冒険に異世界を求めるのは間違っているだろうか 作:その辺の人
内容は閑話のつもりです。
早朝、バッツは浮かない顔のベルに起こされて早めに支度を済ませると、バベル手前でロキにつかまった。
もはやバッツは何事もなくダンジョンへ潜れる日のほうが少ない。
ロキは神威を放ちベルを圧しながらバッツの手を取る。立ち止まることさえ無かった。
「あ、あの…」
「おいガキ、こちとら昨日から一秒も寝てないから要点だけ聞け、バッツ借りるけど文句言わんといてな。冷静に考えればちゅっちゅなんてあり得んけど、これは身から出たサビっちゅうやつなんやから。じゃ!あ、一応迷惑かけてるからな、これやるから感謝しい!」
「寝てない…ちゅっちゅ…あり得ない…?お赤飯?」
バッツは馬車へ押し込まれた。ロキ・ファミリアのホームへはこれで移動するようだった。
「朝から何なんだ。」
「お前はいつでも神威を無視するんやな。本当に人なん?」
「シヴァとかオーディンの本気のやつを良く浴びてたからな、慣れた。」
「そりゃ…この程度なんてことないなあ。当たり前やなあ!それはどんな状況なんや!」
「落ち着けよ、元気そうで何よりだ。」
「こちらこそや!うちの女大将に手ぇ出すなんてちょっと見境なしの有り余り過ぎとちゃうか。」
「なんの話だ。リヴェリアの事なら確かに手は握ったけどさ。」
「本当ならそれだって当たり前やない、高貴なおててなんや。」
「ああ、王女様って感じだよな。わかるよ。」
「んん、知ってたんか?」
「実は俺さ、お姫様と王様連れて結構旅したんだよ。だから雰囲気でな。」
「は?すぐ話インフレすんの止めてくれる?」
「インフレって?」
「もういい!全くわからんことが良くわかった!」
「俺もなんにもわからないぞ!」
「とりあえずリヴェリアに会ってくれ。あいつ昨日から調子がおかしいんや。」
「分かった。」
こんな状況になったのはベル・クラネル介抱後の帰り道、バッツを軽く試すつもりが自分の魔法を完璧に唱えられた衝撃で呆けているリヴェリアによる、要点を一つも押さえていない報告のせいである。
一晩寝たのにまだ妄言さえ呟く彼女から事情聴取するのをあきらめたロキは、一応緊急事態と判断してバッツと接触することにした。
それなりの事情がないとバッツに会わないよう対外的な面を考慮して心に線を引いていたが、内心ではちょうどいい理由が出来たと喜ぶロキであった。そのため速やかにバッツの拉致は完了した。
ロキは速やかに正面玄関を開け放つと待たせていたリヴェリアを確保して廊下に消えた。
事件の臭いを嗅ぎ付けた数名の野次馬へ言い残すようにロキの大声が反響していた。
「おいお前ら。今からお姉ちゃんとママで三者面談やから絶対邪魔するな!盗み聞きなんてしたら打ち首や!」
たどり着いたロキの私室であくびするバッツとその顔を見て目が覚めたのか頭が回り始めた始めた様子のリヴェリアが揃い三者面談は始まった。
とりあえず起こったことを話すバッツ。
信じられずに目の前でさせてみれば、ものまねで神威を発してさえ見せた。
ロキは完全な模倣という神秘もいいところの技術に常識を壊されたが、オーディンへ一方的に呼び掛けて働かせたあの時に信じるしかないことを思い知らされていたので頭を抱えた。
人による神の召喚に加えファルナをはじめとした個人にしか理解できない魔法や技の再現など、人ひとりで十分思うように世界を変えてしまう事が出来る。その危機感に気絶しかけたのはこの場においてロキしかいない。
「それくらいしかなかったぞ。」
「それくらいってレベルの話で終われるわけないやん…どないすんねんこれ…」
「精神力の制御も完璧だった。やはり彼は異常だ。」
「リヴェリア、うちはもうダメや…落ち着いたんなら好きにはなしい。」
リヴェリアに精気が戻っている。その目は珍しく興味に光り、もはや自分の欲求さえ満たせればバッツの事を根掘り葉掘りしてもいいとさえ言い出しかねない。
「魔法を教えてくれ、バッツ。」
