冒険に異世界を求めるのは間違っているだろうか 作:その辺の人
が、とりあえず暇がなくなるため次回は年内には厳しいかもしれません宣言を置いておきます。
「おにーさん、そこの白髪のおにーさん!」
「リリいた!バッツが居なくなったんだ!顔赤くしてる場合じゃないよ!風邪なら送っていくけど!?」
「えへへ、へ、ええ!?」
感動のなんちゃらなどない。家族の行方と仲間であることの再確認など、どちらが大事かは考えるまでもなかった。以前彼が帰ってこなかったときは記憶を無くしたのだ。まして今度はその記憶喪失のまま消えた。心配しないわけがなかった。
しかしいざ探そうと決めたもののまごついた二人。バッツの行きそうな場所に当たりがつかなかったのだ。ベルはよく神様に捕まるバッツの交流関係が全く想像もつかず、寝食を共にしておきながらあまり彼について知らないことに改めて落ち込んだ。
リリに励まされながらさまようもギルドやら武具屋の最近行った場所には顔を出していないようだった。
結局進展のないまま腹の虫に昼を告げられ、廃墟地下のホームへ帰ってきていないかと淡い期待を抱いてとぼとぼ帰る道すがらミアハに声をかけられた。
彼は相変わらず初心者口説き、もとい新米への親切極まる押し付け、もとい薬舗の宣伝を続けているようだった。既に試供品ポーションの効果は以前に比べて押し付けるには勿体なさを感じるほどだが、それを全く気にしないお人好しのすぎる性格によって胡散臭さを通り越して静かに評判をあげているらしい。
そう言えばミアハの所には行って無かったと気付いたベルへようやく吉報が舞い込む。
「ベル!良いところに会った。隣の子は初めましてだな。私はミアハ、薬屋を営んでいる。簡単な自己紹介ですまないが、いち早く聞いてほしいことがあるのだ。バッツは我が家で預かっている。」
「バッツはどうしたんですか!?」
「…何かあったんですか?」
「落ちつけ二人とも、よく聞くのだ。バッツは寝込んでいてな。夢にうなされているようだ。良くなったらすぐにヘスティアのもとへ返すので誰もこちらへ顔を出さないでほしい。今の彼に会うには君たちが危険だ。」
「そんな…大丈夫なんですか?」
「彼は強い。すぐに目を覚ますだろう。それから彼は今朝日が昇る前、めまいをこらえて薬を求めて来た。無論手は尽くした。今のところ疲労ではなく、命の危険もないだろうということは伝えておく。」
「…ヘスティア様には伝えておきます。」
「よろしく頼む。先ほどそちらへ伺ったが、こんな時にもいびきをかいていたからな…もっとも、それほど図太くなければファミリアの長は勤まらないか。」
「に、二度寝したんだ…起こしたのに…」
バッツがいないと気付いてすぐに飛び出したベルの言葉は、寝ぼけたヘスティアには小鳥のさえずりと大差なかったに違いない。
ミアハは最後にと言ってベルだけに聞こえるよう耳元でささやいた。
「ベル、バッツが繰り返していたのだが…しぬな、けあるが…とは何かわかるか?」
「し、死ぬなって…」
「バッツにしかわからないことか。伝えておいてなんだが、深く想像をしないほうがいい。他言は無用だ。」
「はい。絶対に秘密にします。」
バッツの居場所と安全がわかってひと安心した二人はミアハと別れた。
ベルは付き合わせたお礼にリリへ食事をご馳走することにした。バッツの心配を誤魔化すように適当な店を選ぶ中、リリは待ちきれない様子で足を止めると前を行くベルを呼んだ。その顔は微笑んでいるが目が笑っていない。
「これからもリリがベル様にお供するには、実は準備が必要なんです。」
「え?」
「リリはこれから死にます。」
「!?」
バッツのうわごとを聞かされたばかりのベルにとって、追い打ちのように飛び込んできたリリの告白はそれなりの衝撃だった。思わず聞き返すベル。
「冗談だよね…?」
「本気です。絶対に今日中には死にます。そして消えるんです。」
少女は淀みなく言ってのけた。まっすぐ見つめ返してくる瞳のなんと澄んだことだろう。ベルにはリリから覚悟の決まった者にしか出せない独特の脱力感が確かに感じられた。本気で何かをする時のバッツの表情を思い出したベルは、完全に凍り付いた。
すぐに一歩近寄って待っててくださいねと畳みかけるリリ。
もはや言葉も忘れ震えるベルは、まったく余裕のなくなった脳内に言いたいことだけが駆け抜けた。
まさかお化けになって一生とり憑くのを、お供すると呼ぶのか。
…昨日あんなに必死で助けたのに!
