておく。小僧、お前も面白い奴だな。」
「いやあ、なんかあの怖さを知ってる子がいるなんてと思ったら、なんだか親近感がわいちゃいました。」
「そうか…もうあいつもすっかりレベル…おっとついたぞ、ここだ。」
ベルは、気付けばバッツのペースでとんとん拍子に話が進んでいることに驚いた。
そんな簡単に他人のお願い事を聞き出せるものだろうか?と考えたベルは、椿がバッツの短剣を凝視していることに気付く。
椿の目は、すっかりはしゃぐ気持ちを抑えきれず輝いていた。
「よし、まずはバッツ、…その短剣を見せてほしい!お主が取り出した時からその輝きが気になっていた!」
「ええっ?…ほら。」
椿が全身全霊で鑑定する。
「こ、これは…なんと見事な…扱いやすい片刃の短剣とはいえ、初めて握るのに妙に手になじむ…このわずかに施された美しい装飾さえ軽量化に貢献しながら全く強度に影響を出していない。…そして先ほどから感じるこの神聖な感覚はなんだ!?」
「それはだな…」
バッツの言葉を遮り、ベルも興奮し始めた様子でバッツの代わりに補足した。
「あ、それ分かります!バッツが付いてる!って感じしますよね!」
「そうか、これはお主の使いこみによって生まれたものなのか…喜べバッツ!この武器はお主とともに在って最高に喜んでいるぞ!まさに武器と使い手の目指すべき極致を見た!」
なんだかよくわからない感想をもらったぞと思ったバッツは話を元に戻そうと試みる。
しかし熱をもってしまった鍛冶師の一途を、一言で収められるはずがなかった。
「あー、ありがとう。じゃあ返してくれ。それで試したいのはどれだ?」
「もう新作などどうでもいい!見れば見るほど理想の先を見せてくれるなんて人ではお前が初めてだ!…惚れたぞバッツ。私とともに歩んでほしい。」
「「はあ!?」」
「何を驚く?こんなに素晴らしい人を絶対に離したくないのは当然だ!私の武器がお主と同じだけ輝きを放つときこそ、我が目標の達成だろう!」
初めて会ったばかりの人にここまで詰め寄られたバッツは、街の噂になってしまうことを恐れた。自身の自由の保障が最優先であると考えたバッツは、もうとにかく話を切り上げようと詰め寄る椿に抵抗する。
「ゴホンッ!話が見えたぞベル。要はこれからこの店とよろしくってことだ。武器を安く買えそうだぞ。」
「えっ?そういう意味なんですか!?てっきり愛の告白かと…」
「愛の告白だとも!何も違わないぞ!」
少年らしく口に出してしまったベルの一言によって流れは戻った。
この場の平穏は諦め、ここでのすべてをさっぱり流して帰りたくなったバッツ。
「まだここで会って剣を見せただけだろ…お断りさせてもらいます。ほらベル、もう試し切りもないみたいだし残念だけど帰ろう。」
「待て、…待て!一目惚れには違いない!突然のことですまない!だが本気なんだ!だからこちらからお願いする番だ!…今すぐでなくともいい、どうか手前の打った得物でダンジョンに潜ってほしい。注文は何でも聞く。絶対に応えて見せる。」
「うーん。ここまでくると怪しいぞ…こんなレベル1の二人に…」
「わかった!押しが強すぎるのも控えるから…お願いだ…」
「バッツ、そんなにしたらなんだか可哀そうだよ…」
天然で人の好意を拾ってしまい勝手に申し訳なさそうにし始めたベル。
お前無関係だろうとバッツは思ったが、ベルと目を合わせてなにか打開のヒントが欲しいと集中すると、逆にベルのような距離感で行けば平和に終われるかもしれないという希望の光をその幼い紅眼に見た。
「…よし!ツバキ、お前を信じるよ。まずはお客さんからだ。これからよろしくな!」
「本当か!?ありがとうバッツ!よろしく頼む!」
椿はこんな店をやってるわけだし、装備については熟練者だろうと思ったバッツは、適当に時間のかかりそうなお願いをしてこの場を引き上げようと決めた。次会う頃には彼女の熱も冷めるだろうという淡い期待もあった。