「やめーや!一番触れちゃいけないとこやんか!」
「約束だからな、いいぞ!あ、そうだこれも。魔法使ったら飲んでくれ。」
「ああ、エーテルとは薬だったか。ありがとう。」
「なんなん君ら…ちゃっかりお勉強デートまで予定組んどったんか…」
ロキに追い討ちをかけるようにドアが開かれた。ロキはあれほどいったのにとわめきかけたが、勇気ある野次馬はぬっと顔を出した少女二人だけだと分かるとドアが閉まるまでは我慢した。
「バッツが居るって。」
「おう!おはようアイズ。」
「デ、デデ…」
「レフィーヤ、挨拶くらいしないか。」
「デートの予定ってど、どういうことですか!」
「ああもう!こう見えてわりと今ギリギリなんや!ちょっとした世界の危機くらいの!分かって?」
「お、なんか事件なら手を貸すぞ。」
「お前のことやぁバッツゥゥ!!」
「続けて。大丈夫、邪魔も盗み聞きもしないから。」
「居直ればええなんて事あるわけないやろアイズたん!?ママもなんか言って。」
「そう呼ぶのは止めろといつも言っているだろう。」
「ママなのか。すごいな!」
「そんなわけないじゃないですか!部外者は帰ってください!」
「バッツと話すための今なんや!落ち着きレフィーヤ!」
「まあ俺の事は心配すんなって!こんな話なら馬車のなかでも十分だったのにわざわざありがとうな!リヴェリア、どっか丁度良いところないか?少しは広い方がいい。」
「ロキの話は終わり?私もついていっていい?」
「バッツが構わないなら好きにするといい。行こうか。」
「来いよ二人とも。ロキも来るか?」
「行く…いや結構!もうお姉ちゃん知らんよ!噂もみ消す位しかしてやらんからね!」
「なんで私もなんですか!お姉ちゃんってなんですか!?部外者のくせ…」
「レフィーヤ、バッツには教わった方がいいよ、きっと為になる。あと本当に嫌なら文句言わないで帰って。」
「そ、そこまで言うなら…」
ーーーー
バッツは移動したこの部屋を知っている気がした。練習用の備品も見覚えがある。アイズは部屋に入る前から気まずそうだった。
「構えて。」
「!!」
「誰かにそう言われた気がする。」
「バッツ…ここでお前が記憶を落とした。」
「うーん。あんまりわからないな。」
「…そうか。仕方ない、あまり暗くなるなアイズ。」
「…うん。バッツ、魔法を見せて下さい。」
バッツは歩きながら何をしようか考える。
リヴェリアの魔法が攻撃用だと察しており、教えるなら詠唱のサポートになるものが良いと思った。
アイズが踏み込んでも触られるまでに一言くらいは発せる程度の距離を空け、手をかざすとその先にいたリヴェリアの全身を半透明な壁が覆った。
レフィーヤはいつ発動したのかさえ分からず、混乱しかけながらも始めて見る魔法に見入っている。アイズは黄金色の風を押し固めたような美しさを気に入った。
一人離れているバッツの声が響く。
「アイズ、ちょっと本気でリヴェリアを叩いてくれ!」
「「!?」」
エルフ二人はよりによって一番の弱点である打たれ弱さをアイズ相手に見せてみろと言われ驚いた。
リヴェリアは自分に何が起こっているのかも把握できていなかったが、バッツからは敵意も詮索の意思も感じられないため素直に構えた。
さすがに気合が入るがまだ好奇心のほうが強く、微笑みながらも怪我を覚悟した。
すでにアイズはバッツのとなりで構えている。
この程度の距離ならば高レベル同士だと普段の話し声でも聞き取れてしまう。あまり大声を出さないアイズには都合がよかった。
「…いいの?リヴェリア。」
「いつでも来い。」
木刀を握ったアイズがふっと一息吐くと床に衝撃が走る。
常人なら反応してから構える頃には真っ二つになるであろう速度。本人も十分に本気と言っていい威力を持って胴をないだ。
つもりだった。
「!!」
「ほう、これは…」
「受け止めきれてますよ!流石です!」
アイズは泥を殴っているような感覚を覚えた。おおよそ剣を振る感触とは似ても似つかない。
