冒険に異世界を求めるのは間違っているだろうか 作:その辺の人
余裕のあるバッツがやりたい放題やるとこうなる。
次回からは普通にセリフあります。
地図の丸印はバベルの入り口から少し外れた所にあった。
駆け出し冒険者にしては立派に思える装備をホームで身に付け、ベルに返してもらったグラディウスを腰に差す。新品の装備を慣らしながら、バッツはバベルを目の前にダンジョンへ向かわず、壁や石畳を注意深く見つめていた。
通りの人混みに比べれば少ない数の冒険者やその見送りが雑談しているなか、丸印の場所へ着いたバッツは思うままに周囲を調べ始める。
なんの躊躇もなく人を割って歩き回るバッツは冒険者たちの視線を少しだけ集めた。
集中して探したかいがあってか、バッツは安全な街中にもかかわらずわずかに床から魔力の痕跡を感じることに成功した。そのまま魔力を追うと、地面に変わった石が埋まっているのを見つけた。
石は他の路地と変わらず踏まれた跡があり、数日は誰にも気付かれていない様子だった。
バッツが近づけば、昼間の明るさに負けながらも足の陰でわかる程度わずかに光だしたそれは、拳くらいの大きさだった。
期待に笑顔を隠せないバッツがよく見てみれば、いくつかの石が組み合わせてある石細工。手に取ってみても、淡く光るのみでうんともすんとも言わない。
地図のお宝はこれだろうと思ったバッツは、自身の奇行が人目を引いていることに気付き、石細工の謎は一旦置いてこの場を後にするにした。
丸印にばつをつけた地図を石細工と共に円筒の鞄へしまいこんだバッツは、ベルやヘスティアにおとなしくしていろと言われた事を思い出したが、従う気はなかった。
次の瞬間にはバッツの心も体もバベルへ向かっていた。
一人魔物と戦う子供がここでの家族なるものだと思うと、彼のたたかう姿を見たいと思った。
それに子供の行ける場所なら問題ないだろうと自分に言い訳をつけると、ベルに合流するべくそのままダンジョンへ潜った。
二刀流でダンジョンに潜ったバッツは、すぐに不思議な顔でモンスターと見つめあった。
初めて見るはずの、この世界のゴブリンについての記憶が鮮明に残っている。
間抜けなバッツの顔に精一杯威嚇するゴブリンがついに拳を振り上げた。それに合わせて記憶のままに右手の長剣を突き出すバッツ。
剣先へ吸い込まれるかのように飛び付いて来たゴブリンを、細い刀身が抵抗なく貫く。核を壊されたゴブリンはだらりとうなだれると膝をつく間もなく霧散した。
ダンジョンの構造も記憶とほとんど変わらない。
わずかに光る背中のファルナに気付くことがないまま潜るバッツは、まっすぐ次の階層へと進み続け、気付けば4階層を抜け5階層へ辿り着いた。
ここでバッツは、ようやく深い階層ほど強いモンスターが現れる傾向に気付き、それと同時に首をおさえて壁にもたれた。
5階層の階段から見る景色はバッツに倒れるベルと血まみれの大角、怯えるアイズの首を押さえる記憶をよみがえらせた。
バッツは周囲にモンスターが居ないことを確かめ、落ち着くまで一息入れる間にアイズについての記憶を探った。
祭りの日には朝から心配してくれたアイズを既に友人だと思っていたバッツは、よく思い出せばどこかの部屋で彼女から木刀を強く打ち付けられ、目から火がでた覚えがあった。
バッツは整理して、どうもここ5階層でアイズに何かしてしまったその仕返しに、強烈な一発をもらったと結論付けた。
次にあったらちゃんと謝らなければならないと思ったバッツはすっかり落ち着き、さらに深くへ向かって歩き出す。
そのままバッツが進むと見覚えのない階層へ突入した。
8階層だった。
バッツは5階層に比べ少し道も広がっている印象を受け、一度足を止めて息を整えた。
未知の敵、地図もない。これまでとは段違いに危険を感じる状況。未だベルにも会えていない。
記憶を失ったバッツにとって初めての冒険だった。一人旅の恐ろしさは行きすぎて気づけば詰んでいることだと心の中でくりかえす。思い出した父の教えに油断は抜け、それでも緊張はしなかった。興味の向くまま一人で網羅的に歩いて迷うことを嫌ったバッツは、人の足跡が多い道を抜けることにした。
