冒険に異世界を求めるのは間違っているだろうか 作:その辺の人
ギャグというものをやってみたくなったので。
いつもより流し読みでお願いします。
この街一番の高いところ。バベルの一室から喧騒を見渡しながら思案にふける女神が一人。興奮のあまり護衛を全ての部屋から追い出しじっと彼女が見つめ続ける先には空き地で組み合う二人の新米冒険者。
結局そのまま見続けて一晩過ごした。二人のうち一人の彼が全力疾走で歓楽街を縦断し姿をくらますまで見飽きることはなかった。
一方的に熱にうかれるこの瞬間が最も楽しいかもしれない自覚はあるが、いま消えた彼、名を探ればバッツと呼ばれる彼の心は見えない結晶のような殻を被ってみえる。
今が最高潮かもしれないからこそ自分をごまかすことはしない。どうしてもバッツ手に入れたい衝動が絶えず渦巻いていた。
まぶたを閉じれば焼き付いている彼の心は殻さえこれまで見てきた心たちより遥かに強く輝いている。直接見たあのときに感じた素質についても並ぶ者がいるのかもわからないほど優れているだろうことは間違いなかった。
今だけは素直にヘスティアに嫉妬した。
無色不定形な心のままで期待を裏切ってくれる子供の兎は見るたび成長しており心が踊るが、隣の輝きによるものが大きいことは間違いない。出会う人々に強く吹き付けるようで、触れても未だに掴めない風は時折3つ星さえきらめいて見える。
どうしようもないほどこの二人組は魅力的だった。
しかしバッツへちょっかいをかけることでラムウの逆鱗を撫でることになるのはつまらない。
まずラムウをどうにかするべきか?彼は既に魅了されているはずだが他に手段はあるだろうか。ただ理性を全く失わなかっただけの彼に。摂理に反したその精神はかつてこの地に降りた神々によってもたらされた物であるゆえに、恐らくアルカナム無しで壊す方法も存在しないだろう。無視こそ最短経路か。
バッツへのアプローチは偶然を装うことにでもしよう。
まずは兎の背中をつついて走らせてみようか。魔法など良いかもしれない。
思案を終えた女神フレイヤは動くことを決め、魔本を手に取った。
ーーーー
数日後…
「なあ、あの本俺も読んでみたかったんだけど。」
「僕読んだけど寝ちゃうほど難しくて読みきれそうにないし、もうすぐ返すから忘れて!それより魔法だよ!僕も今日から魔法が使えるんだ!」
「魔本だったか…?じゃあベルのものまねでもして楽しむかな。」
「何それ、ごっこ遊び?」
「うーんたしかこう…わたしーの名前、バッツ!もーのまねー、名人よー」
「僕の話を無視してよくわかんない自己紹介しないで!」
夜中、ダンジョンに行くと言い出したベルに起こされて付き添うことにしたバッツはゴゴの名前がなかなか出てこないもどかしさに頭をかきながらダンジョンに着いた。
「着いたよバッツ。何が起こるかわからないから構えて。」
「では、俺も世界を救うという、ものまねをしてみるとしよう。」
「は?」
「いまのは絶対違う。なんだろうな。凄いしっくりくるんだけれど。」
「何か思い出したの?」
「何でもない、見てるからやってくれ。」
「はあ…よしっ…ファイアボルト!」
ベルの伸ばした右手から白炎が迸る。狙ったゴブリンへ向かって伸びる筒を乱反射するような軌跡を残し、瞬く間にその全身を焼いた。
バッツが閃光に細くした目を開くと床の焦げが伸びた先には真っ黒の人形が橙色の炎を灯している。倒れた死体が散るとベルの小さな笑い声が響いた。
「どうかな!?」
「凄いぞ!かっこいいな!」
それからしばらくは有頂天のベルによる放火大会が始まった。やっていることはいつもバッツの行うナイフ投げと変わらないが、今が昼かと勘違いするほど明るい視界に加え、ごっと鳴らしてぼうぼう燃える音の派手さはベルの気持ちをこれ以上無いほど表しているように見えた。
バッツは黙ってみていたがそのうちベルは120点のの笑顔と白炎をばらまきながら、ふらつき始める。
非効率きわまりないその乱発ぶりにまあこうなるだろうとは思っていたため落ち着いていたが、バッツは予想した倍以上の回数を唱えられたこの魔法の燃費の良さに感動した。
いよいよ倒れたベルの目が覚めるまでものまねによるファイアボルトを試しはじめたバッツは、壁の裏にいようがピンポイントで焼け、かつ複数を相手取ることも可能なファイアより使い勝手が悪いと思った。
しかしその威力は明らかにファイラと比べた方が良いほど強力。手から伸びるからといって相手に届くまでの時間は考慮が必要ないほど一瞬で、何より閃光と残炎が格好良いと思った。
本気でファイアボルトをモノにしてみたくなったバッツが思い付いた習得方法は、ベルに何度か焼いてもらい感覚的に魔法の理解を試みることだった。
あまりに常軌を逸し、はたから見れば狂人と違わないバッツの発想は、しかしその自由さを持って確かな活路を切り開いてきた。機械に全身全霊であいのうたを叫んでみたり、自らを非力な小人と化して敵の攻撃を避け続けたりと、上げればキリがない。
そうと決まればヘスティアに禁止されている魔法の使用を何とかしなければならないと思っていたところに駆け寄ってきたのは、美しい金髪と緑色の鮮やかな髪を揺らす二人組。
「何を考え込んでいる、バッツ。その子はどうしたんだ。」
「えーと、リヴェリアだな。それとアイズ。こいつは魔法の使いすぎでぶっ倒れた。笑って見逃してくれ。」