「早速だけどまずは俺とベル、実は防具持ってないんだよ。だから適当にこの予算で見繕ってほしいんだ。」
「何?17階層程度までの装備なら手前の失敗作の中にだってある。その程度でよければいくらでもタダで用意するが。」
「17階層!?僕たちそんなに潜れないのに!椿さんが身の丈に合ってないって言ったばっかりじゃないですか!」
「装備はなんでもいいものに越したことないだろ。」
「そうだぞ小僧。」
「だからなんで椿さんまで賛成なんですか!?」
バッツは内心17階層の凄さがわからなかったので、まあタダでもらえるならと思ったが、今持っているいくらかの金について、その価値を知りたいという探求の心がそれを許さなかった。
「俺は今日、買い物を楽しみにしてたんだ。それが貰ってばっかりでしたじゃあ気が引けるし、つまんないだろ。」
「分かった。私はここから離れられないから仕方ない。欲しいものを教えてくれれば、予算一杯で最高の装備を揃えて見せよう。」
とりあえず平穏が保たれた確信を得たバッツは、安心して当初の計画通りにあいまいな注文を付ける。
「俺はこいつより長い片手用の剣と走り回りやすい防具でよろしく!あとはツバキに任せる。夕方に取りに来るからな。」
「片手剣に軽装と。殆ど私に裁量を任せてくれて嬉しいぞバッツ。小僧はどうだ?」
「僕は…実は短刀と軽い胸当て位しか着けたことがなかったんです。未だに自分に向いているものが分かりません。」
「ふむ。試してみない事には向き不向きなど…向いているものでなく持ちたいものから決めるべきだな。」
「やっぱりそうですか…バッツにも言われました。」
「まあ俺はそのままでもいいと思うけどな。その気があるなら二刀流も…」
「そこまで器用には見えんが…本人次第だな。小僧はどうだ?二刀流。」
「カッコイイですよね!二刀流!僕はやってみたいです!」
「決まりだな。至近距離でやり合うベルには肩当てと最低限の軽装にしてみるが、どうだ?」
「椿さんにお任せします!」
「お前たち…実は似た者同士か?」
「「まさかー」」
「いや似てるな。さて、簡単に採寸したらあとは任せろ。職権濫用も辞さない構えで望む。」
「人に迷惑かけるのは少しだけにしろよ!」
「少しはいいんだねバッツ…」
「冗談だ。しかしバッツの信頼はそれくらい欲しい。」
また彼女の熱が上がるのを察したバッツは冷たくあしらって順調な進行に努める。
ついでにバッツは自身のことが噂にならないようお願いすることにした。
「俺が信じるって言ったのにそれじゃ足りないのか?」
「ぐ…すまなかった。だがわかってほしい。目の前に人生最大の好機があって必死になるのは道理だろう?」
「…わかったけどさ。俺はそれほどのもんじゃないよ。それと俺、噂されたり目立つのは嫌なんだ。だから俺のことはあまりほかの人に話さないでくれないか?」
「約束しよう。可能な限りバッツのことは話しに出さない。」
「よろしくな。」
武器、防具の購入を終えた二人の珍客を見送り、冷静になった椿は顔を赤くしながら内心文句を垂れた。
(我が主神様の言うことには「あなたほどの人が押せば大概の男はなびくんじゃない?」だったか。全く信用出来ない…ちょっと興奮したのは認めるが、引っ込みつかなくなって結局赤っ恥だ。)
積極的すぎるのも考え物か?と珍しく反省してしまうほどには内心焦っていたバッツは胸をなでおろしてベルと昼食を食べることにした。
その時ふとヘスティアの厳命であるジョブとアビリティ使用禁止の意味に気付くバッツ。
それを訂正できる仲間が誰もいないことこそ彼の今日一番の失敗だった。
「使うとこの街の人が俺に惚れちゃうからかもしれないな…」
「バッツ今なんか言った?」
「いや、気にするな。さあ!飯にしようぜ。」
調子を取り戻したバッツの休日は続く。