地図を書きながら一人歩くバッツの姿をみた冒険者は、調子にのって前知識もなく踏み込んだ初心者だと思った。
見知らぬ土地を行くのが当然の旅路を重ねてきたバッツにとって、獣の巣を緊張感のない顔で歩くほうがおかしかった。
それでも壁が割れ、天井から不定期に落ちてくるモンスターの数々に、バッツは観察を捨て先制攻撃を仕掛けた。
この階層では未だ武器の切れ味とバッツ自身の剣術に対応できるモンスターがいないと見切ったバッツは、たとえ空を飛ぶモンスター相手でも短剣の投擲で先制した。
この戦法の何より優秀な点は、発生したてのモンスターは両手を床についていたりと、バッツの攻撃にに体制を整えられずなし崩しに致命の短剣まで連携をつなげられる事だった。
壁の軋みに他の冒険者とは比較にならないほど素早く反応するバッツは、難なく8階層を突破した。
一人で汗の一つもなく立ち回り、現れるモンスターがことごとく障害にならないバッツは、すれ違う冒険者にレベル2だと勘違いされることも多かった。
思わず足を止めたバッツの目の前には霧が立ち込めていた。10階層だった。
風もなく、突然現れた霧が晴れることはなさそうだと諦めたバッツは、この霧へ踏み込む冒険者を見て毒はなさそうだと判断した。それでももう他人の足跡を追うのはあまりいい手に思えず、ここでモンスターの強さを見極めつつ適当に金になりそうなものを拾ってから帰ろうと決めた。
10階層を今日のゴールと決めたバッツは押しとどめていた好奇心を解き放った。
走って霧に紛れれば遅いモンスターは撒ける。魔法を使うところも他人に見られない。これ以上ないほど今のバッツには都合のいい場所だった。
ヘイストをかけつつコウモリ型のモンスター、バッドバットへグラビデをぶつけると思いがけず2体のコウモリが落下した。のどがつぶれて得意の超音波を発せなくなったコウモリを、長剣で間髪入れずに2体とも突き刺しとどめを刺し魔石を回収する。
この階層からは同時に複数モンスターが現れることを察したバッツの戦い方はより鋭くなった。
オークを見かければ、静かに背後から首を落としにかかり、他の冒険者へ向かうモンスターを見つければここぞとばかりに背後からライブラで観察した。
知恵のついたゴブリンのようなインプは群れて湧きがちなことに気付いてからは、一体見かける度に、いつか教わった誘惑の歌を口ずさんで混乱を誘い、モンスターの共食いを静かに見守った。
これは使えるぞと気付いたバッツが気分よく歌い続けると、ソロで調子に乗る冒険者へのお仕置きとばかりに壁がぼろぼろと落ち始めた。
バッツを中心に起こったモンスターの大量発生は、止むことのない歌によってすぐに大混乱の地獄絵図になった。バッツが空腹を合図に歌を止めると、周囲には一人の冒険者に対して異常な量の魔石と死体、同士討ちの嵐にふらつくオークを残すのみだった。
バッツは帰り際、女二人に斧持ちの男がリーダーらしい冒険者のパーティへ、せっかくだからあの辺に落ちてる魔石とドロップアイテムは拾いきれないから持っていけと伝えると、感謝されつつもその惨状を見た3人に血の気の引いた顔で見つめられた。
すぐさま修羅だの無双だのとあだ名をつけられたが、バッツはどのあだ名も知らない言葉で意味がわからなかった。
何かお礼がしたいといわれたが、特に思いつかなかったバッツは、ヘスティアファミリアとは仲良くしてくれとだけ残して別れた。
大暴れした割に意外と消耗しなかったと感じたバッツは、しかし進むも戻るも霧で道がわからなくなってしまったので、鞄へぱんぱんに詰め込んだ魔石とドロップアイテムを土産にテレポした。
ダンジョン出口、バベル1階に跳んだバッツは、結局ベルに会えなかったことを思い出した。ベルの実力はどんなものだろう、10階層は突破できているだろうか。
