冒険に異世界を求めるのは間違っているだろうか   作:その辺の人

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読みやすくなっていると信じて。
既に書いてしまった分は戒めとしておいておきます。
そもそも読み物として酷い事については、謝ることしかできません。もうしわけありません。

楽しんでくれる方には、心からの感謝を。ありがとうございます。


11話 怪物祭 中

混乱するバッツを連れたロキとアイズはギルドへたどり着いた。

バッツの素性を知られないために冒険者の個人情報保護を求めるなら、頼る先がない場合にギルドへ連れていくのが最も手堅い選択だった。

ロキは自身の繋がりを使う手も考えたが、バッツは存在するだけで未知数の不安要素を生み出していた。

これ以上バッツを知る者を増やしたくないロキは、冒険者の差別をせず事務的に対応するギルドに少しだけ感謝しながら人のいない受付で呼び出しの鈴をならすと、迎えに出て来たのは目を閉じたまま歩く老人だった。

 

「ウラノスの言った通りか。まっていたぞバッツ…ロキが来るとは予想できなんだが。」

ロキは驚きながらも懐かしい顔に緊張を解き、穏やかに挨拶した。

「ラムウ…なんやな。久しぶりや。お前が直接来るなんてよほどのことなんやろ?」

なりふり構わず記憶をたどり続けるバッツは自分の混乱を落ち着かせるために、声に出してでも記憶の整合性を得たがった。

「その声、聞き覚えがあるぞ…ラムウ…ジジイ!生きてたのか!エクスデスは倒したぞ!それで俺はまた一人旅って訳さ。」

ラムウは微動だにせずただバッツを見据えた。長いまつげがわずかに動いたようだった。

「誰かと間違えているぞ。バッツの様子がおかしいようだな…奥で話を聞こう。」

 

祭りで最低限の機能しか働いていないギルドは、いつもの賑わいがなりを潜めていた。

代わりに大きくなった通りの喧騒を反響する廊下で、バッツとラムウを前に少し遅れて歩くロキは顎をなでて何か考え込んでいる。

アイズはある期待を我慢しきれずロキへ質問した。

 

「…ロキ、あの人はまさか…ムーの演劇を?」

「惜しい!いい線やでアイズたん!実はあいつが本物のムー国王その人やで。おとぎ話のなかではな。あんなやけど気は使わんでええよ。」

 

アイズは予想が思わぬ形で返され、思わずラムウを後ろから見つめた。

かつてこの大地に存在し、そこに住む人々は今では仕組みさえ理解出来ない謎の機械を使いこなし、平和で裕福であったという幻の国ムー。その国王が目の前を歩いている。

小人族の女神フィアナが存在しないという事実が広まると同時に存在しなかったことが通説となっていたあの国が、当たり前のようにロキの口から語られた。

神がないと言ったからフィアナは存在しない。

故に有ると聞いてしまったからにはムーの存在は真実に思えた。

実際に目の前を歩いているそれは、長い白髪が床に着かんばかりに伸びており、髪より白い装束はいつか読んだ伝説の姿そのままで威厳に溢れていた。

 

部屋に着くと、どうにも落ち着かない様子のバッツ、すっかり伝説に緊張した面持ちのアイズ、そして落ち着きを取り戻したロキの三人へ、ラムウは僅かに目を開き今の状態を確認した。

 

ラムウはバッツを一方的に叩き伏せて記憶喪失にするほどの力がこの細い体の少女にあるように見えず、真意を問うようにその黄金色の瞳を見つめた。

アイズは目をそらさず正直に話した。

「私、レベル5なんです。バッツはレベル1のようで…それなのに私…ごめんなさい。」

アイズから明らかな力の差を聞かされたラムウは怪訝な表情で見つめ返した。

「お主の強さは何となくだが見れば分かる。その程度の力でどうにかなるものでないから考えているのだ。」

その程度と言い切られたことに驚くアイズはバッツに二度負けていることを思い出した。

狼狽えるアイズに構わずロキが苦い顔で一瞥したバッツは、落ち着いてきた様子でぶつぶつと自分の現状を整理しようとしていた。

ロキの視線に気づくと、俺のことは気にするなと目で返した。

「ファルナに縛られているかも…知れないんや。その調子やとお前もバッツの知り合いなんやろ、協力せえ。ウチらが分かるのはこんなもんや。いい加減そのけったいな疑いを捨てろ。」

改めて全員を見回したラムウは誰も誤魔化していないと見切ったのか納得し、眉を下げ緊張を解いた。

 