「絶対笑わないよ。手伝えること、ある?」
「どうしたんだ。貸しならないだろ?気にしなくていいぞ。」
「申し訳ないが、山ほど大きなものがある。本当に申し訳ない。」
「リヴェリア…また混乱させちゃうから…」
「あ、ああ…」
「なんなんだいったい。謝りたいのは俺なんだ、アイズ。」
「…?」
「ちょっと思い出したんだけどさ。いつかこんな場所で、俺は本気で怒ってて怖がらせたろ?それでそのあとは本気で俺を叩くほどだったし、かなり怒らせちゃったんだよな。悪かった。」
「それは…ち、違うの、全然違う、そうじゃない。もっと大事なことを思い出して。悪いのは私。あと少しベート。」
「少し落ち着け二人とも。ベートは間違いなく悪いがそれよりこの少年を何とかしなければ。」
「寝てればなおるだろ。そんな大事じゃない。」
「私は、この子に償わないといけない。」
「「おおげさな…」」
「…?」
アイズはどうしても残るというのでベルを任せリヴェリアとバッツはダンジョンの外へ向かう。
他の冒険者の気配がなくなると、足こそ止めなかったがリヴェリアは言いたくなければいいと断ってから話し出した。
「詠唱がいらない魔法をいくつか使うと聞いたが、本当か?」
「そんなことか?本当だぞ。にたようなことをガレスにも話したし、やって見せたよ。」
「ほう…戻ったら聞いてみるとするよ。次、アイズが君のほうがずっと強いと言って曲げないんだ。それは相当なことなんだが、どこで技を身につけた?」
「親父と鍛えてたからだな。あとは旅の途中でいろんな人たちと。うーん。今日も凄い技を教えてくれた人の名前が思い出せなくてさ、ちょっと悲しいな。」
「私にも何か思い出す手伝いが出来るかもしれない。その技というのを見せてくれないか。」
「いいけど、これと言ってやる何かはないんだ。ものまねだから。」
「それは何を真似るんだ。」
「何でもだな。魔法だろうが料理のしかただろうが何でも。目に焼き付けてどうにか自分の体で繰り返すんだ。」
「魔法でも?…これだけ話してくれたんだ。ひとついまから壁に向かって私がやるのを真似してみてくれ。」
「おう。いつでもどうぞ。」
「…間もなく、焔は放たれる。忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。至れ、紅蓮の炎、無慈悲な猛火。汝は業火の化身なり。尽くを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。焼きつくせ、スルトの剣――我が名はアールヴ」
「間もなく、焔は放たれる。忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む。至れ、紅蓮の炎、無慈悲な猛火。汝は業火の化身なり。尽くを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。焼きつくせ、スルトの剣――我が名はアールヴ…うう」
「おい、大丈夫か?」
「なんだこれ…ずいぶん疲れるんだな…」
「君の技の凄さはよく分かった。君のそれは絶技と呼ぶにふさわしい。始めて見ただけのはずが精神の流しかた、発動まで完璧な詠唱だった。」
「少しふらつく。ベルのこと笑えないな…そうだちょっと手を貸してくれ。」
「申し訳ないが…!!」
「ふぅ。楽になった。」
「…何をした?もう手を離しても?」
「もう少し…」
「…も、もういいか…」
「ありがとう、いやあ精神力があるんだな、リヴェリアは。」
「…吸ったのか?」
「俺もなんか出来ると思ってはじめてやったけどさ、うまくいって良かった!」
「初めて…私が…」
「助かったよ。今度エーテル差し入れるから、それで許してくれ。」
「エーテル?…まあくれるというならありがたく頂戴する。あと別に怒っては…いない。」
「そういう顔ってことか?」
「…失礼なやつだな。」
「綺麗さ。安心しろって。」
「全く。今のでエーテル分だ。」
「今度は俺が魔法教えてやるよ。」
「私は君のように真似するのは得意ではないが…楽しみにしておく。」
こうしてファルナによる周囲の魔力行使を覚えたバッツであった。
地上へ出た二人は別れて帰路へ着いた。
ーーーー
ロキ・ファミリアのホームに戻ったリヴェリアはロキに待ち伏せされていた。
「おかえり!さあ今日こそその立派な…何や珍しく呆けた顔して。何かあったんか。」
「ああ、バッツに会った。」
「おおっ!あの子はええやつやろ?腫れ物扱いもしたけどこれからは仲良くしたってや。」
「ああ、早速と言うわけでもないが、色々話してるうちにな…一緒にしたんだ。」
「な、なにを…?」
「それで手を握って…吸われた。初めてだったけど、不思議と、悪くなかったんだ…」
「ウ、ウチの…よりにもよって一番ないと思ってた女大将と出会い頭にちゅっちゅやと!!…お姉ちゃんは、そんな子に育てた覚えはないでえええ!!」
「…どうしたんだ、そんなに叫んで。」
「こっちの台詞や!!」
「…そうかもしれないな…おやすみ。」
「…いかん、あたまがおかしなりそうや…リヴェリアがあの手の冗談言うとは思えんしな…仕方ない、現実は酒と一緒に飲み込むんや。ウチなら出来る。ううう、出来るんや…そしたらお赤飯炊いたるからな…それからあれも…」