ここで待っていれば帰り際の彼に会えるだろうかとバッツが待っていると冒険者たちの活気づいた話が嫌でも耳に入ってくる。
17階層にモンスターレックスでなくレアモンスターが居ると噂が聞こえる。本の見た目で壁に張り付いており、石を投げても電撃で打ち落としてしまうらしい。バッツは本と戦った経験が有ることを思い出し一瞬首が痺れた。
モンスターレックスについてはもちろん、レアモンスターとは何かわからないバッツは、それらについて今晩ベルに聞いてみようと決めた。
結局ベルに会えずじまいのバッツは、ホームへ向かう道すがら適当な店で魔石を売ろうとしたが、換金はギルドでやれと断られた。
バッツがホームに帰ると、ミニマムの解けていないヘスティアが夕飯の支度をしていた。
バッツの顔をみるなり仕事させてもらえなかったと子供の顔でぷんすか言いながら怒っている。
ミニマムを解くと丁度ベルが帰り、今の魔法が見られていないかと少し焦ったヘスティアは、それを確かめるためにベルの顔を見続けた。
ベルは自身のステイタスを人にバラした事がもう気付かれていると思って冷や汗を流す。
この調子ならバッツの魔法は見られていないだろうとヘスティアは安心したが、今度はベルの態度が気になり出した。
むむむと唸りながらベルを見つめたヘスティアはその心から焦りを感じ取った。
あくびをしながら状況を見守るバッツを横目に、ヘスティアはベルへ詰め寄った。思わずベルは白状しかけるが、エイナとの約束を思いだし間一髪でごまかした。
ヘスティアは納得いかないながらも、ベルが今日は初めて7階層を探索したと成長ぶりを見せるように話しを続けるとおとなしく流されて相づちを打った。
バッツは今日のダンジョン攻略でベルを置いて先行していた事実を知り、その事からベルはシルバーバックなど当たり前に相手取れる実力では到底ない事に気付いた。
バッツは、しっかりベルの実力を伸ばしておかなければ、一人ではそれまでとは攻略方法が大きく異なる10階層の踏破はかなり危険だと判断した。
ベルをあえて危ない目に遭わせる事もないと思ったバッツは、今度のダンジョン攻略はついでに訓練もしようと伝え、二つ返事でベルの同意を得た。
バッツがベルとヘスティアからオラリオについて様々な話を聞きながら夕食を終えると、日課となりつつあるステイタス更新をしたベルが次はバッツの番だねと言う。
バッツがなんだそれと聞いたヘスティアは、静かに視線を落とした。
不穏な空気にベルは着替えながら二人の顔を見た。気の抜けた顔で食べ過ぎた腹をさするバッツに対してうつむくヘスティア。
少しあって、ヘスティアはステイタスを見たくないと言う。およそまともな返事になっていなかった。
もしステイタスがゼロに戻っていたら認めないといけない、諦めないといけないんだよ、と続けたヘスティアの震える声が狭い部屋に響く。
ベルはステイタスが戻るということがどういう意味か分かり顔をひきつらせた。ファルナの絶対的な評価を改めて理解し、思わず僕は諦めたくないと呟いた。
怯える二人をよそに、バッツ自身は大して恐れていなかった。とりあえずやってみよう、やらなきゃわからないままだという提案にヘスティアは分かりたくないと返し、結局ステイタスは更新しなかった。
自分のせいで落ち込ませたのが嫌だったバッツは、とりあえず10階層まで潜ったぞと鞄いっぱいの魔石を見せた。
これが裏目に出てしまい、二人の不安が弾けるように口から飛び出し、バッツに説教の雨が降り注いだ。しかしバッツは負けじと笑い返し、二人に心配要らないと無傷の防具と体を見せた。
二人にとってこの笑顔の説得力は力強く、バッツが戦いに苦しむ姿など想像させなかった。
ようやくバッツの強さを思いだし、心配しすぎもよくないと気付いた二人に合わせてホームが静かになると、すぐに皆暖かい気持ちと疲れで心地よく眠りに着いた。
バッツは眠りに落ちるなか、今日は覚えているなかで生まれて初めてもう戦わなくていいと止められた事に気付いた。不思議な気持ちだったが、悪い気はしなかった。