「必ず僕が守るから!そんなこと言わないでよ!」
「!?」
「なんなのその顔!一度で足りないなら一生守るよ!」
「えぅ…ちょ、ちょっと…」
「僕じゃダメなの?声をかけてくれたあの時を僕はちゃんと覚え…」
「あーんもう!!こっちへ!」
リリはベルの手を取るとがむしゃらに走った。往来の熱はベルとリリへもれなく注がれている。ここまでのものは天然記念物だの、将来きっと大物になるだの、熱くて溶けそうだの、私もされたいだの、脳を焼くような言葉が次々と飛んでくる。
リリはフードをかぶっていても間違いなく人生史上最も目立っていた。確かに明るく幸せになると誓ったが、こういうことでは断じてないはずだ。現状はいつか捨てた乙女らしい夢の光景そのものではあるはずなのだけれども。
人の減った路地裏。ベルは元よりリリも混乱していた。当然少し脅かしてやろうと悪い言葉を選んだリリが悪い。それをわかっているためベルを責められない。それどころか何度静まれと念じても頭の中で響くベルの声に熱が上がるばかりだった。
手を引かれ走り続けたベルは自分が爆破した現状を理解できていないので、とりあえずリリの肩をつかんで説得の続きを試みる。ベルの不安そうな顔を見たリリは突然の告白が自殺を止めるための必死の説得であると分かり、一気に汗が引き始める。
「ふええ…」
「大丈夫、僕は絶対にいなくなったりしない。だから死ぬなんて…」
「も、もう大丈夫ですから…死にませんから…変なこと言ってごめんなさい…」
リリは瞬間冷凍された気分に追いつかない真っ赤な顔でようやく事情を説明した。
まとめると、これまで食い物にした、またはされた人々から付け狙われることの無いよう足跡を消し、社会的に死んだことにすることでようやくベルたちに迷惑をかけずに冒険できるということだった。
話を理解してようやく落ち着いたベルは無理やり納得することにした。危険を避ける為というよリも覚悟の表明のようなものに思え、否定する気にはなれないからだった。
リリの時間が押していたらしいので、応援する気にこそなれないものの、無事に終わることを祈りつつ腹を空かせたまま別れた。
ホームへ戻らずじゃが丸くんの屋台へ向かったベルは、満面の笑みで迎えて来たヘスティアに苦笑いしながら出来立てを2つ注文し、ヘスティアへ今すぐ少し時間が欲しいと伝えた。
ベルの表情から察したヘスティアはすぐに出てきた。湯気をたてながら大口で頬張り、一気に空腹を満たしたベルがバッツの現状を伝えると、ヘスティアはただ静かにうなずいた。
ベルにはこのヘスティアの反応は意外だった。
「バッツが大変なんですよ。なんでそんなに落ち着いてられるんですか。」
「まあまあ。考えてもみなよ、ボクたちから見て、バッツが大変なことをして無い時って、あんまりなかったよなあ。」
「言われてみれば…で、でも倒れたんですよ?」
「記憶がなくても帰ってきてくれたバッツが今さら倒れた位でなんだい。ミアハを信じるんだ。心配しないわけ無いけど、大丈夫だよ。」
「…そうですよね!よし、今日は暗い雰囲気にならないように、ごはん食べに行きましょう!」
「えっ。」
「ど、どうかしましたか。」
「バイトが…あるんだ…この前、黙って休んだろ?結構…言われたのさ…」
「ああ…」
「笑ってくれよ。暗いのは嫌だろう?」
「あはは、この際働くのやめてもらって、毎日ホームで待っててくれませんか?寂しいし、お金にも最近は困ってないどころか順調に増えてます。」
「関白宣言だとう!?…なんて、なんて甘美な誘惑なんだ!それでも、ボクはバイトを止めない!分かっておくれ!神にはやらなきゃならない時ってのがあるんだ…」
「わ、分かりました…カンパクセンゲンってなんですか?」
「ああ、取り乱したんだ。気にしないでおくれ。」
「じゃあ、ダンジョンに潜る気にはならないので、今日は僕が待ってますね。」
「楽しみにしてるから、おかえりは笑顔で頼むぜ?」
大丈夫と笑うのも、バッツがよくやっていたと思い出すベルとヘスティアだった。
戻ったホームで装備の手入れをしていても、一からやり方を教えてくれたバッツを思い出す。
「僕もしっかり腕に巻いてから小手をしようかな。なんかかっこいいし。似合うかな…へへ。」
ベルは少し暖まった気分で気付けばバッツへの気持ちを考えていた。
これは憧れなんだろうか。何時だって背中を押してくれるし、かっこいいところもたくさんあるけど、あんな風になりたいとはあんまり。どうせならあの人みたいに、シュッときてズバッて、颯爽と背中で語るって感じで…バッツは受けてたつって感じかな?
でも、いつかあの人を守ろうと思ったら、あんな風にどっしりやれないといけないよね。
死ぬなって、守れなかったのかな…あんなに強くても…駄目だ!これは考えないようにしないと。
そうだよ、どんなに辛くても、僕と神様でバッツを守るんだ。…あたらしい家族に出会えるなんて、こんな奇跡もう二度とないんだから。
そうと決まれば訓練だと表へ出たベルの顔を夕日が染める。冷えてきた風は心を引き締めるようだった。
ベルは独り、記憶喪失の暗闇を行くバッツに必ず暁を見せると改めて誓った。