明らかに壁が殺した勢いは大きい。どれ程のものだろう。アイズはこの魔法を気に入った。
「アイズ相手にこれは…かなりのものだぞ。」
「どれくらい軽くなった?」
「半分といったところか。はっきり言ってこれがあれば、私なら50階層でいくらか叩かれながらでも詠唱できる。」
「と言うことはこれからは全力で訓練できるね。」
「止めろアイズ…頼むから止めろ。それに私はまだこれを習得さえ出来ていない。」
次は魔法を使うと言って構えたアイズをみんなで落ち着かせ、バッツは改めてリヴェリアへプロテスの伝授を試みる。しかしいつか魔法屋で行ったはずのあれこれが思い出せない。もしかすれば本を読むだけの習得だったかもしれないが、それさえ判然としない。
唸るバッツの姿に冷静にさせられた三人は、仕方ないので感覚的なコツだけを聞くとアイズから質問が上がった。
「なんでこの魔法にしたの?この前の速くなる魔法のほうが便利そうだけど。」
バッツはヘイストを見せたことがあったのか思いだせなかった。リヴェリアとレフィーヤはアイズの発言の内容を噛み砕こうと静かになった。
少しあってレフィーヤが恐る恐る口を開いた。
「私と同じ…」
レフィーヤへ手をかざし口を止めたリヴェリアが代わりに発言する。バッツがあまりにも自然に魔法を披露してから、雰囲気に飲まれていたレフィーヤは自分の情報を見せる必要はないと気付かされた。本来なら他人に無償で魔法を見せびらかすなどあり得ない事なのだ。
それにロキの狼狽ぶりを思い返せば、未だバッツが未知の危険であることは明らかだった。
「私は昨日も言ったが、これを覚えられる自信がない。普通の知識のように、魔法は誰かに聞けば使える類いのものではないだろう。」
「まあ、まずはやってみようぜ。俺もそうやってたくさん覚えたんだ。それに、リヴェリアなら出来るさ。」
バッツは人を待たせているのでダンジョンへ向かわなければならない事を話し、解散することになった。
またいつか続きを見せろと約束を取り付け見送ったリヴェリアは上機嫌だった。レフィーヤは隣でその明るい表情につられ、胸に渦巻く感動をつい吐き出した。
「あの、私詠唱のない魔法なんて初めて見ました!練習、するんですよね?」
「練習による習得か…詠唱さえない魔法はどう練習すればいい…原初の儀式的な精神力の変換を手をかざすだけにまで集約、簡略化しているのか?そんなものがたくさんある?馬鹿な…しかし素養さえあればファルナ無しで使える魔法…控えめに言って人生をかけられるほど面白い…」
「…あ、あの!ご思案中のところ申し訳ありません!」
「ん、もう一度頼む、聞いていなかった。」
「私、感覚的なものなのですが…あの人が言っていたコツ、わかる気がするんです。」
「ほう…時間がかかるとは思うが、お前もこの研究を手伝ってくれないか?当然バッツとは何度も会うことになってしまうが。」
「こ、光栄です!でも、私なんかでお役にたてるのでしょうか…」
「感覚的に何かを掴めるというのは稀有なことだ。自信を持て、素質は私よりもあるだろう。それより気負わずに頼むぞ、バッツも感覚的な人間のようだった。その性格も大いに紐解く手がかりとなることだろう、つまり…」
「そう言っていただけると凄く嬉しいです!!…?もう聞いてないんですね…」
記憶の戻らないバッツに引きずり出された罪悪感ですっかり落ち込んだアイズは、ロキへ犯行現場を見せても彼の記憶が戻らないことを伝えた。
想定外だったのはアイズの落ち込み具合だったようで、深いため息の後に仕方がないから買い物ついでに彼を送ってこいと指示を出す。静かにうなずいたアイズは飛び出した。
その後、ロキはバッツの魔法が後天的な習得の賜物で、その上レフィーヤ程の素質があれば見ただけでも習得出来てしまう可能性が十分に有ることを聞かされ、今度こそ耐えきれずベッドへ倒れた。
こうみるとバッツの魔法はほとんど同じモーションから出てくるし相手にはノーヒントだ…しょうかんに詠唱をつけてみたり、分かりやすくしていきたいです。