部屋の空気が入れ変わった錯覚を覚えたアイズは、いつの間にか消えていた外の賑やかさが心地良く、石造りの天井を仰いで大きく息をした。

生ぬるい空気が胸を満たすと、余裕の出来た頭が今もラムウに信用されていない可能性を告げた。あるいは蚊帳の外に置かれていると言った方が正確かもしれない。

この騒動の原因である自分を誰もとがめないのは何故か。

アイズは現状の異様さに気付きまた息が詰まると同時におい、と上擦る隣の女神の声を聞きバッツを見た。

 

ラムウがバッツに手を伸ばしていた。

無抵抗の額に触れた皺の濃い手からバチっと稲妻が弾けるとバッツは倒れた。

アイズは何をするのと叫びたかったが、あまりの落ち着き払った声に気圧されて黙り込んだ。

「すぐ目を覚ます。その頃には落ち着いているだろう、こいつは風でも当てておけばどうとでもなる。安心して連れ回すがいい。」

ロキはラムウがなにもしてはくれないことを悟って肩を落とした。

「…全く、お前はいつもいきなりすぎるんや。どうせまた子供と遊ぶのに忙しいんやろ。」

アイズは目の前の老人が少しだけ笑ったように見え、見た目より若いのかもしれないと思った。

「コイツとは共に旅した仲でな。これくらいで怒る事はないのさ。それより優先すべきはヤツの置き土産だ。」

やっと本調子やな、とにこやかにロキが揶揄した。

「もうずっとその話し方で頼む。カワええから。」

ロキをみて懐かしむように目を細くしたラムウは一人扉を開けた。

「…癖になったらしい。許せよ。」

去り際に残したその声は確かに笑っていた。

 

ーーーー

バッツは体を軽く打ちつける感覚に気が付くと、見知らぬ男と目があった。

「おはようございます。これで僕もやっとお昼が食べられる…僕は馬車であなたが目覚めるまで街をぐるぐる回るよう神ロキから仰せつかっていました。」

起きようと腕をついた瞬間に石を踏んだ馬車が揺れ、怯んだバッツは思わず言った。

「意味がわからないぞ…」

気の良さそうな馬車の運転手はバッツと同じくらいの年齢に見えた。訳のわからない命令をこうして実行しながらも朗らかな調子を崩さない辺り、神に対する信頼が見て取れた。

「安全のためらしいですよ。僕にも神様の言うことはわかりませんが、確かな御意志があるはずです。」

バッツはアイズとデートしたがるロキを思いだし、何とも言えない気持ちになった。

「あ、ありがとな。おかげで助かったよ。」

「お礼なら神様へしてください。私はお心づけをと多少いただいていますので。それとこの封筒も。内容はわかりません。」

少し膨らんだ財布を見せられて彼の信心深さに納得したバッツは、ここへ来いとばかりに赤い丸のみが書き加えられた地図を貰い馬車を降りると、晴れて一人自由の身となった。

 

まだ日は高く、人の熱を帯びた風が心地よい。

地図の手書きはあまりにも情報不足でバッツの好奇心を確かに刺激したが、寝ぼけた今のバッツには目の前に広がる祭りの活気だけが真実だった。

とりあえず祭りについて何も思い付かなかったバッツが今日の目玉を子供に訪ねると、生で見るモンスターテイムが良いらしい。あんなもの見ちゃ行けませんと親に捕まった子供が人混みに消えるのを手を振って見送ったバッツは、取り敢えずその生テイムとやらを見に行こうと決めた。

 

モンスターと来れば冒険者だと当たりをつけたバッツだったが、通りすがりにいくら声をかけても演劇の呼び込みにしかとられず足も止めてもらえなかった。

仕方なくバッツは、物言わぬ装備たちを往来に広げて座り込み何か言い始めた若者が目に留まり声をかけた。

「あの、今日のテイムってのはどの道を行けばいいか…知らない?」

何やら若者はまた値段下げられちまったなと言葉が途切れない。

「無苦(ノクぼう)、二短刀(ジタン)…ピョンキチが売れないとお前たちは店にも置いてもらえず値段もつかないんだ。でもあいつはあんな棚の隅で店の賑やかしなんてガラじゃない、絶対売れてくれるはずさ…今日の値引きの理由は俺の研磨が甘かったばかりに地味だからだと…だがな!鏡のように輝く必要なんてないんだってわかってくれるだろ!そう、お前たちの良さは俺が一番よく知ってる!」

バッツは話しかけたことを後悔しかけたが、人生何がいい事かなど終わってみなければわからない。せっかくなので思い切って話してみることにした。はたから見ればローブを着た聖職者が施しを与えている様にも見えなくはない。

