冒険に異世界を求めるのは間違っているだろうか   作:その辺の人

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バッツは短気じゃないけど怒るときは心の底からちゃんと怒るイメージです。
なのでいろいろ割り切ってる戦闘中や緊急事態よりも日常生活のほうが感情を出すと思ってます。

また進んでません…反省します。


6話 憂さ晴らし

「ヘスティア、ベルを怒らないでやってくれよ。それなりの訳があるから。」

「…バッツがそういうなら。訳も聞かないけど…」

「二人とも、ごめんなさい。」

「そう落ち込むなよベル。昨日は上手い飯も食って、結構な装備も手に入った。結局ダンジョンにも潜ったし、やりたいこと全部やれただろ?」

「でも…また全部壊しちゃった。」

「ベル君、装備なんて生きていればどうでもいいじゃないか…」

「僕、強くなりたいです。」

「…うん。」

 

強くなりたい。ベル・クラネルの悲痛な一言にもう寝るつもりであくびをしていたバッツは目が覚めた。

何かを決めた人の目はたくさん見ている。

それが敵であろうが触れるだけで間違いなくバッツに何かを与えてくれた。

そうだ、俺は心のままに冒険したくてここに来たんだと、バッツはベルの目を見て思い出した。

すっかり小銭を稼いでのんびりベルの面倒を見るのが板についてしまっていたバッツも、自分のやりたいことを我慢しない事に決めた。

 

「俺も、好きにやらせてもらうかな。あんまり変わらないかもしれないけどさ。」

「…うん。バッツにはお願いばっかりだったもんね。君にもやりたいことはあったはずだよね。」

「でも二人とも気は使うなよ?ベルの訓練ももっと厳しく行くからな。」

「はい。よろしくお願いします。」

「じゃあ早速だけどベルのステータス更新しようぜ。」

「「…もう眠いです。」」

 

結局安心して眠った2人は放っておいてバッツは黙ってダンジョンに潜ることにした。

一人で潜る初めてのダンジョンで、バッツは昨日の憂さ晴らしと言わんばかりに力強く下りていく。

一息に6階層まで下りたところで小休憩することにしたバッツは今の自分の強さを見つめなおす。

 

「ここなら神様もいないし魔法も使えると思ったけど、結局精神力不足で斬って殴ってばっかりだ。ウォーシャドウも初めて見たけど早いだけだな。今のステイタスなら見てからよけられた。ヘスティアは上がりすぎって言ってたけど、やっぱり結構違うもんだな。」

「グウォォ」

「近くでなんか湧いたみたいだ…かくれてやりすごそう。」

「ググッゲエォォ」

「カエルか…カエルはいいよな~」

 

モンスターであってもカエルはカエル。

通り過ぎていくフロッグ・シューターにその独特な感性で少し癒されたバッツはさらに深く潜る。

旅で培った効率的な体力温存を心掛け、突如複数現れるモンスターにも囲まれないように一突きで急所のみを攻撃して走り抜ける。

始めて見るモンスターも簡単に使えるライブラと持ち前の集中力でほとんど足を止めることはなかった。

 

「にしても集中しっぱなしで疲れないってのは凄いな。思ったよりずっと快適な戦いができていいぞ。ヘスティアに感謝だな。」

 

バッツは折を見て一人で集中を解くと、体を緩く伸ばす。

それなりに走った疲労感と多少の精神力の擦り減りは感じられたが、まだまともに一撃も貰っていない肉体は、多少火照るばかりで余裕がある。

心の落ち着いている今、平常時の魔法を試すことにしたバッツはモンスターを呼ぶことにした。

先ほど倒したばかりのキラーアントは、首を落としただけではすぐに消えず他のキラーアントが集まってきたことを思い出したバッツは、わざとこの状況を作ることにした。

適当に一撃入れて追いつかれない程度に走るバッツ。

周囲をくまなく観察しながら同じ道を2週ほど走ると、前から曲がり角から這って出てくるキラーアント。

そのまま走って7体まで増えたのを数えたところで、バッツはライブラで減った今の精神力で使える攻撃魔法が効くか試すことにした。

幅5Mほどの路地に出たところで少し間をあけて振りむき、曲がり角に左手を構えるバッツ。

我先にと固まって追いかけてきたキラーアントはどこから来たのか8体まで増えていたが、2Mほどまで寄ってきたところで全て巻き込めると踏んだバッツはファイアを唱えた。

床一面にバッツの腰の高さほどの火の海が広がる。

這って移動するキラーアントの全身を焼くには十分な高さだった炎は始めにその目と足を焼いた。

ぐずぐずと音を立てて体が沈むキラーアントの群れは、焦げ付き崩れ行く足で走り続ける。

拡散させて放ったファイアではバッツの読み通りとはいかず倒しきれなかったが、焦り始めたバッツが下がりながら唱えた2発目のファイアによって、群れはついに全身火だるまとなった。

油断せず距離だけは維持するバッツを追う群れは、足が崩れ去りもはや顔も胴体もわからない状態で路地に転がった。

勢いのままバッツのつま先まで転がったキラーアントはソロの冒険者にとって最も危険であろうフェロモンによる仲間の招集を行ったが、口の奥まで焼けたおかげでまともに働かず、いくらか蠢いたのち魔石を残して消えた。

バッツが見渡せば、他のキラーアントも似たような状況だったらしく死屍累々の状況であったが、すぐに全て消え魔石のみとなり、路地は焼け跡を残して元通りとなった。

思ったよりも生命力があり、足元で蠢く姿を見て冷や汗を流したバッツはようやく人並みの危機感を味わった。

しかし自身が道具をまったく使っていないことなどを鑑みて、ライブラで見た通りの有効な手段を取れば一人でもまだまだ潜れそうだと確信したバッツは、すぐさまケアルで肉体の疲労感を軽減したところで少しふらつく。