「おい!悪いけど道を教えてくれ!…酒臭いな…」

赤毛の男は酒をかけられているのか髪が湿っており、服には喧嘩の跡が見られた。男はバッツを生傷のある瞼を押し上げて睨んだ。

「俺は酔ってない!いや、酔った勢いでもいいから買ってくれ!頼む…」

バッツは切り傷の血を拭こうともせず愚痴る男が少し可哀そうになった。落ち着かせるついでに傷を治療し、お礼に道を教わろうと狙う。

「わかった、わかったから、そのクナイも短剣2本も、いい出来じゃないか。俺は金ないけど、誰か買ってくれるって…代わりと言っては何だけどさ、ほら。」

バッツはケアルをかけ、男を治療した。やはり酔っているのか傷が治っても気にもしない様子でバッツの狙いは外れたかに見えた。

「そうやって、誰か誰かって…でもほめてくれてありがとうよ。」

この場では素直な言葉が一番だったらしく、バッツも打算をやめて素直に話した。

「それでな、道が聞きたいんだけど…」

 

テイムの開催地である円形闘技場への通りに入ると、向かい風に乗ってきたイモの揚がる香りにじゃが丸くんなる謎の人物と懐かしさにも似た暖かい感覚を思い起こし、バッツの胸を締め付けた。

しかし記憶喪失の旅人は空腹を煽られ初めて一文無しだと気付き、じゃが丸くんを忘れて早足になった。

いよいよ一芸見せて飯にでもありつこうかと考え出した頃、ようやく触れるところまで来た巨大な壁を見上げた。

大口を開け汗臭い熱を吐き出し人を飲み込むそれは、よく見渡せば弧を描いており大きな囲いだと察することができる。

「でっかいなー!ここが…」

不意に耳をつんざくモンスターの咆哮にバッツの腹の虫はあっけなく吹き飛ばされた。

 

決定的瞬間を見逃すまいとバッツは駆け、沸き立つ客の群れをかき分け一足飛びに観客席へたどり付いたが、テイマーの技に声を上げる人々は、日頃なら目立っているはずの真っ白なローブだろうが目にも入らない。

バッツがいくらもがこうとモンスターの床を蹴る衝撃と客の声しかわからず、我慢できなくなった白魔道士は頭上にパッと三つの星を瞬かせ、どこからともなく現れたとんがり帽子をかぶった。

「これでよしっと。レビテト!」

不意に現れた空飛ぶとんがり帽子に客の目は集中した。

『おっ!空を飛んでる人がいるなあ!』

『凄い…僕もいつかは…』

『あの茶髪…バッツさんなわけないか。』

この場ではどうにも不自由な二足歩行を捨て空を飛ぶことにしたバッツは快適な空からの見物に満足し、空中で頭の後ろに手を組んで足を組み、悠々とくつろいだ。

それを見ていた客は始めこそ驚いていたが、そのうち冷静になって邪魔だとヤジを飛ばすと、バッツは慌ててとんがり帽を押さえながらマントをよろめかせ、客席入り口のアーチへ腰かけ事なきを得た。

バッツの奇行は人目を引いたが、同じ場所に居合わせた家族である白髪の少年と女神にその正体を気付かれることはなかった。

 

そんな特等席で足をぱた付かせる時魔道士を見つめて微笑む女神の姿があった。

「やっぱり来たわね。ふふ…そんなに目立っちゃロキの心遣いが無駄になるわ。」

モンスターの登場口、その暗がりからバッツを見つめる女神フレイヤは右手で何かを指示すると、会場の司会が大きな声で語りだした。

「さあ皆さま、お待ちかねの飛び入り冒険者によるテイムだ!」

右手を頬に添えたフレイヤは誰に聞こえるわけでもない期待をつぶやいた。

「急だったからこんなものしか用意できなかったけど、いい所見せて?」

主催者席で見ていた祭りの主ガネーシャは叫んだ。

「何事だ!これは予定にないぞ!」

会場は沸き立つ客と驚く客が混ざっている。

司会はまるで客など見ていないかのように高らかに続けた。

「今回の挑戦者はあそこ!入口の上に一人座っているぞ!」

バッツはあたりを見まわした。似たような出入り口の上に座る客はいなかった。とんがり帽に片手を添えながら、人差し指で自分の鼻を小突くと司会は大きくうなずいた。

「そう!悠々とこちらを見下ろす2枚目のアナタ!見た感じは仮装して祭りを楽しんでいる普通の若者だが、実力はどうかなー!?」

 




ラムウは9割オリジナルキャラで行きます。
シヴァをこれだけやっといて今さらですね。
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