精神力の消費が思ったより大きいことに気付いて今日はここが限界だと見切りをつけたバッツは、そそくさと膨れた背袋に詰まっていたゴブリンの魔石とキラーアントの魔石を入れ替え帰路に就いた。

 

地上へ出たバッツは一人魔石の換金を行うためにギルドへ向かう。

差し込む日の光がまぶしく手をかざすバッツ。

それなりに急いで潜ったものの一人ではどうしても全てのことを行う必要がある。

早朝から潜ったとはいえすっかり日はのぼり、昼になっていた。

 

「バッツさん。今日はおひとりですか。随分と早くダンジョンに潜られたようですね。」

「エイナか。今日は稼いだぞ!なんせ初めて倒したモンスターばっかりだからな。」

「へえ、何階層まで行ったんですか?」

「7階層だな。キラーアントは一人じゃ危なかった。」

「…は?」

「だからキラーアントには一人で挑むと危ないんだ。時間かけちゃうと仲間を呼んで増えるんだよ。」

「…ちょっとこちらへ。」

 

エイナの顔に浮かぶ青筋を見たバッツは、いったい自分が何をしたのか見当がつかなかった。

ほとんどまともにダメージを受けず、たくさん魔石を持って帰った俺の何が悪いのか。

机に向かい合って着いた瞬間にそう言おうとしたバッツは、しかしエイナの怒涛の説教でなぜか反省することになった。

エイナの激怒の理由をまとめると、まだ登録して14、5日の経験が浅い人が行っていい階層じゃない、そもそも5階層で大変な目にあったベルのことを知らないとは言わせない、ステータスが人並みにしか伸びてないらしいあなたがそこまでできたのはほかのパーティが運よく先に通っていた後だったから危険が少なかったのだろうというなんとも的確な指摘だった。

エイナがとにかく死んだら元も子もないと続けようとしたところでバッツは遮って一つずつごく自然に発生した誤解を解くことにした。

 

「ちょっといいか。よくわかったから、説明させてくれ。」

「…いいでしょう。どうぞ。」

「まず、ベルが巻き込まれたミノタウロス騒動は、俺が奴とやりあって時間を稼いだ。」

「こちらの報告には、アイズ氏が単独で解決したとありますが。」

「そうだな。でもそのアイズが来るまで時間稼ぎしたんだ。それでステータスもすごく上がった。」

「レベル2でも苦労するミノタウロス相手に?信じられませんね。」

「わかった。ステイタスを見せる。それで信じてくれるか?」

「…そこまで言うなら確認させてもらいます。で、なぜ報告していただけなかったのですか?」

「ヘスティアが、俺がほかの神やファミリアに狙われるのを嫌がって、黙ってたほうがいいって言ったからさ、俺も目立つのは嫌だったからそうした。」

「全く。そういうことなら個室での内密な報告もできますし、公表しないように配慮した対応もできますから。次からはよろしくお願いします。」

「ついでだから先に言っとくけど、ほかのパーティの後ろを歩いたりもしてないぞ。魔石を見てくれれば半日でこれだけ取るのは自分で集めないと無理だってわかるだろ。」

「わかりました。ではステイタスを確認させてください。」

「む。信じてないな…」

「当たり前でしょう。ほかの方にみられるのも困りますからこちらで。」

 

個室へ移動してバッツは上半身裸になって寝そべる。

細くも引き締まったその体につい見とれるエイナの顔が赤いのはバッツからは見えない。

落ち着くために小さく咳払いをしてから背中に刻まれたヘスティアの文字を読んだエイナは言葉をなくした。

レベル1とはいえ評価Aへの成長は早くとも年単位で時間がかかるという常識を壊されたエイナ。

ミノタウロスとどんな戦闘をすればここまで伸びるのか想像もつかなかったエイナは、呆然としたまま視線をおろすとまだ何か記述があるのに気付いた。

おそらくスキル欄であろう場所に興味を抑えきれず読んだエイナは、しかし全く読めない文字列に目を細めた。

結局ヘスティアが他人にファルナを読めないようにと施したプロテクトを、文字の癖が強すぎると勘違いしたエイナは解読を諦めてバッツに服を着るよう促す。

バッツが服を着たあとあらためて話し合った二人は、このステイタスなら7階層程度は問題ないと確認し、バッツの意思を尊重してこれからは内密に報告する約束を交わした。

 

「そういえば、まだ9階層から下については概要しか話してませんでしたね?」

「うっ…また勉強会か?」

「当たり前です!あなたみたいに意外とお調子者って感じの人こそ危ないんです!地理と生息するモンスターの知識だけでもしっかり叩き込んでもらいますから。逃げようとは思わないことですね。」

 

ベルも巻き込もうと即決したバッツは仕方なく勉強会の予定を決め、待ちに待った換金を行う。

想定外に多かった魔石の換金額にバッツは喜んだが、これで何をしようかと使い道を考えることはしなかった。

階層を降りるほど跳ね上がる魔石の換金額が、最上級の装備の価格の妥当性につながって納得したバッツは、この程度の金額では何かの時に全く足りないのではないかと予想した。

実際薬も上質なものになるとそれなりの価格だとエイナに聞いたバッツは、今回稼いだ金は無理に使わずおいておこうと決めた。

 

その後ギルドで長い時間を使ったバッツはもうすぐ夕方になろうという時間に遅めの昼食をとった。

バッツがホームに戻るのと同時にようやく訪れた眠気は強烈で、今度こそ逆らわなかったバッツは翌朝まで心地よく眠れた。

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